新型コロナウイルスの流行で今年は特別な大変さを抱えている医療機関。
その中で、受診控えや予防接種を控える人も増え、その結果、病院経営も悪化している。
厚生労働省の「上手な医療のかかり方」プロジェクトは11月17日、必要な人が必要な医療を受けられる方法を考えようと、オンラインで「新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に備える『上手な医療のかかり方』特別対談イベント」を開いた。
後半では、新型コロナウイルスに感染した経験があるフリーアナウンサーの赤江珠緒さんや、「上手な医療のかかり方大使」のデーモン閣下も登場し、新型コロナ時代でかかりつけ医を持っておくことの大切さなどについて語り合った。
「感染が怖い」と「医療現場への遠慮」が受診控えに
赤江さんはまず、「受診を控えるのは感染が怖いからという心情と、『これぐらいの病気だったら、医療現場の方が逼迫するのであればちょっと遠慮した方がいいんじゃないかな』という気持ちで受診を控える方が多くいるのではないか」と指摘。
「良かれと思って行動していたことが、かえって医療の現場の経営を圧迫しているという事態を招いていると伺って、上手な医療との関わり方をバランスよくやっていかなければならないんだなと思いました」と感じたことを述べた。
赤江さんには幼い娘がいる。子どもがしょっちゅう具合が悪くなるこの時期、母親として受診に迷うことも多い。
「これぐらいだったら大したことはないから病院まで行くのはどうなのかとか、予防接種もママ友と話していてもどのタイミングで行くのがいいのだろうかとか、今年は特に難しいよねという話はします」
デーモン閣下「かかりつけ医を持とうというのは変わらない」
上手な医療のかかり方大使となっているデーモン閣下は、上手な医療のかかり方キャンペーンについて、
「何かあった時にやたらとバタバタ大きな病院に行くのではなくて、普段からかかりつけ医を持てば、例えば自分の持つアレルギーや今までかかった病気について詳しいから気安く相談にのってもらうことができる。かつ、その医者が専門でなかった場合は専門医を紹介してくれることをやっていこうというキャンペーン」と説明した。
その上で、
「そこを踏まえておけば、新型コロナの問題が逼迫していても乗り越えていけるということを訴えていくのだなと上手な医療のかかり方大使として改めて思った。そこは変わっていないんだね」と述べた。
迫井正深・医政局長は二人の話を聞いて、こう受ける。
「特にお母さんはお子さんのことを第一に考えて、何としてでも(健康を守る)というお気持ちが強い。一方で、自分たちを支えてくれている医療というものに思いを致されている。色々悩んでいるということがよくわかります」
「特に今のコロナの状況は平時ではない異常な事態だと思うので、どうしても恐怖とか、目の前の受診をどうしようとか、感染したのではないかということに迷ったり惑わされたりすることがある。少し冷静に考えてみることも必要です」
「一般の方が病院経営のことを考えて受診することはありえないし、必要ないと思う。だけど、必要な医療を提供していくということで制度は作られているので、そのバランスが崩れると必要な医療も提供されないし、経営もうまく行かない。このあたりをみんなでしっかり考えていくことが大事だと感じました」
家族3人が感染 かかりつけ医が最初の相談窓口に
新型コロナに感染した経験のある人に会うのは初めてというデーモン閣下。赤江さんに「どんな風になったんですか?」と尋ねると、赤江さんは自身の経験を語り始めた。
「家族3人、夫、私、娘という順番でかかっていったのですが、私自身は『中等症』と呼ばれるレベルで、空咳と37.5度前後の微熱がずっと続いた。夫の方は高熱が出て保健所に紹介されて入院して肺炎も起こしている重症レベルだった。私は濃厚接触者ということでPCR検査をして陽性となったんです」
娘と一緒に検査を受けて、自分は陽性、娘は陰性と結果が分かれた赤江さん。
「本来なら親子も分離した方がいいと言われたのですが、娘は2歳だったのでどこにも預ける先がない。入院するにしても子どもを世話するには相当な荷物を持っていかないと難しい。症状が悪化しない限り、家で隔離生活をさせてもらえないかとお願いして、しばらく家で隔離生活をしていました」という。
