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「流行の封じ込め」から「流行を前提とした対策」へ 専門家「切り替え時期を考えなくてはいけない」

政府からイベント中止の要請に続き、全国の小中高校の休校要請もあり、日常生活に大きな影響が出ている新型コロナウイルス感染症。政府に助言をしてきた専門家会議はこの状況をどう見ているのか。構成員の一人で感染症のスペシャリスト、岡部信彦さん2度目のインタビューです。

イベントの中止や延期の要請に続き、全国の小中高校の休校要請もあり、日常生活に大きな影響が出ている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

専門家会議の構成員も務める岡部信彦さん。新型コロナ関連でBuzzFeed Japan Medicalのインタビューに答えてくれるのは2度目となる

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が政府に医学的な助言を続けているにも関わらず、全国休校要請は事前に相談がなかったことも明らかになり、根拠のある対策が打ち出されているのか疑問が残ります。

専門家会議の構成員の一人で、2009年の新型インフルエンザ発生時には国の対策を検討する委員会の副委員長も務めた川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに、改めて、このウイルスにどう立ち向かえばいいのかお話を伺いました。

※インタビューは3月4日午後に行われ、話した内容はその時点の情報に基づいています。

わかってきた新型コロナウイルスの特徴

ーー1か月前にインタビューさせてもらいましたが、ここまでのデータを見て、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、新型インフルエンザなどと比べて、このウイルスはどういう特徴があると言えますか?

良い点から言えば、軽い症状で済む人が8割ぐらいいることがわかってきたことです。致死率も全体で2%ぐらいで、高齢者が圧倒的に多く、若者の重症者はまれ。重症患者でも治って退院する人がいることが明らかになっています。

一方、厄介だなと思うのは、潜伏期間が少し長めなので、感染していることを見つけにくいことです。他の病気との区別が難しいですし、最初に出る症状はこのウイルスに特有のものではないので、あまりはっきりしないうちに人にうつしてしまう可能性もあります。

感染力から言うと、ウイルスが長く空間を漂う「空気感染」があるのか、ウイルスを含んだ液体が霧のような状態で空中を浮遊する「エアロゾル感染」が一時話題になりましたが、それが多くあるなら、あっという間に全世界で蔓延状態になるはずです。

そうではなく、爆発的な流行になっていないのは幸いですが、見つけにくいことは確かです。専門家会議では、閉鎖的な空間での至近距離での交流は避けたほうがいい感染経路だということがわかってきたと言っています。

一定数の感染者が出た時、ほとんどの人は治るのだから、感染を食い止めることに大きな力を割かなくてもいいじゃないかという考え方もあります。

ただ、インフルエンザ並みに1000万人かかってしまうと、致死率が低くても、死者が10万〜20万人出ることになります。やっぱりこれは避けたい。

だから、重症者をなんとかすることが、今もっとも力を割かなければいけないことです。最初から意見は変わっていません。

感染を食い止める対策から、重症者に集中する対策への切り替え

ーー重症者をなんとかするにはどうしたらいいのでしょうか?

重症者をきちんと診るためには、医療体制が崩壊しないように工夫する必要があります。感染をとにかく食い止めることに必死になる対策は、いつか切り替えなくてはならない。ただその時期をいつにするのかは、専門家会議でも意見が分かれます。

今はまだ国内で爆発的に増えている状況ではないので、北海道などのクラスター(小規模な感染集団)の特徴を丁寧に分析して、クラスターを生みそうな若者たちに注意を呼びかけ、閉鎖的な空間での交流はできるだけ避けてほしいと呼びかけるべきだという合意に至りました。今はまだ諦める時期ではないということです。

ただ、いつか諦める時期は決めなくてはいけません。

軽い人がほとんどで、症状がない人からもうつるかもしれない。それを全部しらみつぶしに明らかにしようとすると、日本の人口を全て検査して、一度検査してもわからないこともあるから1日おきに検査を繰り返す、というのは、物理的にも費用の面でも無理な話です。

軽い人は普通に診て、重い人はなるべく早く見極める。その対策への切り替えをいつにするのか、まだ意見が分かれており、議論が進められています。

ーーインフルエンザよりも肺炎になりやすいという嫌な特徴はあるわけですね。

病気として厄介な部分は、ストレートに肺炎になりやすいことですね。解剖所見に関する論文はまだ1報しかみていませんが、SARSのような急性呼吸器不全(ARDS)を起こしています。高齢者などのインフルエンザ肺炎とは重症のなり方が違うようです。

ーーそういう病気の特徴からも、重症例を早く発見することが必要なのですね。

そうです。

ーー重症になっても早めに手を打てば必ず治るのですか?

