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旅行と飲食店営業時間の制限は効くが、テレワークはそれほどでも...... 予測モデルで分析

緊急事態宣言下の各政策は、実際のところどれほど感染者減少に効果があるのでしょうか? モデルを使ってシミュレーションした東京財団の研究者、千葉安佐子さんに聞いてみると、テレワークはあまり効いていないことがわかりました。

飲食店の営業時間短縮、テレワーク、Go Toトラベルの停止など、緊急事態宣言下で取られている様々な政策。

それぞれ新型コロナウイルスの感染者を抑えるのにどれぐらい役立っているのだろう。

そして、緊急事態宣言を解除したらどうなるのか。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

実際の人口構成や行動パターンに近いモデルを用いて、緊急事態宣言下の政策の効果を予測した千葉安佐子さん

実際の人口構成や行動パターンに近づけた集団のモデルを作って分析した、東京財団政策研究ポスト・ドクトラル・フェローの千葉安佐子さんにお話を聞いた。

8都市圏を想定し、移動や接触など現実社会を反映

千葉さんが使ったのは、コンピューターによるシミュレーションモデルと国勢調査のデータを組み合わせたモデル。

現実社会を反映するために様々な要素を取り込んでいったのが特徴だ。

まず、全国国勢調査のデータを元に、家族構成、年齢、性別、都道府県、職業、従事する産業、 職場の規模などの属性の分布を考慮する。集団感染の多くは大都市圏で発生していることから、その中でも感染が多い8大都市圏を再現した。

千葉安佐子さん提供

千葉さんのモデルで考慮した様々な接触の形

人が移動し接触する機会が増えると、感染は広がる。

携帯電話の位置情報データを利用して、どこに住んでいたら、どの範囲を移動するかという確率を反映し、旅行、出張、帰省などの長距離移動も加味した。

ショッピング、外食、観劇など非日常的で不特定の人と出会う接触、特に不特定の人と接触する機会が多い接客業、サービス業の接触も入れ込んだ。

千葉安佐子さん提供

このモデルを使い、政府が緊急事態宣言下で打ち出している政策を目標通りに実行できたというシナリオで、感染者数がどうなるかをシミュレーションした。

飲食店の営業時間短縮で人出は50%減少し、テレワーク可能な人の7割が実施し、長距離移動は90%減少することを想定した。

「例えば、リモートワークできる人のうち7割が実施したとしたら大都市圏でのリモートワークできる人を含んだ接触が平時の28%になると換算しています。そういう風に接触減を計算しています」

東京・大阪発着の長距離移動制限、飲食店の営業時間短縮は効くが、テレワークは比較的、効果が薄い

その結果、各政策が新規感染者を減らすのにどれぐらい役立っているかを示しているグラフがこれだ。

各政策を単発で行った場合を想定して、それぞれの減少効果を見た。

千葉安佐子さん提供

それぞれの政策が新規感染者数の減少にどれほど影響するか示したグラフ。東京・大阪発着の長距離移動や飲食店の営業時間短縮は効果があるが、リモートワークの効果は限定的

一番上の水色の折れ線グラフが何も対策をうたなかった場合だ。それに比べて各対策ではどれぐらい減少に転じるか見ている。

「このシミュレーションから、在宅勤務は他の対策に比べると効果が弱いかもしれないことが1つ言えます。また、出張、旅行、帰省などの長距離移動の制限は、『平時比90%減少』という、昨年の第1回目の緊急事態宣言時に実現したような大幅な減少の場合に、それなりの効果があります」

しかし、長距離移動を全国的に制限した場合と、東京・大阪発着だけ制限した場合であまり効果に変わりはない。

「長距離移動制限は東京、大阪といった大都市に限定しただけでも、それなりに効果があります」

最も減少効果が高かったのは、飲食店の営業時間短縮だった。

「大都市圏での不特定多数の接触を削減しているため、効果が高いことがわかります」

解除後も飲食店の営業時間短縮は必須 

次のグラフは、東京の新規感染者数が250人未満で宣言解除をする場合、どのような段階的解除をすればリバウンドを抑えられるかをシミュレーションしたグラフだ。

2月9日の新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会で提出した。

千葉安佐子さん提供

千葉さんが2月9日の新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会で提出した資料。宣言解除後も、効果の高い飲食店の営業時間短縮は続けるべきだとする