「私自身はインフルエンザの方がもっと高熱が出てきついのですが、完全に隔離の闘病生活になってしまったので、誰にも接することができない。熱があるから寝たいのに育児が続くとか、介護とか、自分がいなかったら生活が回らない人がいる場合、この病気とどう向き合ったらいいのだろうと思いました」
新型コロナウイルスでもかかりつけ医は、役に立ったと赤江さんは感じている。
検査を受ける前から微熱と空咳が続いていたが、かかりつけ医がいつもの咳と違うと気づいたことが、新型コロナ感染を疑う決め手だった。
「元々副鼻腔炎や気管支炎になりやすいので、咳が出ることはよくある。そういう症状を電話で相談したところ、『赤江さんのいつもの咳は空咳ではない。痰が絡むような咳でしたよね』と言われ、そこからコロナの疑いが強いのではないかと疑う状況でした」
「当時は私もレギュラーのラジオ番組を持っていて、それほどまだ熱も出ていず、咳はあったとはいえあまり症状がない中で陽性反応もないのに仕事に行かなくていいのだろうかという悩みを持っていました。かかりつけ医の先生に相談したところ、『それはやめた方がいいです』と言っていただいた」
「4月の頭だったので保健所の業務が逼迫し、連絡しても保健所と連絡を取るのが難しい時期でした。かかりつけ医の耳鼻科の先生に相談して、先生が自分から保健所に連絡を取ってくれると尽力してくださったので心強かった」
デーモン閣下 コンサートは演奏なしでトークに
ミサと呼ばれる音楽活動を続けているデーモン閣下も、新型コロナで打撃を受けた。
「当初は次々と予定されていた公演が中止、または延期という状態で進んでいた。秋になれば多少できるかもしれないねという話があったのだけれども、結局、夏に入る頃に、『これ、秋も無理じゃないの?』という話になった」
結成35周年で再集結している聖飢魔Ⅱは、10月から来年にかけて全国ツアーをする予定だった。専門家に話を聞くと、「大きな声をあげて飛沫が飛ぶ状況でなく、かつ距離をあけて座席を指定すればできなくはない」という意見をもらった。
「それではね。雇用が守られないんです。2分の1しか観客が入らないから、当然、チケット収入も2分の1。それでは成立しない」
色々考えた結果、昼と夜、ビデオで撮影したミサ(演奏)を、半分ずつの客を入れて見てもらい、メンバーは生で舞台に登場してトークするという形を取ることになった。生の演奏や歌はない。
「意外と評判がいいんですよ。これなんか新しいやり方だねということにはなっているんです」
音響や照明担当の人も一緒に全国にツアーで周り、雇用は守られている。
「そういう工夫で現在進んでいるわけです。でも、いつまでこの状態なんだろう。生で観客の前でロックができるのは。ロックはね、声出してなんぼでしょうというところがあるので、来年どうなっていくのかと思っているところです」
「お客さんはフラストレーションが溜まっているんだよね。声出したいんだけどううーと思っているのがわかる。でも意外と成立するんだけどね...。トークは大好評。みんなゲラゲラ笑っているから、『声出しちゃダメだろう!お前!』と言っているんだけどね」
インフルエンザに備えて何を考える?
これから寒くなる季節、新型コロナと症状が紛らわしいインフルエンザや風邪も流行る。
迫井医政局長は、「コロナのウイルスの性質は少しずつわかってきているので、わかってきていることを使って、できるだけ希望の持てるような活動や生活をするバランスが大事なのだと思います」と語る。
「一方で、どうしても人と人とが接することでコロナって広がっていくので、抑えながら日常生活をということなんですね」として、専門家による新型コロナウイルス感染症対策分科会が示している5つの場面を避けるように呼びかけた。
「実は何気ないことなんだけど、『そうなんだ』と意識することで全然違う。それをみんなでやることで社会全体への広がりが抑えられるということなので、新しい生活様式ではコロナとお付き合いすることも念頭に置いてほしい」
「医療が必要になったらしっかり相談し、ためらわずに受診をしていただきたい。医療機関はしっかり感染防御をしていますので、感染するかもしれないという不安が続いたと思いますが、医療にアクセスしていただきたい。それと新しい日常生活と組み合わせて、感染拡大防止をしながら生活を続けてほしい」
受診控えと過剰な受診のバランスは?
