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子宮頸がんで子宮を全摘した理系女子が伝えたいこと

「子供が欲しい」と妊活を始めたばかりの頃に子宮頸がんの診断をされた30代前半のひとみさん(仮名)。子宮頸がんになるとはどういうことなのか。検査、手術、その後の生活についてじっくりお話を伺いました。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は、性交の経験があれば誰もが感染する可能性があるありふれたウイルスです。

それでもみんな、なんとなく自分とは無関係だと思っていますし、子宮頸がんになった時のことなんて思い浮かべたこともないでしょう。2017年3月、診断を受け、最終的に子宮を摘出する手術を受けた30代前半のひとみさん(仮名)もそうでした。

子宮頸がんになるということはどういうことなのか。ひとみさんのご経験をじっくりと伺いました。

不正出血があってもなかなか見つからなかったがん

異変に気付いたのは、2016年の11月に不正出血があったのがきっかけでした。検査会社に勤めているひとみさんは、すぐに婦人科クリニックで検査を受けることを決めました。

自治体の子宮頸がん検診と同じく最初に受けるのは、膣の中に入れたブラシなどで子宮口付近をこすって細胞を取って異常がないか調べる「細胞診」です。

一つ目のクリニックでは、「排卵出血だろう」と診断され、ホルモン検査のみでした。子宮頸がんの検査をお願いしても、「自治体の検診ハガキがなければ有料になるので勧められません」と言われ、別のクリニックで受けました。

1週間後に出たのは、軽度異形成(軽度の前がん病変)という結果でした。経過観察することになりましたが、その後も出血は続き、同じクリニックでクラミジアやカンジダなどの性感染症の検査を受けました。陰性でした。

それでもなお1ヶ月の間、生理よりは少ないかなと思える量の出血が止まらないのです。2017年1月に、再び同じクリニックに行き、子宮頸がんの検査を受けたら、今度は高度異形成に進んでいました。

医師からは「がんではないと思いますが、精密検査を受けた方がいいですね」と言われ、大学病院を紹介してもらいました。2月に子宮頸部を拡大鏡のような器械を使って詳細に観察し、最も病変が強く出て怪しい部分の組織を切り取って調べる「コルポスコープ診」と「組織診」を行いました。

2週間後、病院で医師から告げられたのは思ってもいなかった告知でした。

「子宮頸がんの可能性があります。すぐに入院して、円錐切除(子宮頸部を円錐状に切り取る手術)をしましょう。場合によっては円錐切除では済まないかもしれません」

「1年前に結婚し、『子供が欲しい』と妊活を始めたばかりの頃でした。まさかがんとは思っていなかったので、一人で結果を聞きに行きショックを受けました。円錐切除なら妊娠はできるけれども流産のリスクが高く、妊娠期間中は長期間の安静入院が必要になるとも説明を受けました。将来のキャリアがどうなるかという不安しか考えていませんでした」

手術の結果、「子宮を全摘する必要がある」と告知

しかし、それだけでは済みませんでした。3月に手術を受けたところ、がんは予想よりも広がり、円錐切除では取りきれないサイズになっていることがわかったのです。

「手術後に医師から説明を受けました。子宮を全摘するしかないと提案され、その場で泣き崩れました。妊娠の可能性を残したい、子宮を取らずに済む方法はないか。セカンドオピニオンを受けようと必死に調べました」

大学病院やがん専門病院など3施設に聞きに行きましたが、いずれの医師も、命を守るために子宮全摘は避けられないという意見でした。自分でも色々と調べ、話を聞いていくうちに、妊娠の可能性が残せるかというよりもむしろ、いかに生存率を高めるかという問題に直面しているのだと気付きました。

「放射線治療や抗がん剤治療を加えるべきか、体の負担が少ないロボット手術を受けられないか、重粒子線治療はどうなのか、先端医療も含め数多くの選択肢のうちどれを選べばいいのか聞いて回りました。手術を受ける前は、回復することだけに気持ちが向かっていました」

5月に子宮を全摘する手術を受けると、がんはリンパ節にも二ヶ所転移していました。たった半年前には、クリニックの検査で「軽度の前がん病変」と言われていたのに、進行した浸潤がんだったのです。

手術後、再発や転移を防ぐために、抗がん剤治療を受けることになりました。

手術の入院の時は、痛いにせよ動けないにせよ、パソコンを持ち込んで仕事はできる状態でした。しかし、抗がん剤治療は辛く、髪は脱け、1ヶ月のうち普段通りの生活が送れるのは半分もないほどでした。

