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少し喜んで、でもまた引き締めて 西浦博さんが悩みながら分析したコロナの現状

感染者数が徐々に減っているように見えますが、このデータをそのまま信じることはできません。様々なデータを駆使して分析した現状の判断はどうなのでしょう。「8割おじさん」こと、理論疫学者の西浦博さんが珍しく明るい表情です。

新型コロナウイルスの感染拡大は依然として続いているものの、徐々に減っているように見える東京都の新規感染者数。

全国での実効再生産数(1人当たりが感染させる二次感染者数の平均値)も1を下回り、やっと頭打ちしたようにも見える。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

この数週間、現状のデータをどう解釈したらいいのか悩みながら見てきたという西浦博さん

とはいえ、重症者数は過去最高水準を保ったままで、自宅療養で医療にかかれずに苦しむ人も多い。

この感染状況を私たちはどう捉えたらいいのか。

BuzzFeed Japan Medicalは、専門家の中でも厳しい分析で知られる京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんに再びインタビューをした。

※インタビューは8月31日夕方にZoomで行い、その時の情報に基づいている。

東京都の感染者数、減っている? 

ーー東京都では新規感染者数は減少傾向にありますが、重症者は増え、相変わらず医療は逼迫しています。現状のデータをどう分析していますか?

僕もこの数週間、これはどういうことが起こっているのだろうなと悩んできました。

東北大の押谷仁先生のデータだと、今、全国的に感染者が減ってきているのかもしれないと見えます。

厚労省アドバイザリーボード

下側が報告日別の全国の感染者データで、上側が発病日別です。

報告日別のグラフを見ると、先週1週間の感染者数はその前の週よりも落ちています。発病日別を見ると、8月の半ばぐらいに最高値を記録し、その後、それを超えるような数字はどうもなさそうです。

こちらは東京のデータですが、東京でも似たようなパターンがあります。

厚労省アドバイザリーボード

東京では最高値がさらに1週間前です。みなさんがニュースで見ている通り減っています。

しかし、僕たちは頭を抱えながら見てきました。これから詳しく説明しますが、判断が難しい状況が続いているのです。

ーー今回の流行で、新規感染者数のデータをそのまま信用してはいけないというのは、あまりにも感染者数が多過ぎて、検査も足りなくなっているし、額面通り受け止めたらいいか分からないということでしょうか

数が増え過ぎたことによって、検査が追いつかないのが一つ。

医療が逼迫していて、発熱外来など受け入れ窓口が軽症者も含めて大変な状態であることは国民にもしっかり見えるので、ちゃんと受診行動に繋がっているのかわからないのが一つ、です。

診断されても入院してしっかり診てもらえなさそうだし、入院しないと専門的な治療が受けにくい、となれば、軽症患者にとっては受診する意義が薄れてしまいます。

数が増え過ぎて診断と医療のサービスの両方がこのレベルまで厳しくなるのは初めてのことです。そうなるとデータの解釈にまで多大な影響が及ぶのです。

追うのは? 検査陽性率、救急車受け入れ困難事例の数......

ーー現状を正確に把握するためにはどんなデータを見たらいいのでしょうか?

例えば、東京都の「都内の最新感染動向」のページでは、都内の新規感染者数だけでなく、感染者の検査陽性率が報告されています。

オレンジの実線が陽性率を指しますが、全検査の20%強が陽性という異常な状態がこれまで続いていました。

でも実際には全検査数の5分の1が陽性というわけではありません。行政に報告される陰性の人が少ないことがこの数字の背景にあります。

例えば発熱外来の受診前に民間クリニックなどで抗原検査が陰性だった人はPCR検査で確定診断をしないです。最近は薬局でも自分で検査できるキットが売っていますが、陰性だったら誰にも報告しないでしょう。

