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「政府は隠さないで」 新型コロナを普通の病気にするために専門家が提案すること

新型コロナ第7波の感染拡大が続く中、専門家有志から出された出口戦略の提言。どんな内容が提案されているのでしょうか?そして、最終的に方針を決めるのは誰なのでしょうか?

新型コロナウイルス第7波の感染拡大が続く中、政府の分科会や厚労省アドバイザリーボードの専門家有志が出した出口戦略の提言。

現在は特別扱いされている新型コロナウイルスを、通常の医療や保健体制に落とし込んでいくために、5つのテーマでの取り扱いの変更を提案しています。

どのような内容なのでしょうか? そして最終決定をするのは誰なのでしょうか?

この提言を中心になってまとめた神奈川県医療危機対策統括官の阿南英明さんに聞きました。

※インタビューは8月5日に行い、その時点の情報に基づいている。

コロナ患者を受け入れられる医療機関が増えるように

——提言では、新型コロナを一般の病気として扱っていくために、5つのテーマでの取り扱いの変更を提案していますね。

——まず、医療ではこれまでのように、新型コロナの患者や疑い患者を診る時に、マスクやガウンやキャップ、手袋など感染防護策のフル装備を必須とせずに、ゾーニングも病室単位にすることを基本としています。流行当初と比べるとかなり違う扱いですが、それでも危険性はなくなっているのですね。

コロナウイルスの特性がよくわからない、そしてまだ社会全体にまん延していない2年半前に構築した体制が長く継続されてきました。厳重な防護や管理を提供できるなど特別な機能を一部の医療機関に集約する運用で、危機管理として初期には適した仕組みです。

しかし、コロナの特性の解明が進み、オミクロンへ変わり、社会にまん延し、ワクチンや治療薬も手に入った。こうしたウイルスと人類の関係の変化を踏まえて、感染管理の仕方ももっと柔軟にすることで、コロナ患者を診る医療機関が増えていく突破口になるのではないかと思います。受け皿を増やす努力はやはり必要です。

これまでは、コロナを診る医療機関を限定し過ぎていて、その一部の医療機関にばかり負荷がかかっていました。逆にコロナを診ない医療機関は一切やらない状況です。

それではコロナが一般の病気になりません。「コロナ対それ以外の病気」という二項対立になっていますが、より多くの医療機関で診られるようにしてそれを解消しようということです。

健康観察、濃厚接触者の指定...... 保健所対応を必須にしない

——保健所・行政対応については、7波で既に感染者が多過ぎて飽和状態になっていて、実質、健康観察や濃厚接触者対応ができなくなっていますね。その実情に合わせて、保健所は重症者対応だけして、他の感染者や濃厚接触者は自分で主体的に判断して、対応するという形に変えるわけですね。

地方と都市部では少し状況が違います。今も全ての陽性者に対してとことん保健所が対応している地域はあります。それは否定できません。

一方、感染者の多い都市部はとっくに対応できなくなっています。

そこは地域の実情に合わせて、選択しながら対応してほしいです。やりたいところややれるところは続けていただいても構いませんが、やれないところは堂々とやれないと言っていい、としたのです。

それだけウイルスが広がっているからです。焚き火に霧吹きをかけるようなことを続けるのではなく、状況が変わったのなら作戦は変えなくてはいけません。他にやるべきことが山ほどあるのですから、保健所にはそちらを優先してやってほしいということです。

全数把握をやめて、新しい調査方法を

——テーマ3では、これまでのような感染者の全数把握をやめて、新しい調査方法を導入するように提案しています。コロナは変異を繰り返して、その度に対応策も変わってきたわけですが、大きく性質が変化し得るウイルスを相手に、全数把握をしなくて大丈夫なのですか?

