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Updated on 2020年5月8日. Posted on 2020年4月29日

緊急事態宣言、現時点での効果をどう見るか? 「ここが我慢のしどころです」

緊急事態宣言が出た後で、ゴールデンウィークが始まりました。これまでの成果をどのように見て、GWをどう過ごしてほしいのか、専門家会議の岡部信彦さんに聞きました。

新型コロナウイルスの感染拡大のために緊急事態宣言が全国に広げられ、ますます強化されている行動制限。

その効果はどうなのか、そして、ゴールデンウィーク、私たちは何に気をつけて過ごせばいいのか。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

緊急事態宣言という”劇薬”の効果は見えてきているが、ここで安心してはいけないと話す岡部信彦さん

専門家会議の構成員の一人で、国際的な新興感染症対策のスペシャリスト、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに現状の評価を解説していただきました。

※インタビューは4月25日夜にZoomで行われ、話した内容はその時点の情報に基づいています。

緊急事態宣言後の対策の効果は?

ーー緊急事態宣言が4月7日に出て、まだ途中段階でデータも十分ないことはわかっていますが、これまでのデータを見て行動制限などは感染拡大の防止に効いていそうでしょうか? 4月22日の専門家会議提言でも少しデータを出していらっしゃいましたね。

8割おじさんこと北海道大学の西浦博さんがデータを出して、どれぐらいまで達成できるかという話を会見でしていましたね。

まだ「点」でしかデータを見ていないのでわからないのですが、併せて患者さんを診ている臨床の先生たちの話を聞いても、少なくとも新規の患者さんの急増は抑えられていると思います。

緊急事態宣言が出る前には、倍加(新規患者数が倍増すること)までの時間が短くなっている状況にありました。

それが倍々に増え、続いて指数関数的に爆発的に増えていくという「オーバーシュート」の状況になるのが最悪のシナリオでしたが、少なくともそれは抑えられているようです。

1日の患者の数は毎日報告されていますが、東京都や川崎市の様子を見ても、増加の曲線の角度がフラットになり始めています。

でも、それはあくまで「点」で見ていることで、傾向は「線」で見ていかなければいけません。

埼玉県などではオーバーシュートの予兆までではないですが、持続してゆっくりと増え続けています。他の県まで詳しく見ていませんが、一方で地方では、この間、患者の発生がない県もありますね。

日本全体で少なくとも急増はしていないということは今の時点では言えます。それが、線としてそうなっていくのか、点でのことなのか。

感染症の流行は一定に上がっていく、あるいは下がっていくわけではなく、上がり下がりを繰り返していることがよく見られます。下がっているところだけ注目して、良かったねと安心するわけにはいきません。

検査をしていないコロナ患者が急増しているわけではない

ーーどうしても検査のキャパシティの問題で、検査数が頭打ちになっているから、見かけの感染者数が増えていないのではないかという指摘があります。

そういう側面はあるかもしれません。

例えば、川崎でも検査そのものをカツカツでやっているわけではないのですが、受け入れている検体数の陽性率は高くなっているわけでもありません。これは地域によって違います。

もう一つ感染者数を迅速に掴めない要因としては、当初行われていた公的な検査施設だけでなく、保険適用の民間検査の利用も増えてきていることがあります。

それはもちろん良いことなのですが、一方ではその数と、保健所がつかむ数には(報告のタイミングが異なるため)タイムラグがあって、正確な数が今までより把握しにくくなっている、ということもあります。

検査のキャパシティについては一歩一歩広がってきています。

そして、常に検査=PCRという言葉が一人歩きしていますが、PCRに限らないウイルス遺伝子検査や抗体検査もありますし、まだ市場には出ていませんがインフルエンザの迅速診断のような迅速診断キットも開発されています。

新しい検査技術の進歩があれば、ここから先の大きい武器になって行きます。

むしろPCRという言葉に惑わされず、 PCR以外の方法も使いながら、患者さんや症状のある人の検査はさらに増やした方がいいことは当然です。ただし一定の精度が守られている製品でなくてはいけません。

