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“今までと違うオリンピック”感染症専門医が警鐘 「変異ウイルスで必ずリスク高まる」

新型コロナ対策の最前線で戦い、最新情報のわかりやすい発信に努めてきた感染症専門医、忽那賢志さん。大阪大学教授に就任するタイミングで、新型コロナの現在、過去、未来を語り尽くしていただきます。

国立国際医療研究センターで新型コロナウイルス診療の最前線で戦い、ある時は「くつ王」として一般の人にわかりやすく新型コロナの最新情報を伝え、ある時は政府のコロナ対策広報の顔となってきた。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

7月から大阪大学の教授に就任する忽那賢志さん。背景右側に飾ってある書は国立国際医療研究センター熱帯医学・マラリア研究部長の狩野繁之さんが書いた「くつ王」という文字だ

そんな感染症専門医、忽那賢志(くつなさとし)さんが、7月から大阪大学医学部感染制御学講座の教授になる。

「これからは若い感染症の専門家の育成にも力を入れたい」と話す忽那さんに、BuzzFeed Japan Medicalは新型コロナ対策の現在、過去、未来を語り尽くしてもらった。まずはコロナの現在から。

コロナ流行でわかった感染症専門家を育成する必要性

ーー大阪大学に移られるのはかなり前から決まっていたのですか?

決まったのは3月ですからわりと最近です。

ーーコロナもある程度落ち着いたし、ということですか?

コロナの前から大学病院で働きたいと思って、時々、上司の大曲貴夫先生にも相談していました。タイミングがいいのかわかりませんが、公募が出てきたので挑戦しました。

ーー研究に軸足を置きたいと考えたのですか?

いえ、教育ですね。研究はここでもできますが、学生教育はできないので。もちろん臨床と研究はこれからも続けていきますが、教育に力を入れたいですね。

ーー教育に力を割きたいと思ったのはなぜですか?

元々、教育が好きなのですが、コロナの流行でますます感染症の専門家の育成が大事だなと改めて意識したのですね。感染症専門家だけに限らず、感染症の知識を持つ医療従事者の育成もです。

ーー裏を返せば、コロナの流行で感染症の専門家や感染症の知識を持つ医療従事者が今は足りないと感じたのですか?

そうですね。感染症科が主体になって診る病院ももちろんあると思うのですが、小規模な病院は違います。感染症専門医はまだ1500人ぐらいしかいませんから、感染対策の十分な知識がないままの診療を余儀なくされている医療機関があると思います。

次の感染症の流行を見据えて、もっと育成をした方がいいと思いました。

ーー実はもう国際医療研究センターが嫌になったということは?

コロナの流行で多かれ少なかれ、病院の問題点が浮き彫りになって、ここが辛いなと思ったことは誰でもあると思います。しかしそれだけで辞めるわけではもちろんないです。そういう後ろ向きな動機ではないですよ(笑)

国立と名が付く病院ですから、SNSでも危険な発言や表立って政府の方針と異なるコメントもしづらい。私はこれまでのコロナ対策で政府の方針がすごく間違っていたとはあまり思っていないので、そこは大きなストレスではありませんが、発言内容は自ずと制限されますから、多少不自由さを感じたことはありました。

新型コロナウイルスの変異株は従来株より感染力が強く、全国で感染が広がっています。 3密がそろう場面だけでなく1つの密でも感染リスクはあります。人との距離を保つ、手洗いを徹底する、マスクをすき間なく着けるなど、より念入りな感染防止策をお願いします。https://t.co/yi9GqG07jJ

Twitter: @gov_online

ーー政府のCMにも出られて。

あれこそ、ここの病院にいたからできたことでしょうね。ありがたい仕事だと思っています。

ワクチン接種と、変異ウイルスの広がりとどちらが勝つ?

ーー今、新型コロナは出口が見えてきたと考えていいでしょうか?

まだ効果がはっきり見えてはいませんが、ワクチン接種がかなり進んできたので、今後、高齢者の重症者が減ってくるでしょう。少しゴールが見えてきたのかなという気がします。

今後の変異ウイルスの状況や、追加接種がどれぐらいで必要になるかも関わってくるとは思います。これまでのように医療が逼迫して緊急事態宣言、という流れはまだあるかもしれませんが、長期的には必ず減ってくると思います。

今後、ワクチン接種が進めば、感染者がたくさんいても多くの方は軽症で済んで、医療機関が逼迫することはだんだん少なくなると予想はしています。

ーーインド由来のデルタ株の脅威についてはどう見ていますか?

デルタ株への置き換わりで、ワクチンの効果は多少、落ちるのではないかというデータは海外で出ています。でも、少なくとも今日本が接種しているmRNAワクチンが、デルタ株で大きく効果が落ちることはおそらくないと思います。

南アフリカやブラジルの変異株でもそこまで大きく効果は落ちていません。多少、ワクチンをうったのに感染する人が出るとは思いますが、ワクチンがなかった頃の状況に逆戻りまではしないと思います。

ーーワクチン普及のスピードと変異ウイルスの広がりのスピードで、ワクチンが勝てそうですか?