高齢者の肺炎はもともと死に直結しやすいほど危険で、あっという間のことも多いです。しかし、治療法も進歩しています。早期診断と早期治療が有利になることは言うまでもありません。

しかし少なくとも3、4日ぐらいで自然に治る人8割以上いる。治る人はそのまま家で様子をみて、それ以上続く、あるいはそれ以内で病状に変化があれば病院で診ることが早期発見のための道筋です。

しかし、どうも厚労省の出した受診の目安が誤解を招いています。

37.5度以上の熱が出たら4日間必ず待たなければならないと考えている人がいます。そうではなく、具合が悪ければ早く行った方がいいし、高齢者や持病のある人は2日以上となっていても、症状が強ければ帰国者・接触者相談センターなどにすぐ相談するのはもちろんいい。ほかの重症な病気のサインかもしれませんし。

ーー例えば、健康な成人でも39度や40度出たら、受診した方がいいわけですよね。

そうですよ。普段の医療と同じです。様子をみていても、咳をし過ぎて吐くとか熱が39度以上になれば、辛いでしょうから受診してください。

厚労省や専門家会議が出した「集団感染しやすい環境」の意味は?

ーー3月2日に出された専門家会議の最新の見解では、「屋内の閉鎖的な空間」で、「人と人とが至近距離」で、「一定時間以上交わること」によって、集団感染が起き得ると注意喚起しています。

Rrvachov / Getty Images

ライブハウスなど若者が集まるところで感染が起きている状況証拠から、若者への注意喚起が行われた

一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されています。 具体的には、ライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テント等です。このことから、屋内の閉鎖的な空間で、人と人とが至近距離で、一定時間交わることによって、患者集団(クラスター)が発生する可能性が示唆されます。(3月2日の「見解」より)

ーーその前の2月24日に出された専門家会議の見解では、咳やくしゃみで飛んだウイルスが直接体内に入る「飛沫感染」と、ウイルスに触れた手で目や口や鼻の粘膜を触る「接触感染」の他に、例外的に別の感染ルートがある可能性について触れていました。2日の見解は、ウイルスが空中に漂うような感染ルートの可能性を踏まえての注意喚起なのですか?

ただし、例外的に、至近距離で、相対することにより、咳やくしゃみなどがなくても、感染する可能性が否定できません。(2月24日の「見解」より)

「スタジアムにいるとみんなうつっちゃう」という誤解を払拭したいので細かく書いたのです。むしろ空気感染ではない、ということを伝えたくて細かく書いたところがあります。

ーー基本的に、飛沫、接触感染であることは変わらない?

例外的なルートは、医療機関で気管挿管をしたり、気管内の吸引を行うといったりした場合はエアロゾルが発生する可能性があります。

検査の時に患者さんの鼻や喉から検体を取る時にも、通常エアロゾルの発生はありませんが、慎重にすることもあります。飛沫、接触感染が主なルートだという前提は変わりません。

「全国一斉休校」 専門家会議は聞かれなかった

ーー政府が出した「全国一斉休校の要請」ですが、専門家会議は事前に相談を受けていないと怒りを含んだ口調でメディアに話されていたのが印象的でした。

諮問はされていません。休校という対策自体も、全国でやったほうがいいのかという質問もされていません。こちらから自主的に「休校にした方がいい」という提言ももちろんしていません。

時事通信

専門家会議

でも、学校で流行した時にどうするか、拡大したときにどうするかという意見交換はもちろんしていました。しかし、その結果、もし全国休校が必要ならば提言していますが、専門家会議で今の状況で全国休校という合意はありませんでした。

ーー流行拡大を予防する目的で、このタイミングでの全国休校は必要なかったということですか?