ーー新型コロナと診断されていない患者と共に死者も増えているという人もいます。ただ、火葬場がパンクしているという話は聞かれません。

火葬場の全体数はわかりませんが、ニューヨークのように埋葬が間に合わない人がたまっているという状況は、日本では発生していません。

原因がわからず、診断がつかないまま亡くなった人から検査陽性者が出ることもないわけではないですが、原因不明の死亡者が増えて、隠れたコロナが多数いるいうことはないと思います。

もちろん、症状がはっきりせず、受診せずに治った人は多いとは思います。でももし、そんな患者さんが数十倍、数百倍いたら、当然原因不明の重症者や死亡者がどこかで増加しているはずです。その様子は現在は見えていません。

数だけで比較するのは適切ではないですが、今の新型コロナの患者数は、流行期のインフルエンザ患者数に比べてはるかに少ないです。亡くなった方もインフルエンザに比べたらはるかに少ない。

一般の方にとっては、(新型コロナは)怖い病気というイメージが強いかもしれませんが、その一方であまり身近な病気とは感じていないようにも見えます。それが、8割の接触減少を難しくしている理由だとも思います。

しかし、一般の方々には見えないところですが、新型コロナの感染者を診る医療機関は相当カツカツの状況でやっています。重症者を含むたくさんの入院患者さんの治療、フォローアップで、疲弊しています。

そして症状は軽いけれど検査陽性の患者さんのお世話も同じ医療機関でやっています。そこが一番解決しなければいけないところだと思います。医療機関の疲弊は、患者さんの不利益に結びつきます。

医療機関の役割分担は進み始めている

緊急事態宣言という”劇薬”の効果でもあると思うのですが、病院に新規の患者さん、重症の患者さん、中~軽症の患者さん、さらに回復したが退院まで至っていない患者さんなどでぎっちりいた患者さんが、ホテルなどの滞在施設に移ったり、自宅に移ったりし始めています。

病院で他の病棟をやりくりしてコロナ患者さん用とする、新規開設予定の病棟をコロナ病棟に充てる、閉鎖していた病棟を再開するなど、患者さん受け入れ可能ベッドを増加する工夫も始まっています。

これはいわば足し算です。

自宅療養の患者さんに対するフォローとして川崎では、血液中酸素濃度モニターなどを貸し出しています。

ーー軽症者はホテルなどの滞在施設で経過観察、それより少し重い人は一般の病院で治療、重症患者は集中治療室などを有する医療機関へという役割分担が進んでいるということですね?

これはいわば今まで患者さんを一手に引き受けていた医療機関にとっては引き算です。緊急事態宣言をきっかけにようやく本格的に動き始めたという印象です。

今までやらなくちゃいけないと言ってきたことが、ようやく実現し始めています。このような備えは、今患者数が少ない地域でも実施することが可能になるよう、取り組んでおくべきことと思います

また検査についてもPCR以外の方法を取り入れたり、疑わしい患者さんについては、医師会の先生たちが動いて、地域にPCR検査実施センターのような検査を受ける場所を増やしたりしています。

もう少し簡便に、容易に検査ができるような体制が整い始めています。

なお、一般の人のマスクは少し手に入りやすくなってきているようですね。値段の高さは別としてですが......。

医療機関にもサージカルマスクを売る営業が入ってきたり、これも値段は別として、物として入ってくる機会は少し増えています。医療機関に医師会単位で優先的に防護具を回す動きも増えています。

