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外出自粛していても高齢者は運動や交流を 日本の高齢者30万人を調査している大規模研究が示すこと

新型コロナウイルスの拡大防止のためにますます求められる外出や行動の制限。一方で、日本の高齢者30万人を対象とした研究では、閉じこもりや社会参加の減少によって認知症や要介護のリスクが高まることが示されています。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、緊急事態宣言が出て、ますます強く求められる外出や行動の制限。政府は人との接触を8割減らすことを目標としている。

特に重症化のリスクがある高齢者については、「外出するな」「人と会うな」という声が広がっている。

一方で、日本の高齢者30万人の健康状態を追跡調査している日本最大規模の疫学調査「日本老年学的評価研究(JAGES)」では、閉じこもりや社会参加の減少によって認知症や要介護のリスクが高まることが知られている。

JAGESは4月8日、これまでの研究から外出や交流、社会参加がどれくらい高齢者の健康にいいのか、現在のような状況ではどうすればよいのかをまとめた

この大規模調査を率い、医師としてはリハビリテーションが専門でもある千葉大学予防医学センター教授の近藤克則さんは、こう呼びかける。

「対策が⻑期化すると、感染を防ぐメリットと共に、閉じこもりや⼈との交流が減ることによる弊害が増えることが懸念されます。密集や密閉空間を避けて、工夫しながら外出や交流の機会を持ち続けてほしい」

外出や買い物などをしない高齢者は認知症リスク2倍

緊急事態宣言下でも生活必需品の買い物や屋外での運動のための外出は制限されていない。

JAGESのデータを使った分析では、男女共に外出や買い物、料理、男性では園芸、女性ではスポーツをしていないお年寄りは、している人に比べて3年後に認知症を発症するリスクが約2倍となることがわかっている。

また、歩⾏時間が1⽇30 分未満、外出頻度が少ない、友⼈と会う頻度が⽉ 1 回未満、地域の会への参加がない、仕事・家事をしていない⾼齢者は、3 年間で要⽀援以上の要介護認定になりやすかった

人との交流も大事 友人との交流が死亡リスクも左右

人との交流も健康に影響する。

友⼈と⽉1 回以上会う⾼齢者に⽐べ、友⼈とめったに会わない⾼齢男性は 1.3倍、友⼈がいない⾼齢⼥性は 1.81 倍、死亡のリスクが⾼いことが明らかになっている。

同居の家族がいるからといって安心はできない。

同居以外の他者との交流が毎⽇か頻繁な⾼齢者に⽐べ、⽉1〜週1回未満では、 1.3〜1.4 倍要介護や認知症になりやすかった。⽉1 回未満ではそれに加え1.3 倍早期死亡に⾄りやすいという結果もみられた。

つまり月に1度も家族以外の人と会わない孤立状態のお年寄りは、早く死亡するリスクも上がるのだ。

対面での交流や一緒にご飯を食べることは大事

通信手段が発達している現代、対面で会えないとしても、電話やメールで交流があるなら、大丈夫なのだろうか?

まず、対面だけでなく、手紙や電話、メールも含め月に1、2回以下の交流しかない高齢者は、交流のある人と比べ、4 年間で 1.28 倍要介護状態になりやすく、1.22 倍死亡に⾄りやすかった

さらに、電話などの通信手段による交流があっても、対⾯で交流することだけが乏しい高齢者も、対面交流がある人に比べ、約 1.4 倍要介護に、約 1.5 倍死亡に⾄りやすいことがわかった。

