全国で新型コロナの変異ウイルス、オミクロンが猛威を奮う中、子どもの感染者もこれまでになく多くなっている。
現在、子どものコロナ診療はどんなことになっていて、我々は何に気をつけたらいいのだろう。
BuzzFeed Japan Medicalは、東京都立小児総合医療センター感染症科、免疫科医長の堀越裕歩さんに話を聞いた。
※インタビューは2月1日午後に行い、その時点の情報に基づいている。
第6波で既に100人以上の子どもが入院 軽症者がほとんど
——子どものコロナ患者が増えていますが、どのような対応になっているのでしょうか?
成人と同様、ほとんどは軽症なので自宅療養になっている子どもが多いです。
うちは東京都で一番、小児の入院を受けている病院です。治療が必要な患者ももちろんいますが、乳児院や障害福祉施設施設だと他の子どもからの隔離が難しいため、隔離目的で入院する「社会的入院」がとても多いです。
この1週間で増えているのは、例えば盲腸や骨折などの病気で治療が必要で、コロナも陽性だという患者です。他の病院から「コロナ陽性の患者の手術はできないので」と依頼されます。感染症科は治療や感染管理の指示などをします。
——第6波になってからは何人ぐらい入院していますか?
だいたい常に30人ぐらいが入院しています。連日、4〜5人退院しては新たに4〜5人入ってくる感じです。1月2週目ぐらいから増えてきて、累積で100人以上は入院しました。
——10代以下の感染が増えていますが、医療現場でも実感しますか?
第5波までは社会的入院であっても、両親が体調を崩して子どもを一人家には残せないから預かってくれというパターンが多かったのです。でも今回は、大人も重症化しないので、両親が体調が悪くて面倒を見るひとがいないというパターンはほとんどありません。
重症者は基礎疾患のある子ども コロナのせいか不明だが長引く症状も
——その中でも重症者はいるのでしょうか?
第6波でICU(集中治療室)に入ったのは4人ぐらいです。熱が出て、けいれんが止まらずに人工呼吸器管理になる子もいます。
——重い合併症「多系統炎症性症候群」はありましたか?
うちはないです。日本全体でも稀な症状です。
——重症になるのは基礎疾患のある子どもですか?
もとの基礎疾患が理由で重症化することが多いです。成人のように肺炎が悪化して呼吸器不全になるパターンは第5波ではありましたが、今回はほとんどない。基礎疾患が理由だったり、けいれんが止まらなかったりして集中治療が必要、というパターンが多いです。
——基礎疾患としては何が多いですか?
白血病など子どものがんですね。元々気管切開をしている脳性麻痺の患者さんなどが感染して具合が悪くなることも多いです。
——どのような治療をしているのですか?
コロナに関しては子どもに使える薬があまりないので、基本的に抗ウイルス薬を使い、肺が悪くなればステロイドを使うぐらいです。あまり切れのいい治療ではないので、使わなくても良くなっているのかもしれません。皆、コロナの症状は回復しています。
——1ヶ月以上長引く症状が子どもでもあることが海外のデータからわかってきています。日本ではどうですか?
第5波の時に問い合わせが多かったので、子どもの「後遺症外来」も開いています。これまで20人ぐらい診ていますが、子どももコロナにかかった後に不定愁訴を訴えています。
おそらくコロナと関係ないものも混じっているのですけれども、厳密に区分けするよりは、どうしたら良くなるかと考えてケアしています。
——不定愁訴とは具体的にどういう症状を訴える子どもが多いのでしょう?