全数把握しない、と言っているわけではなく、全数把握の方法がまずいと言っているのです。

これまでは医療機関が入力する発生届で全数を把握していました。「HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)」というシステムで行っているわけですが、発生届にさまざまな情報をくっつけ過ぎです。その入力作業が医療機関や保健所の業務を圧迫しています。

だから、発生届と全数把握を切り離す。

発生届は本来、保健所が患者を診断した医療機関から情報をもらって調査をするための届けでした。しかし、その後のいろいろな情報を紐付け過ぎています。それを切り離す。

全数把握したいなら、検査から持ってくればいいのです。何件検査して、何件陽性でしたと検査会社からデータをもらえばいい。数だけなら、発生届と関係なく手に入れることができます。

——別の数え方で、全数把握は維持するということですか? サンプル調査ではなく?

各地域の患者発生の傾向(増えているのか減っているのか)を調べたいならそれでもいいです。

他にも方法はあります。下水から感染状況を調べる方法もあるし、決まった医療機関の感染者だけを集めて全体数を推測する定点調査でもいい。

インフルエンザもRSウイルスも全数は報告されていませんが、流行状況はわかります。

——しかし、それではウイルスは変異するわけですから、病気の特性などがわからなくなるのでは?

いきなり切り離してしまえばそうです。だから、新しい調査システムをすぐに立ち上げてほしいと言っているのです。下水調査にするなり、定点調査にするなり、または特定の県のデータを日本全体の状況を見るのに使ってもいい。一方入院患者の情報から疾病特性は把握するなどです。

そもそも今の日本の数え方は患者数がごく少数の場合に有効な方法で、蔓延している時のやり方ではありません。既に蔓延してしまったのですから、感染者が少ないことを前提とした仕組みを続けるのはおかしい、ということです。

本当は発生届けと、サーベイランスの仕組みは別にしておくべきでした。これまで作ってこなかった国の責任です。

そもそも今の日本のデータは正しくありません。もう既に追いきれていません。やっているふりはもう止めましょうということです。

抗原検査キットの流通は国家プロジェクトにすべき

——高齢福祉施設も病院と同じく、部屋単位でゾーニングして、重症化しない限り施設内で療養することにしていますね。クラスター発生を防ぐために、職員に積極的に抗原検査を使うことが盛り込まれていますが、この抗原検査キットがなかなか手に入らないことが問題になっています。

抗原検査キットを提供できるような体制を作るのは国家プロジェクトです。国がちゃんと責任を持って進めるべき施策です。

ワクチン担当大臣ができたように、国家の最優先課題として取り組むべきでしょう。

検査キットはものがないわけではなく、流通網が脆弱なのです。だから必要な人に届かない。

——インバウンド対策も必要以上の制限をかけないように変えていくということですね。

そうです。社会経済活動の活発化で海外の方がたくさん来ますが、この人たちが感染したときにどうするのか。国民の対応でも逼迫しているのに、海外から来た人への対処を今のまま行政や医療に負担させるのは無理です。

コロナ治療、重症者や高い治療は公費負担のままで

——さらに、みんなが気になっているのが、コロナを一般の病気と同じ取り扱いにすることで、これまで公費負担だった治療費が保険診療になって自己負担が出てくることです。経済的に苦しい人は治療ができなくなる事態も心配されますが、「重症者は公費負担」「高い治療薬は公費負担」を提案していますね。

元々、「不安払拭と社会の受け止めはどうなるか」というタイトルにしていました。国民の不安にどう配慮するかは、こだわっていた部分です。

保険診療にしても、一定の金額以上は自己負担が免除される「高額療養費制度」があるのだからいいのではないか、という声もありますね。

でもこれまで公費でまかなっていた治療費が、保険診療になったら国民は不安になるはずです。国民を不安に陥れるようなことはしない方がいい。「私は受診できなくなるかもしれない」と不安に感じるような制度にしてはいけません。

コロナ治療の薬は本当に高いのです。抗ウイルス薬のレムデシビルを投与したら、40万円です。外来の飲み薬も高く、1粒数万円です。それを保険診療に変えられたら、困る人が必ず出てきます。

だから治療費の部分は国が面倒をみます、とした方がいい。

それと連動する話で、現在、2類相当の位置付けの新型コロナを、単純に感染症法上の5類の感染症に持っていくのは難しいかもしれません。

——治療費のあり方も含めて、これまでの感染症法上のカテゴリーに当てはめるのが難しいとしたら、新型コロナに特化した分類を新設することが必要だということですか?