診察に来たかかりつけの患者さんが、「買ってきたマスクを1枚分けてくれた」と感激していた友人の開業医がいました

足りない面も 医療機関の疲弊、院内感染、街の混雑

ーーそれでも東京も含めた流行地域の医療機関はまだ大変そうです。

もちろん、いいことばかりではありません。まだ足りないものが多数あるのも事実です。

確かに医療機関はまだ大変な思いをしています。それから、病院が全くの不注意からというわけでなくても、医療機関での感染が起こっています。

院内感染の原因の一つとしては、他の病気で入院した人がコロナウイルス感染者だったことが後からわかり、知らず知らずのうちに医療機関内で感染が広がってしまったこともあります。

つまり「隠れコロナ」の存在です。細かいことがわかってきたから、そういう感染の経路が分かるようになってきたとも言えますが、入院時の検査などとしてPCRなどの検査も、簡便に行われるように進められています。

あらかじめ分かれば、入院する病棟、そこから先の治療や感染に対する警戒の度合いなどに差を付けることができます

また、高齢者施設での発生もあります。高齢者は重症化しやすいですから、心配な状況は引き続きあります。

ーー一般の人の行動についてはどう見ていますか?

多くの人は外出など、日常生活をかなり我慢していただいているなと思います。

ただ、数としては多くないのですが、目立つ行動をしている人もいます。湘南にサーファーが殺到したということも報じられました。

もちろんサーフィンをやりながらうつるわけではないのですが、同じところに一斉に多くの人が集まってしまう、つまり三密が容易に生じてしまう、ということが問題です。

どうも不思議なのは、どうしてみんな同じところに、同じ時間帯に行ってしまうのだろう、ということです。

公園もそうです。公園でジョギングしたり、子どもと遊んだりするのは、むしろ僕はこのような時期であってもやった方がいいと思っています。

もうすこしばらけて楽しんで、気晴らしや運動不足を解消して頂きたいです。

このように、マイナス面やまだ十分でないところもあるのですが、皆さんのおかげで我慢の成果はある程度見えてきている印象です。

ただそれが8割おじさんが示す十分なものであるかどうかはまだわかりません。連休の最中か終わりぐらいに、データの検証でわかってくると思います。

なぜ行動制限するか その意味は十分理解されているか?

ーー4月22日の専門家会議の提言では、人との接触を8割減らす10のポイントが出され、文章で公園やスーパーマーケットでの注意を呼びかけられました。我々にかなり浸透した「3密(密閉、密集、密接)」を避けるというスローガンからオープンエアの公園なら大丈夫だろうと考えたり、「日用品を買うためのスーパーに行くのは許される」というメッセージから混雑しても大丈夫と誤解したりしたのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

専門家会議が出した人との接触を8割減らす10のポイント

例えば、私たちは公園に行ってはだめとは一度も言ったことはないのです。でも、たとえオープンエアであっても、何十人か集まって宴会をやってはいけないし、そこに感染者がいれば広がる可能性があります。

公園に行って走ったり、遊んだりはいいのです。僕は特に子どもと手をつないで走っているのを見ると「ほほえましいなあ......」と思っています。

公園も、混雑しているのが報じられて、公園に行くのはどうかという話や、行くなら一人にすべきではないか、などとという話が出てきています。

でも家の中にこもっている時に、子どもを置いて一人だけ走りに行くわけにはいかないですね。親子など少人数で遊ぶのはいいことだと思います。

行き過ぎだと思うのは、小さい児童公園のようなところを立ち入り禁止にしているところもあることです。むしろそういう近所の公園で、少人数で遊んで、有名なところに集まることは避けたらいい。つまり、分散してくれればいいのと思うのです。

それが、「ジョギングする時は少人数で」という表現になるわけですが、なかなか伝わらないです。

スーパーも「3日にいっぺんの利用を」と呼びかけていますが、本当は混んでいるところに一斉に行かないでと言いたいだけなのです。

できればばらけてほしいし、スーパー側も冷や冷やして営業を続けているはずです。お客さん相手にこうしてくださいと言いにくいこともあるでしょう。

スーパーも一人でと呼びかけられていて、もちろん一人で出かける人もいるでしょうけれども、重い荷物を持ってあげなくてはいけない時もあります。付き添いがいないと危ない人もいるし、子どもを家に置いていけない人もいます。