長引く頭痛、倦怠感や息苦しさです。味覚障害や嗅覚障害もあり、どちらかと言えばにおいの障害が残ることのほうが多いですね。ボーッとする、集中力が落ちることもあり、子どもの場合はそこに不登校が重なってきます。
コロナと関係あるのかは、区別が難しいです。裏に何か他の病気が隠れていないかを検査で調べます。基本的に後遺症に絶対に効く薬はないので、話を傾聴し、症状との付き合い方、生活や学校対応のアドバイスをして、「コロナの後遺症であればいずれ良くなりますよ」と安心していただくことが一番大事です。
息苦しさは肺の画像や機能を検査して数値に問題がなければ、メンタルの問題も多いので、度合いに応じた対処をアドバイスします。
味覚や嗅覚については耳鼻科などの先生に診てもらって、亜鉛を使ったり、ステロイド吸入を行ったりしています。
一般診療の制限も さらに感染が広がると入院に優先順位
——入院するのは、子どもの中でも何歳代が多いのですか?
生まれたての赤ちゃんから、18〜19歳の大人に差し掛かっている子どもまで様々です。大きい子どもの場合はほとんどで基礎疾患があります。子どもの病気では通常は乳幼児の入院が多いのですが、コロナでは社会的な入院が多いこともあり、年代は満遍なくいます。
——集団生活で感染することが多いのですか?
施設に入っている子どもは施設でクラスターが発生して、あっという間に広がっています。学校、保育園、幼稚園での感染、家庭内感染も、ものすごく多いです。
——小児総合医療センターでは何人まで入院できるのですか?
病棟を2つ潰してコロナ専用病床にして、最大で74床を確保しています。既にコロナ陽性(疑い含む)の患者は直近で30人を超えていて、さらに濃厚接触者も隔離が必要となったり、検査結果が出るまでも隔離したりするので、病床は結構アップアップの状態です。
——これ以上、感染が拡大すると、受け入れは厳しくなってくるのでしょうか?
既に2週間ぐらい前から一般診療をかなり制限し始めています。緊急性のない手術や入院を延期してもらい、2割ぐらいの入院を抑制してコロナ診療に割いています。今後、感染者が増えれば、さらに通常診療を制限することになるでしょう。
東京全体で100人ぐらいの子どもが入院していて、そのうち30人ぐらいをうちで診ています。東京の子どもの入院患者の3分の1を診ている計算です。
これが200人ぐらいになった場合、あっという間にキャパシティーがオーバーします。社会的入院はできなくなり、施設で陽性者が出ても、その施設で診てもらうことになるかもしれません。より治療が必要な人を優先することになります。
ワクチンで感染は防げないが、重症化は予防?
——子どもの感染者が増えていますが、「子どもはそもそも重症化しない」「子どもにとってはインフルエンザや風邪と一緒だ」と言う人がいます。先生の診ている印象ではどうですか?
元気な子どもに関してはおそらくそうでしょう。ほとんどが軽症で済むことは間違いない。元々の病気がある子どもや、乳児ではたまに重症化しますが、元気なお子さんはほとんど軽症です。
——「一般の人が考える軽症」と「医師が考える軽症」にはズレがありますが、子どもの軽症はどんな感じでしょうか?
僕らにとっての軽症は、入院する必要のない状態が全て当てはまります。40度の熱が1週間続こうが、それだけで治れば軽症です。保護者からすれば大変なことに思うかもしれません。
——オミクロンでは子どもはどんな症状が出ますか?
ケースバイケースです。高い熱が出る子どももいれば、熱も症状も出ない子もいます。風邪のような症状の子どもが多いです。
——12歳以上はワクチンをうてますが、ワクチンを2回うったのに感染して入院したお子さんはどれぐらいいますか?
12歳以上で重い基礎疾患のある子どもはほとんど接種しています。それでも感染した子はパラパラいます。
それ自体はオミクロンの特徴ですので、こんなものだろうと思っています。子どもはまだブースター接種の対象にもなっていないので、夏場に2回うっても感染予防効果はそれほど残っていません。かかっても不思議ではない。
むしろ成人と同じく、そこから悪化していません。ワクチンをうったのに肺炎がひどくなった子は一人もいません。
5〜11歳のワクチン、どう説明する?