最終的には感染者は減っていくと思います。ただ、感染者がすべていなくなるまでは相当かかります。日本でかなり減ったとしてもアフリカなどでしばらく残り、海外からまた持ち込まれて、またどこかでクラスターが起こる。これは当分の間は繰り返すでしょう。

ただ、だんだん規模は縮小する。変異株とワクチンの競争はどうなるかはわかりませんが、最終的には感染者は減っていくだろうと思います。早く減らすためにはワクチン接種をどんどん進めることが必要です。

東京五輪の影響 「確実に人は増え、ウイルスは持ち込まれる」

ーーワクチン接種のスピードは、東京五輪開催も見据えて加速しています。五輪開催が新型コロナ流行に与える影響についてはどう考えますか?

確実に人は増えますよね。海外から選手と関係者とメディアの人が来て、パブリックビューイングはしませんと言っても、人が移動することで当然ウイルスは持ち込まれるでしょう。感染のリスクは間違いなく高くなると思います。少なくとも低くなることはないですよね。

オリンピック開催中に感染者が急増して、また緊急事態宣言ということになったら、「緊急事態宣言中に開催するのか」という議論になると思います。

それを避けるために、という視点から、緊急事態宣言を解除するのかどうかも考えた方がいいと思います。「まん延防止等重点措置」に移行するという話も出ていますが、少なくともその手は打った方がいい。

やはり今、変異株が増えているので、緊急事態宣言を解除した後の再拡大も、これまでより速くなると思います。

そういう意味では、できるところまでしっかり感染者を減らしておかないと、オリンピック開催中の再拡大は十分起こり得ると思います。

高齢者の接種が7月までに完了したとしても、まだまだワクチンをうっていない人がたくさんいますから、感染者は増えてしまうでしょう。

イギリス由来のアルファ株に関しては、若い人でも重症化します。40代〜50代のまだ接種していない人から重傷者は結構な数出てくると思います。そういう意味でオリンピックの影響は心配ではあります。

ーー40代、50代の感染者が増えると高齢者が重症者病棟を占めている時とまた違う様相を見せそうですか?

同じ重傷者であれば医療にかかる負担はそれほど変わらないのですが、例えば90代の人が人工呼吸管理になることはあまりありません。「あまり治療効果が期待できないので人工呼吸器は希望しない」という意思を示す方が多いです。

ただ、40代、50代となると、重症化したら気管挿管して人工呼吸管理をすることになります。「これは絶対救わないといけない」ということで、その対応は少し違う。もちろん高齢者は救わなくていいという意味ではないですよ。

開催するなら「今までとは違う五輪」どう理解してもらうか

ーーもうひとつ、色々な専門家に聞いているのですが、五輪開催が人々の感染対策の心理に与える影響をどう思いますか? 「五輪も開催するのだから、自分たちもイベントをしていい。飲んでもいい。騒いでもいい」と考えてしまう影響はどう見てらっしゃいますか?

Yahoo!記事のコメントなどを見ていても、みんな「自分たちはステイホームと言われているのになんでオリンピックやるんだ。逆にすべきじゃないか」ということを書いていますね。当然、そう思うでしょうね。

オリンピックの観戦も、今までのようにみんなでどこかの飲み屋に集まって盛り上がるということは当然できないし、やっちゃいけないわけです。そういう違いも含めて、しっかり周知する必要はあるでしょうね。

今までのオリンピックとは違って、応援の仕方も自宅でテレビやネット中継を見て声援を送る、ということにせざるを得ない。

そこまで国民に理解を求める必要があるでしょうね。「今までとは違うオリンピック」ですが、どこまで理解してもらえるかです。

ーー国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長は、「私は(観客を)見たいし、選手たちも見たいと思っているだろう」と記者会見で発言しています。このあたりの認識のズレが気にかかります。

そうですね......(ため息)。やはり有観客での開催は感染リスクが高いと思います。

オリンピックを開催するのであれば無観客での開催が望ましいと思いますし、有観客でやるのであれば入場前に抗原検査を行い、陰性者だけ入れるなど最大限リスクを下げるための対策が必要だと思います。

(続く)

【忽那賢志(くつな・さとし)】国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室医長

2004年3月、山口大学医学部卒業。同大学医学部附属病院先進救急医療センター、市立奈良病院感染症科医長などを経て、2012年4月から 国立国際医療研究センター 国際感染症センターで勤務。2018年1月から現職。

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」編集委員。IDATEN 日本感染症教育研究会 世話人 Kansen Journal 編集長。著書に『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z ver2』(中外医学社)、『みるトレ感染症』(共著、医学書院)など。
Yahoo!ニュースでの連載でも新型コロナウイルス感染症について数多くの記事を書いている。


Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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