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「家族と密になるのが苦痛」「感染が怖くて引きこもりに」 どうしたらいい?

新型コロナの流行で精神的につらい思いをしている人の質問に、精神科医2人が答えていく対談イベント。「家族と密になるのが苦痛」「感染が怖くて引きこもりに」と、様々な悩みが寄せられました。

新型コロナウイルスの流行で、人と人との距離をとることが感染対策に必要になり、つながりが持ちにくくなっています。

NPO法人「地域精神保健福祉機構・コンボ」主催のメンタルヘルス講座「こんぼ亭」で行われた対談「コロナ孤立で人とつながれない! どう生きていくのか考えるの詳報3回目からは、開催中に寄せられた質問への回答です。

こんぼ亭の亭主を務める精神科医の市来真彦さんと、松本俊彦さんが、依存症の自助グループのミーティング会場の探し方など、お役立ち情報も交えて話します。

家族と密になるのが苦痛

市来 さて後半は、前半のトークショーをご覧になった皆様から「今」いただいたご質問に応えてゆきますね。

1つ目は、「交代できる支援者と違い、家族は距離感を保つのが難しい。普段いないはずの父親が在宅勤務で毎日長時間顔を合わせるのが苦痛。そんな娘を見ています。外で発散するのも難しいこの時期、何か良い案はないでしょうか?」というご質問です。

松本 このケースは診察室で若い患者さんを診ていてすごく感じます。ステイホームと言いながら、家の中がめちゃくちゃ密になっているのですね。これは家族それぞれが逃げ場を作らないといけないなと思っています。

少し近くのカフェに行ったりする。4月の緊急事態宣言の時はカフェも休みになっていたので、本当に逃げ場がなかった。だけど今はそうじゃありません。大人たちもちょっと外出する時間を作るべきだと思います。

日本の住宅事情でなかなか難しいですが、リビングのようなみんなが集まる場所にお父さんがパソコンを開いてテレワークしていると、家族は結構大変なのですよね。だからできれば自分の部屋に籠ってほしいなと思います。

しかし、自分の部屋を持っているお父さんも少ない気がしますので悩ましいですね。

もう一つ、ご家族が自分たちのサポーターを持つようにしてほしいです。今は家族会もリアルに集まることが難しくなっているかもしれないけど、オンラインで集まれたらいいなと思います。

ただ、その時に、安心して精神障害当事者への愚痴や文句を安心して話せる場所が家の中にあるかどうかも気になります。カフェやホテルが日中安く使えることができるならば、そういうところを逃げ場にするのもいいと思います。

ミーティングはどう探す?

市来 次のご質問です。「支援者です。依存症のグループやダルクや断酒会、アラノンなどではオンラインを活用しているところが増えているのでしょうか?どのように調べたらわかりますか」というご質問です。

松本 コロナ禍でオンラインのミーティングは増えています。ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)のホームページを見てください。その中でオンラインミーティングの情報も集まっています。

アルコール、薬物、ギャンブル、摂食障害もミーティングがありますので見てください。問題はリアルの支援ですが、4月、5月まではダルクは通所利用は停止していました。今は少し時間を制限して、半日だけという形で通所利用できるようにしているところがほとんどだと思います。

ミーティングは一時期は全面的な閉鎖だったのですが、今はちょこちょこやっています。頑張って隔週1回はやろうというグループもあります。アルコールなら、AAのセントラルオフィスのサイトへ、薬物依存症のNAもセントラルオフィスのサイトがあります。ギャンブル依存症のGAのサイトもあります。

話を聴き続けて疲れてしまう場合は?

市来 続いて「病院内で誰かとつながっても、相手が境界性パーソナリティ障害の方やそれに近い方だと、振り回されたり話がエンドレスで疲弊したりして、距離感を保つのが難しいです。主治医や看護師には言えないという秘密もこぼされました。うまく付き合う方法は?」という質問です。

先ほど、私とトシちゃんはみんなに愚痴を言うのがいいと話しましたが、病的にそういうことを話す方は、逆に聞く方がつらくなることもあります。そういう時の断り方や、そうなった後の自分の気持ちの処理の仕方をお願いします。

松本 最初に自分の限界を伝えておくことが必要だと思います。「今、何分ぐらいなら話が聴けるけどいい?」と言って、最初に限界を説明しておく。途中で切るよりは最初に言った方が親切だと思います。

