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「救える命も救えなくなる」 行動制限のない冬に崩壊しつつある救急現場の悲鳴

倒れる人が増える冬到来に新型コロナの感染者増加が重なり、救急医療が逼迫しています。救急医療の現場は今、どんな状態なのか。国際医療福祉大学救急医学主任教授の志賀隆さんに聞きました。

行動制限のない年末年始で新型コロナウイルスの感染者が増え、それでなくても倒れる人が増える冬到来で、救急医療が逼迫している。

救急医療の現場は今、どんな状態なのか。

一般の人に求めたい協力は何か。

BuzzFeed Japan Medicalは、国際医療福祉大学救急医学主任教授の志賀隆さんに話を聞いた。

※インタビューは12月22日夕方に行い、その時点の情報に基づいている。

ベッドはいっぱい、救急搬送を断らざるを得ない状況

——最近の救急の状況はどうなのでしょうか?

月に1度、東京に近い千葉県南部の病院の救急勤務に入っているのですが、20日に勤務をした時は、病院のベッドはほとんど満床でした。

男性2人しかもう受け入れられないし、コロナ用のベッドは1人、コロナ疑いは1人までしか余裕がなく、ICU(集中治療室)もHCU(高度治療室)もいっぱいです。

——厚労省のアドバイザリーボードに出ている資料を見ると、千葉の救急搬送困難事例(※)はコロナ以外の患者も多く、コロナもじわじわ増えている印象です。現場の実感はどうですか?

※救急車が現場到着後、医療機関への照会を4回以上行なっても、救急搬送先が30分以上見つからない事例

その通りの印象です。毎年、夏と冬は救急搬送が増える時期です。寒いと人間は調子が悪くなるのです。冬は脳卒中や心筋梗塞、肺炎、インフルエンザが増えますが、それに加えて今コロナが増えています。

昨日は成田で当直でしたが、ICUは2床しか空いておらず、コロナのベッドも一般のベッドもHCUも全部埋まっていました。

ものすごく重症な人しか受け入れられないので、多少具合の悪い人は断って、ICUに入れるべき人を悩んで悩んで入ってもらうようにしていました。受け入れたくても断らざるを得ない状況です。

誰を受け入れるか判断のせめぎ合い 

——いつ頃からかなり厳しくなってきましたか?

12月はずっと厳しかったです。先週ぐらいからさらに輪をかけて厳しくなってきました。たくさん受け入れを断っています。

——断った人はもしかしたら他でも受け入れられていないのでしょうか?

全然受け入れてもらえていないと思います。

先週は、出動から戻るまで13時間かかった救急車があったという報告を読みました。

——すぐ運んだら助かったかもしれないのに、助からない人も出てきそうです。

命を落とす人が出てきかねないと思います。僕らはベッドがなくても、この人は僕らが断ったら1時間ももたないのではないかという人は、無理やり受け入れることがあります。

逆に80代のおじいさんで「昨日から調子が悪い」と訴えていても、体温や血圧などのバイタルサインがまだ耐えられそうだったら、断腸の思いですが救急車内で何時間でも待っていてもらうこともあります。

——誰を受け入れるか受け入れないかの判断のせめぎ合いなのですね。

悩みながら判断せざるを得ない状況です。

——ECMO(体外式膜型人工肺)や人工呼吸器は足りていますか?

そこは問題ないです。初期と比べて重症肺炎は減っています。

ノーワクチンは重症に

——どんな人が重症になっていますか?

先日は60代のノーワクチンの方が来たのですが、血中の酸素濃度である酸素飽和度が低くて低酸素なのに元気な「ハッピー・ハイポキシア(幸せな低酸素)」の状態でした。CTを撮ったら肺が真っ白になっていて、すぐに人工呼吸器を装着しました。

そういう人たちもポツポツ出てきていますね。

——ワクチンをうっていない人の方が重症化していますか?

それは間違いないです。ノーワクチンの人はワクチンをうっている人より重症化しています。

また、ワクチンをうっていても持病で免疫抑制剤などを使っていて抗体価がつかない人たちは大変です。世間でこんなに流行ってしまうと、そういう人たちは家から出ずに感染予防をするしかないと思います。

——高齢者はどうですか?