現実に子どもでの患者発生は中国においても少数で、ほとんどが軽症です。北海道を見ても、確かに学校で子どもの感染者が出ましたが、例外的で、感染しているのはほぼ大人です。

子どもは少ないことに関する理由はまだ不明ですが、これは事実ですし、もっかのところ子どもの間で広がるというわけではないことがわかります。

2009年の新型インフルエンザ発生の時は極めて早い段階で神戸から関西方面全体で休校に踏み切ったこともありましたが、新型コロナは患者層が違うのですから、同じ発想をしてはいけないと思います。

ーー社会的影響が大きいですしね。

そうです。休校すれば生徒が休むだけではなくて、核家族の共働きが多いのですから、両親が仕事に行けなくなります。その人たちが職場から抜けると、事業継続どころではなくなりますし、医療関係者は特に、共働きや、お子さんを預けながら仕事をされている女性が多いので、その方たちが医療現場に行けなくなると、一気に医療の機能は低下します。

新型インフルエンザの行動計画の中では、医療関係者の保育園、学校の休校は一般とは別に考えないと、医療関係者を確保できないということも考えられています。既にそのような議論をしておきながら、今回、唐突に患者発生のない地域も含めて全国休校を決めるのは、どういうことなんだと思います。

今は踏み切るタイミングではないと思いますし、専門家会議に一言聞いてくれたらそんなことに悩まずに済んだのではないかと思います。

ーーそもそも専門家会議のミッション(任務)は何なのですか?

急ごしらえなので、最初は政府側から聞かれたことに意見をそれぞれが述べるというような形でしたが、構成員の方からその対応に医学的な補足という意味で見解を出そうということになった。

また内部で、いろいろな対応や見通しに関する医学的科学的な意見交換といったような非公式の集まりもしょっちゅう行っています。

本当は、専門家会議がこの病気に対するポリシー (方針)を作らないとだめだと思うんですね。もちろん新興感染症の対策は、医学だけではなく、社会的な課題もありますね。

医者は医学的な問題を中心に考えて、オリンピックなどに重点を置いた議論はしませんが、そこは社会的な要素を含んでの判断が必要となります。

政策を進める人はオリンピック開催のことが頭にチラチラ浮かんでいることでしょう。政治的な判断も必要だと思いますが、そのような点については社会・経済学の専門家にも入ってもらう必要があるかもしれません。

全国休校への批判と、専門家会議の「若者への注意喚起」の整合性

ーー小中高校の全国休校の意義については専門家会議の構成員はみな、疑問を投げかけていました。ところが3月2日に出された専門家会議の最新の見解では、若者が感染を広げる可能性があるので気をつけてくださいというメッセージを強く打ち出しました。若者は行動を制限すべきなのかそうでないのか、矛盾していませんか?

10代、20代、30代の皆さん。
若者世代は、新型コロナウイルス感染による重症化リスクは低いです。
でも、このウイルスの特徴のせいで、こうした症状の軽い人が、
重症化するリスクの高い人に感染を広めてしまう可能性があります。
皆さんが、人が集まる風通しが悪い場所を避けるだけで、
多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます。(3月2日の見解より)

見解で10代を入れるのはどうかとも思ったのですが、本当は10代後半を視点にしています。高校生から大学生ぐらいを想定しているのです。行動がなんとなく大人に近くなる世代を指しているので、小中学生ではありません。

Yuzuru Gima / Getty Images

専門家会議が注意喚起した「若者」はカラオケやライブハウスに保護者の同伴なしで行く年頃を想定しているという

ーーライブやカラオケに行く年頃ですね。

そうです。あれは全国休校を後押しするために書いているわけではなくて、カラオケに行ったり、飲み屋に行ったりする年代を想定しています。保護者の同行を必要としないで、自分で行動できる年齢と書けばよかったかもしれません。

若者が感染させた事実はあるのか?

ーーそもそも北海道などの事例を分析していて、若者が他者に感染させている事実は確認されているのですか? 推測なんですか?

そういうところに行っているグループの中で患者発生があったということです。

ーー若者が感染を広げているということはどのデータに基づいているのですか?

北海道のクラスター(小規模な感染者集団)を調査しているグループの意見ですね。

それを証明するデータはどこにあるのかと確かに言われているのですが、感染の動きから言うと、感染したのが中高年であろうが、感染した場所に溜まっているのは若者たちです。そこから拡散しているという推論ですが、実際の調査は進められています。

ーーということは、やはり推定とか状況証拠ということですね。

全て数字で証明されているわけではないです。そういうところに行く年代層の集まりから複数の感染者が出ているということです。そこには、症状がないか軽い人で本人も気づかず感染をさせた人がいる、だから感染がわかりにくいという考え方です。

インデックス・ケース(最初の感染者)がどういう人かはわかっていません。隠れた感染者がいるということです。それが若者の集まるライブハウスや閉鎖的な空間だったわけです。

