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2度目の緊急事態宣言 効果を感じにくいタイミングで小さなハンマーを打ちおろす意味

間近に迫った緊急事態宣言。限定的に、集中的に行うのはなぜなのでしょうか? ギリギリまで慎重な姿勢を見せていた岡部信彦さんに、このタイミングでの宣言をどう受け止めるのか伺いました。

首都圏で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、緊急事態宣言がいよいよ発令されそうになっている。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

緊急事態宣言の発令には慎重な姿勢を見せていた岡部信彦さん

緊急事態宣言にギリギリまで慎重な姿勢を見せていた専門家はどう考えるのか。

新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、内閣官房参与も務める川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんにお話を伺った。

※インタビューは1月4日夕方にZoomで行われ、その時点の情報に基づいている。

今度のハンマーは4月よりも小さめに

ーー今日(4日)、午前中に菅首相が年頭記者会見で緊急事態宣言を検討することを明らかにしました。岡部先生はずっと「劇薬を使うのは最終手段だ」と慎重な姿勢を見せていましたが、この手段を使うことをどうお考えですか。

今も劇薬だと思っています。ただ、4月の時も「どうせ劇薬を使うなら、効果のある使い方をしなくてはいけない」「劇薬は副作用を伴うのだから、できるだけ副作用は少なくしなくては」と話していました。その気持ちは今回も変わりません。

タイミングは大事ですし、使ってもあまり意味のない時期もあります。そういう点では今は賛否両論の時期です。緊急事態宣言を持ち出しても良いところと悪いところがあり、持ちださなくても良いところと悪いところがある。踏ん切りをつけるところであり、分科会メンバーの中でも両方の意見が出ています。

早め強めに出す方がより効果が高く、解除も早くできます。ただ、早めにやるとインパクトが強い分、ダメージも大きくなります。

遅め緩めだと、より長く続く可能性があり、その瞬間のダメージは少ないですが、じわじわとダメージが長引く可能性があります。

つまり、どちらかがベストの方法とは言えません。しかしどちらかに決めなくてはいけない時期になっていると言えるでしょう

強い規制とゆるい対策を交互に行って流行をコントロールしていく「ハンマー&ダンス」という言葉が広がっています。

4月の緊急事態宣言のハンマーは感染者数的には低い位置から振り下ろしましたが、未知の部分もあったので、かなりデカいハンマーを持ち出したと思います。ロックダウンした欧米に比べればそれほど大きくないですが、日本にとっては大きなハンマーでそれなりの効果も見えました。

今の方があの時より感染の広がりのもととなるところ、クラスターを起こしやすいところはある程度絞られてきているので、ハンマーの大きさは小さく、焦点を絞ってもいいのではないかと思います。

ーー「限定的、集中的に」と菅首相は言っていましたね。

今回は一般の方のイメージする「緊急事態宣言」ではないと思います。学校も休みになるのか、イベントはどうなるのかとみなさん心配していると思います。妻も「買い物に行っておかなければいけないかしら」と言っていますが、そんな必要はないです。

分科会の共通の考えは、衣食住に困るような制限はかからないということです。郵便局も銀行も開いているし、電車も動いている。スーパーだって開いている。学校は一斉に閉じる必要性はない。

ただ、集団感染が起きそうなところは今より強い制限をかけるということです。

効果を感じにくいタイミング

ーーどこに制限をかけることになりますか?