そこは時間をずらすなど工夫のしどころだと思います。それが自分たちで工夫できなくなると、またきつい規制がかけられてしまいます。

ーー自分の暮らしの自由を守るためにも、それぞれが自分で考えて臨機応変に対応することが必要ですね。

これは今すぐできる話ではありませんが、子どもの頃から「自分で考える」という教育をしなければならないと思います。マニュアルがないと行動できないということではなく、自分たちで考える力を育てないと、いざという時に身動きが取れなくなります。

医療の世界でも同じように感じることがあります。最近、いろんなものがマニュアルやガイドライン化されていますが、わからないことや初めてのことはいっぱいあります。

もちろん単なる思い付きでの勝手な考えに基づいた医療をしてはならないことは言うまでもありません。また一定のレベルを保つためにガイドラインやマニュアルは必要です。

しかし、それなしで経験を活かして応用し、かつロジカルに対処しなければいけないこともある。そのために、普段から、マニュアル人間にならないような教育を僕たちがしなければならないですね。

残念ながら感染症に対してリスクゼロはあり得ない。自分で考えてより良い方法を判断しなければならないことの連続です。

外出するリスクと、他の病気を防げなくなるリスク

ーースーパーや医療機関は行っていいのですよというメッセージを機械的に受け取られている気がしますね。メディアの伝え方も悪かったのかもしれません。

ルールを決めるのはなかなか難しいことですね。

例えばスーパーが閉まったら生活は大変になります。いま開業医の先生たちのところはスカスカになるぐらい患者が来ていないのですが、開いていないと日常の薬、慢性の病気の治療薬などに困ります。

例えば、こういう時に、きちんと普段やっておくべき感染症の予防接種を受けておかないと、防げる病気も防げなくなってしまいます。

幸いにというべきか、外出自粛が強いので、普段は広がる病気が広がらないということもあるかもしれません。

でも、ウイルスは消えているわけではないので、何か接触があれば感染が広がる可能性は常にあります。そうなると、本来はワクチンで防げる病気が防げなくなります。

また、学校や幼稚園などが再開されたら、免疫がない子が集まって、はしかや風疹、百日咳などが流行すると大変なことになります。ヨーロッパでは、普段からはしかのワクチンの接種率があまりよくない国や地域があります。新型コロナはともかく、はしかが流行し始めたという報告もあります。

子供だけではなく、高齢者の肺炎球菌ワクチンなどもそうですね。感染症のダブルパンチは何といっても避けたいです。

集団で集まることは良くないですから、かかりつけ医に電話をいれて、空いているか空いていないか、いつ頃行ったらいいかを聞いた上で、必要なワクチンは受けた方がいいです。

乳児健診もいっぱい人が集まるのはよくないので、保健所などでの集団健診は止めているところが多く見られます。これも、かかりつけの小児科の先生がいるなら相談して、何時は空いているからと聞いてから行けば、安全にきちんとした定期健診も受けられます。

ーー他の世代はどのように医療機関にかかればいいのでしょうね。コロナで我慢して持病が悪化したら問題です。

お年寄りや慢性の病気を持っている人は、オンライン診療やファクス処方もできるようになっています。

薬などは諦めないでかかりつけの先生と電話などでまず相談しながら、空いている時間に直接行くなり、オンラインで相談するなり、うまくやっていただけたらと思います。

厚労省:オンライン診療対応医療機関リスト

ワクチンの開発見込みは?

ーー国内のニュースだと、ワクチンがすごく早く開発できるるような報道をされたり、臨床研究中の薬がすべてに効果があり、今すぐ使えるかのように伝えられたりしています。専門家会議の提言でも「この感染症に対して、有効性が確認された特異的な抗ウイルス薬やワクチンは現時点 で存在せず、確立した治療法も現時点ではない」と言い切っていましたが、見通しはどうなのでしょう?