症状が軽い若者から感染したのではないか、というのは私にとっては納得できる説明であると思いました。しかしそれは、気づかなかった本人が悪いわけでは決してない。

若者は周りの人のために手を貸してほしい

ーー若者の間では自分たちが感染を広げていると責められているような気持ちになっている人もいるようです。

若者は悪者ではないのです。見解の若者に向けたメッセージは「君たちは軽症に終わることがほとんどだから心配ないけれど、そのままだと知らないうちに人にうつす可能性がある。

その人がお年寄りだったり、持病の治療を懸命に受けている方だったりすると、重症な肺炎になりやすい。君たちがちょっと注意してくれれば、君たちのおかげで人の命を救える。君たちが悪いわけじゃないんだよ」と言いたいのです。

例えばインフルエンザという病気は、子どもや若者を含めて中高年までかかり、人にうつしやすい期間は登校や出勤をさせないようにしていますね。

あれはその人の体調を考えてだけのことではありません。その人が少しでも接触を避けて流行させないようにしないと、高齢者や子どもたちが重症化して犠牲になるのをみんなで防ごう。みんなで注意しようよ、という対策なんです。

その人の体調だけを考えれば、熱が下がれば会社を休まなくてもいいのです。でもそういう人が増えたら、感染者の母数が増えて、ハイリスクな人にもうつります。「あなたは大丈夫だけど、みんなのことをちょっと考えて」というのがインフルエンザ対策の思想なんです。

もともとインフルエンザは自分がかかりたくない病気だから、ワクチンもそれなりに受ける。コロナも同じように、自分が悪くなるのが嫌なのは決まっているし、重くもなりたくない。でも若者は軽症で終わる割合が高い。

だから、若者には、「あなたたち一人一人が悪いわけじゃないけれど、祖父母がかかると大変だし、見知らぬ高齢者や会社でひっそりと糖尿病治療をしている人や、妊婦に広げて悪化させないために、君たちの力が必要なんだ」という呼びかけなんです。

ーー誰かのために、というと、風疹でも、検査やワクチンを公費で受けられる無料クーポンが流行の中心となっている中年男性に配られているのに利用が低迷しています。「誰かのために」人はなかなか行動しないですね。

しませんねえ...。でもそういうところに共感してくれる人が少しでもいてくれたらいいなと思うのです。風疹も本人はそれほど悪くならず自然に治ってしまうことがほとんどの感染症です。

でも、あなたがかかるとあなたの奥さんや娘や隣に座っている女性社員にうつして、赤ちゃんに障害を残すようなことのないようにみんなで防ごう、という、成熟した社会の戦略なんですね。

「個別の判断」なぜできないか?

ーー自分はそれほど症状も悪化しないのに、自分ではない誰かのためにやりたいことを我慢させるのはとても難しそうです。一律にライブはだめ、演劇はだめ、その期間もどれほど長引くかわからないとなると、協力してくれなくなりそうです。

嫌になって、言うことを聞かなくなりますよね。

Yagi Studio / Getty Images

演劇も観客がいて成り立つと考える関係者もいる

ーー演劇でも映画でも周りと喋らずに、黙ってマスクをして鑑賞すれば感染する可能性が少ないならば、メリハリをつけて、「こういう注意をすれば、感染のリスクは少ないよ」ということを広報した方がいいのでは?

僕の友達に有名な指揮者がいるのですが、「クラシックで感染が広がるはずないだろう」と言われましたね。

ーー基本的に黙っていますよね。拍手だけして「ブラボー!」禁止にすればいい。

そうなんです。個別の判断をしなければいけないのですが、人々は個別の判断をなかなかできないし、行政が判断をすると一括りになります。もし、「クラシックコンサートはいい」としたら、「何人規模ならいいのですか?」などと細かい問い合わせが増えるでしょう。キリがありません。

ーーそして万が一、1人でも感染者が出たら、主催者の責任問題を言い出すでしょうね。

そうです。みんなから袋だたきになりかねないですよね。

ーーリスクはゼロにできないけれども、咳や熱のある人は参加しないでもらい、それぞれが感染防止策をとって、個別にできる工夫をして開催するなら開催すればいいし、そこは個別に判断すればいいわけですよね。

それが理想ですね。わが国は残念ながら、お上がお墨付きをくれないと動かないということがしばしばみられる社会です。「行政、何やっているんだ!」と批判しながら、行政の言うことを聞きたい国民性なのかなとも思います。

あえて安倍首相の肩を持つならば、彼は「やれ」とは一言も言っていないのです。「やってほしい」と言っているだけです。しかしそうなると、法律の強化という、厄介な問題も出てきます

求められるのはパーフェクト でもリスクゼロはあり得ない

ーー 2時間一緒に時を過ごすかもしれないけれど、ほぼ黙って座っているような、演劇や映画館は感染のリスクは少ないと考えていいですか?