チームで診ているということを本人にもあらかじめ伝えておかなければいけないし、実際、チームで診てほしい。そういう面接であったことを、後で吐き出す場所も必要だと思います。

本人が「先生や看護師さんには言わないで」と言った場合、「チームで診ているから、必要な情報だったら共有せざるを得ないのだけどそれでもいい?」という風に断りをいれるのも大事だと思います。他のスタッフが知らない秘密を自分一人だけが知った時に、それが原因でチームの分断が起こることもあります。

だから先回りして、「言ってくれるのはすごく嬉しいのだけれども、あなたの治療上、大事な問題なら、仲間と一緒に診ているから」と言っておくのは、自分の身を守る、自分を長もちさせるスキルとして大事だと思います。どうでしょう?

市来 今、トシちゃんはチームスタッフの方が相談したと想定したのですね。私は仲間同士の場合だったらどうかを考えてみました。

ピア(仲間)の場合だと、いきなり話しかけられても、事前に5分とか10分の限界設定ができないと思います。話を聞いていてきついと思ったら、「用事があるからあと3分ぐらいでいい?」と途中で限界設定することも考えました。

あとはお話を聞いてつらくなった時には、「自分もつらくなっちゃった」と正直に言った方がいいと思います。具合が悪くてそんな風にする人なら、また次の人にも同じことを始めてしまう可能性があります。

私も不安の強い職員の話を30分聞いたのに、別の人が来たら私にした話をそっくり始められたことがあり、私の30分は何だったのかと思ったこともあります。黙って話を聴き続けることが必ずしもいいことではないという体験をしたのです。

そういう特徴があると思うので、2回目以降は事前に「今日は5分しか時間がないけど」と話を聞くのがいいと思います。スタッフは情報を共有するのが大事です。聞いたあとでこれは1人で抱えきれないとお伝えするのがいいと思いました。

感染が怖くて引きこもりに

市来 次の質問です。「感染予防の意識が低いと感じる相手にそれを指摘しづらかったり、言っても気にするなよと言われてしまったりすることで、現実的なストレスと恐怖感を感じることが多いです。どうしたら良いでしょうか?」

松本 そういう人いますよね。診察室でも礼儀だと思ってマスクを外して話す患者さんもいるのです。僕は率直に言います。「ごめんね。マスク着けて」ってお願いすることが大事だと思います。率直なのがいいと思いますけれどもね。

市来 私も同意見です。

続きまして、「60代のお兄さんが退職後、コロナに感染しないか不安で、家から出なくなって引きこもりになっています。精神科を受診したことはありません。病院の受診を勧めますが、本人は抵抗があるようです。どう対応したらいいでしょうか?」という質問です。

松本 病気かどうかわからないですが、退職後に怖くなったのですね。無理に出させることはよくないけれども、たまに外出で一緒に散歩を勧めるのはどうでしょう。感染防止対策をきっちりとって。

ずっと家の中にいて、動かなくなっていくと体力の低下も起きます。そちらの方が心配です。運動しましょうということで誘い出してはいかがでしょうか?

市来 私も同じように考えています。ステイホームと言われていますが、4月、5月の時も外に出て運動するのはいいと言われていました。1日1回のジョギングや散歩は構わないから、それ以外の時間はステイホームしろとヨーロッパでも言っています。

一人でいる時にマスクはいらないそうです。ジョギングする時にはマスクをしなくていいし、外に出て発散させる時には苦しいからマスクをしなくてもいいと思います。

酷い医療支援者に当たってしまったらどうしたらいい?

市来 元支援者で、現在も支援している当事者の方からの質問です。「孤立している方の相談があります。田舎なので医療従事者の酷い対応もよく聞きます。社会資源や人的資源も限られていますがなんとかしたい。当事者としてはつながることが大事だと思いますが、医療関係者に働きかけるにはどうしたらいいでしょうか?」

松本 これは本当に難しいだろうし、地方の場合はなかなか新しい支援の情報も入ってこないと思います。

でも、コンボの活動などを通じて、いろんな地域の当事者や支援者とつながって、地域の中で啓発的なフォーラムを開くことでその情報を外に出していったらどうかと思います。

地方からこんぼ亭に参加することにはそういうメリットもあるでしょう。僕ら支援者も当事者の変化や新しい主張に最初は抵抗があるとしても、必ず耳を傾けてくれる支援者はいると思います。