研究レベルでの試験的なワクチンはすぐできると思います。しかし、多くの人に使った場合の安全性や効果を検証するのに時間がかかります。特にワクチンは、病気ではない多くの人に対して接種をするので、その開発と導入には薬より慎重さが要求されます。

実験的に出来たものを、動物できちんと効果が出てくるか、問題ある副作用はないか、解剖してそれぞれの臓器に異常が出ていないか、人間に試す前にそういう厳密な試験がまず行われます。

それで大丈夫となれば、まずは少人数の人に少し接種して安全を確かめて、慎重に量や人数を増やしていきます。

そこにすごく時間がかかるし、お金もかかります。

思いつきでやるのではなくて、ちゃんとしたプロトコル(手順書)を作って、実験に参加する人が不利益な目に遭わないように、何かあった時に手立てが打てるようにしなければいけません。そのようにして、被験者を増やして、効果と安全性を確かめてやっと承認されるのです。

その承認の書類審査を優先するなどして、時間を省略できる部分はできるだけ省略すべきで、「特例審査」という方法があります。それでも安全性や有効性の検証については省略せず、慎重にやらなければいけません。

こうした新しい病気が出てくると、みんな「ワクチンはないか、できないか」と騒ぎます。でも、これだけの慎重なことをやって世に出たワクチンなのに、何かあると、そのワクチンで防げる病気が防げなくなるほど、ワクチンが悪者にされることもありますます。不思議なことですが、しょうがないんでしょうね...。

また開発には膨大な手間と時間とお金が必要ですが、ワクチンが完成した時は、新型インフルエンザのように人が興味を示さなくなることもあり得ます。あるいは、SARSの時のように病気そのものがなくなってしまうこともある。

そうなると企業は困るわけですが、そこは感染症予防という観点から国策や世界の戦略でバックアップをしなければならないでしょう。そのワクチンの科学技術は他の科学・医学の発展に繋がります。その技術を伸ばす意味でも開発は必要です。

ーー最低どれぐらいかかりそうですか?

短くても1〜2年はかかるのではないでしょうか。例えば、デング熱ワクチンもずいぶん議論されましたが、出てみたら副反応が強かった、ということもあります。実際、やってみなければわからないところもあり、1年程度で安全で効果のあるワクチンができるとは断定できません。

今まで確立された技術で作られたワクチンなら、承認審査も省略できるところはあるかもしれませんが、DNAワクチンや遺伝子組み替えワクチンなど新しい技術を使って作られるワクチンは、ことに安全性をよくみなければいけません。

困っているから、何でもすぐ使ってみようというのではなく、淡々と進めなくてはなりません。

治療薬の見込みは?

ーー治療薬の開発の見込みはどうなのでしょう。日本発の薬として、政府もメディアもアビガンを既に効果があるかのように伝えています。様々な薬の臨床試験が走っていますが、この開発見通しはどうでしょうか。

新薬の開発もやっていると思いますが、それについては時間がかかります。ただ、ワクチンよりは早く進むでしょう。

というのは、ワクチンは健康な人に使うので、その効果が見えにくいし、安全性でも相当厳密なものを求められるのです。

一方、病気の時に使う医薬品は、悪い状態の時に使ってどうかと検証するので、効果が見やすいことがあります。また、治験をお願いする時も、「こういう方法があるならやってみよう」ということが受け入れられやすいです。

そういう意味で薬の開発はワクチンよりも早く進むかもしれませんが、新しい薬の場合は、日本は規制が厳しいので、省略できるところはそうすべきですが、安易に省略してはいけません。

時事通信

富士フイルムグループが開発したインフルエンザ治療薬「ファビピラビル」(商品名アビガン)[富士フイルム提供]

