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JKビジネスのスカウトに学べ!? 村木厚子が語る女性支援と「ふらふら」の重要性

生きづらさを抱えた若い女性たちの支援を続けてきた元厚生労働事務次官、村木厚子さん。長引く新型コロナの流行で支援が息切れしないようにSOS基金の立ち上げに参画しました。その狙いを聞きます。

新型コロナウイルスは首都圏で感染拡大が止まらず、流行の長期化で社会全体が疲弊している。1月8日から緊急事態宣言が発令されるのに伴い、経済的に苦境に立たされる人が増えることも懸念される。

特にダメージを受けているのは、社会的に弱い立場に置かれた非正規雇用者や女性たちだ。

こうした人たちを支援する団体へ活動資金を提供する基金を集めるクラウドファンディング新型コロナウイルス感染症 :いのちとこころを守るSOS基金が始まった。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「新型コロナウイルス感染症 いのちとこころを守るSOS基金」有志の会メンバーとして協力を呼びかける村木厚子さん

その呼びかけ人となった有志の会メンバーの一人で、社会的に不利な立場に置かれている若い人たちへの支援活動を続けている元厚生労働省事務次官で津田塾大学客員教授の村木厚子さんに、この基金に込めた思いを聞いた。

コロナ流行の長期化で支援の息切れを懸念

ーーこちらの基金に協力しようと思ったのはなぜですか?

予想していた通り、新型コロナの流行が長期化して。支援が息切れしてはいけないと意識して基金を作るということでしたので、それはすごく大事なことだと思いました。

私は「首都圏若者サポートネットワーク」という活動に関わっています。児童養護施設を出た人のアフターケアをやっている人を支援する取り組みです。

ひどい虐待を受けた子はその傷を結構引きずり、大学進学や高校卒業をすればうまくいくかと言えば、そんなに簡単ではないことが多い。でも公的支援は一切ない。障害があるわけでもなく、大人ですから。

そういう子たちを児童養護関係の人たちが、「アフターケア」と称して一生懸命支援していますが、残念ながら公費が付いていないのです。

その人たちを支援する資金集めをREADYFORに助けてもらっていました。今回の基金はまたいい提案をされたと思い、お手伝いしたいと思ったのです。

女性の支援やメンタル面の支援を挙げられていて、その必要性をすごく実感しているところでもありました。

ーー村木さんは、家族などのセーフティーネットが薄い若い女性を支援する「若草プロジェクト」にも携わっていましたね。

若草プロジェクトで支援している子どもたちも、やっぱりコロナの影響を直に受けているので、支援が広がればありがたいとも思いました。

ーー新型コロナの流行は、社会の支えが薄い若者、特に女性の生活にどのような影響を与えているのでしょうか?

首都圏若者サポートネットワークの報告会で報告されたのですが、コロナで飲食店やサービス業系の人たちの雇用が切れてしまっています。塾講師も学生や若い人のアルバイトで多いので、影響が強く出ています。中でも非正規雇用の方の雇用は厳しい状況です。

そしてこういう職種は女の子が多い分野です。地方から都市部に出て初めての一人暮らしを始めた頃にコロナの流行に遭い、しんどい思いをしている子も多い。

収入源がなくなって、支援団体に「米を送ってくれてありがとう」と喜ぶぐらいに困っている子がたくさんいます。

こういう子たちは、普段、絶対に相談してこないようなのです。でも今回、支援団体が「きっと困っているに違いない」と考えて、食べ物を送ったり、連絡を取ったりすると、「実は...」と助けを求める声が結構出てきたということなんですね。

アプローチする支援の手段があると、助けを求める声を受け止めることができます。困っている子に「自分から相談に来い」というのはものすごくハードルが高いことです。

18歳で施設を出てしまうと、関係なくなってしまいます。実家は機能していません。元々、実家にいられなくて施設に行った子たちですから。

コロナの長期化「死にたい」「家に居場所がない」

若草プロジェクトで出会う若者たちも全く同じ問題を抱えています。

4月の緊急事態宣言が出た時に、LINE相談が急増しました。LINE相談から電話相談や対面相談につなげていくのですが、5月が一番多く、それまで週2日だった相談を増やし、4月9日から5月31日まで毎日実施していました。

一番多かったのはメンタルの問題です。その次は家族の問題でした。

ーーメンタルの問題ではどんな相談が多かったのですか?