元々持病を持っている人はコロナになると、動けない、食べられない状態になります。そうすると、誤嚥性肺炎になったり、尿路感染症や脱水になったりします。

認知症があると、コロナ病床の入院中には必要に応じて手足に抑制をかけられたまま、10日間隔離されることになります。ADL(日常生活動作)がかなり落ちてしまいます。

回復できずに亡くなる人もいますし、命が助かってもADLが落ちてしまい寝たきりになる人もいます。

ルールの難しくなっていくサッカーでプレーをするよう

——救急は逼迫していますが、久しぶりに行動制限のない師走の街はそんな危機感は薄いように見えます。

でもコロナ禍でカップルが減り、子供が減っているという試算を出した経済学者の方がいました。確かに出生率を見ると減っていて、その通りになっています。その見方も正しいし、社会を開かないといけないという意見にも一理あります。

僕だって本当はカラオケに行きたいし、忘年会に行きたいですが、職業柄、難しい。僕が感染して離脱すると、部下がどうにもならなくなるから我慢しています。

政府が社会を開くとしている現状では、忘年会に出ない人も正解だし、出る人も正解なのだろうと思います。行動自粛も飲食店への資金補助がなければやることはできません。経済の落ち込みで日本が地盤沈下するのもまた困ることは理解できます。

もうコロナも3年目なので、端的に言えば「高齢者や持病のある人よりも、未来のある若者を重視しないといけないのではないか?」というメッセージが世界中で発せられているのではないかと思います。W杯開催でのノーマスクの状態もそういうメッセージだと受け止めました。

——医師としてはかなり冷めた目でご覧になっているのですね。

とはいえ、病院の現場に入るとそういう冷めた気持ちはなくなって、「困ったなあ」と頭を抱えています。

患者はどんどん増えて、周りの仲間は感染してどんどん離脱し、ベッドも埋まっていく。

サッカーに例えると、どんどんサッカーをやるルールが難しくなるのだけど、仲間のプレイヤーはどんどん減っていき、僕たちの守るゴールに飛んでくるボールが増えていく、という感覚です。

高齢者やハイリスクの人がいる場合は気をつけて

——これからクリスマスがあり、忘年会や年末年始の帰省もあると思います。救急現場から、一般の人に何を呼びかけたいですか?

社会のインフラや医療を担っているエッセンシャルワーカーたちは、同じ部署で忘年会を開くとコロナで全滅する可能性があります。それは極めて危険なので、やめておいた方がいいと思います。

また、職場や家族や友達など、周りに高齢者や免疫不全の人ががん治療中の人がいる場合、その人にコロナを持ち込んだら亡くなってしまう可能性があります。それは周りの人が気をつけてあげてほしい。

僕はコロナ流行の1年目の冬、70代の男性を担当したのですが、その人は生き延びました。でもその人がうつした妻は亡くなりました。

隔離された病室の中で「なんだこれは」と嘆いていました。自分の行動が愛する人の死に直結するのはすごく辛いことです。そういう人をたくさん見てきました。みんな茫然自失の状態です。高齢者や弱い人が周りにいる場合、今は慎重な行動をとってほしいです。

——今回の8波でもそれはあり得るということですか?

あり得ます。特にノーワクチンの人、免疫不全の人は感染すると悪化します。

今からでもぜひワクチンを

——今からでもワクチンはうった方がいいですか?

それは絶対にうった方がいいです。やはり1〜2回の人は厳しいです。4回、5回うっていると元気な方が多いです。ワクチンには重症化予防の効果があるのです。

インフルエンザも徐々に増えてきていて同時検査をしていますが、両方陽性だったという人もいました。

また、準備として、インフルとコロナの同時検査キットの一般販売が始まりましたから、1人につき二つ、用意してほしい。解熱剤も買っておいて、なるべく自宅検査、自宅療養で乗り切ってほしいです。発熱外来に行ってもそんなにいいことはありません。

元々、救急医は自分の咄嗟の判断で人の命が左右されるかもしれない職業なのですが、コロナに際してよりどの患者さんを受け入れるか?を厳しく迫られています。8波でもそんな逼迫状態が始まっています。

感染経路は変わりません。マスクなしでの会話やカラオケなどですので、それは引き続き気をつけてほしい。忘年会をするにしても、少人数にして、静かに会話し、短めに済ませてください。

今、救急にかかりたくてもかかれない人は確実に増えています。どうかご協力をよろしくお願いします。

【志賀隆(しが・たかし)】国際医療福祉大学救急医学主任教授

2001年、千葉大学医学部医学科卒業。 東京医療センター初期研修医 、沖米国海軍病院,浦添総合病院救急部を経て、2006年 米国ミネソタ州メイヨー・クリニック研修 、2009年 ハーバード大学マサチューセッツ総合病院指導医 。

2011年より東京ベイ浦安市川医療センター救急科部長。 2017年に国際医療福祉大学に移籍。2020年から現職。