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エンデミックに至る過程で予想される大量の高齢者の死 今が未来を変えるラストチャンス

なし崩し的に対策緩和に舵が切られる中、新型コロナが普通の感染症になるまでに予測されるのは大量の高齢者の死です。医療逼迫も考えられる中、西浦博さんは今が未来を変えるラストチャンスだと、国民的な議論を呼びかけます。

新型コロナウイルスの感染者数が過去最多を記録し、亡くなる人の数もかつてない規模に膨らみつつある中、日本はなし崩し的に対策緩和に突き進んでいる。

このままで行くと、近い未来に何が起き得るのだろうか?

死亡者はどうなるのだろうか?

このウイルスが常にある感染症として根付く「エンデミック」期の見通しを出した京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんに聞いた。

※インタビューは8月19日に行い、その時点の情報に基づいている。

エンデミックに至るまでの5〜6年の「ミッドターム期」で高齢者が数多く感染

——新型コロナの感染者数が季節性インフルエンザの数倍から10倍になる「エンデミック期」には、どういう人が感染し、どういう人が亡くなるのでしょう?

年齢群別にどうなるのか見てみましょう。

人口全体では少なくとも数%ぐらいの感染者が出ることは覚悟しなければならないと、前編の説明で分かったと思います。

一方、年齢別にSIRSモデルで分析した研究が、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンの若手研究者から報告されています。デルタ株での分析ではありますが、彼女らは日本がこの先どうなるかも昨年夏に先んじて分析しています。

その時に重要なのは、今は流行が著しいエピデミック期ですが、その後、ミッドターム(中間期)という移行期間を経た上で、ウイルスが定着したエンデミック期に至るということです。

このミッドタームは、少なくとも今後数年から5〜6年はかかるだろうと考えられます。そして、この間に日本でたくさん死者が出るのではないかと分析されています。

エンデミック期はウイルスが常在している状態なので、成人がみんな新型コロナウイルスに感染して、何回も反復感染するループに入ります。

その前のミッドターム期では、エンデミック化を受け入れるため、高齢者が多い国ではかなり多くの高齢者が自然感染せざるを得ません。

それをくぐり抜けないと、エンデミックには到達しません。超高齢社会の日本にとって、最も大事な期間がこの後に始まろうとしていることを認識しなければいけません。

現在の免疫持続期間では全ての年齢層が感染

この研究では免疫持続期間が変化したら年齢群別群の感染リスクがどうなるか、4つのパターンに分けて見ています。

左は「終生免疫」という1回感染したら二度と感染しない状態です。左から2番目が平均10年免疫が持続する状態です。その次が1年、右端は3ヶ月続くとして計算しています。現実に起こっていることは、右2つの条件が近そうです。

上の4つのグラフは初感染の人の年齢分布を見ています。下側は初感染と再感染全てを合わせたものです。

エピデミック期は全ての年齢で等しく感染し、高齢者も成人も感染していました。

ミッドタームが水色で、エンデミックが赤色です。

免疫持続期間が長ければ、この感染症は次第に子供だけの感染症になります。大人になるまでにみんな感染して免疫を持ちますが、免疫のない子供や若年成人はゆっくり感染していきます。感染規模も終生免疫があれば低く推移します。

しかし残念ながら現実は免疫持続期間が短い右2つの条件に近く、エンデミックに入っても、全ての年齢層で感染し始めます。常に全ての年齢群で感染のリスクがあります。再感染するリスクも、エンデミック期になると規模は小さくなりますが、高齢者も含めて全ての年齢層で見られます。

日本でも全世代で感染が続く見込み

そしてこの研究の著者らは、日本の状況にも注目しています。日本は超高齢化社会だからです。

この4つのパネルは、先ほどの免疫持続期間が「終生免疫」「10年」「1年」「3ヶ月」である条件別に見たものです。

年齢別の感染者数が高いところは赤くなって、低いところは灰色になっています。終生免疫が持続するなら、まだ免疫を持たない子供だけが感染する感染症になって、若年成人が少し増え、高齢者はほとんど見られません。

しかし免疫がある期間が短いと、高齢者も感染していることがわかります。こういう状況を許しながら推移することを考えなければいけません。免疫持続期間が短い状態が持続すると、何歳でも等しく感染する状態が続きます。