そのようなエビデンス(根拠)はどこにもないわけです。コロナウイルスに感染した人を座らせておいて、数メートルずつ離して座らせ、この距離まではうつったと確認することができれば、エビデンスを作ることもできるでしょう。

しかしそれはいまないわけですから、経験則とこれまでのデータから推測するしかない。

無症状の人は感染力が低いでしょうけれど、無症状の患者からうつったという論文もパラパラ出てきているのは事実です。

だから、感染ゼロ、というパーフェクトをめざした判断は、残念ながらできません。専門家会議でも「パーフェクトはできない」と言っていますし、みんなもそれを知ってほしいのですが、求められるのはパーフェクトです。

例えば、「美術鑑賞」はどうかと言われれば、イメージするのは観客がまばらな美術館に行って、ゆっくり観てということですね。ところが、ロダン展などをやれば、人が殺到します。そうなれば、美術鑑賞も「マス・ギャザリング(大勢の集まり)」になるのです。

ーー一律には言えないですね。

だからあくまで「例えば」なんですね。具体的な判断基準を示せと言われても、限りがない。

ーーしかし、これから流行が長引いて、あちこちで感染者が出てきたら、ずっと文化活動をストップするわけにもいきません。どこかで個別判断に切り替えざるを得ないですね。

そうなったら、「封じ込め」ではなくて、流行を前提として「流行抑制」の方針に舵を切らなくてはいけない。その時には症状が軽い人には目をつぶるという覚悟が社会になくてはなりません。まだそういう覚悟はできていないと思います。

「1〜2週間」が長引いていないか? 対策の検証は?

ーーその切り替えを考える時に、「1〜2週間」ということで行動制限をしたならば、期間を終えた時に検証が必要です。実際には2月24日の見解でも「1〜2週間」と打ち出して、3月2日の見解でもまた「1〜2週間」と言っています。これではズルズル引きずっていくのではないかという疑問が湧きます。

でも2週間後にただちにその効果は出ないのです。

あとでわかる発症日を見れば2週間後に、対策の効果が出てきたというよいうなことはわかるかもしれませんが、感染が確定するのは、発症した後になるので、確定した患者の報告数は発症日とタイムラグがあります。だから、もう少しあとまで増え続けることになるでしょう。

そうなると、もし対策に効果が出ていたとしても、2週間目の時に報告数を見て「増えているじゃないか!」と言われる可能性があるのです。

ーー期間が終わった時に数字を見ても、効果は判断できないということですね。

3週間目で判断することはあるかもしれないですね。一般の人は「1〜2週間」と言えば、制限が長くとも2週間で終わると思うでしょうね。そのあとはカラオケに行って騒げると思っているかもしれませんね。

ーー専門家会議が3〜4週目かどこかで評価をするのですね。

しないといけないでしょうね。期間を書いて対策を打ち出した以上は。

ーー一斉休校の評価も、3月いっぱいまで休んだとして、4月にまた散発的に流行が見られたとしたら、じゃあ状況が変わっていないから休校期間をまた延ばしましょうとなるのでしょうか。

僕が常に言っているのは、病気の重症度が変わるかどうかということも考慮に入れるべき、ということです。

少なくとも日本の致死率は中国以下にはなるはずですから、致死率が1%を割るようであるなら、そんな病気で全国的に休校、あるいは社会生活の極端な制限というのは、なくなってもよいと思います。

もちろん、放っておいてよいということではなく、基本的な予防策や、何よりも重症者・死亡者を一人でも少なくする努力は必要です。

特別措置法を通すのは僕は今でも反対しています。最悪のシナリオに対する備えは必要ですが、これぐらいのレベルで人権をかなり制限し、社会機能を低下させかねない特措法を持ち出す必要はないと思うからです。

止めどきをなぜ決めておかないのか?