その意味で、もし既存の薬が使えるなら、それに越したことはないです。既存薬は、すでにその副作用なども理解されたうえで、製造・使用の国家承認がされているからです。

だから、アビガンや喘息の治療薬であるオルベスコ、マラリアの薬であるクロロキンなどが期待をかけられているわけです。

危ないのは、「効いたような気がする」とか「悪くなるのではないか」と推測で評価することです。科学的に厳密に評価しなければいけません。

アビガンは、日本で開発された薬で日本の技術が活きるのは大変にありがたいことです。

しかし、この薬は欠点を知って使う必要があります。動物実験上ではありますが、胎児への「催奇形性(胎児の体の見た目に異常が起きる性質)」で、かつてのサリドマイド並みの注意が払われています。

もし承認されたとしても、広く一般の人が薬局で安易に買える薬には絶対になりませんし、してはなりません。動物での精子の異常も観察されているので、特に生殖年齢にある人への使用はきちんとしたと説明と了解のもとに使用するようにしないといけません。

ーーワクチンよりも早いということですが、治療薬の場合は承認までどれぐらいかかりそうでしょうか?

既存薬なら既に承認済みで、対象の病気を広げるという「適応拡大」の手続きなので、その分は早くなるでしょう。

でも感染症学会でも話題になったように、軽症の人に効果があったといっても、その薬で本当に治ったのか、放っておいても治ったのかは判断が難しいところです。

逆に、重症の人の場合は何もしなくても重症化する可能性が高いので、薬のせいで重症化したかどうか、効果の判定難しい時があります。したがって、きちんとしたプロトコールのもとで、科学的な評価をするということは必須のことです。

「どうもいいような気がする」というのではなく、厳密に評価しないといけません。むやみにに「何でも効きそうなのは使え」ということにはするべきではありません。

今後のスケジュール

緊急事態宣言後の効果分析はまだ出していません。まだ解析に十分なデータが集まっていないからです。これには一定の時間が必要です。とはいえいつまでも待っているわけにはいかないので、連休が明ける前にはこの評価とそれに基づいた提言を出す必要はあります。


宣言を緩めるのか、延ばすのか、あるいは部分的に変化を付けるのかなどについて、政府が専門会議の意見を受けて、諮問委員会を開かなければいけません。二つステップが必要です。


ーー全国に広げたのは妥当だったのでしょうか?


意見は分かれました。僕が提案したのは、7都府県に出した後に増えているところもあり、それは増やしたほうがいいだろうという案でした。感染者ゼロの県も当時はあったので、そこと東京と一緒にするわけにはいかないから、半分ぐらいの自治体が対象になった段階で、全国に広げたらいいのではという意見は伝えていました。


しかし、これから増えていく時に一つずつ評価するのは大変だという意見もありましたし、感染が少ない県にとっては、「うちは少ないのに他の自治体から制限なしに来てもらっては困る」という声もありました。沖縄の流行の一つのきっかけは、他都市から来られて滞在した方でしたね。

そうした理由から、他の7都県府に遅れないように一斉に対象にした方がいいという意見は強かったのです。

私も最終的に全ての都道府県に網をかけることには賛成しましたが、山陰地方や岩手県が東京などの首都圏と同じようなことになるのはおかしいので、どのように運用するかはそれぞれの地域の実情に合わせてそれぞれが判断できる、ということを明記するよう求めました。

一方でこれでも日本の非常事態宣言は遅い、甘いぞという声が上がっています。でも、僕は今のやり方は、日本的なやり方として、妥当だろうと思います。

ーー日本的なやり方とはどういうことですか?