つまり、何も交流がないよりは、電話やメールで交流する方がいいけれども、やはり直接会って話をするなどの対面での交流は、さらに健康に良い影響を与えるということだ。

新型コロナでは、接客を伴う飲食を提供する店が感染リスクを高めるとして自粛を求められているが、食事も本来、誰かと一緒にとることが望ましい。

誰かと⾷事をしている⾼齢者に⽐べ、1 ⼈暮らしで孤⾷である男性は 2.7 倍、⼥性では同居世帯に関わらず孤⾷であると1.4 倍、3年後にうつになる可能性が⾼まる

新型コロナ対策では、とにかく人と接触しないことが一番の感染予防となるとされている。「引きこもりが最強」という声もSNSでは上がっているぐらいだ。

だが、感染症予防以外の、長期的な健康への悪影響は無視できない。

閉じこもりのある男性⾼齢者は、閉じこもりのなかった男性⾼齢者に
⽐べて 2.14 倍、中程度の要介護状態が続く傾向がみられ、要介護認定を受けた後に、より重症化することが予測された。

運動は単独でやっても体にいいが、ここでも仲間と一緒にやるかどうかが重要になる。

スポーツのグループに参加し、週に 1回以上運動している⾼齢者と⽐較した場合、グループに参加しておらず、運動は週 1 回未満という⾼齢者は 4 年後に要介護状態になるリスクが1.65 倍となった。

しかし、週 1 回以上運動していてもグループに参加していなければ、リスクは 1.29 倍になる。一人で黙々と運動するより、誰かと一緒に運動するのがお勧めということだ。

逆に外出・人との交流・社会参加はリスクを減らす

新型コロナ対策では、人との接触を避けるために外出を避けることが強く求められている。

だが、高齢者の健康のためには逆に、外出や⼈との交流、社会参加が、健康維持のためにとても大事であることがわかっている。

例えば、健康な⾼齢者で、友⼈と会う頻度が年に数回以下の⾼齢者に⽐べ、⽉に
1 回以上会う⾼齢者では、4 年後にうつになっている⼈が男性で30%以上少なかった

また、友⼈に⽉に1〜4 回会う⾼齢者では、友⼈と年に数回以下しか会わない⾼齢者に⽐べ、糖尿病があるリスクがおよそ半分になった

社会参加をしている⾼齢者の場合、社会参加をしていない⾼齢者よりも 9.4 年後に要介護になるリスク、死亡するリスクがそれぞれ約 20%低い

前期⾼齢者の場合、社会参加をすることで、10 年後の認知症リスクも22%低くなる

わかったけれど、いったいどうすればいいの?

外出や人との交流が健康にいいことはわかった。

そうは言っても高齢者は感染すれ重症化するリスクが高いといわれている。人の集まる場所においそれと行くことはできない。外出もなるべく避けるように言われている。

どうしたらいいのか?

過去の研究をまとめた近藤克則さんらはまず、こう示す。

「外出や⼈との交流、グループなど社会参加への参加を控えることには、感染リスクを抑えるメリットと共に、健康を損なうデメリットもあることを知って、対応を考える必要があります」

「外出や歩⾏、⼈との交流、社会参加は⾼齢者の転倒、⾼⾎圧、糖尿病、うつ、認知症、要介護、死亡等のリスクを減少し、地域全体の⾼齢者の健康を向上するのに必要な機会といえます。感染リスクを抑えつつ、これらの機会を増やす⽅法を⼯夫する必要があります」

そこで提案することは、こうだ。

「具体的には、 生活必需品の買い出しなどのついでに、屋外での運動や散歩は、ぜひして下さい。政府の基本的対処方針でも、屋外での運動や散歩は、自粛の対象とならない外出の具体例として、あげられています。生活・身体機能の維持のために『必要なもの』だからです」

「交流についても、テレビ電話やSNS などインターネットを使った交流であれば、感染のリスクはありません。テレビ会議サービスを使ってみたら、意外にいいねという声があります。子育て中のお母さん達の間では、Web飲み会もあるそうです」

「今まで使っていなかった高齢者にも、これを機会に、テレビ会議サービスの使い方を教えてあげてほしい。無料のものもいろいろありますから」

高齢者の調査ではあるが、これは他の世代にも応用できると考えられる。3密(密閉、密集、密接)は避けた上で、工夫しながら人との交流や外出の機会を保つ。感染症予防だけに視野を狭めない健康対策が必要だ。