そういうことが陽性率の高さに影響しているものと思われます。

これまでも流行が起きると陽性率は上がっていたのです。京大の古瀬祐気君は検査の陽性率は流行の予兆を捉えるものであるという論文を書いています。

流行が起きると、コミュニティの中に濃厚接触者が増えていきます。するとコミュニティの中で検査を受けるべき人のうち、既にウイルスに暴露されている人の割合が次第に高くなっていきます。

だから、陽性率の上昇は明確な感染者数の予兆サインとして利用できるのです。それは第5波の感染者数の上昇時でも当てはまりましたが、上がり切ってからの解釈が本当に難しかった。

もう一つ見ているのは、「東京ルール」と呼ばれる救急医療のデータです。「東京ルール」とは、いわゆる救急車の受け入れ困難事例の数で、医療の逼迫具合を反映しています。

救急車が5医療機関への受入要請を断られるか、20分以上経過しても搬送先が決定しない事案があったら、その日当番になった病院は、その症例を率先して受けなければならないという決まりが東京ルールです。

これも悩ましい動きをしています。ピークが1度8月上旬にあって、その後は横ばいのようですね。

感染者の増減を反映する周辺データとしては、他に発熱に関する相談件数があります。

これもピークを打ったように見えていましたが、今度は電話相談のキャパシティが大丈夫かどうかを疑わないといけません。

混雑状況を確認するために、本当に時々ですが僕たちは試験的に電話をしてみたことがあります。すると、だいたいつながらない。感染者が増えてから電話相談が一定数で推移する状態はあまり変わらず、この相談件数がどこまで実態を反映しているかも分かりにくいのです。

以上のような状況で、周辺データも判断材料として使うのが難しい状況が続いていました。

一方で、夜間繁華街の滞留人口は増えています。東京都の深夜帯では、すでに繁華街の人口が8月の盆の頃に底を打って、いまは増えています。

ーー飲食店は緊急事態宣言で自粛が続いていますが、なぜでしょう。

単に要請に応じない店が出てくるだけでなく、いまのやり方では底は必ず打つものなのです。要請ベースなので、みなさんが疲れてくると限界が来て、上がり始めます。明確に増え始めていて、その傾向は今後も続くだろうと思います。

繁華街の飲食の場でも感染はありますが、ここまで広がるとオフィスや自宅など室内の様々な場で伝播は起こります。繁華街の状況だけ見ても、伝播の実態は捉えられないかもしれません。

ですので、流行が夜の繁華街から人口全体へ広がっていくのに従って、繁華街の滞留人口データの影響も見直しつつ、予測モデルのアップデートをすることが必要になります。

感染者数が増え過ぎて、データを疑いつつ見ないといけない事態に

そういうこともあり、感染者数のカウント自体だけに頼って感染の動向を考えて良いのかどうかは疑いながら、分析をしないといけません。もっと早くから準備しておくべきものでしたが、もしカウントできなくなった時に、流行状況をどう捕捉したらいいかを真剣に考えています。

ヨーロッパでは患者数のカウントが厳しくなった場合は、主に入院患者数を見ることでモニタリングしています。

しかし、日本の首都圏では今、入院できないです。そうすると病状が深刻な人だけをモニタリングすることさえ難しい状況になっています。動向を正確に推し量る拠り所が失われかねないのです。

ーーカウントできなくなるというのは、感染者数が多過ぎて医師が報告できなくなっているということですか?

その通りです。感染者数が多過ぎる状態になると、検査のキャパシティも溢れますし、一部の国で見られますが、流行曲線がずっと真っ平らな状況になることさえ考えておかないといけません。

PCR検査自体をやらなかったり、若い人は外来受診もしなかったりする。相当数が受診しないことになれば、実態が捉えられなくなります。

実際、「15分以上の屋内の近接な接触」などの定義で濃厚接触者を追っていたのが、保健所業務が逼迫したことにより、主に同居家族以外は追わない方針に途中で変わりました。

そうすると、感染者数の増加にストップがかかったのは家庭内の伝播ぐらいしか拾っていないからではないか、などいろんなことが思い浮かびます。

多くの感染者がカウントされていない可能性も考えて、それでもなんとかして真実を捉える方法を探さなければなりません。

無症状の感染者数を補正、報告より多いが...

