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「大阪、兵庫はすぐさま『緊急事態宣言』をうつべき」 8割おじさんが懸念する背筋の寒くなる大流行

大阪、兵庫、宮城の3府県に続き、東京、京都、沖縄の3都府県にも適用されることになった「まん延防止等重点措置」。 変異株が猛威を振るう大阪で間に合うのでしょうか。「8割おじさん」こと京都大学の西浦博さんに再び分析してもらいました。

大阪、兵庫、宮城の3府県に続き、東京、京都、沖縄の3都府県にも適用されることになった「まん延防止等重点措置(重点措置)」。

緊急事態宣言の解除後に再び感染が拡大するのは折り込み済みだったが、変異株の広がり、ワクチン接種の遅れなど、想定外の事態も起きている。

対策はこれで良かったのか。重点措置で間に合うのか。変異株やワクチン接種の遅れの影響はどう見るべきか。

今年1月の緊急事態宣言直前から政府の対策の緩さに疑問を投げかけ、4月半ばには再び緊急事態宣言を出すレベルに悪化すると予測を立てていた京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんにBuzzFeed Japan Medicalは再び取材した。

※インタビューは4月9日午後にZoomで行い、その時点での情報に基づいている。

変異株の影響で見たことのないスピードで感染者が増える大阪

ーー緊急事態宣言が明けて、宮城などが先駆けてリバウンドし、大阪も過去最高の感染者数を更新しています。現状をどう分析していますか。

場所によって、流行状況が全然違います。

これは厚生労働省からの変異株に関する情報公開が遅れていたことも原因があると思います。

アドバイザリーボードの資料の中に、僕や国立感染症研究所感染症疫学センターセンター長の鈴木基先生が出した変異株の分析が4月7日に突然加わっています。それまでの議論では、変異株の流行に関する情報は回収されて公表されていませんでした。

今回の流行は、宮城県でまず増えて東北の多くの場所で感染者が一過性に増えました。若者も多い。でも、これは感染力や重症化率が高いと言われるイギリス起源の英国株によって起きているものではありません。

ただ調べてみると南アフリカやブラジルで見られ、ワクチンの免疫が下がるかもしれないと言われている「E484K」の変異が宮城での流行株でよく見られています。

しかし感染力が増している証拠はなく、これはいわば古典的な流行パターンです。つまり、飲み屋で若い人が飲んで、そこからじわじわと高い年齢の人の方へと感染が広がる。

一方で大阪では現時点で8割が英国株の感染者です。これまでに大阪では見たことのないスピードで感染者が増えています。

4月7日のアドバイザリーボードの資料に僕はリアルタイム予測をつけています。

「まん延防止等重点措置」の効果は加味していません。そのまま経過したと想定したらどうなるかです。どんなシナリオでも上昇傾向しか考えられません。

大阪は重症患者が溢れる事態に 調査も追いつかず

さらに僕は昨年に関西に来たので、これに加えてローカルな情報もたくさんいただいています。

大阪ではICU(集中治療室)に入っているか、人工呼吸をつけている重症患者が増加しており、既に重症病床の9割を占めていて、このペースで患者が増えると間違いなく重症患者があふれます。大阪の状況がとても心配です。

東京はずっと横ばいで推移していたのですが、英国株の占める割合が最近では14%までじわじわ増えてきています。そのうち従来株と置き換わるのだろうと思われます。

沖縄や北海道は、大阪で流行している英国株が染み出しているような状況です。

ーー確実に全国で英国株は広がっているということですね。

まず大阪で明らかになって、これから関東で増えていくだろうと考えています。

ーーただ、変異株の現状も完全には追い切れていないようですね。

感染研のFETP(実施疫学専門家養成コース修了者)は、この数ヶ月大阪をはじめ、ものすごく活躍しています。一つ一つのクラスターの火消し隊をやり、どこで感染が起き、これまでと何が違うかを必死に把握しようとしています。宮城でも北海道でも同じことが展開されています。

また地元の保健所は保健師さんが丁寧にインタビューして情報を把握しながら流行対策をしています。

しかし大阪をはじめ感染者が現時点で既に多過ぎて、彼らの調査が追いつかないところまできています。感染している場が追えず、一部ではギブアップ状態です。変異株の伝播の場に関する状況もそれでつかみ切れなくなっています。

これまでの流行では、感染者がどこにいるのかを皆で丁寧に調べて、接待を伴う飲食店や飲食業でリスクが高いことがデータで推測できていました。

しかしそのデータがきちんと把握できないぐらい感染者が増えています。

ーーこれまでとは違うところで感染が起きているかもしれないのに、つかめなくなっているのですね。

僕は京都市の公表データも見ているのですが、多くの人たちは家庭の中で感染していたり、職場だったり、友人からだったり、飲食店だけではなくなっています。感染の場が多様化しているのです。

第3波で感染者が増えた時も半分以上の接触がわからない状況でしたが、そのほとんどは飲食店の接触のはずだと思い切って推測して時短要請がなされました。でも今回の波では、推定するための兆しのようなものが調査で上がる前に、感染者数が増えています。

子どもも増加 変異株の影響か?

ーーこれまでにない感染経路としてはどんなところがありますか?

これまでに見られない場のうち、急増しているのは、学校や児童施設、集団での労働環境、スポーツの場などです。今まで想定していなかったようなところでも急増していて、必ずしも典型的な感染の場ばかりでなくなっています。

ーーこれまで感染性も低く、重症化もしないと言われてきた子どもが増えているのは、変異株の影響だと考えてよろしいですか?