「2月16日ぐらいに都内で250人未満になったとして、そこで宣言が解除されたと想定したシミュレーションです。その後の経路を3パターン考えてみました」

  1. 長距離移動の制限、テレワーク、飲食店の営業時間短縮をいずれも解除
  2. テレワークのみ維持
  3. テレワークと飲食店の営業時間短縮を維持

以上の3パターンだ。1、2では解除後に速やかにリバウンドする。3の場合だけ、横ばいか、減少が期待できる。

「結論から言いますと、飲食店の営業時間の短縮が一番効果があるので、これを解除したら増えてしまいます。テレワークについてはあまり効果はないですが、やらないよりはやった方がいい程度です」

もちろんこのシミュレーションでは、出社した場合の会食やおしゃべりなどの接触のリスクは考慮している。

「それでもテレワークができる職種は就労人口の43%で、全人口の2割ぐらいです。2割の人が努力したとしても、全体に与えるインパクトは限定的になります」

だからテレワークだけ解除後に維持したとしてもあまり効果は見られず、全て解除したパターンと変わりなくリバウンドする。

「営業時間の短縮のみ維持のパターンはシミュレーションしていませんが、営業時間短縮とリモートワークの組み合わせを維持すれば、少なくとも横ばい、うまくすれば減少していくという見通しです」

効果のある長距離移動の維持をあえて進めないのはなぜか?

長距離移動制限も新規感染者を抑えるのに効果があると示しているのに、解除後にこれを続行することに重きを置かないのはなぜか。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

緊急事態宣言解除後も飲食店の営業時間短縮は続けるべきだと提案する千葉さん

各政策の効果を見たシミュレーションは、政府の打ち出した政策を国民がその通りに守ったことを想定したものだった。

「長距離移動制限の効果については全国で9割減を想定しており、4月の緊急事態宣言の時の減少具合がそれに当たります」

しかし、今回の緊急事態宣言ではそこまで厳格に移動を制限している人が少なかった。

「今回の緊急事態宣言では4月のようには長距離移動は減っておらず、5割減ぐらいにとどまっています。そして、解除しても出張や旅行がいきなり元に戻るわけではありません。3割減ぐらいが続くでしょうから、あまり解除の影響は見られなそうなのです」

「1回目の緊急事態宣言の時のデータを見ると、宣言中は9割以上、長距離移動が減っていましたが、解除された直後も7割減ぐらいになっていました。解除されてもすぐには元通りにはならないことを加味して予測しています」

シミュレーションで言えること

以上をまとめて、シミュレーションから言えることは何だろうか。

「まず、様々な政策を比べた結果、言えることは、飲食店の営業時間短縮が一番感染者の減少に効果があるということです。これは少なくとも宣言解除後も維持する必要があります」

「ただし、厳しい時間短縮を続けるべきかはわからないので、どれぐらいの時間短縮をすべきかは今、計算して比較しているところです。午後8時までの短縮を続けるべきか、10時ぐらいでも大丈夫なのか、今はまだ断言はできません」

「テレワークについては、比較的効果は低いです。少なくとも飲食店の時短に比べると効果は限定的です」

また、長距離移動制限については、全国的に制限をした場合と、東京、大阪など主要都市を発着とした制限をした場合と効果はほぼ変わりない。

つまり、全国に制限をかける必要はなく、人口が密集している地域や感染が拡大している地域にターゲットを絞って政策を行うことが重要です。それによって不要な自粛をしなくて済みます

Go To トラベル事業の再開も政府は検討するだろうが、この政策決定に今回のシミュレーションの結果は応用できる。

「人口が多い東京・大阪発着などでGo To政策を制限することは今後も必要だと思います。他の地域ではGo To再開もあり得るかもしれません」

【参考文献】

Modeling the effects of contact-tracing apps on the spread of the coronavirus disease: mechanisms, conditions, and efficiency

マルチエージェントモデル等のシミュレーション クラスター対策の効果

「疫学」と「マクロ経済学」の視点から ―最新論文に見る感染症対策と経済活動維持の最適解とは―

【千葉安佐子(ちば・あさこ)】東京財団政策研究ポスト・ドクトラル・フェロー

東京大学工学部・同大学院工学系研究科卒業後、みずほ証券株式会社・みずほ信託銀行株式会社に勤務(リスク統括部など)。東京大学大学院経済学研究科(博士(経済学)・修士)。2016年日本学術振興会特別研究員(DC1)。東京大学経済学部附属日本経済国際共同研究センターを経て、2020年5月より東京財団政策研究所に勤務。


Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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