市来 酷い支援者に遭ってしまった場合は、諦めずに別の支援者を探す。

松本 その支援者には見切りをつけるけど、別の人が必ずいると思います。「こころの元気+」(コンボが賛助会員に届けているメンタルヘルスの雑誌)を置いている医療機関はきっといいと思いますよ。

市来 ありがとうございます。宣伝をしていただいて。ではせっかくですので、もう1回こちらも(と松本さんのDVDを「こころの元気+」の上に置く)。

松本 いやいやいや(笑)。これ売れても僕のポケットに利益は入らないので(笑)。

市来 そうですか(とすぐ引っ込める)。

統合失調症に薬物問題も重なり、支援とつながらない場合は?

市来 次のご質問です。「統合失調症の子どもが近く退院します。退院したらまた薬物を使うと言っています。病識(自分が病気であるという意識)が薄く、具体的な支援先を勧めてもつながろうとしません。親としてどう対処したらいいでしょうか?」。シビアな話ですが、いかがでしょうか?

松本 日々の普通の生活の中でどういう風にしていると本人が機嫌が良くて、どういう風にすると対立的にならずにうまくやれるのか。生活をうまく進め、コミュニケーションを良くする工夫をまずやってみたらどうかなと思います。

そうしていくうちに、「あなたのこういうところにすごく困っているのよ」という言葉を本人も聴けるようになってくれると思います。いつも説教とか病院に行けとか薬飲め、ばかり言われていると、親と話すこと自体が嫌になるような気がします。

病状が不安定でも、コミュニケーションを取れるようになる時はあるような気がします。

市来 私の専門は統合失調症ですが、統合失調症に加えて薬物ということになると、なかなかうまい方法が思いつかないなというのが正直なところです。

トシちゃんがおっしゃったように、最初から解決を求めない。薬物関係の支援も人と人とのつながりです。統合失調症はお持ちでしょうけれども、ご本人と話をすることができる人が1人でも増えることが大事です。

1人はご家族だと思います。そこから病院の方も含めてつなげていく。まさにコミュニケーションを取れるということが大事だと思います。少なくともコミュニケーションを取れる間は薬をやることはないですね。

松本 そうですよね。一つ、薬の問題について追加します。ご家族がサポーターを持ってほしいのです。精神保健福祉センターの薬物の家族教室とか個別相談につながってほしい。

本人はつながっていなくても、依存症の治療ではむしろ本人がつながるのは後の方なので、かなり長い間、家族だけが相談している期間があります。

それから、統合失調症の症状があって薬物の問題がある方は結構悩んでいます。統合失調症の症状を良くしようと思って薬を飲んでいることがあるので、そういう意味でつらいのだろうなとは思っておいてあげてください。

田舎で支援につながれない場合は?

市来 次は臨床心理士の方からです。「田舎に住んでいます。田舎だと気軽に相談できる場所が少ないため、支援につながる人が少ないのではないかと思います。何ができるかご助言ください」

松本 田舎だと社会資源が不足しているので、支援になかなかつながることができないということですかね。地域の精神保健福祉センターは、「あそこの先生は診てくれるよ」とか、「あの先生は昔こういうことをやっていたみたい」という情報を持っています。

もしよければ、1回聞いてみる。試す価値があるかなと思います。

市来 情報源がすごく大事ですね。また、どうしても専門家というと支援者に限定されがちですが、隣の家の話を聞いてくれるおじちゃん、おばちゃんだったり、専門家ではなくてもみんなが集まる場所があったりするかもしれません。

あまり限定しないでつながりを広げる場所があるなら、そういうものをシェアしていくのも一つの形かなと思います。

うつと対人恐怖症があるけれど、つながりを主治医以外にも作るべき?

市来 「うつと対人恐怖症で通院しています。主治医としかつながりがありません。もう少しつながりを作るべきでしょうか?」という質問です。我々がつながりというテーマでお話をしているからこのような質問が来たのだと思います。

松本 主治医以外にもう一人登場人物ができるといいですよね。訪問看護師でもいいし、地域の保健師さんでもいいし、通っている医療機関のデイケアに参加するのでもいいのですが、もう一人登場人物を増やせるといい。

市来 コロナ禍がプラスに働く一つのチャンスなのかなと思います。今まで当たり前のように、「対人恐怖症だからゆっくり治療していこうね」と言っていたかもしれませんが、コロナの状態がそれに拍車をかけているところがあると思います。

対人恐怖症で怖いけれど、一歩出てみようかなという気持ちになって出ていただくことも必要かなと思います。

ただ逆にうつの方が悪くなってしまうことがあるかもしれません。自分の心の中で起きていることは主治医の先生にお話しして、「2人目ぐらいで止めておいたら」と言われたら、3人目、4人目は作らない。人の意見も聞きながら、自身の中では勇気を持って一歩踏み出すチャンスの時期なのかなと思います。

夜になると不安に。どうしたら?