デーモン閣下は、必要な医療や予防接種の受診控えはあるものの、どう行動したらいいのかよくわからないと指摘した。
「コロナなのかな、インフルエンザなのかなという迷いもそうだし、発熱でなくても医療機関に行かなければならない人に向けて、まず第一歩として何をするのがいいのかアドバイスしてほしい」
迫井局長は「経営の話を念頭に置くのではなく、それよりもご自身たちの健康をかえって害していることもあります」とした上で、
「上手な医療のかかり方は、『必要な人に必要な医療を提供するためにみんなで考えよう』ということなので、コロナの問題と並行して起こっているのが必要な医療が提供されていないのではないかという問題です」
「だけど、予防接種を受けないと、その子のその後の免疫やいろんな感染症に関わります。慢性疾患を治療しているおじいちゃん、おばあちゃんも受診しないうちにどんどん悪くなる。がん検診もできずに早期発見のチャンスが減っているのではないかと考えると、コロナ対策と並行して必要な医療を提供する必要がある」
デーモン閣下は広島県がん検診啓発大使も務めており、コロナ禍でがん検診に行く人が減ったことをきっかけに、最近、「がん検診へ行こうよ」というキャンペーンを始めたことを報告した。
「コロナも怖いが、がんの早期発見もものすごく大事だよと呼びかけることがものすごく大事です」
迫井局長はこの春、2〜3割の受診控えがあったことを伝え、「特に減ったのは小児科、耳鼻科。どちらもお子さんが多いので大きく落ち込み今も戻りきってはいない。医療の受け方と提供の仕方が大きく変わって来ています」とした。
デーモン閣下は、医療機関はコロナ前から逼迫していたためかかりつけ医を勧めて来たことを指摘し、「1年目は、やたらと時間外に大きな病院に行くのをやめましょうというキャンペーンでした。現状はどうなんですか?」と質問した。
迫井局長は、「今は通常のバランスとは違っている。今はどちらかというと医療を受診しないという方向に多くの人が動いているのが課題です」と上手な医療のかかり方の課題が変わっていることを示した。
それぞれのメッセージ コロナの流行が来る今、「みんなで見つめ直そう」
最後にそれぞれのメッセージとして、迫井局長は3つのことを強調した。
- 過度な受診控えは病気のリスクを高め、予防接種や健康管理できないという事態につながる。
- 医療機関は感染防止策を取っており、受診や相談はためらわずに。
- 日常的に医療の相談に乗ってもらえるようなかかりつけ医を持つこと。
赤江さんは、「娘のインフルエンザのワクチンを受けに行って、先生に『日本脳炎のワクチンそろそろですよ』と言われました。自分も無意識のうちに目の前のコロナに捉われていた。冷静になってかかりつけ医などを利用して向き合っていきたい」と話した。
デーモン閣下は、かかりつけ医はコロナ禍においても重要であること、コロナを気にして受診控えすることで健康を害することもあることを強調した上でこう呼びかけた。
「第3波と呼ばれている流行が来るかもしれない今、ちょっと気が緩んでいたり、今まで厳しく身を律していた人たちがマスクをしなかったり、外食でベラベラ喋ったりすることになっている。みんなで見つめ直してそうならないようにしましょうよ」
※筆者の岩永直子は、上手な医療のかかり方を広めるための懇談会に参加した構成員で、昨年度に引き続き、今年度も上手な医療のかかり方アワードの審査員を務めます。謝金は辞退し、何のしがらみもなく、自由に取り組みを報じていきます。