欧米的なロックダウンではなく、要請や指示もありますが、国や自治体の権限でこういう方針だと示して、応じてもらうというやり方です。

ーー日本人は良くも悪くもルールやお上に従う意識が強いですね。

電車の乗車率や人の流れもかなり減っています。渋谷も新宿もガラガラだし、通勤電車も朝から座れる状況です。これは素晴らしいことだと思います。

「災い転じて」ではないですが、遠隔での取材や会議も浸透しましたし、「働き方改革」と呼びかけても全然動かなかったのが、テレワークを導入した企業も増えています。いい意味での遺産は事態が平常化しても残すべきでしょうね。

確かに、一般の人にとっては休業は劇薬で死活問題で早くどうにかしなければいけません。これは経済・社会政策としてぜひ取り組んでいただきたいところです

一方、医療の立場からみたら、医療崩壊は一番恐れるべきことです。救急受け入れを断っている病院が既に出てきています。手術の延期も出ていますが、ぎりぎりで踏みとどまっている感があります。

医療全体が停滞させないように通常の医療体制ではできないことを、緊急事態宣言でトップたちが取り組まざるを得なくなったともいえます。

そして、医療を守るというのは、たとえば50床の病棟がいっぱいで、自分が51人目の患者になるかもしれない、ということを避けることです。全ての人に関係する問題です。

全体の感染者数が増えたら、低い割合であったとしても重症者も増えるので、やはり全体の感染者数を抑える努力は、皆でやらなくてはいけない状況です。今の「3密を避ける」というのは、自分を守り、知らない人にも優しい、誰にとっても非常に重要な対策であり続けています。

楽天の全国民検査の提案は?

ーー楽天が法人向けに打ち出した、無症状の人に自己採取でPCR検査をするキットの販売についてはどうお考えですか?

例えば、性感染症の検査は、郵送検査が一応認められています。妊娠反応の検査も、すったもんだがありましたが、日本でもできるようになっています。

しかし、インフルエンザであっても鼻の奥から検体をとるのは、かなり慣れないと大変です。「痛い!」と叫ぶぐらいに綿棒を突っ込まないと取れないのですが、自分では「痛い」というところまではできないと思います。

nejm.org

鼻の奥のぬぐい液を自分で適切に取ることができるだろうか?

それから、検査は白黒が100%はっきりつくものではなく、必ずグレーゾーンがあります。痛みもなく、ちょこちょこっと不完全に取って、陰性をお墨付きにして証明書代わりに使うとすれば、実は危ない使い方になります。

ーー無症状者が知らぬうちに感染を広げているかもしれないから、企業がそれを使って、自宅待機させるか、引き続き仕事をさせる判断材料にと説明されています。無症状の人に検査をすること自体についてはどうお考えですか?

今の検査方法で、無症状の人すべてに検査をしようとするのは反対です。ある集団でどれぐらい感染が広がっているのか調べる疫学調査などの研究のためにやることはもちろん重要で必要です。

しかし、すべての人ができるようにPCR法などを整えることは、限られた資源から言えば無駄遣いで、もっと他の方法を考えるべきです。

日本の中で真の陽性者が何%ぐらいいそうなのかはまだわかりません。例えば、海外からの入国者は今全てPCR等の検査をしていますが、1%も陽性は出ていません。99%陰性です。仮に陽性率が高まったとしても、陰性者のほうが今のところは多いはずです。

その人たちに、膨大な検査資源をつぎ込めば、本当にやらなければならない人のキャパシティを食いつぶすことになり、その後の対応をする医療資源にも影響が出るでしょう。

ーー政府の会議でも楽天の三木谷浩史社長が、「全国民にPCR検査を」と言って、5000万人を対象に検査をすべきだと提案しました。それに政府が5000億円を出すことを求めています。

それは一瞬の不安感を解消するにはいいかもしれませんが、医学的に適切な方法ではないと思います。

例えば、インフルエンザでは、「迅速診断が普及したのはある意味いいことで、正しく病原診断をして、治療の選択をする(抗ウイルス薬を出すなど)ことは、感染症を正しく知るという意味でいいことだ」と当初から思っています。

でもその後、あの検査をしないとインフルエンザという診断に納得しない人が出たり、症状も何もないのに陰性だということをお墨付きのようにして、陰性証明を求める人が出てきたりするようになりました。

中には症状がほとんどないのに陽性と出た場合、どう扱うのかという余計な問題も診療現場で起きるようになったのです。

ーーやはり今回のようなPCR検査キットは混乱を招く?