提言では何類にすべしとは言っていません。感染症法の分類に関わる各措置などの項目があるので、一つひとつコロナが合うのか否かを検討するのでしょう。

その上で必要だったら作ったらどうかということです。ピッタリの分類がないからです。5類に合わないのだったら、別の箱を作ればいい。または5類にしてプラスアルファの制度を立てるかです。その二つの方法しかないと思います。

——新型コロナについては別の箱を新設した方がいいかもしれないのは、やはり特別な病気であり続けるわけですか?「インフル並みに」という言葉も広がっていますが。

コロナが特徴がある病気であるのは間違いないです。今後は、統計で見たときに、数の多い病気の上位としてランキングされ、死亡者の多い病気としてランキングされるようになるのでしょう。埋もれるのではなく、名前が出続ける病気として生き残っていくのだと思います。

コロナという病気を肌感で理解することが必要

——提言を発表した記者会見で、尾身茂先生が「主人公が国から国民に移っていく」と話していました。自力で対応できる病気になるのが理想ですが、とはいえ、今のように感染拡大している時も飲み会をしている人もいます。国民が主体的に行動をとって主人公になれる条件は整っているでしょうか?

実体験に基づいて、身につけていくしかないところはあると思います。感染対策が体に染み込んでいなくてはダメです。頭ではわかっているけれど、体がついてこないようなことはいっぱいある。今はそんな感じなのだと思います。

肌感で理解していることは重要です。

居酒屋は開いていていいし、飲みに行っていいし、食べに行っていい。ただ、「自分はコロナに感染したくない」と思った時に、居酒屋に行ってどういう行動を取るかです。

どういう食べ方をして、どういう飲み方をして、どういう店を選ぶのか。それが、この提言で訴えている「感染拡⼤を招かない⼀⼈⼀⼈の主体的⾏動の涵養」です。

押し付けではもう無理です。我々はもう十分な時間をコロナと共に過ごしてきました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置のような行動規制はもう有効ではないと思います。感染する場所は飲食店だけではありません。

——感染対策が体に染み込むには何が必要だと思いますか?

体験も必要なのだと思います。これまで、まだ感染していない人の方が圧倒的に多いわけです。でも第6波、第7波でウイルスが身近なものになってきたはずです。

自分も、家族も、友達も感染した、となる中で、この病気はどういうものなのか国民の皆さんは体感でつかんできつつあると思います。この病気の「軽症」のイメージもかかって初めてわかるところがあるでしょう。想像よりも苦しいんですよ。

医学的な「軽症」は、「死なない」というだけです。死なないけど、死にそうにつらかったり、罹患後に症状が残る場合もある。これがコロナの特性なのかもしれません。

こうした病気だから鼻をすすりながら職場や学校に通い続けるのはきついです。感染する人が多いと学校も職場も止まってしまいます。

実際、都内でバスの運休が起きました。皆が困ることになるわけですから、こうした特性を身近なものとして捉えて、じゃあ自分はどうしようと考えていく。自ずと行動に変化が生まれていくのでしょう。

それが3年目の状況なのでしょう。

もちろんメディアも皆さんに伝えてほしい。

そして、国がダンマリになっていないか、という問題もあります。ものごとは良い面だけではありません。昔のようにがんの人に告知をしないようなやり方ではダメです。それは患者にとって幸せなことではない。大切な残り時間を使うチャンスを奪います。

良い面も悪い面も正確な情報を伝えて、国民が生き方を選択する。そこまで持っていかないといけません。

政府と専門家のズレ「騙し討ちはするな」

——今、国の関与について触れましたが、ここにきて政府が濃厚接触者の待機時間を短縮したり、高齢者の外出自粛を要請したり、科学的根拠に基づかない政策を打つことが増えました。専門家からも違和感が示されていますね。

不思議です。濃厚接触者の待機時間短縮については、専門家はみんな驚いています。何の相談もなく騙し討ちのように出されたのに、「専門家のご意見もいただいて決めました」と言い切る。

政府が決めるなら決めていい。政策は専門家が決めることではありませんから。僕ら専門家は国民の負託を受けていません。

ただ、政府には決める権限と共に、説明する責任もあります。そこが欠落している。嘘をつかずに、説明すればいいのです。「今は社会経済を回していくことを優先するから、科学的根拠はないけれど短くします」と言えばいい。

——今回の提言でも、濃厚接触者は7日間は行動に気をつけるように4つの基本行動を書いています。これは政府の打ち出した方針への反論ですか?