この状況は抜本的な打開策が出てくるまで続くと思われます。人間の力を信じれば、全てのコロナウイルスに有効なワクチンや、免疫が失われるのを抑える技術が未来に出てくると期待されますが、その開発がいつになるかは誰にもわかりません。

超高齢社会の日本 死亡者予測は最も多い

こちらのグラフはAが終生免疫で、Bが10年、Cが1年、Dが3ヶ月です。人口の中で年間の死亡者の割合を出しています。

黒が日本と同様に高齢化が進むイタリアです。黄色は比較的若い年齢層が多い南アフリカです。水色がイギリスです。

シミュレーションしてみると、終生免疫があれば、コロナはしばらく問題になりません。ショッキングなのは現実の状況と近いCやDの国別比較の結果です。

比較的早い時期にミッドタームを経過して、エンデミックに進みますが、死亡者の割合は高いレベルでずっと推移します。

しかも高齢化が進むイタリアは、若い国の南アフリカと比べると、目立って死亡者数が多いです。高齢の国で免疫持続期間が短いのは、最悪の高止まり状態が生まれ得るということです。

——日本はイタリアよりも死亡者の割合が多くなる可能性が高いですか?

はい。実を言うとイタリアより多くなります。

これはこの研究の著者が、さまざまな高齢国をシミュレーションしてくれたグラフです。灰色のラインが免疫持続期間が3ヶ月の場合です。

赤で囲ってあるのが日本ですが、ここで分析している国々の中で最も多い死亡者数になっています。

日本は超高齢国として知られていますが、極めて厳しい状態です。しかもこの状況がずっと持続する。

エンデミック化した時の介護の現場がどうなるだろうと想像してみて下さい。コンスタントにクラスターが発生するでしょうし、その機会に利用者の人たちにお迎えが来てしまうでしょう。そういうことを繰り返さざるを得ない社会が来ます。

ハイリスクの場とは言え、面会の制限など極端に厳しい感染予防もどこかで諦められると思います。社会としてコロナを皆さんで受け入れることになるので、感染頻度もこれまでよりも高くなります。

命を守りながら進むこともできる

——しかし日本では高齢者は予防接種率が非常に高いです。それでもこの死亡者の多さは免れませんか?

実際のところ、エンデミック化した中だと、予防接種をして、免疫を忘れて、予防接種をして、免疫を忘れて、ということを自然感染の代わりに繰り返すことになるものと思います。

そのようなブースター接種を何回も繰り返しながら、感受性を持っている後期高齢者を守ることがしばらくは必要なのだと思います。

その中で、リアルタイムで対策を練るための観察データがあれば、即座にリスクを分析して対応できます。

いま進んでいる4回目接種やオミクロン株の流行が始まった頃の3回目接種を急いだのと同じように、計画的に一気にブースター接種をして、免疫がしっかりある状態を高齢者の中に必死に作りあげる。そのようにして高齢者を流行が起きる時期の直前に守りながら進むことができると思います。

それができるのにやらないのかな、というのが私が一番強く持っている問題意識です。高齢者の感染リスクをもう少し低く推移させつつ、流行が不可避の場合はいち早く予防接種でブースター効果を期待する、ということです。

まとめると、免疫持続期間が感染者数割合を左右しそうで、その時には少なくとも数%の感染者が予想され、季節性インフルエンザと比べると数倍から10倍になりそうです。

そして無防備に自然感染させるがままにしていると、エンデミックに至るまでのミッドタームでかなりの数の高齢者が死ぬことになります。他の国と比べると、高齢者が多い日本は分が悪いです。

専門家がこれまでやってきたことを思い出してほしいのです。日本は最少の死亡者数で済むように対策を打ち出してきました。しかし今のままで全面緩和してしまうと、世界で賞賛されている死者数の少なさを捨て、ワーストに一気に名乗り出ることになります。

それを打開するためには、長期間免疫を持続するワクチン、またはどんなウイルスにも効果があるようなワクチンが出て、みんながウイルスから守られる状態ができることですが、それはなかなかできないでしょう。

それならば、高齢者の比率が多い国なのですから、感染レベルができるだけ低い状態を保って、監視を続けた方がいい。ミッドタームを無防備に過ごすのではなく、ゆっくりゆっくりエンデミック化させることは今の日本ならできます。欧米ではできそうにないですが、日本はそれが実施可能なチャンスを与えられていると思います。

社会の中でだんだん呼びかけが機能しなくなっていますが、向こう3ヶ月間は感染者が増えそうだとデータから予測されたなら、重症化リスクの高い人のブースター接種を一気に進めて、後期高齢者を守る。そのやり方なら、日本社会で合意を得られそうだと思うのです。

完全ではないでしょうが社会経済活動も続けながら、感染レベルが低いまま推移して、無駄な死亡を防ぐ。そんな社会を作ることが日本ならできるはずです。

今がラストチャンスなので、皆さん、このままでいいのかまず見つめてほしい。科学に基づいて問題提起をするために、こういう資料を作っています。

個人への呼びかけでは足りない

——専門家有志の提言でも、一応、一般の人に感染対策を続けてと呼びかけていますね。それとは違いますか?