集団として感染が起きる、つまりクラスターが生じやすいやすいところですが、病院や高齢者施設を閉めるわけにはいきません。ここは広がりを抑えるべく別の対策が必要になります。

家庭内の感染も多いですが、こちらも閉めるわけにはいかない。また家庭内感染はそこでとどまり、それ以上広がる原因とはあまりなっていない。つまりこれらは原因ではなく結果なのです。

そうなると、広がりやすいところ、連鎖を起こしやすい所として、みんながつるんで長時間一緒にいるようなところに制限をかけることになります。飲食店が代表的ですね。しかし多くの飲食店は迷惑この上ない。なので、十分とは言えないまでも、一定程度の支援は必須です

一方、制限を限定的にするので、即効性は前の宣言より低くなることが考えられます。

ーー効果を実感しにくいということですね。

4月の宣言の時には医療機関での病床の増加や人の確保が進みました。でも今は病棟や人の確保がある程度できていたにもかかわらず、満床になりかけています。そうなると、感染者の母数を抑えないといけない。

関西方面は減っており、北海道も明らかに減りました。全国的にやるわけではなく、感染拡大が続いている1都3県が対象になりますが、さすがにここでも年末年始の人の動きは減っています。

今、東京で1000人前後報告されているのは、クリスマス前後の感染です。年末年始の結果が出てくるのは1月10日過ぎのことになるので、緊急事態宣言をかけたとたんにもう感染者報告数はやや落ちている可能性があります。

ーー前回も宣言を出す少し前から落ち始めていましたね。

タイミングはそういうものなのですが、宣言を出せば、そこから先の数字を抑えられる可能性がある。お正月から先に心配なのは、仕事始めとなり元の生活に戻った時に再び増える恐れがあることです。そこで対策を強化する必要があると言えると思います。

しかし、そこで緊急事態宣言という方法を取るべきかどうかの判断は難しい。取らなくてもある程度のことはできると思います。多分野にわたる課題をどうするかはかなり政治的な判断となるでしょう。

ーーやるならもう少し早めに出すべきだったということですか? 今出してもあまり効果を実感できずに、「やる前から下がっていたじゃないか」と前の時のように批判される可能性がありますね。

そうです。伝家の宝刀を抜くタイミングではないかもしれないという考えもあります。ただ、今回は一般の人の方が出すことを求めている印象があります。アンケートなどではいずれも多くの人が緊急事態宣言を求めている。そういう意味で今は、緊急事態を出すタイミングなのかもしれません。

あれだけの人が求めているのであれば、緊急事態宣言をやらない判断をするためには、それで感染が減らせるという自信が相当ないといけません。やっても悪く言われるし、やらなくても悪く言われる時、みんながやれやれと言うならば、やるという決断はありだと思います。

ただ、それがベストの選択かと問われれば、いくつかの選択の中から一つを選んだに過ぎません。いい悪いではない。

そして、それによって困る人がいるのであれば、従来よりも手当てを強くすることが条件に入ると思います。

ーー飲食店など制限を受けるところへの補償ですか?

交付金あるいは救済、協力金などの名目になるのでしょう。元通りとまでいかなくても、破壊的にはならないようにしなければいけません。

「限定的に、集中的に」はどこ? 市民から求める制限

ーー限定的に、集中的にというのは具体的にどこに制限をかけることが考えられるでしょうか?

まずは飲食店の時間短縮です。午後8時までに引き上げると言われていますね。それから職場のリモートワークをもう少し積極的に導入してほしい。ただこれもデスクワークが中心であり、営業や現場仕事はリモートワークはできません。

現場作業で感染が広がっているかというとそうではないのです。工事現場のクラスターはあまり聞いたことがない。休憩時間や終業後などは注意すべき点ですが。

ーーイベントの制限はありそうですか?

イベントの制限も一定程度はかかるのではないでしょうか。そこはまだわかりません。本当は一つ一つ丁寧に対策すれば、イベントもできるものがあるはずだと思います。

あれだけの人が「緊急事態宣言を出すべきだ」と言うならば、今、それぞれが慎重であって、もっと外で動く人が減っていてもいいはずです。動きながら、「緊急事態宣言をかけてくれ」と言っているのは、僕にはよくわからない。残念に思う部分でもあります。

ーーその言動は矛盾しているんじゃないか?と問いたいわけですね。

ものすごく矛盾しています。みんなが今までもう少し動きを静かにしてくれていたら、緊急事態宣言を出さなくてもいいはずです。

人の心理というのは、「国は何も制限をかけていないのだから、このへんまでならいいだろう」「なにか言われたら止めよう」と、非常にパターナリズム(父権主義)に支配されているのですね。

ーー感染リスクの高い「急所」はこれまでも繰り返し伝えてきました。でも自主的にそれを避け続けられる人は少ないということですね。

それはちょっと寂しいところですね。それができないとなると、一括りの規制の網がかけざるを得ないという考えが持ち上がってきます。

給付と罰則をセットで 特措法の改正は?

