• covid19jp badge
  • medicaljp badge

5〜11歳のワクチン「努力義務」課すか、結論出ず 妊婦に努力義務は合意

5〜11歳にファイザー社のコロナワクチンを臨時接種とすることが厚労省の審議会で合意されましたが、「努力義務」を課すかどうかについては意見が割れました。今は外されている妊婦への「努力義務」は、新たに課すことで概ね合意されました。

厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(会長=脇田隆字・国立感染症研究所所長)が1月26日開かれ、5〜11歳にファイザー 社製の新型コロナウイルスワクチンを公費でうつ「臨時接種」に位置付ける方向で合意した。

ただ、この年代の子どもに予防接種を受けさせるよう必要な措置を講じる「努力義務」を保護者に課すかどうかについては意見が割れ、結論が出なかった。引き続き議論を続ける。

一方、ワクチン導入当初は安全性や有効性を示すデータが乏しいとして努力義務が外されていた妊婦に対して、その後、知見が積み重なったため、改めて努力義務を課す方向で合意した。

5〜11歳を「臨時接種」に位置付けることや妊婦に努力義務を課すことについては、次回、正式に諮問され、了承される見込み。

家庭内感染から幼稚園・保育園、学校での感染へ 長引く症状も

この日は小児科学会の予防接種・感染症対策委員会担当理事を務める森内浩幸・長崎大学教授が参考人として意見を述べた。

森内教授は、オミクロンの流行で、子どもの感染場所が家庭内から幼稚園・保育園、学校へ変化していることを学会の登録データから紹介。「保育士や幼稚園の教諭が、今の流行の中心である20〜30代であることが要因になっているだろう」と分析を述べた。

感染から1ヶ月以上経っても長引く症状が2.7%の子どもに出ていることを示し、通園・通学、通院などの社会生活に影響が出ている可能性があるとした。

また子ども特有の重い合併症である「⼩児多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)」が、これまで感染者の51人で見られ、2割強を5〜11歳が占めることを報告した。

ただ、アメリカと比較して、日本ではこの年代での感染者数や死亡者数は低いことから、子どもの病気としての負荷は小さいと説明。

アメリカではファイザー社製のワクチンの利益の方が不利益より大きいと判断して推奨しているが、日本では合併症である「⼩児多系統炎症性症候群」は少なく、オミクロンに対する感染予防効果も限定的であるとした。

アメリカのデータでは、懸念された副反応である「心筋炎」の発症は12〜24歳の10分の1程度でいずれも軽症。約870万回の接種後の報告でも97.6%が深刻な症状はなく、深刻な症状は発熱に次いで嘔吐が多かった。

こうした知見をもとに、学会は、子どもを新型コロナから守るためにはまず周囲の成人がワクチンを接種することが重要とし、基礎疾患のある子どもに対しては「重症化を防ぐことが期待されます」と推奨していることを説明。

健康な子どもについても「12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種と同様に意義があると考えています」と肯定していることを伝えた。

森内教授は、委員からの「12歳以上の健康な子どもと同様に、5〜11歳の健康な子どもに対してもワクチン接種に十分なメリットがあると捉えていいのか?」という質問に対し、こう答えた。

「今のワクチンに感染予防効果があまり期待できないことを考えると、この子らにどんどん接種しても今のオミクロンであれば流行の拡大を抑えることにつながるかは疑問がある。ただ、今のワクチンによって少なくとも重症化を防ぐのにつながるのであれば、基礎免疫を(つけるのを)急ぐという考え方もあると思う」

「今のワクチンで、今のオミクロンの流行の中で、今出ているデータで、強く推奨するということではない。5〜11歳、12歳以上の子どもはメリットがデメリットを上回る中で『意義がある』という説明に留めている。今後もっとデータが新たになれば推奨の度合いは変わってくることになる」

5〜11歳の「努力義務」どうする? そもそも努力義務とは?

このワクチンを5〜11歳で「臨時接種」にする方向性については合意された。

5〜11歳の接種に対して、「努力義務」を課すべきかどうかも議論された。

予防接種法の「努力義務」とは、新型コロナワクチンのような「臨時接種」について、「受けるよう努めなければならない」と接種を促し、16歳未満の場合はその保護者に予防接種を受けさせるために必要な措置を講ずるよう努めさせる規定だ。

脇田会長は、まず「努力義務」の意味について説明した。

「臨時接種は『接種勧奨』と『努力義務』が前提となっていて、公費負担とセットの枠組みになっている。努力義務は蔓延防止のために接種を受ける努力をするということで、接種を受ける義務ではないと共有しておきたい」

「努力義務によって接種しやすい環境が整備され、保護者が接種に付き添う時に休みやすくなる。情報提供をしっかりし、市町村や県、国が予防接種を実現するために公的関与をすることができる枠組みだと理解している」

釜萢敏・日本医師会常任理事は、「『努力義務』という名称が平成6年の法改正のときに出てきた時は、それまでの『義務接種』で罰則もあるような規定が大きく転換された。本人や保護者の判断で接種しない判断も確保できる、というのが法改正の趣旨だ」と説明。