一番わかりやすいのは「死にたい」などですね。「コロナでもう1ヶ月仕事をしていない」とか、「家にいなければならないけれど居場所がない」とか「逃げ場がない」という声が出てきていました。

若草プロジェクト

前回の緊急事態宣言下で若草プロジェクトに寄せられたLINE相談の一部

元々「若草プロジェクト」で出会う子どもたちは10代後半が多いのです。新型コロナで「家にいられないね」ということになって、出てきた子どもたちを何人支援したでしょう。

若草プロジェクトでは、一時的に身を寄せることができるシェルターを4部屋持っています。でもそこは今、満杯です。

その4部屋以外にも、1晩や2晩ぐらいなら複数で雑魚寝できる部屋もあるのですが、新型コロナで感染が危ないので使えなくなりました。シェルターにいる子全員にうつってしまいますから。

あちこち探し回って、お寺などいくつかのところが場所を貸してくださっています。そこに一時的に泊まって次の行き先を探して......ということをやっています。

少年院を出た子どもたちが寮のように使っている場所があります。そこの入居率が半分ぐらいだったので、ワンフロアを女の子たちに貸してもらい何人か移りました。ところが、その場所を提供してくださっていた建設会社がコロナで倒産したのです。

ーーなんという......。

すぐには差し押さえにならなかったのですが、今、必死で次のところを探しています。

LINE相談の対応者は、「コロナ後は深刻な相談内容が多い気がする」と言っています。何人も実際に会って、家から出るのを手伝っています。8月ぐらいまでのデータだと、10代後半が41%、20代前半が31%なので若い人が多いですね。

特に女性が打撃を受けるのはなぜか?

ーー特に女性が打撃を受けるのはなぜなのでしょう?

一つは、今回女性が働いている産業がコロナでものすごく影響を受けていることだと思います。収入がなくなるのはものすごく大きいです。

飲食店などのサービス業にいられなくて、また、最終的にお金を稼げる場所として使われていた風俗産業などの職場まで全てコロナの影響を受けているのです。それだけ厳しいのだと思います。

また、コロナで家にいなくてはいけないので、女の子だけではないですが、家庭内の環境が厳しい人は居場所が完全になくなっています。学校にも登校できず、逃げたい親も1日中家にいる。ダブルのダメージです。

家がとても辛い場所になっていますね。

ーー家族の中でも女性は弱い立場に置かれがちですね。

DV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内や恋人同士など親密な関係性の中での暴力)は圧倒的に女性の被害者が多く、性的虐待も女の子の被害が多いですね。

大学で教えていて一般的な学生に聞くと、前の緊急事態宣言の頃、ステイホームとなった時に、「すごく家族との絆が深まった」という子と、「すごくつらい」という子と両方出てきます。

元々の家族がどうであったか、というのが良い方にも悪い方にも強く出てしまうのを実感しました。

大学で課題を出すと、「初めてこうした社会的な問題を家族と議論して面白かった」という子がいる一方、「すごくしんどい。早く大学に行けるようになりたい」という子がいます。

ーーコロナという感染症は人と人とのつながりを残酷に断ちますね。救われていた居場所も奪ってしまいます。

家族を含めて、自分が元々持っている社会資源の格差がそのまま出てしまっていますね。「子どもの貧困」問題の時、家族が貧しい時に何で補うかというと、保育所だったり学校だったり図書館だったりする。社会的な資源がそれを補い、子どもの貧困にそこからアプローチしなければならないと言われます。

だけど、新型コロナではそれが断たれるわけです。図書館に行けない、学校に行けないというのは、持たざる子どもにとってかなり厳しいことです。

「SOS」を出せないのはなぜ? 自分のことを「悪い子」だと思い込んでいる

ーー今回、いのちとこころを守るSOS基金と名付けられていますが、本当に困っている子どもは「困っている」と言えないし、「助けてくれ」と自分からSOSを出せないと言われますね。

児童虐待などは公的な社会福祉が不十分でもあります。ところが、若草に来る子はそういうのを一人で生き延びて、なんとか自分でやってきた、一人で戦ってきた子が多いのですね。