ーーそれではどんな方法があるのでしょうか?

あくまで一例ですが、無症状の感染者が全感染者の中で一定割合いて、一時期は全体の20%近くで推移していたのが、最近は減っています。軽症や無症状の人がどんどん報告されにくくなっていることを反映しているものと考えられます。

厚労省アドバイザリーボード / Via mhlw.go.jp

その報告の程度が悪くなっていることを補正したグラフがこれです。

青が実際に報告された数で、赤が無症状の感染者の割合が変わらないと想定して補正したデータです。0〜19歳や40〜59歳は、報告された数よりも多くの感染者が最近は診断されていない可能性があります。

そういう分析をしていると、やはり感染者数は減っているわけではなく、報告に限界があるから減っている可能性もあると疑うわけです。判断がすごく難しい、という意味が少しお分かりいただけたでしょうか。

そこで、近隣の都道府県を見ると、判断が正しいのかが推測可能になります。

これは東京都の年齢別発症日別の感染者数です。0〜39歳は1回山を打ったように増加が止まり、減り始めています。

西浦博さん提供

同じパターンが埼玉でも見られます。1回急増したように見えるけれども、下降に変わったように見えます。

西浦博さん提供

千葉も同様です。

西浦博さん提供

神奈川も同様です。

西浦博さん提供

こうして見ると、東京の検査環境の問題はあるのでしょうが、それだけの要素が反映された時系列データであるわけではなく、似たようなパターンの推移から、やはり実際に減少しているという捉え方が補強されます。

例えば濃厚接触者を追うのをやめた影響は一時的にしかありませんから、その手続きの変更による感染者数の見かけの減少は一過性に留まるはずです。

しかし、8月上旬に濃厚接触者を追うのをやめ、それでもしばらく減り続けていたら、本当の感染者数もやはり減っているということです。

こうした分析から総合的にみると、今の状態が続けば、感染者の減少はさらに続くと判断していいと思います。もちろん、接触が増えると感染者数は増加します。

ーーそれはよかった。

この3〜4週間、あれこれ本当はどうなのかずっと考え続けていました。研究室の中で、研究員らとデータをこねくり回して「ああでもない」「こうでもない」と毎日ずっと思考を巡らします。

分析で得られた考えを含めて、感染研の鈴木基先生や東北大の押谷先生含め疫学メンバーらと議論をして擦り合わせをします。

結果として時間がかかって恥ずかしい限りではあるのですが、「うん。これなら減っているね」と自信を持って言えるところまでやっとたどり着きました。

感染拡大のスピードは落ちている

ーー今後、減少傾向は変わらなそうでしょうか?

それはとても難しい問いですが、一定の見解をお話しします。

このグラフは同じ曜日の先週・今週比を取ったものです。この数値が1を下回ったら、感染者は減少傾向にあり、1を上回っていたら指数関数的に増えている時です。

西浦博さん提供

今、1を割っているのはいいことなのですが、7月末ぐらいまで僕はずっと青い顔をしていました。2を超える時もあったからです。相当厳しい増え方をしていました。

この比の、さらに比を取って定期的に検討しています。増加率がどう変わったかを見極めるためです。

西浦博さん提供

これが継続的に1より上だったら、増殖のスピードが加速化しつつ増えているということです。1を下回っていたら、増え方がどんどん緩くなっていることを示します。

実は、この「比の比」には7月後半以降に2つの急激なピークがあり、そのパターンは多くの都道府県で共通しています。

7月末と8月20日前ぐらいに比の比が上昇しているのです。両方とも連休の影響を受けたピークです。

つまり、7月の4連休とお盆に伴う移動などで増えた接触の影響だと思われます。人が大きく移動して普段よりも接触が増えた時にデルタ株の感染性が高くなったことも重なって、伝播が起こってしまい、結果として比の比でピークが起きていました。

そして今はその厳しい状態からはいったん脱けた、ということがわかります。

さらに先を考えると、9月は感染者が増えるような連休はありません。今、直近で怖いと思われる要素は、夏休み明けの学校再開の影響です。大学等の高等教育機関では9月中旬以降から開始するところが多いとうかがっていますが。

重症者もこれまでよりも早く減っていくはず

ーー重症者数が増えていることはどう見ていますか?