——新たに小児用のワクチンが承認された5〜11歳は他の年代よりも感染症に強く、ワクチンをどれほどの強さで勧めたらいいかについて小児科医の間でも意見が分かれています。先生はどのように考えますか?
コロナワクチンは、成人、特に高齢者にとっては重症化や死亡を防ぐワクチンなので、ものすごく重要です。
でも子どもの場合、ワクチンで重症化を予防するといっても、そもそも感染してもほとんど重症化しません。個人に対する感染予防効果と、公衆衛生的に収束に向かわせるのに有効かもしれないというメリットを考えることになります。
インフルエンザでも健康な子どもはほとんどが重症化や死ぬことはなく、高齢者は重症化や死亡があります。それでもインフルワクチンは、子どもがつらい思いをするのを避けるメリットを重視して使われます。
子どもに対するコロナワクチンも、インフルと似た立ち位置での使い方です。子どもでも感染すれば熱や倦怠感などのつらい症状が出ることがあり、それをワクチンで避けられる可能性がある。そして、稀だけれども何ヶ月も続く後遺症が出ることもあり、それを予防できる可能性もある。
それをメリットと取るか、「ほとんどの子どもではコロナは風邪のようなものなのだから予防することはない」と捉えるか、価値観の違いが判断に影響します。これは専門家でも意見が分かれます。
一方、行政は公衆衛生的な視点で物事を決めるので、収束の助けになるのであればやるべきだろうと考える可能性はあると思います。
——先生個人は目の前の患者や保護者にどう説明しますか?
メリットとデメリットをお話しして、親御さんに決めてもらうしかありません。ただ、ワクチンの5〜11才におけるデメリットを考えると、その上の世代や20代と比べ、心筋炎の副反応のリスクはむしろ少ないです。
インフルのワクチンと同様、やりたい人はやるということでいいと思います。
コロナワクチン、健康な子どもにはインフルワクチン並みの強さで勧める
——重症となる患者さんを診ている先生でも、強く勧めるわけではないのですね。
重症化はかなり稀です。元気なお子さんに対してはニュートラルに情報を伝えると思います。
リスクの捉え方は人それぞれです。飛行機と同じで稀な墜落が怖くて絶対に乗らないという人も一定数いますが、ほとんどの人は利便性をとって墜落のことなど気にしません。
ワクチンの重大な副反応が起きることはほとんどないと思います。全ての医療にはリスクがあり、リスクが稀であれば多くの人は許容しています。しかし心配する人はそのリスクを大きく捉えます。その捉え方は医師が変えられないところです。
僕が積極的に勧めるのは、移植をした患者さんや大きな病気を持った子どもたちです。保護者から相談を受けることがありますが、強くお勧めします。
重症化のリスクが健康なお子さんと比べて高く、安全性もそれなりに高いワクチンなので、やるメリットのほうが明らかにやらないメリットを上回る、という説明をします。
——先生はインフルエンザでも脳症を起こして重症化するお子さんを診ていると思います。重症化するお子さんはワクチンをうっていない子が多いから、ワクチンを勧めるという医師もいます。
確かにインフルで重症化する子どもはほとんどワクチンをうっていないので、心情的にワクチンを勧めたくはなります。僕はよく「自分の子どもだったらうちますが、決めるのはお父さん、お母さんです」と話します。
コロナワクチンについてもそのように話しますが、リスクとメリットを判断するのは保護者だということは必ず言います。
——やはり麻疹や風疹のワクチンとは勧め方が違いますね。
麻疹や風疹はそれなりに具合が悪くなるし合併症もあるので強く勧めますが、コロナの場合、病気のリスクとワクチンのメリットの立ち位置はインフルエンザに近い。
健康なお子さんの場合、インフルエンザで重症化することはほとんどなく、脳症となると重症ですが、頻度は非常に稀です。コロナもそれに近いと思います。だからこういう説明の仕方しかできません。