  1. 就業・就労時には、可能な限り抗原検査キットを活⽤して陰性確認する
  2. 感染を広げやすい⾏動を避ける
  3. 発症(軽度の症状でも)したら必ず外出・活動を控える
  4. ⼈と接触する場⾯では必ず不織布マスクを装着する

国が短縮したものは仕方ないので、こういう書き方をしています。政策決定を変えろとは言えません。

政府が出したものを前提として、感染している可能性のある7日間は人にうつす危険があるから、その期間はこういう注意を守ってくださいと伝える。それが専門家としてできることです。

——この提言を受けて、政府は何か具体的に動いていますか?

発生届の書き方や健康観察を簡略化する通知が8月5日に出ましたね。重症化リスクの低い65歳未満の人は5項目だけ書き込めばいいことになりました。

どういう社会にしたいのか、みんなで議論しよう

——ワクチンは3回目接種から時間が経ち、4回目接種もまだ進んでおらず、子供の接種率は非常に低い状況です。感染者をグッと減らして、ワクチン接種を進めて死亡者や重症者が減らせるタイミングで、出口戦略を始めるべきではないかという意見もありますが、どう考えますか?

でも、現在やれていなくなっている破綻した仕組みをどうするのか、と問いたいです。

制度を設計して、運用している立場からすると、制度破綻しているのにいつまでやるのかと思います。やっているふりは最悪です。意味がない。実情に合わせた制度の転換をするのに時間的猶予はなかったと考えています。

——もし今後、とんでもない変異ウイルスが出てきて、デルタよりも重症化率が高い、となった場合、一度転換した制度をもとに戻すことは可能なのですか?

とんでもないウイルスが出てきたら、3年前にまた立ち戻るしかありません。あの当時も急遽、法の位置づけを決定して、体制を構築したのですから、そのウイルスに合わせた対応を取るしかないですね。

——最後に一般の人に、この提言に関してどういう協力を求めているかメッセージをお願いします。

見聞きしてきたことを含めて、皆さんはもう新型コロナに関してはたくさんの経験を積んでいるはずです。このウイルスはどういうもので、私たちはどうなるのか。社会はどう対応していくのか、朧げながら皆さん感じているのだと思います。

現実とかけ離れた都合の良い形はなかなかないかもしれません。現実を見て、プラス面とマイナス面の両方が併存することを踏まえて、私たちがどの道を選択するのか模索しなければいけません。どうか一緒に考えてほしいです。

我々も考えます。でも、どういう社会にしたいのかは、みんなで考えなければいけません。さまざまな意見が出てくる中で、社会全体としての答えが見つかるはずなので、まずは意見を言ってください。

そのための情報提供を専門家もするし、国もしなければいけません。

緊急時は我々で道筋を作りましたが、出口に向かうこれから先は、専門家や政府がああしろこうしろというべきものではありません。国民の皆さんが賢く判断できる国だと思います。

それを考えるタイミングになったのです。みんなで議論しましょう。我々専門家は、国民が選んだ方法に対してアドバイスしたいと思っています。

(終わり)

【阿南英明(あなん・ひであき)】神奈川県理事(医療危機対策担当)/医療危機対策統括官、藤沢市民病院副院長、東京医科歯科大学医学部臨床教授

新潟大学卒。横浜市立大学救命救急センター、藤沢市民病院救命救急センター長・救急科部長などを経て、2019年、藤沢市民病院副院長。20年、神奈川県健康医療局医療危機対策統括官。21年、神奈川県理事(医療危機対策担当)。

2021年より、厚労省新型コロナウイルス感染症アドバイザリーボード構成員。