目安であるということが理解されて使用するならばまだしも、白黒はっきりできるものとして使用するのであれば、それは数々の誤解を招きます。

検査方法としては適切であっても、検体の取り方ということも含めば、信頼度は医療機関でやっている検査とは段違いに違うのだということも認識してもらわなくてはなりません。現時点で5000万人の人にこの方法で検査をやることは、妥当とは思えません。僕の意見は反対です。

ーー話は変わって、厚労省が「抗体検査」(ウイルスと戦う抗体を体内に持っているかどうか調べる検査。感染経験があるかを調べる)を始めます。ニューヨークなどでも行われましたが、このタイミングでやるべきですか?

疫学的に非常に重要な意味があるので、サンプリングという形でやるべきです。ただ抗体検査をやる検査法、つまり道具自体の性能がまだ正当に評価されたものではないので、その点も考慮しておく必要があります。世界的にも精度やその結果をどう見ればいいかは、まだ明らかになってはいません。

その評価もした上で、利用した方がいい。また、うっかりすると、抗体検査が迅速診断の代わりになると誤解して、個人の病気の早期診断に結びつくのではないか、といった誤解もあります。検査はその特性、限界、を知って上手に使いこなすべきものと思います。

ーー既にクリニックで行なっているところがあり、報道もされています。

あくまで抗体検査は、前に感染したことがあるかどうかが分かるだけです。

その抗体がどれぐらいの期間もつのか、抗体があるから完全に感染防御できるかなどについては、まだエビデンスが十分ではありません。やがてそれほど時を費やさずに解明されていくはずです。それまでは、個別の診断として使うのは慎重にならなければいけません。

GWをどう過ごして欲しいか

ーーゴールデンウイークが始まりました。どう過ごしてほしいですか?

今、ちょっと良い兆しも見えてきていますが、せっかくみんなでいい方向に動かし始めている時です。3月の3連休の時とは状況が違います。

ここで気を緩めて、もう1回後戻りしてしまうと、今度はもっときついことをやらなくてはならなくなります。

確かに経済的な問題は大変なことだと思います。でも、ここは我慢のしどころで、連休に関しては少なくとも今の状態は維持していただきたい。

ただ、家の中でじっとこもっていろというわけではなくて、スーパーや公園はうまく考えながら利用してほしい。接触を避けるための10項目も使ってほしいです。我慢を強いてしまうことになり大変申し訳ないのですが、もう少し続けてくださいとお願いをしたいところです。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

Zoomで話す岡部さん

10項目も、これ以外は大丈夫、緩んでいいというメッセージではありません。母数である感染者を少なくするのが重症者を助けていくことになります。自分が満床の50床を前にした51人目にならないためにも必要です。

最後にお伝えしたいことは、感染させた看護師が悪いとか、病院で働く医療者の子どもは保育園で預からないとか、差別や偏見の問題が深刻になっている状況があるのは由々しき問題です。

著名人も感染すると、「大変ご迷惑をおかけしました」と謝罪し、さらにそれを攻撃する人もいます。

一方で、医療関係者に対してみんなで拍手で労ってくれたり、医療関係者を応援するために東京タワーなどを青色にライトアップしたりなどは、本当に励みになることだと思います。

医療者だけでなく、スーパーの売り場で働いている人や、流通を滞らせないために働いている人など、いろんな人が自分たちの暮らしを支えてくれているのだということをぜひ感じてほしいのです。

ストレスが溜まっているのはわかります。一方では医学的に対応が足りないところがありますが、ストレスからDVが増えているという話もあります。それもきちんと対応していかなければならないと思います。

みんなで助け合いながら、乗り切っていけたらと思います。

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会理事長(平成29年12月まで)、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会常任委員など。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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