難しい子どもの「ワクチンコミュニケーション」
——小児科学会の緊急提言がどう解釈したらいいのかわからない、と言われています。
世界中どこでもそうです。ワクチンのコミュニケーション、特にパブリック・コミュニケーション(公の機関が行う広報活動)は非常に難しいです。
特に子どものワクチンの場合、メリットがはっきりしているものについては強く推奨できます。しかしコロナの場合、特に健康な子どもに関してはどうしてもメリットが弱いです。
確かにワクチンをうてば、感染してもつらい思いをしないで済む可能性が増すし、重症化リスクのある祖父母と一緒に住んでいたら持ち込むリスクを減らせるかもしれませんよとは言えます。
でも、伝播を減らす効果については、麻疹のワクチンほど効くわけではありません。接種していてもまあまあ感染してしまうので、効果を強調しづらいです。
WHOもコロナワクチンの広報メッセージでは苦戦しています。ワクチンは収束のための一つの道具ではありますが、特に子どもに関してはデータが少ないのとメリットが小さいのとで、強いメッセージを出しづらいのです。
ワクチンへのためらいが強い欧米の国では、政府がワクチンについて強いメッセージを出さざるを得ません。何もしないとうたない人が多過ぎるので、「ワクチンをうたないと生活に制限をかけますよ」と強制的に進めざるを得ない。
日本では政府レベルでは「あなた個人の選択です」という広報の仕方ですが、それでもかなりの人がうってくれます。公衆衛生的には最終的に8〜9割がうってくれれば御の字なので、強制なしで達成できればそれに越したことはありません。
子どもに対しても同じようなスタンスで、メリット・デメリットを話して、「うってくれる人が多いほうがいいな」ぐらいのメッセージしか出せないのではないでしょうか。
僕らが診ている重症な子どもはほんの一握りで全体像ではありません。大半のお子さんはそこまで重症化しないことも事実で、公衆衛生的なメッセージでは、それぐらいの勧め方しかできません。
大人はコロナ禍で子どもの生活の質を高める努力を
——感染拡大に不安を抱いているお子さんや親御さんに何を伝えたいですか?
今は感染者が急激に増えているので、たくさんの人で集まることは避けてください。学校などでも感染対策が行われているので、それをしっかり守ってほしいです。
幸いにして子どもが重症になることは非常に稀ですので、必要以上に恐れる必要はありません。
ただ、子どもにとっては、コロナ流行の副次的な被害として、コロナで学校が休校になったり、遠足や運動会などが中止になったりしているのは大きいです。コロナがある中でどうやって子どもの生活の質を高めるかを大人がしっかり考えなければいけません。
感染対策で子どもの対応は後回しにされてきています。「ウィズコロナ(コロナと共に生きる)」中で、子どもがどうやったら幸せな日常生活を送れるか、大人が真剣に考えて環境を整えていく必要があります。
特に教育機会を失うことは子どもの将来に関わります。しかもその影響が見えてくるのは何年も先です。そのダメージを小さくするのも大事です。これも社会全体で考えていかなければいけません。
【堀越裕歩(ほりこし・ゆうほ)】東京都立小児総合医療センター感染症科、免疫科医長
2001年、昭和大学医学部卒業。沖縄県立中部病院 、昭和大学付属旗の台病院小児科、カンボジアのアンコール小児病院、国立成育医療研究センター総合診療部、カナダのトロント小児病院感染症科クリニカルフェローを経て、2010年、東京都立小児総合医療センター感染症科・免疫科 医員、医長に。
その後、2019年、WHOナイジェリア事務所、2020年、WHOのマレーシア、ブルネイ、シンガポール国事務所でワクチン対策、コロナ対策のコンサルタントを経て、2021年、再び東京都立小児総合医療センター感染症科・免疫科医長になり、現在に至る。
専門は小児感染症、国際保健、薬剤耐性対策、ワクチン。