「全身がだるく、匂いがダメになり、家の中で食事を作る匂いが耐えられなくなりました。暑さ、寒さを交互にひどく感じ、5日間は入院して退院後4日間は寝たきりになるサイクルを6回繰り返しました」

2017年11月にようやく最後の抗がん剤治療を終えました。最近、少し癖っ毛気味の髪が生えてきましたが、ここに至るまでの1年間は人生が揺さぶられる毎日でした。

一度も受けていなかった検診 「リスクを感じていなかった」

振り返ると、ひとみさんは不正出血に気づくまで、自治体の子宮頸がん検診を受けたことがありませんでした。

20代の初めから、大学院進学を機に交際していた今の夫と同棲生活を始めたのですが、実家から住民票は移さなかったため、がん検診の知らせが手元に届いたことがありません。

「それでも強い腹痛や不正出血があって、20代の時も2回、婦人科クリニックにかかったことがあります。『子宮筋腫がありますね』などと言われただけで、『住民票のある自治体で受けないと高いから、子宮頸がん検査はお勧めしません』と検査はしてもらえませんでした」

「学歴が高い女性は結婚できない」と進学を反対されたこともあって、家を出てから実家とはほぼ没交渉でした。郵便物も放置です。社会人になってからは仕事も忙しく、何も自覚症状がないのに検診のためだけにクリニックに行こうという気にはならなかったと言います。

「そもそもリンパ節に転移があるほどの進んだがんだったのに、不正出血があってから受けた検査でも前がん病変だとしか言われませんでした。そこから考えると、検診をきちんと受けていても気づけなかったかもしれません」

検査会社で働き、子宮頸がん検査の精度が高いことは理解しているというひとみさん。

「それでも、私のように運悪く見つからない場合もあります。検診で早期発見、早期治療と言いますが、万能とは言えないということを実感しました」

「手術にだってリスクはある」

さらに、「手術にもリスクがある」ということが一般にあまり知られていないのではないかとひとみさんは言います。

「円錐切除は簡単な手術だとよく言われますが、私は局所麻酔の合併症で髄液が漏れ、3日間、顔を上にあげることができないほどのひどい頭痛に悩まされました。退院1週間後には、夜中に大量出血をして、手術を受けた大学病院の夜間診療で止血処置をしてもらいました」

「私が経験したのはある意味、命に関わらない合併症ですが、手術も麻酔も一定割合で、死亡するリスクや重い後遺症が残るリスクがあります。開いてみたら私のように子宮を全摘したり、もっと進んでいて命を落としたりする可能性もある。早期発見して手術をすればいいのだという人は、そのようなリスクには目をふさいでいるのではないでしょうか?」

病院で全摘出手術の必要性を告げられ、どうしようもない絶望として目の前に浮かんだのは、パートナーとの性生活でした。

「子宮頸がんだと診断されてから、診察には必ず同席し、まるで母親のように心配ばかりするパートナーの優しさに、どう応えたらいいのかわからなくなりました」

手術前、夫婦で訪れたセカンドオピニオン先では、膣しかなくても性生活はできると太鼓判を押してもらい、身体に負担のない体位まで教えてくれました。

「それでも、手術後数か月は傷口がはれあがっていたし、長時間労働をした日には軽度な出血が起きました。そして、抗がん剤治療の副作用もあり、まったく性生活を行える状況ではではありませんでした」

やっと気持ちが前向きになったのは、抗がん剤治療がすべて終わってからです。

「医療用の潤滑液に慣れるのに数回、お互いに恐怖心を乗り越えるのに数回かかりました。やっと性交渉ができたのは、軽度異形成と診断されてから1年後でした。これからも私たちは何も変わらずに夫婦でいられるんだと思い、嬉しさのあまり泣きました」

「夫婦生活のことを思い出すと、どうしても泣いてしまいます。未来の子供のことよりも、目の前の一番大切で一番支えてくれる人が一番苦しんでいるのに、抱きしめて安心させることができないのが、お互いにとても辛かったんです」