影響は大いにあると思っています。感染研が出した変異株の資料を見てみましょう。

英国株と従来株の人口あたりの感染リスクを比べていますが、17歳までの子どもでは、変異株の感染リスクが1.6〜1.8倍に増えていることがわかります。

学校や児童施設で二次感染が起きていることを裏付ける結果です。

こういうことがあったので、イギリスでは3回目のロックダウンで流行対策に学校閉鎖まで実施されることになったのです。

ーー英国株が増えている日本でも、今後学校閉鎖を検討する必要があるわけですね。

そうですね。学校閉鎖自体は去年の2月末から政府主導でやったことがありましたね。

ーー前回は安倍首相が唐突に全国の一斉休校を言い出して混乱が広がりましたが、今回はデータの根拠があって対策をうつかもしれないのですね。

従来株についての小児科の先生の研究では、未成年でもしっかり調べたら感染しているけれども極めて症状がマイルドだと指摘してます。ずっと症状が出ないままでいるか、発病しても軽い。

変異株では子供が発病しやすくなったのか、感染しやすくなったのかは調べないといけませんが、イギリスの研究では感染しやすさと発病しやすさはこれまでの倍近いと言われています。

これらに加えて、子どもたちが他者へ2次感染を起こす可能性が高くなれば、そこに対策を施す必要性が高まる、というわけです。

対象を絞った対策が打ちづらい

ーー変異株などの影響で感染の場所が追いにくくなると、飲食店などに重点を置いた対策が打ちにくくなりそうですね。

尾身茂先生やアドバイザリーボードの先輩方は、経済活動を不必要に制限しないようにという思いもあると思いますが、僕たち若手に対して必死にこう言います。

「感染者が増えたなら、どうして増えたのかもっと調べなさい。深掘りしなさい」

その通りだと僕も思うのですが、残念ながら深掘りするような良いデータが日本で存在していません。

国が感染者情報を把握するために運用しているシステム「HER-SYS」でも感染場所を書いてくれているのは全感染者の1〜2割程度です。

これまでは感染者数が少ないから、保健所の人たちが集めた観察データから、「ここで感染が起きているだろう」と導き出して、状況に応じたピンポイントの対策を立てることができました。そういう手法が感染者の急激な増加で困難になりつつあります。

大阪・兵庫は緊急事態宣言をすぐさま出すべき

ーー感染者が急増して、これまでのような対策が打てなくなる中、「まん延防止等重点措置」が大阪も含めたいくつかの自治体で適用され始めました。この新しい制度の効果についてはどう見ていらっしゃいますか?

あくまでも、効果が出てから評価をしなければならないと思っています。いわゆる飲食店などの営業時間短縮がスムーズにできるように創設されたと認識しています。簡単に言えば、緊急事態宣言を避けるための措置ですね。

しかし、政治的にも緊急事態宣言をしたくない時の措置なのでしょう。そういう意味でも機能しているのだろうと思います。

手探りで運用され始めたのが実態です。外出自粛や移動制限などとあわせて強く打つ重点措置と、時短だけを一部地域でやる弱い重点措置と、地域によって様々な措置が出てくるのだと思います。

しかし、機動性をもって素早く出すという観点から言えば、緊急事態宣言とは半日ぐらいしか違いません。時短以外の措置をみんな上乗せしてやるのかと言えば、地域の判断によっても異なってくるのでしょう。

自治体と国の責任のなすりつけ合いが構造として解決しているかと言えば、どうもしていないようです。

とはいえ、ステージ3の段階で、営業時間短縮を公の名の下で実行するための措置なのだと思います。だから、前進はしていると思います。

ーー重点措置で効果が出ない場合は、再び緊急事態宣言を出すことも考えるわけですね。

大阪と東京では違います。首都圏に関しては正しいタイミングで重点措置が出ていると思っています。

どう考えても病院溢れますが。緊急事態宣言なしか。。

Twitter: @nishiurah

一方で、大阪、兵庫に関しては今は緊急事態宣言を出す時だと思っています。

ーー重点措置を適用するタイミングで緊急事態宣言を出すべきだったということですか?

いえ、初例の適用ということもありますが、それら府県の重点措置を出すのが遅かったのです。できれば、あれより2週間早く出さないといけませんでした。

3月後半、国会開催中であったことなどが影響しているのか、2週間くらいアドバイザリーボードが開かれませんでした。国から迫る状況評価も遅れて対策を打つのが遅れました。

大阪は重症の患者が多過ぎます。変異株で治療に当たる先生たちが戦慄を覚えているのが伝わってきています。これまでと何が違うかと言えば、これまでより若めの大人たちが感染し、重症化する傾向があります。

20代、30代でも酸素吸入を必要とする人が結構います。これまでになかったことです。

それにプラスして、ちょっと基礎疾患があるくらいの40、50代が人工呼吸を必要とする可能性が従来株よりも少し高くなっています。重症化するまでの日数も従来株より1日早くて、治療現場の素早い対応が求められています。

今まではベッドが足りないとしても、後期高齢者は積極的な治療ができずそのまま看取られることがありました。

一方、一家の大黒柱でまだ子どもを育てないといけない40、50代が感染した場合は積極的治療が適応になる場合が増えます。そのような患者が増えれば、これまでの重症患者と質が違ってきます。

大阪の重症患者が重症病床の9割を埋めている時点で実効性のある対策を打てないのはすごく問題だと思っています。こうした患者があふれた場合、医療現場で見殺しになる人が出てくるでしょう。早く手を打つべきです。

(続く)

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。

趣味はジョギング。主な関心事はダイエット。