あの提言とはちょっと考え方が違います。尾身茂先生は提言を発表する時、ボールは国民が持っている、という話をしましたね。感染対策も一人一人が気をつけることで対応する、という考え方です。

それは言い換えれば、誰も何も責任を取らないということに受け取られかねません。全面緩和に近い形で、なし崩し的に社会経済活動が活発になっていき、死亡者の増加を許してしまいます。

そうではなくて、これまでは一つひとつの企業が事業継続計画を回し、流行のレベルやアラートに応じて、企業も対策レベルを変えていたと思います。例えば、私や友人の大学でもレベルが高くなったら不要不急の国内外の出張を止めるルールになっています。

企業活動の中で、どうしても欠かせない活動をもう一度みんなで整理をして、集団レベルでこれぐらいだったら感染者を抑えるために協力しても良い、という妥協点を洗い出す。それによって、最低限のコントロールはできるのではないかと思うのです。

これまでも「要請ベース」と言われてきた日本の対策ですが、規範となる何らかの指針が出たり措置が講じられたりすると、それに対応して社会全体が切り替わることがありました。

まん延防止等重点措置が出ると、部活動や特定のイベントが自動的に中止になったりしてましたね。皆さんが日常を失いすぎない範囲で、「この範囲なら妥協できる」ということを整理して進んでいけば、エンデミックにゆっくりと推移していけると思います。

——そのようにして進むための、最後のタイミングなわけですね。

感染レベルが高くなっているなかで、皆さんのムードとしてはこのまま進んでいくのかなと思っていますよね。これを超えると、集団に免疫ができて、その後流行はしばらく起こらないと誤解しているかもしれません。それは大きな間違いです。

この感染症は何度も流行のループを繰り返し形成して、獲得された免疫から逃げ、次の流行を起こすことが今までの経験でわかっています。今回と同じようなレベルの流行がまた起こります。むしろ社会はどんどん解放されているので、今後の流行の方がこれまでより大きくなる状況がしばらく続くと思います。


そういう方針でいいのでしょうか? 中長期のリスクをしっかり見つめた上で、一度皆さんで議論した方がいいと思います。まずはそんな問題提起をしたいです。


政策的に正しそうな「全数調査から定点調査へ」とか「濃厚接触者の追跡を止める」という話が出ていますが、率直に言って早すぎます。全然、リスク状況に対応していないし、センスが感じられない。まだまだ数年はデータと向き合いながら高いリスクと対峙しないといけません。


正直なところ、データがなくなったらお手上げです。リアルタイムで「いまリスクが高い」ということを皆さんに客観的にお伝えすることができなくなろうとしています。

政府や政治家は倫理上の責務を果たせ

——政府が社会経済を回すことは言っても、感染対策や予防については国民に呼びかけなくなりました。逆に何も対策をせずに社会を開くリスクについてはダンマリを貫いています。無責任だと感じますか?

もちろんです。特に倫理上の問題が気にかかります。

もちろん、為政者には社会の意見を統合する役割があると思います。流行を制御してもらいたいという声があるのと同時に、社会経済活動を活発にしてもらいたいという人もいる。その中でバランスをとっているのだと決断は尊重します。

ただ、そうするのであれば、その判断に関する説明が必要です。特に命を失う人たちは僕らの親や祖父母世代ですが、その人たちに対する尊敬の念はないのかと問いたいです。その人たちの命と引き換えに若い人たちの日常を取り戻すということになりますから。

そのリスクを受け入れる覚悟をしたのか否か。「日本をこういう国にしようと思うから、政府としてはこう判断した」と、政治家が必ず説明しなければいけません。

この問題は専門家の間でも長く議論していて、尾身先生にも「これだけの死亡者数を先生が背負うことはできないですよ。選挙で選ばれた人でないと価値判断をしてはいけないと思います」と提言作成前の議論でも伝えました。

今の政治家には、尾身先生ほどの覚悟は見えません。少なくとも倫理上の責務は果たしてもらいたいと思います。

医療が逼迫し、コロナ以外の死因が異常に増えている可能性

——今回の提言でショックだったのは、これまで医学の専門家は死者をできるだけ少なくするとか、医療が逼迫しないようにすることを最優先に意見を述べてきたのに、今回は政府の「社会経済を回す」方針を丸呑みし、それに合わせた形で意見を言ったことです。先生はどう思いましたか?

