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厚生労働省の職員「多忙でメンタルをやられた人もいる」 新型コロナ対策の現場で何が起きているか?

新型コロナウイルスの対応に追われる厚生労働省。国会議員や一般市民からの問い合わせや苦情電話でさらに仕事が増し、メンタルを崩して仕事に出てこられなくなった職員もいるといいます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で、対応に追われている厚生労働省。

時事通信

新型コロナウイルス対策に追われる厚生労働省

多くの部署から人員を出している上、国会議員や一般市民の問い合わせの殺到でさらに仕事が増し、本来やるべき仕事ができない事態にもなっているといいます。

厚労省の職員に、中の様子を聞きました。

直接関係ない部署からも人が出て対応

ーー今、新型コロナウイルスに関してどのように働いているのですか?

結核感染症課などの担当課以外の私のような職員は、断片的に降ってきた作業をやっている状態です。

当然のことながら、今は直接、新型コロナウイルスに関係ない部署からも人が取られ、その取られた課でも通常の業務が濃縮されて、残った少ない人数でこなしている状態です。

ーーコールセンターを作りましたね。あれに対応する職員も様々な部署から出ていると聞きました。

多くの部署から行っています。業務的には関係ない労働部局などからコロナ対策本部に行くこともあります。国会議員が質問をする時に「問取り(もんとり)」というのをするのですが、それにも対応しています。

ーー「問取り」ってなんですか?

国会での質問要旨を受け取ると、該当する部署の職員が国会議員のところに行き、どういうことを質問したいか聞き取りをするのです。それが「問取り」です。

建設的な回答が得られないようであれば、別の切り口から聞きたいという方もいるので、議員と行政官の間で調整をしています。だいたい前日の夕方までに質問要旨が出てくるので、そこからの対応になります。

ーーそれに別の部署が対応したら、あまり答えられないのでは?

今はそういう状況ですが、省に戻ってきてから答弁の調整をしています。問取りに不慣れな職員が行くので結局、手直ししているのです。

ーー新型コロナウイルス関連は何人ぐらいで対応しているのですか?

コロナ対策本部があり、そこに常に100人程度が常駐している状態です。クルーズ船があった時は、クルーズ船に乗った職員もいました。あとはコールセンターに交代で対応しています。正確な人数はわかりませんが数百人規模だと思います。

クルーズ船で業務が増した

ーークルーズ船の時は何人ぐらい派遣されていたのですか?

検疫官、外務省、国交省などからも入っていたのですが、クルーズ船の中と外で作業する要員として、厚労省からは常に10人前後が行っていたと思います。

時事通信

厚労省も対応に追われたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」。感染した職員も出た

ーーあれが起きたことで、想定外の仕事が増えたでしょうね。

クルーズ船の人が必要とする物資を把握して短期間で届けるなど、大変な作業もあったようです。医薬品は日本にはない薬もあり、大変だったと聞きました。

ーークルーズ船内の感染対策が徹底されていなかったと批判がありました。二次感染の原因になったのではないかという指摘があります。

乗船する人員も限られていたでしょうし、感染防御の知識もない不慣れな職員にどこまで求められるかという話だと思います。

コールセンター、職員を罵倒するだけの声も

ーー他にはどういう業務があったのでしょうか?

コールセンターは非常に多くの部署から職員が投入されました。30分ぐらいレクチャーを受けて、想定問答の内容を答えるという形を取っていました。

普段からそうですが、外の人が思っているよりも大変な内容の電話がたくさんあって、私たちを罵倒するためだけにかけてくる人もいます。「政府の対応が遅いのはけしからん」などと言われます。「早く対策をやれ」とか、検査対応の批判もあるようです。わけのわからない商品を勧めてくる人もいます。

ーーそれはどういうことですか?

例えば、ホメオパシーのレメディー(代替療法で使われる砂糖玉)のような効くはずもないようなものを「これはコロナウイルスに効くはずなのに厚労省はなぜ導入しないんだ」など言われたりです。

「なぜ治療薬を開発しないんだ」「保健所に行ったのに対応してもらえなかった」とか「どこの病院に行けばいいのか」という声もあるようです。

苦情の電話は1時間ぐらい続くこともありますし、最近では30分ぐらいしたらさすがに切り上げましょうと指導されていますが、タイミングが見極められません。そういう人は一度切ってもまたかけてきます。

土日も対応しているのですが、これで通常業務がかなり圧迫されています。納期を遅らせることはできないので、同時並行でやるしかないのです。

ーー他にはどういう業務が?