ーー同時に、菅首相は飲食店での時短営業に実効性を持たせるために、給付と罰則とセットにした措置が取れるように特別措置法の改正を検討すると表明しています。分科会に諮るそうですが、どうお考えですか?

元々、特措法には自粛の要請ができると書かれています。我々、あるいは私は当初、そこまで思いが及ばなかったのですが、自粛をお願いしたら色々な不便がかかるわけだから、それに対する補償・救済は当然あると思い込んでいたのです。

でも法律的には、ペナルティを課さないと補償がないということなんですね。病院を急に建てるための土地の収用などには文句を言えないけれど、お金はちゃんと出すということは決まっています。

でも飲食店などの自粛は、「あくまでも自粛なので、それの見返りはありませんよ。だって自粛ですから」という位置付けでした。これは冷たいなと思いましたが、法律とはそういうものだったのですね。

しかし、ワクチンで異常な反応が出たとすると、ワクチンによる症状か決定的な証明がなされる前に公的に救済されます。世界でも「無過失補償」という考え方が普及しつつあります。予防接種ではそういう考え方が通っているわけです。

新型コロナ感染対策としての自粛に対する補償も、国側に過失があるわけではないですが、それによって被害を受けた人を救済することは、予防接種の救済制度を考えればできるのではないかと問いかけてきました。

罰則を設けるかどうかはまた議論があるところで、罰則がないと人は動かないというのも事実です。

また、罰則と一口に言いますが、刑事罰も罰則ですし、行政罰も罰則です。税金を払わなかったら、加算税がつきますが前科がつくわけではない。でも罰金だとペナルティになります。私は過料であればよいと思うのですが、その整理があった上での最終手段ということならば、罰則も仕方ないのではないかと思います。

ーーでも、先生は無過失補償のように、罰則はなく、規制で被害を受ける事業者に補償をするという形がいいと思われているのですね。

「営業を自粛してほしい」という国の方針に協力した事業者が潰れてご飯を食べられなくなるなんて、こんなばかな、気の毒な話はないです。罰則はあり方によると思います。

ーー警察が取り締まるとなると、かなり私権の抑圧になります。

警察が取り締まるなら刑事罰の問題になります。「警察が店に行って取り締まるなんておかしいのではないか」と思います。また警察もそこにそれだけのエネルギーを注げるかどうか......。

ーーまだ議論は詰められていないのですね。

議題として各論に関してはまだ提示されていませんが、巷も、政府側も「改正します」とは言っていますね。

オリンピックを意識しての宣言か?

ーー今回の緊急事態宣言について、「東京五輪開催を意識しての対策ではないか」という人もいます。五輪に関する政府のアドバイザーも務めている先生としてはそれを感じますか?

日本もしっかり対策を打っているということを示すには、いいサインかもしれません。

ただ、オリンピックをやる、ということに対して多くの方が持っているイメージは、入場式、閉会式を盛大にやって、世界各国から大勢、観客も含めた人が詰め掛けて、国内はお祭り騒ぎ、というものだと思います。

しかし、僕の考えるオリンピックは「競技をやる」ということ。その原点に戻ればやる価値はあると思いますし、それに対してアドバイスを求められたらやります。あることに一生をかけている人々へのサポート、ではないでしょうか。

オリンピックのために感染対策を考えているわけではありません。オリンピック開催とは関係なく、感染症の対策として、緊急事態宣言は検討されるべきだと思います。


(続く)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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