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5〜11歳のコロナワクチン 日本ではどう考えたらいいの?

成人の新型コロナ接種率が高まる中、今、気になるのはアメリカで推奨された5〜11歳への接種です。日本でもこの年齢まで拡大するよう承認申請が出ましたが、日本ではどう考えたらいいのでしょうか?

新型コロナウイルスワクチンの接種率は既に75%を超え、一気に接種が進んだ日本。

ブースター接種も18歳以上の接種を完了した全員に行えるようになることが決まり、次は5〜11歳の子どもの接種をどうするかという議論が始まっている。

感染力が弱く、重症化の割合も低い子どもに、一定の確率で副反応があるワクチンをうつ必要があるのか。メリットとデメリットのバランスをどう考えるべきか?

小児科医でもありワクチンにも詳しい新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに聞いた。

※インタビューは11月15日に行い、その時点の情報に基づいている。

一斉にではなく、まずは重症化リスクの高い子どもから

ーーCDC(米国疾病予防管理センター)が5〜11歳までの新型コロナワクチンの緊急使用を推奨し、日本でもファイザー が5〜11歳の接種拡大を承認申請しました。子どもはあまり重症化しないし、感染力も低いとされていますが、副反応との兼ね合いを考えるとどう考えたらいいですか?

アメリカという環境で子どもを見る目と、日本という環境で子どもを見る目は違うと思います。

アメリカは子どもも含めて流行が拡大しました。また子どもの感染者も多くなり、重症者・死亡者も多くなりました。米国でこれまでの子どもの感染者数は630万人、入院は2万4000人以上、うち3分の1は集中治療室での治療が必要でした。

感染後、特に小児に起こる多系統炎症性症候群(MIS-C、色々な臓器が炎症をおこしてしまう症候群)を起こした子供(主に10歳以上)は5000人以上でした。死亡者は10月時点で約600名となっています。

一方、日本ではこれまでは大人の間での流行で、子どもの間で広がっているという状況ではありません。重症化している子どもも極めて稀です。亡くなった子どもは10代前半以前ではゼロです。MIS-Cはこれまでのところ20例前後の報告です。

ワクチンは1000人、1万人単位での接種数では、10万、100万に1例の稀な副反応発生のリスクは推測できません。したがって、子どもたち数百万人を対象に一斉に接種を始めると、稀とは言え思いがけない事故や健康被害が発生する可能性は否定できません。

すると、かかっても軽く済むと思われている子どもたちに対して広範囲に一気に接種が進んで稀な副反応かもしれない症状が発生した時に、世の中でワクチンのマイナス面が強調されてしまうかもしれない。

そのバランスから言えば、今は一斉にやるタイミングではないのではないかと思います。

ただし、子どもたちにとっても必要なワクチンだと思います。

大人たちがワクチンを接種してうまくいっている今ですが、当然、接種率は100%ではなく、どこかにウイルスは火種として残っています。それが飛び火して増えれば、免疫のない集団で広がることになります。

そうなれば、ウイルスにとっては免疫のない子どもをターゲットにするでしょう。ウイルスの狙い撃ちに遭うことになります。

でも、その時に子どもたちの重症度は大人に比べて低く、大多数は軽く、あるいは無症状で回復します。

となれば、現時点で大人と同じように接種を急いで行う必要性は低く、きちんとした効果と安全性の確認、接種方法の周知など、大人と同じようにいかないところを丁寧に進めるようにした方が良いのではないかと思います。

とはいえ、必要性が迫ってきた時に慌ててワクチンの承認や手続きを進めるのでは間に合わないので、今から子どもたちにも使えるように準備を進めておくことは重要だと思います。

また、持病を持っている場合などは、病気によっては感染した時のリスクは高くなります。そのような子どもに対しては、速やかに接種ができるようにしておくことは必要です。

また、重症化リスクのある家族がいる子どもも対象になってくるかもしれません。

つまり、この年齢の子どもに接種できる環境は作っておいた方がいいし、やってダメとは思いません。

また子どもたちへのワクチンは、病気の重症度だけではなく、感染によって学校を休む、学級閉鎖や学校閉鎖になる、いろいろな行事ができないという子どもたちの発育・発達への影響の大きさなども考慮していかないといけないと思います。

それでも大人たちに接種したように、「いつまでに80%の接種率を目標にいま一気に進める」ということはやらない方がいいと思います。

集団接種ではなく個別接種で

ーー副反応の兼ね合いはどうですか?