バスで武漢市から帰国した人を移送したり、陽性者を病院に送る時に、添乗員として駆り出されている人もいるようです。

国会議員の資料・レク要求 メンタル壊した職員も

政府の対応が問題になっていると、色々な議員が資料要求やレク要求をしてきます。

ーーそれは当然でしょうね。国民の代表ですし。

しかし、本部の人間では対応しきれないので、「手がいっぱいなので代わりに行ってくれ」ということで関係ない部署の人が行ったりしています。

関係ある話なら仕方ないと思いますが、むしろ、新型コロナと関係ない話で呼びつける議員もいます。国会議員なので当然権利はありますが、国が危機に見舞われて、厚労省全体で対応に当たっている時に、「何も今呼ばなくても...」と思うことは正直言ってあります。

Champc / Getty Images

過重労働でメンタルを崩した職員もいる(イメージ写真)

これは普段からの話ですが、職員を呼んで、ただ怒鳴りつけて帰すだけの議員もいます。「厚労省の職員に注意して、しっかりやるように指示した」と支援者に説明するために呼ぶ人もいるようです。

また、国会議員の中には、「コロナの担当者じゃないから大丈夫だろう」と考えて呼ぶ人もいます。関係ない部署でも駆り出されているとか、コロナの対応で抜けた職員が多い中で、残された人に業務が集中していることは理解されていません。

クルーズ船に乗って自宅待機になっている職員もおり、残された人に業務の負荷がかかっていることは、政治家に限らずあまり知られていません。そこで「厚労省の職員はちゃんとやっていない」と罵倒されたら、メンタルやられる人がいて当然です。

ーーメンタルを壊した職員もいるのですか?

メンタルがやられて仕事に出てこられなくなった人もいます。内閣官房の職員は自殺もしましたよね。それが厚労省で起きても不思議ではないです。

終電続き、5時に朝帰りする人も

ーー何時頃までみなさん仕事をしていますか?

部署や人によるのですが、終電で帰る人やタクシーで早朝に帰る人など、様々です。

ーー霞ヶ関で「定時退勤」のキャンペーンをやっていましたが、あれはなくなったのですか?

ずっと続いていて、アナウンスは流れていますし、メールも「定時退庁日だから早く帰りましょう」と流れてくる。水曜日と金曜日です。すぐそのメールは削除します(苦笑)。腹が立つから。

ーー泊まり込みの人もいますか?

最近ではあまり泊まらないように指導されているのですが、午前3時とか5時ぐらいにタクシーで帰って、シャワーを浴びて、1時間ぐらいでまた出勤という人もいます。

昨日は私も終電を逃してタクシーで帰りました。内部で誰がパソコンを起動しているかがわかるのですが、午前0時の段階でも出勤中のマークが付いている人がたくさんいました。

ーー働き方改革どころではないですね。

メディアに対する怒り「政権批判の道具にするな」

ーーメディアに対する注文はありますか?

一般論から話しますと、記者会見でも政権批判のために質問する記者もいっぱいいます。「安倍総理がこう言ったが、こういうことを政府として考えなかったということですか?」などと質問をしてきます。

時事通信

厚労省記者クラブでは連日、新型コロナウイルス関連の会見が続く

記者会見で答える役人も、安倍総理の意図は全てわかるわけではありません。別の部署で検討したことも全て把握しているわけがないです。人間ですから。それを「政府として」と大きな主語で聞いてくるから、そんな質問には答えられなくなります。誠実であればあるほどわからないから答えられなくなる。

でも「わからない」と言えば、そう答えたことが批判を受けます。

また、検査の話などは非常に非科学的な報道をされています。「どんどん検査をしないのは政府の怠慢だ」ということを、検査の意味を理解せずに報道しています。

ーーただ、医師が検査の必要性を考えて要求しているものも受けてもらえないという声が確かに多く聞こえてきます。

キャパシティーが不足している部分もあります。それは対応しないといけないですが、検体を送るための輸送手段も確保できないことがあるようです。

厚労省の職員や検疫官が直接、検査機関に検体を運んでいくこともありました。国立感染症研究所に直接持って行った人もいるそうです。

本部の検査班があるので、今色々調整をして、もっとできるようにしているそうです。

コールセンターに「なぜ検査をしないのだ」と批判の声が来ますし、本部の検査班は、調整する検査機関から「もううちはここまでやっているのに、なぜさらに増やさないといけないんだ。職員もいないんだぞ」と怒られる。政治家からはサボっていると怒られる。

板挟みで本当に苦しい思いをしています。

リスコミ部門がない、専門家会議も活用できない

ーーそういう問い合わせや批判の電話に説明や反論はできないのですね。

反論すると、さらに逆上して長くなります。もともと、リスクコミュニケーション部門がない。新型インフルエンザの時に内閣官房にできたのです。新型インフルエンザ等、となっているので、そこでも何かできるはずなのですが、そこも人数がいなくて対応ができません。

ーー専門家会議もかなり遅くにできて、ドタバタで運営されているらしいと聞こえてきます。また、全校休校要請など、重要な政治決断に専門家会議が活用されていません。

かなりドタバタでやっていることは間違いないです。なぜあのタイミングで作ったのか、どのような活用をしているのかは私はわかりません。

そして、専門家に相談したとしても、最後に官邸でひっくり返るというのは普段からよくあることです。科学的にこれが正しいと厚労省が勧めても、政治判断で覆ることがある。

今は株価も下がっていますし、健康のためだけに動けないことがあるのもわかります。オリンピック開催の話も絡むでしょう。そうした圧力に負けているうちに、世の中のパニックが大きくなり、やっと健康の話が前に出てくるようになった。