虐待は0歳、1歳、2歳の小さい頃が命を救えるか否かの勝負になります。そこに行政の力も集中する。そこを生き延びた子は、その後、福祉の網に引っかかりにくくなります。

そういう子たちが自分で生きていこうとすると、家出や夜の街の徘徊、学校に行かないなどいろんなことが起きます。

Martin-dm / Getty Images

イメージ写真です

そうなると、自分のことを「悪い子」だと思い込んでいるんです。

「私はいい子で一生懸命やっているから助けてください」なら言いやすいかもしれませんが、本当は1人で戦ってきたすごい偉い子たちなのに、本人は「自分は悪い子だ」と思っている。

ーーつらいですね。

いい大人にも出会っていないんです。いい大人が叱らずに助けてくれると思っていない。

すごく印象深かったのは、経験者の女性から、「叱らないで話を聞いてくれるって相談窓口の看板に書いておいてくれ」って言われたのです。そうなんだ、そんなに怖いんだ......と思いました。

だからといって、ネット検索をすると、怖い情報と隣り合わせです。性産業系やポルノに騙して誘い込む情報や、自殺するための情報や薬物の情報もあります。それと正しい支援情報がまぜこぜになっている。

ネットが一番情報を取りやすいのに、ネットでは正しい情報に行きつけないのです。

ーーSNSで優しい言葉をかけてくる大人は性的に見返りを求めたりしますしね。

「泊めてあげるよ」とかですね。そうやって何度か騙されているので、もう人を信用できなくなっています。

ああそうかと思ったのは、「もっと大変な子がいるから私なんかが相談しちゃいけない」とか、「みんな同じようにしんどいんだから、私が特別に相談しちゃいけない」と思っている。

田舎だと相談するとどこの子かわかっちゃうから相談できないとか、様々な理由がありますが、基本はみんな「自分が悪い」と思ってしまっているのですね。

「悪い人」の手口を真似る

私も勉強不足で、最初に関わり始めた頃、何度も被害に遭う子がいると、「流石にこの子にも何かあるのでは?」と一瞬思いました。でも勉強するうちにわかったのは、悪い人は弱っている子を見つけるのが上手なんですよ。

困っている女の子たちを支援する活動を続けているNPO法人「BONDプロジェクト」代表の橘ジュンさんとか、一般社団法人「Colabo」代表の仁藤夢乃さんたちに講師に来てもらったり、両方の団体の夜の見学ツアーに連れて行ってもらったりしたんです。

JKビジネスのスカウトのお兄さんたちは、物色して声をかけてくるのですね。「この子はついてくる確率が高い」と見て声をかけてくる。支援者の方でも熟練してくると、そういう人は見分けられる。「どちらが早く声をかけるかの勝負なんだ」と言っています。

私は「その子のせいじゃないか」と一瞬でも思ったことを申し訳なかったなと思いました。

ーースカウトの男の子の方も生きづらさを抱えてそういう仕事を始めたりしているとも聞きましたが、きつい構図です。

千葉で社会福祉法人「福祉楽団」をやっている、飯田大輔さんという面白い人がいるのですが、これからの相談に必要なこととして、「緩くて抽象的な相談窓口」と言っていたんです。

要するに、「このテーマでの相談です」と呼びかけたとたん、他の困りごとを切り捨ててしまうことになるというのです。

他にも「ふらふらしているソーシャルワーカー」「シェルター」「体を使って働ける場」を挙げて、この4つを持っている相談機関が必要なのだと言っていました。この4条件って、JKビジネスのスカウトのお兄さんでしょう?

ーーああ、確かに!

今夜泊まる場所に連れていけて、「どうしたの?」と緩く聞くだけ。で、ふらふらして街にスカウトに出かけていっている。こちらから困っている人に手を伸ばすアウトリーチ活動ですよね。

ーーなるほど。彼らのやり方を学ばないと。

そうなんです。仁藤さんは、「日本の公的福祉はJKビジネスのスカウトに負けている」と言ってました。それは我々が勉強を始めた時に言われたことです。

コロナで崖っぷちに追い詰められた人がその後も生きていけるように

ーー現状、女の子たちが置かれている問題はわかりました。ではこの基金で何をしたいのでしょうか?