「努力義務は、受ける人が接種の選択をできるという意味で使ってきた。一般に『義務』という言葉に対する拒否反応があるのだろうと思うが、元々はそういう趣旨だ」とし、「現在までの状況を総合的に判断すると、小児に対して接種勧奨して、努力義務として、しっかり行政が関わった形で接種する」ことを求めた。

伊藤澄信・国立病院機構本部総合研究センター長 は「『努力義務』がないことは、うつ必要がないと捉えられるイメージがある。国民の方々へのメッセージとして、うつ必要がないと捉えられないためには、『努力義務』とついた方がいいのではないか。それによって、保護者がうつことを決意した子どもを接種会場や小児科医に連れて行くことが容易にできるのではないかと思います」と述べた。

鈴木基・国立感染症研究所 感染症疫学センター長は「公衆衛生上の意義からすれば、5〜11歳の接種の推奨の強さを、12歳以上と比べて温度差をつける必要があるかについては疑問を持っている」とした上で、

「オミクロンに対する二次感染を予防する効果、発症予防効果、重症化予防効果に関するエビデンスが限られているのは、子どもだけでなく、成人、高齢者でも同様。高齢者、成人が努力義務という状況ならば、小児でも同様になるのではないか」と、成人と同じ扱いを求めた。

「努力義務」を課すことに懸念の声も

一方、努力義務を課すことに疑問の声も相次いだ。

保護者たちに聞き取りをしたという 日本医療受診支援研究機構理事の阿真京子参考人は、「元気な子どもがいる親御さんで今うちたいという人はいなかった。『様子を見たい』という声ばかり。うちたいと話す子はいた。一方で、持病のある子の親は『3月でも遅い』『一刻も早く』という声をあげている」と紹介した。

その上で、「うちたくないという気持ちは尊重したいし、それと同様に数は少ないけれどもうちたいと思う人の気持ちも尊重すべきだ。努力義務ではなくていい。努力義務にする必要はないが、希望する人が接種する仕組みを作ることが必要だと考える」と訴えた。

森内教授は「個人の見解で、小児科学会の見解ではないが」と前置きし、「目的をきちんと示すべきだ」と発言。

「どういう人がハイリスクであるかを提示して、その人たちに接種していくために必要な準備をする。そのために接種義務という言葉を使わなければいけないならそれでも構わないが、どんどん接種することによって社会の流行を食い止めることができるのだと盛り込むと、うたない子どもがいじめの対象になることにもつながる。科学的にも正しくない」

そして、「ハイリスクの子どもを抱えている保護者では『3月まで待てない』という声が確かに上がっている。本当に待ち望んでいるところに一刻も早く接種することを最優先にすべきであり、それ以外のところは希望する方に滞りなく接種ができるような体制を整えることで次に進んでいくべきだ」と訴えた。

磯部哲・慶應義塾大学法務研究科教授は「小児については努力義務とするだけのデータが十分あるのか問われなければいけない。話を聞いている限り、データが集まるのを待つ方がいいのかなという気もするが、専門家に聞きたい」と語った。

佐藤好美・産経新聞社論説委員は、「努力義務をかけることにはためらいを感じる。蔓延防止に資するためにはかなり接種を広げなければならず、そのような根拠があるかはなかなか難しいところではないか」と発言。

一方、「努力義務をかけなかった場合のアナウンスメント効果は懸念を覚える。努力義務という言葉に多くの人が誤解も含めていろいろなイメージを持っている。分科会が努力義務をつけなかったときに、あたかもお勧めしない、と受け取られるのは分科会の本意ではないと思う」

「努力義務をかけることによって環境を整えることができたり、保護者がワクチンを受けに行ったりすることがより気安くなるのは大きな効果。そういった部分は大事にしなければならない」と外すことに対する懸念も述べた。

5〜11歳に努力義務を課すことについては、委員の間で意見が分かれたため、次回以降も引き続き議論することになった。

妊婦に努力義務を課す方向で合意

また妊婦に対するワクチンについては、各国で接種を推奨している現状が報告された。

妊娠中にコロナに感染すると中等症から重症になるリスクは、妊娠していない人より高いというデータが示された。

また、妊婦に対する2回接種後の感染予防効果は96%、発症予防効果は97%、入院予防効果は89%と高い有効性も示された。

安全性についても、副反応の発生率は妊娠していない女性と同様であったデータが示された。

さらに胎児へのリスクについても、早産や低出生体重児のリスクはワクチンを接種していない女性と比べて変わらなかった。

森内教授は、妊婦について「安全性はしっかりしているし、妊婦はインフルエンザほどではないが重症化し、早産のリスクもある。(ワクチンをうった母体から胎児への)移行抗体によって生まれてきた赤ちゃんを守る効果も期待される。この状況にあっては強い推奨をしていくスタンスだと思う」とした。

釜萢委員も「妊婦についてエビデンスが揃うまでということでペンディングにしていたわけですから、今回はきちんと決断して接種勧奨と努力義務と整理するのが良い」と述べた。

妊婦に関しては努力義務を課すことに他の委員からも異論は出ず、この方向性が了承された。