全国休校要請の話も酷いと思います。文部科学省が反対していたということですが、報道を見て、厚労省でも多くの人は驚いたのではないでしょうか。感染拡大を予防する根拠がないですから。

厚労省がわけのわからない判断をしているケースもあるでしょうけれども、厚労省が真っ当な判断をしているのに政治判断で潰されるケースもあるのです。データが正しくても押し切って実行できないのです。

マンパワーが足りない、効率化もされていない

ーー今回、他の国と比べて、日本はデータが出てくるのがとても遅いと批判されています。流行が広がっているのか抑え込まれているのかわかる「エピカーブ(流行曲線)」もなかなか出てきませんでした。なぜですか?

あれは単にマンパワーが足りないからでしょうね。それに情報開示に意味があると理解している職員も少ないと思います。

ーーなぜですか?

それはみんながそうしてしまったとしか言いようがないです。人数の問題があると思います。私も普段から終電近くまで働いていて、チームの人間が取られて、その人間の分までまた仕事が重なっている。これは私だけでなく、いたるところの部署で起きていることです。

みんな限界値を超えてやっていて、緊急事態が次々に起こって、データが出てくるのが遅いと言われても、中の人からすれば「それはそうだろ」としか言いようがない。期限がある仕事がたくさんあるのです。無理です。

ーーテレワークはできないのですか?

できるのですが、外でパソコンを使う時は、トークンというパスワードを入れる機械が必要で、それが1人1台支給されていません。最近来た連絡で笑ってしまったのですが、「テレワークに接続できる人数の上限がギリギリなのでテレワークを控えてください」と言われました。

クルーズ船に乗って自宅待機になっている人は普通にテレワークしています。一方で、システムの上限に達したからやってはいけないと言われる人もいます。人手がこれだけ足りないにも関わらずです。予算がないからです。

ーー省内の連絡ツールも前時代的だと聞きました。Slackなどの情報交換ツールを使っていないのですか?

使っていないです。メールで全部やっています。平時でメールは100通ぐらい来ます。さらに、今はさらに何百と膨れ上がっている人もいます。少し席を外している間に、メールボックスが1画面で収まらないぐらい来ます。

スカイプが最近使えるようになりましたが、そういうので会議するのは失礼だという雰囲気が専門家の先生にも政治家の方でもある。

国会議員とのテレビ電話での打ち合わせも事前の手続きが面倒なのでほとんど使われていません。

効率化するためのマンパワーもないから、結局効率化されない状況です。

厚労省、最大の働きをするために何が必要か?

ーーここまでの話を総合して、かなり負荷がかかっていることがわかりました。国民の一人としては、この危機に最大のパフォーマンスを見せていただきたいのですが、そのためには何が必要だと思いますか?

単純に人を増やすことだと思います。

ーーどうやったら増やせますか?

閣議決定されている国家公務員の人員削減の方針があります。それを変更しなくてはならないでしょうし、「総定員法(行政機関の職員の定員に関する法律)」や政令を変えることが必要でしょう。

民主党政権の時にも新卒の制限などをしましたし、その前の自民党政権でも国家公務員バッシングがすごくありました。「さすがに疲弊し過ぎだから増やしましょうよ」という世論が高まらないと政治家も決断できないでしょう。

あとは人数の問題もありますが、専門性が育成されていない問題があります。今の国家公務員制度だと、平均2年で異動します。2年では専門性なんて何も身につかないです。専門性を磨かないと何か起きた時に科学的な判断ができなくなる。

ーーCDC(疾病管理予防センター)を作れという議論が出ています。どう思いますか。

その通りだと思います。ただ一方で、厚労省の感染症対策部門すら増やせないのに、そんなのができるのだろうかとは思います。だったらまず終電で帰っている中央省庁の人的リソースを改善してほしい。

感染症対策が遅れていて、日本もCDCを作るべきだと専門家が言うのはその通りです。でも政治家が言うのは、国家公務員の人材難を放置しているのにそれを言うのかと憤りを感じます。

中立的に政治に左右されないような分析や提言ができる機関を作ろうとしても、政治家が介入することを手放さない限り、独立した意思決定はできないのです。それに独立組織ができたとしても、制度に落とし込む厚労省に人がいないと結局実現できない。

まずは疲弊している省庁の問題を解決しないと、新しい機関を作っても正しい判断はできないと思います。

一般の人に伝えたいこと

ーー新型コロナウイルスについて一般の人に伝えたいことは?

専門家の意見をきちんと聞いてほしいですね。

それから、国会議員も国民も、わかりやすく説明してくれと言うのですが、勉強しなければある程度、わからない領域があることも認識してほしい。

検査の話も、感度、特異度、陽性的中率の話を説明しても、勉強しないとどうしても理解できない部分はあるのです。単にわかりやすく説明しろ、わからないのは説明が悪いというのではなく、理解するために冷静な勉強もしてほしいです。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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