それぞれの先生方がそれぞれに背負った役割があることが影響していると思います。

今回の提言にはデータ分析をする立場のメンバーは誰も名前を連ねていません。一番の任務がリスク評価である以上、感染が増えることを許すような提言はするわけにはいかない。

一方で自治体で勤務している阿南英明先生は元々救急医でもあります。救急が苦しんでいたり、保健所が苦しんでいたりする声を聞いて、その業務負担を改善するために火中の栗を拾う役割を果たしてくれているのだと思います。

尾身先生、岡部先生は長年の経験者として、政策とのバランスを保つ役割も持っているので、一定の判断をされたのだと理解しています。

ただ、今回の私の分析を出して良かったなと思ったのは、医療提供体制を心配する日本医療法人副会長の太田圭洋先生や、日本医師会の釜萢敏先生や、駒込病院の今村顕史先生が、これは重要だと反応して下さったことです。

ずっと医療提供体制が逼迫する状況が続くのだとすると、慎重に考えなければいけないと受け止めてくれました。

——現在もそうですが、医療が逼迫するとコロナだけでなく、一般の病気や怪我の患者さんも受けられなくなって亡くなっていくわけですよね。

今、水面下でその研究をしています。オミクロンの流行が始まってから、コロナが死因ではない死亡が異常に増えています。特にこの2〜3月の死亡は循環器疾患、老衰、脳血管疾患などの死因がこれまでよりかなり増えています。

医療が逼迫することで通常診療ができなくなることが、今後、一番の問題になると思います。関連死が異常に増えているという死因統計の変化が見られます。もちろんコロナ対策の副作用として、自殺が増えているという統計も大事です。

——それは治療をしたら助かったかもしれない死亡ですか?それともコロナに感染して止めようもなく悪化した死亡ですか?

コロナに感染して悪化した証拠はなく、医療にかかれなかったから亡くなったという話の裏付けを取っているところです。医療へのアクセスが閉ざされることによって起きている死だと思います。その影響規模が想像以上に大きそうなのです。

人口構造が変わるようなインパクト、本当に受け入れるのか?

——今回の分析、高齢者がミッドタームやエンデミックに移行する過程で亡くなっていくという内容でしたが、「高齢者が死ぬのは仕方ない」という声が強まっています。

そういう声をデータ分析をしている立場でもヒシヒシと感じています。他のヨーロッパの国では、死亡構造がガラリと変わるような流行が起こっています。今までの死因や人口の年齢分布も大きく変えるのがパンデミックの特徴です。

特に流行規模が大きかったイタリアやイギリスの疫学者と議論をしていると、「すごい数ですね」と僕がいうと、「パンデミックってこういうものでしょ?」と言われます。

今まで低い感染レベルで来ていた日本に残された出口は、重症化リスクの高い人にブースター接種を進めながらエンデミックに移行する方法ぐらいしか残されていない。

高齢者が死亡するリスクを低く抑えながら推移させる強い覚悟を持ちながら、きめ細かく、ファイティングスピリットを持って、死者を増やさないように対策を打てるかどうか。大きな分水嶺に差し掛かっています。

中間的な解はあまりないのです。ぎりぎりなんとかスレスレに死亡者を少なくするぞとまだまだ頑張るのか、あるいは、全面緩和によって多くの死亡が出るのを許容してしまうのか、です。

まずは重要な分水嶺にあることをみんなが認識した上でこの問題を考えなければいけません。

そして「死んでも仕方ない」と言う時、人口学的な構造が変わるぐらい大きなインパクトを受け入れるということをわかっているのか、それで本当に良いのか。

それを逃れるチャンスがまだ日本にはあります。医学、経済学、政策学の研究者だけでなく、広い範囲の皆さんがそれぞれの意見を出し合ってもらいたいと思います。

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。