コロナはみんなが初めて遭遇する問題です。臨機応変に支援を作っていかなければいけないので、こういう民間基金の役割は大きいと思います。

最初の頃に、住居確保給付金や、雇用調整給付金など色々な公的な支援が出されました。これはリーマン・ショックの時にできた制度なのです。今回も新しい制度を作っていくことになると思います。

だからまず柔軟な民間の資金の支援はすごく大事な役割を果たすでしょうし、この基金に期待しています。民間で試して効果があったものを参考に、新しい公的支援制度を作っていくこともできると思います。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

寄付募集を呼びかける記者会見に登壇した村木さん

ーー公的な支援は効いていますか?

効いていると思います。期間延長もしていて、そこで救えるものは一定程度カバーしているでしょう。だけど、事態が違うので新しい制度が必要ですし、公的制度の致命的な問題ですが、困っている人が行動しないとその支援にたどり着けません。

だから、「ふらふらしているソーシャルワーカー」が必要なんです。日本の社会保障や社会福祉の弱いところ、アウトリーチやアフターケアの弱さが今回響いているわけですから、今回ここで学んで制度を強化することは必要です。

みんなが当事者というのは滅多にないことなので、支援につなげるとか、こういう制度が使えるんじゃないの?と伝えるとか、みんなが助け合えると公的支援がより活きると思います。

昔は役所で何とかやれと思っていたんです。だけど最近は、役所だけでやるのも違うかなと思い始めています。お金もそうあるわけではないし、制度だとどうしても公平性を重んじることになります。「今日は暇だから見に行って見ようか」というふらふらした支援は民間だからできることなんです。

ーーまだ足りない支援はなんですか?

基本はお金ですよね。住居確保給付金は制度の運用を緩くしているし、福祉貸付もやっています。ただ、仕事と住処をいっぺんに失うことはリーマン・ショックの時も問題となったのですが、また起きています。

そこはもう少し何とかできないのかと思います。建物は余っているわけで、追い出さない方法はないのか。そう簡単じゃないようですけれども......。

ーーどういうところに届けたいですか?

今回、一人一人に寄り添いながらの支援が必要になってくると思います。流行は長期化していて、抱えている問題は大きいし、その人が本来持っている社会資源の貧富の差が出てきています。

それに寄り添いながら、困っている間を助けるだけでなくて、その後を自分でどう暮らしていけるようになるかというところまでちゃんと応援できるといい。

困って下に落ちてきた人を下でずっと支える形ではなくて、そこから持ち上げることができるような支援をみんなで模索していけたらと思います。

若草のLINE相談の担当者が言っていて印象的だったのは、今、困っている人たちは、前から崖の近くに立っていたというのです。それがコロナで崖っぷちに追い詰められて、その中でもう耐えきれなくなって初めてSOSを出してくれた人がたくさんいる。そこで本当に耐えきれずに崖の下に落ちてしまう人もいます。

そこを何とか落ちないようにすくい上げて、崖から遠いところに持っていけるようにできたらいいなと思います。


新型コロナウイルス感染症 :いのちとこころを守るSOS基金

は1月6日から3月26日午後11時まで行う。サービス手数料は無料で、税制優遇措置も受けられる(ただし決済手数料5%、基金運営費用として寄付金の額に応じて上限5%)。

集まったお金は、

  1. 医療・介護従事者
  2. 子育て困難家庭
  3. 生活困窮者
  4. 孤独・心の悩み

を支援する活動への費用として助成する。

新型コロナウイルス感染症 :いのちとこころを守るSOS基金


【村木厚子(むらき・あつこ)】津田塾大学客員教授

1955年高知生まれ。高知大学卒業後、78年労働省(現・厚生労働省)に入省。障害者支援、女性政策などに関わり、雇用均等・児童家庭局長などを歴任。

2009年、郵便不正事件で逮捕・起訴されるも一貫して無罪を主張し、10年9月に無罪確定。同月より職場復帰し、2013年7月から2015年9月まで厚生労働事務次官を務めた。

退官後は伊藤忠商事取締役、住友化学取締役、SOMPOホールディングス取締役を務めるほか、津田塾大学、社会事業大学専門職大学院で教えている。

首都圏若者サポートネットワーク」や「若草プロジェクト」で社会的養護のもとで育った若者や生活困難や生きづらさを抱える若い女性たちへの支援を続けている。


Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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