重症者数も指標としてずっと重視しています。

まず基本的に重症者数の増減は、感染者数のピークから少し遅れて観察されます。感染、発病してから日数が経ってから重症化するためですね。

今までの流行曲線でも、重症患者数のカウントは発病日別の流行曲線から2〜3週遅れることがありました。死亡は1ヶ月遅れぐらいの感覚です。


今回の流行では、重症者が何人いるかだけでなく、水面下でどれぐらい入れ替わりがあるかも見ています。東京では今日現在287人の重症患者がいますが、その人たちの中でどれだけ新たに挿管された人と、抜管された人・死亡した人がいるかを見ています。


今回の流行ではこれまでよりも比較的若い患者が重症化しているので、入れ替わりがすごく速いです。毎日新たに挿管される人は、287人のうちの100人を超える日がざらにあるようです。同じぐらいの数の人が抜管するか、死亡しています。

臨床現場では挿管や抜管の時に医師やナースが脂汗を流しつつ管理をするのですが、これだけの数の出入りが行われていると、本当にご苦労されているものと思います。


とすると、この数はあまり遅れずに、流行曲線に対応してくるはずです。感染者数の実数が減ると、主に高齢者が中心となって重症化していた頃の流行よりもはやいスピードで重症患者数も減り始めると思います。

減っているのは良いニュース

ーーとりあえず、感染者が減少傾向にある事は喜んでいいのですよね。

これはものすごくいいニュースだと思っています。デルタ株に関して、これまでもお話してきた通り、減るのかどうか怖いところがありました。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

久しぶりに明るい表情を見せる西浦博さん

基本再生産数(※何も対策しない場合の一人当たりの二次感染者数の平均値)で言うと5を超えるような感染症を、人の行動を制限することで食い止める経験は、過去に一切なかったことだと思います。

しかも、社会経済活動はそれなりに続いています。すごく制御にとって後ろ向きな条件下なのです。緊急事態宣言が長引いて、声が届いているとは言い難い。中でも、オリンピック開催の心理的な影響は相当大きかったと思います。

宣言に効果がなく、ますます医療が厳しくなったらさらに厳しい措置をしなければなりません。どうしても仕方なければ、立法でロックダウンを考えてほしいという議論もこれまでになされてきました。

そんな中、私権が制限され、経済的な影響も甚大である対策を打たずに済む可能性が出てきたのは、本当に良い兆候だと思います。

ですから、ここで再上昇が起きないように、さらなる対策が必要ならやる。確実に減らすことが必要です。学校再開がある9月に、社会全体で接触が増えて感染が再び増えてしまうことは何としてでも避けたいです。

ーー減ったからといって、ここで緩んだらまずいのですね。

ニュースでご覧の通り、政府はロックダウンをしようとしませんでしたよね。

専門家としては、その条件下でどんな措置ならできるのか、水面下で必死に検討していました。措置の中身によっては社会に大きな影響を与えるだろうし、かと言って自粛が限界を迎える頃です。どうすればいいんだと頭を抱えていました。

その中で、今のような対策を何重かに重ねてしっかり実行していれば減少傾向に転じたということは、まずみんなで自信を持つべきことです。自信を持ってそのままもう少し継続したい。しっかり頑張れば9月中に、安定的に減っているように見えてくるはずです。

近未来をどんどん皆さんの力で明るくしていけたらと思います。

(続く)

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。

趣味はジョギング。主な関心事はダイエット。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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