市来 次は当事者の方からです。「私は夜になると不安になってしまいます。そういう時は夕食後の薬を夕食を食べる前に飲んでしまいます。自分の部屋に入って1時間横になって休憩を取ります。なるべくこの1時間の休憩を取らずに済むようにしたいのですが、どうしたら不安を減らすことができるでしょう」という質問がきています。

松本 患者さんの中で、夜になると不安になる患者さんはとても多いし、早い段階で就寝前のお薬を飲んで横になる人も結構います。夜早く寝る人は具合が悪いのだろうなとも思っています。

ただ、この人が夕食後に1時間横になるのはそんなに悪いことのような気もしないのですが、なんでそれが嫌だと思うのかが気になります。その時間に寝てしまうと、夜寝付けなくなるのでしょうかね?

それはそれでいいような気がするのですが、ダメですかね。

市来 私もまさに同じことを考えていて、それで楽になっているのであれば、それでよしとする。森田療法じゃないけれども、「あるがまま」というのが大事な考え方だと思います。

ただ、この人は最後に書いてあることがポイントで、「どうしたら不安を減らせますか?」とある。ポイントはそこだと思うのですよね。休憩を取らないようにしたい、ではなくて、不安を減らす方法を知りたいとおっしゃっているのかなと感じました。

松本 例えば、夕食後、家族としばらく一緒にいると、もっと不安が高まっちゃうのでしょうかね? 不安な時って一人でいると余計不安になるような気もするんです。でもこの人の場合は人といると余計に不安になるのなら、これはまた深刻なことだなと思ったりもする。

一緒に住んでいる方たちはその時間帯、本人が不安になっているのを知っているのかなとも思います。これだけの情報では答えにくいなと思います。マッチは何かいい方法はありますか?

市来 おっしゃった通りで、条件によって違ってくるのかなと思います。

私がもしコメントするならば、対処方法は毛色の違うものを複数持つのがいいと思います。例えば不安になったら今は薬しかない人は、大好きな音楽をヘッドフォンをかけてボリュームを大きくして聞く。

それは1人でできることであり、外にいてもスマホなどでできることだと思います。

あとは誰かとやることを作ることです。トランプをやるとか家族でゲームをやることができるなら、それは不安を減らす一つの方法だと思います。家族でも友達でもいいと思います。

誰かがいないとできないことだけだと困りますから、1人でやることも必要だと思うし、家でやることと外でやることも必要です。そういったものが複数あればいいと思います。

1人と他人、外とうち、スポーツと文化的なものとか、複数のものを日頃から持ちましょうと私は言っています。

松本 そうですね。要するに不安を解決するのではなくて、不安は不安のままにして、不安から少し距離を持つことができるようにする。

例えば、お皿洗いに没頭するとか掃除に没頭するとか、筋トレに没頭するとか単純作業の方が距離を持ちやすいという人も中にはいるから、色々試してみてはどうかなと思いますね。

市来 お皿洗いとか掃除に没頭すると、家族からも褒められることもありそうですね(笑)。

(続く)

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本精神救急学会理事、日本社会精神医学会理事。『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。バズフィードでの執筆記事はこちら

【市来真彦(いちき・まさひこ)】東京医科大学学生・職員 健康サポートセンター センター長、東京医科大学精神医学分野准教授

1992年、千葉大学医学部卒業、2005年11月より東京医科大学精神医学講座・講師、東京医科大学霞ヶ浦病院精神神経科科長、2019年11月より現職。2020年7月より特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構・コンボ理事。

日本社会精神医学会理事、日本臨床死生学会理事、日本臨床音楽研究会理事、日本産業精神保健学会代議員、日本抗加齢医学会評議員、日本自殺予防学会評議員、日本うつ病学会評議員、日本不安症学会評議員、日本笑い学会元関東支部長、現・笑いの講師団・講師、など。