まだデータとしては1000人規模の外国での治験が論文として公表されたところであり、その中での効果と安全性は確認されていますが、接種の対象が100万人単位になった場合どうかというのは現時点ではわかりません。

ワクチンの導入にあたっては100万人に一人の稀な副反応が出てくる可能性はあるかもしれないと考えておく必要はあり、すでに導入した国におけるこれからのデータなども参考に国内での検討を加えていく必要があると思いますます。

ーーまたHPVワクチンと共通する話ですが、血管迷走神経反射のようなものが起きる可能性は子どもだと高くなりますか?

ワクチンに対する不安や恐怖が一定の症状を引き起こすことがあるとWHOが提唱する「Immunization stress related responses(ISRR、予防接種によるストレスに関する反応)」に関係してきます。

成人の場合はかなりの人が「自分でもこの病気を防ぎたい」という思いがあって受けています。そういう時は少しくらいの痛みやだるさがあっても「まあそんなものか」と思ったりして、それをきっかけに強い反応に発展することは少ないのです。

でも多感な10代くらいの子ども、あるいは若者が、ワクチンの必要性がよくわからないまま「親や学校ががやれと言ったから受ける」「みんなが受けるからいやだけど自分も受けよう」と接種したとなると、少しの痛みや不調でも、それをきっかけに強い反応に発展することは稀ではないと考えられます。

年齢的にも不安定な時期なので、一斉に集団で接種することは避けた方がいいと思います。接種する側も予防接種に慣れたスタッフでやるようにした方が良いと思います

ーー集団ではなくて、かかりつけ医などに丁寧に説明してもらって、納得して受けた方がいいということですね。

はい、そう思います。また子どもの接種は大人と量などが違います。ワクチンを入れてあるバイアル(瓶)や希釈量も異なる可能性があります。

11歳と12歳でも使うものが違ってきますから、ちょっとした誤りの事故であったり、誕生日がきていないのに大人用を接種してしまったということも出てくるかもしれません。大人の一斉接種とは異なったやり方をする必要があります

健康な子どもは? 熱性けいれんの発症率が高い日本

ーー重症化リスクの高い子どもから始めるとして、その後はリスクのない子どもにも広げた方がいいですか?

そんな時もやって来るかもしれません。

かつて、インフルエンザワクチンを学校で集団接種して多数の子どもたちに免疫を付けることによって、リスクの高い高齢者が守られたという「小児ワクチンの防波堤説」がありました。

でも、現段階のコロナワクチンは「おじいさんおばあさんを守るために孫にワクチンをやりましょう」とは言えないと思います。

ーー時期として、成人のブースター接種と、子どもの接種は重なってくるかもしれませんね。それは運用上、危なくはないですか?

優先度から言えば大人の追加接種の方が高いと思います。

ーー成人のブースター後に徐々に進めていった方がいいと。

そうですね。3回目接種の後、5〜11歳の接種が議論され、そして次に4歳以下はどうするかという議論もアメリカで出てきています。

その場合、この年代の熱性けいれんの発症率は日本人の方が高いので、熱の出やすいワクチンを接種することについて、アメリカのデータを持ってきて日本で大丈夫だとは言えないと思います。このあたりは人種差を考慮する必要があります。

ーー熱性けいれんで後遺症が残る可能性はありますか?

残りません。良性のけいれんで、基本的には5分前後で止まるので、様子を見ているだけで大丈夫です。それでも、倒れたり物にぶつかったりしてけがをしないように、安全な場所に横に寝かせて静かにすることが大切です。

揺さぶったりしてはいけません。 吐くこともあるので、顔や体を横向きにして、息がつまらないようにします。舌をかむといけないからと、口にものを噛ませることが今でも時々あるようですが、それによるけが、窒息の危険性があるのでやってはいけません。

とはいえ、両親にとっては初めての子どもで熱が出て目の前でけいれん(ひきつけ)を起こされたらら怖いですよね。慌ててしまいます。初めて熱性けいれんを診た研修医なども青くなるほどです。

もしワクチン接種後に高熱が出て、アメリカでは見られにくい熱性けいれんが日本で多数出たとしたら、メデイアなどで大々的に報じられてしまいそうですね。ワクチンとしては問題視されてしまいますよね。

ーーそうすると不安が一気に高まる可能性がありますね。

そういうことも検証しながら進めないといけません。無用の不安に結びつき、大切なワクチンが使えなくならないように。

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。

UPDATE

副反応に関する記述を一部修正しました。