HPVワクチン 「自分だったら受けただろうか?」

こうした経験を経た上で、HPVワクチンについて、自分が対象年齢だったら受けたかどうか、考え続けています。

「まず、定期接種で国が推奨しているのだったら受けたと思います。それから、お金の問題は大きいです。ポスドク(博士課程卒業後の研究員)時代、奨学金だけで生活するのは苦しく、インフルエンザワクチンも一度も受けたことがありませんでした」

その上、子宮頸がんについての知識も、リスクに対する認識も薄かったのです。

「子供の頃はアメリカにいたので、性感染症の教育も一般の日本人よりも受けた方だと思います。ただ、その頃はHIVの怖さは学びましたが、HPVについては学んでいませんでした。自分が子宮頸がんになるまで、自分にリスクがあるなんて全く感じていませんでした」

日本でHPVワクチンが公費で受けられる対象年齢は小学校6年生から高校1年生まで。その年齢の頃は、さらに「がん」は遠い存在だったとひとみさんは言います。

「あらゆる大きな病気になる怖さを知らないのがこの年頃です。対象年齢だったとしても危機感はないでしょうし、子宮頸がんとはどのような病気なのか教育を受けていないと、幼い自分では判断できなかったのではないでしょうか」

「国も勧めていないのに、わざわざクリニックに問い合わせて予約してまで行ったかと考えてみると、面倒で受けなかったかもしれません。学校の集団接種で友達もみんな受ける、という環境であれば受けただろうと思います」

リスクについての議論 子宮頸がん経験者として考えること

HPVワクチンは、接種後の体調不良を訴える声が相次ぎ、「危険なワクチン」ではないかという不安が広がっています。これについて、ひとみさんは、薬学で博士号を取り、検査会社で働くだけあって、科学者としての判断をしています。

「どんな薬剤でも重い副作用のリスクは避けて通れません。そのわずかな確率の副作用に苦しむ様子をテレビで流されたら、どんな薬も恐ろしいものになってしまいます。HPVワクチンはことさら大きく取り上げられてアンフェアな感じがします」

子宮頸がんとなってから、SNSで匿名の情報発信を始めたひとみさん。一般の人が子宮頸がんやワクチンについて、最新情報をしっかり把握しないまま議論しているのが気になってきたそうです。

「研究者だって専門外の分野の最新情報に追いつくのはかなり大変なのに、娘に受けさせるかどうか迷っているお母さんたちはなおさらでしょう。その中で、副作用を訴える姿ばかり報道していれば、受けさせたくないと思うのは当たり前だと思います」

「医療業界では、世界中の研究者と医者が休みなく研究を行い、毎日膨大な数の発見が報告されています。古い研究成果は常に新しい研究成果に更新されていきます。今まで意味がないと思われていた治療が、特定の条件の患者さんには効果が表れる場合もあります」

「最新の科学的知見は常に変化するため、一般の人に『今はこういうことがわかってきましたよ』と伝えるのが本来のメディアの役割です。課題を踏まえた上で、知識の入り口になるのがいいと思うのです。受けるべきかそうでないかを発信するのではなくて、淡々とわかってきた科学的事実だけを伝えればいいと思いますが、メディアはそうした情報発信を十分していないと思います」

経験者として ワクチンによる根絶を願う

議論の足場さえ今の日本には整えられていないと指摘するひとみさん。子宮頸がん経験者として、そして、薬学を学んだ研究者として個人的には、「ワクチンは受けた方がいい」と判断しています。

「子宮頸がん検診の受診率がそれほど高くない上、検診だけでは見つからない可能性もあります。手術自体にもリスクはあるし、早期発見できたと思っても進行している恐れだってある。検診が大事なことは変わりませんが、ワクチンはウイルスが原因で発症する病気を防ぎ、根絶するのに役立ちます」

「感染する人がゼロになれば、検診も受ける必要はなくなるでしょう。命を大事に思うなら、致命的な病気を根絶する道を目指した方がいい。それまでは、感染を予防するワクチンと検診と、両方あった方がいいと思うのです」

普段は、抗がん剤で脱毛した頭はウイッグで覆って、会社の人にも友人にもごく一部にしか告げていません。もし、迷っている友人がいたら、当事者として切実な思いからこう伝えたいと思っています。

「子宮頸がんになって子宮を取るのって、人生を激変させる大変なこと。そして、今後も一生、再発のリスクに怯えながら生きていくことになるんだよ。予防できないがんはたくさんあるけれど、子宮頸がんは数少ない予防できるがん。予防できるうちにワクチンを受けた方がいいよ」