ーー一斉休校はどういう根拠で行い、いつ解除するか決めず、説明もしないまま始めたことが批判されています。

全くその通りです。学級閉鎖、休校に関する意見交換はやっています。しかし、今一斉休校をやることが必要であるという提言はしていません。また何かやるときには「いつそれを止めるか」ということを考えておかなくてはいけないと思います。

ーーあのように厳しい制限をかける時は、解除する時の基準は事前に決めておかなければならないわけですね。

僕が患者さんを受け持ちながら研修生の指導などにあたっていた時は、若い医師たちに、「薬を出す時は、やめるのはいつか自分で決めてから始めろ」と指導していました。

それを決めておかないと、目標が見えないからズルズル続けてしまいかねない。あるいは変更するタイミングを見失ったりします。これは感染症対策とも共通のことだと思います。

ーー安倍首相の会見はご覧になったと思います。一斉休校の根拠も、止める時の判断基準も説明がなかったと批判されています。

時事通信

新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり記者会見をする安倍晋三首相=2月29日、首相官邸

おそらく安倍首相は3月末には流行は収まってくるという期待があるのでしょうね。一般の人の期待と同じでしょう。どのように国民に説明すべきかもあらかじめ議論はされていないのではないでしょうか。

政治家は当然感染症や医学については素人です。だからこそ素人は専門家の意見に耳を傾けて、その上で専門家にはできない政治判断をしていただければと思います。

医学だけで物事が決まるわけではもちろんありません。だからこそ社会学や経済学の専門家やリスクコミュニケーションの専門家にも聞けばいい。そういう専門家の意見に耳を傾けてこそ、国民に納得される政策が打ち出せると思います。

今後の対策は?

ーー今後どんな対策を取るべきだと思いますか?

専門家会議としてではなく、僕個人の考えでは、封じ込めがうまくいけば何よりですが、うまくいかなかった時に今の対策を続けるのは実行上無理です。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

流行の封じ込めから、流行があることを前提に取る対策への切り替え時はまだはっきりとは見えないと話す岡部さん

軽症者を無視するわけではないですが、軽症になり得る若者は、暮らしの中で人にうつさない配慮は続けながらも、制限なく生活してほしいです。

とにかく重症な人を優先的に拾い上げる。きちんと治療する。わからない病気には粘りが大事で、粘れば新しい検査法も、治療法も出てきますし、ワクチンも出てくるかもしれない。それまでは重症の人に対して最善の努力をすることです。

検査体制も医師が必要だと判断した人が受けられない今の状態がいいとは思えませんが、無症状や軽症者の人をすべて検査で拾い上げる必要はありません。インフルエンザをやや上回る警戒は続けながら、軽くて済む人は怯えずに普通の生活をしてもらいたいです。

ーー軽症者でも入院させるというのも切り替えなくてはいけませんね。

感染者全てを入院させることはやめなくてはいけません。感染は広がっていることを前提にし、日本人の大好きな「徹底的にやる」という発想で100%封じ込めるという考えはどこかで切り替えた方がいい。

決して諦めるというわけではなく、軽い人は軽いなりの生活を送り、症状のある人は落ち着いて治療できる。具合が悪くなりそうな人は普通の生活を切り替えて、医療の中で救うようにしなければなりません。

ーー専門家の活用は?

ここまで来ると医学だけでなく、社会的な現象になっています。そういう専門家も入った組織を作り、広く意見を聞くべきでしょう。

ーーメディアへの注文はありますか?

ちゃんとしたトレーニングを受けているプロはいいのですが、素人の発想の質問を繰り返しする記者も目立ちます。目線が一般の人で、ということはもちろん大切です。

しかし「私たちはこれだけ心配だ! 何をしてくれるのか? 悪いのは誰だ?」と一般の人と同じようにパニックになっています。メディアも勉強して、今後どうしていくべきか考えながら専門家から良い答えを引き出してほしいです。

テレビのワイドショーでも、専門家を名乗る人が自分の思い込みを話して国立感染症研究所などを批判して、混乱させていますね。そういう人を繰り返し呼ぶメディアは不安を煽っていることを自覚してほしい。自分たちの社会に対する役割を考えてほしいです。

ーー不安でパニックになっている人も多い一般市民へのメッセージもお願いします。

トイレットペーパー騒動も、身の回りの不安を掻き立てられているからでしょうね。人の不安をあえて掻き立てる行動は、メディアもそうですし、一般の人も慎んでほしいです。Twitterなどで瞬間的にセンセーショナルな情報に反応せず、拡散する前に一呼吸考えてほしい。

「冷静に」と人々に呼びかけている側が、一番冷静ではないようにも見えます。いろんなものごとを決断して、国を率いる人たちがまず落ち着いて「正当に怖がる」ようになってほしいです。

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会理事長(平成29年12月まで)、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会常任委員など。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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