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コロナ禍の影響? スマホで気軽にできるギャンブルにハマる人が増加【2022年上半期回顧】

コロナ禍の巣ごもり需要に乗じて、スマホでできるギャンブルが増えて、それにハマる依存症者が増えていることが明らかになりました。ギャンブル依存症者の支援団体は「ギャンブルが手軽になり過ぎている現状に歯止めをかけたい」と訴えます。

2022年上半期にBuzzFeed Japan Medicalで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:5月26日)


コロナ禍の「巣ごもり需要」もあってか、ギャンブルの世界にも異変が起きている。

スマホのアプリで投票できる競艇、競輪などの公営競技やオンラインカジノにハマる人が増えていることが、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の調べでわかった。

手軽にギャンブルができるようになり、関連企業の宣伝が強まる中、より歯止めが掛からなくなっている状況が伺われる

また、学生時代からギャンブル依存症となると、大学以上の進学者でも約3割が中退する事態となることも明らかになり、早い段階でギャンブルでその後の人生を持ち崩している問題があることがわかる。

同会代表の田中紀子さんは「ギャンブルが手軽になり過ぎている現状に歯止めをかけ、若者の未来を守りたい」と訴えている。

大学以上進学の高学歴な依存症者、3割が中退

調査は記述式のアンケート形式で行われ、同会主催の相談会を訪ねたギャンブル依存症者の家族が答えた。2019年は188人、2020年は169人、2021年は194人が回答した。当事者の年代は20〜40代の働き盛りや子育て世代が多かった。

その結果、大学以上に進学した依存症者313人のうち、中退したのは92人と29.3%がドロップアウトしていたことがわかった。

先行調査でも大学以上に進学した人の3割が中退していることがわかっている。

代表の田中紀子さんはこう解説する。

「もちろん学歴が全てではなく、やりたいことを見つけて大学を中退する人は全く問題ありません。しかし、ギャンブルで大学を中退してしまう人は、ギャンブル依存症を抱えたまま、社会に出ることが問題です」

「優先順位のトップにギャンブルがあるため、就活もおざなりになり、仕事もアルバイトや派遣社員や非正規雇用の道を進むことになります。そして給料を全てギャンブルに使い借金生活に。やがては犯罪や自死に進む可能性も高くなります」

「また若いうちに依存症を発症してしまうと、正規雇用された社会人経験がないためスキルもなく、例えば30代になってやっと回復したとしても、再起がとても難しくなります」

つまり、ギャンブル依存症を抱えての中退は、長期にわたってその後の人生に不利な影響を与える可能性があるのだ。

コロナ禍の影響? スマホでできるギャンブルにハマる人が増加

また、ハマっているギャンブルについて、過去3年間の回答を追ったところ、2021年になると、コロナ禍の影響もあってか、スマホのアプリで投票できる競艇や競輪、野球賭博、オンラインカジノにハマる人が例年の約2倍に増えていることもわかった。

「巣ごもり需要により、公営競技、オンラインカジノといったネットで参加できるオンラインギャンブルの需要が増えています。アプリ業者や業務提携するネットバンクも活発に宣伝し、『ナイターもあって24時間遊べる』と宣伝する業者もあります。これでは依存症になれといっているようなもので、日本の若者達がギャンブルに誘い込まれています」

「どこにいても手軽にギャンブルができてしまいますし、様々な種類のギャンブルに手を出すことができてしまい、一日中ギャンブル漬け。学校や仕事でも本業が上の空になります」

それにもかかわらず、規制はぬるい。

「既存の法案では、オンライン投票を想定した規制がなく、現在ではスマホ決済サービスで公営ギャンブル投票権購入の後払い制度まで認められてしまっている状況です」

借金肩代わりや逮捕の増加も

そのようにギャンブルにハマっていった結果、多額の借金を抱え、家族が肩代わりすることも日常茶飯事だ。

調査では1000万円以上の借金を肩代わりした家族が50人いた。オンラインカジノや投機に手を出すと、借金額が膨れ上がる傾向にあるという。

当然、肩代わりをする家族への影響も大きい。田中さんはこう説明する。

「まず、経済的に困窮します。子ども達が進学を諦めるケース、次の子供を諦めるケース。介護を抱えていたり、子供に障害があったりする場合は、離婚し、生活保護に頼らざるを得なくなる場合もあります」

夫が依存症になると、妻の精神状態が悪くなり、子供に当たってしまうこともある。その結果、子どもの精神も不安定になる。

「夫婦仲が悪くなったり、父親が失踪したりと家庭が落ち着かないため、子ども達にゲーム依存、不登校、リスカ、などの問題が出てくることは頻繁にあります」

ギャンブラーの親にも影響がある。

「横領などの犯罪を犯した場合、親は賠償金の支払いを迫られます。家や田畑を売り払い、数千万円の賠償をしたなんていう話は日常茶飯事です。息子の借金の尻拭いで、親が借金だらけになっていることなどざらにあります。真面目にやってきた田舎の両親が、シェアハウス住まいになったり、生活保護を受けるようになったりしたケースもあります」

「また、当事者が金銭的に追い詰められ、暴力をふるうケースもあります。私が助け出したケースでは、親が家にいられず、車上生活をしていました」

犯罪に手を染めるギャンブル依存症者も増えている。2019年には8.5%だった逮捕率が、20年には10%、21年には13.9%となった。窃盗が圧倒的に多い。

当事者の自死も相次ぐ事態に

ギャンブルによってめちゃくちゃになっていく人生を自分ではどうにもできなくて、依存症者が自死するケースも相次いでいる。

同会では、今年に入って、3月、4月、5月と家族が支援を求めた同時期に、ギャンブル依存症当事者が自死するケースが相次いだ。 こんなに自死が続くのは初めての事態だ。

田中さんはこう訴える。

「ギャンブル依存症問題は、当事者・家族がそれを恥と思い、なかなか声があげられず、見えづらい問題です。ギャンブルによる経済発展ばかりが声高に叫ばれますが、影響は世代間に伝播し、負の社会コストは甚大です」

「にもかかわらず、ギャンブル等依存症に対する予防教育や啓発は予算も少なく、ギャンブル依存症を発症した方々及びその家族に対する支援策は、遅々として進んでいません」

「ギャンブル産業とは依存症問題を生み出す産業です。一部の人の既得権で、多くの若者の未来が奪われ、税金という形で一般の方々に負担が強いられています。ギャンブルが手軽になりすぎ、宣伝が行きすぎることに歯止めをかけ、若者の未来を守って頂きたいです」