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「厳罰化は効果なし」「世界の流れに逆行」 大麻「使用罪」の創設に依存症関連団体、支援者ネットワークが反対声明

大麻「使用罪」の創設が検討される中、世界では懲罰から「ハームリダクション(健康被害の低減化)」「非犯罪化」に転換しているとして、薬物依存症関連団体や支援者のネットワークが反対声明を出しました。

厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」で創設が検討されている大麻「使用罪」。

これに対して、「大麻使用罪創設に反対する依存症関連団体・支援者ネットワーク」が6月2日、「世界の薬物政策の流れに逆行する」として、反対の声明を出した。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

会見をする「大麻使用罪創設に反対する依存症関連団体・支援者ネットワーク」

この日、記者会見した薬物依存当事者の風間暁さんは自身の回復の経験から「ここから厳罰化していく動きは予防として効果的とは言えない」と、使用罪を作らないよう呼びかけた。

新たに使用罪を作ろうとする動きに、反対の声が弁護士有志や関連学会人権擁護団体からも続々と上がる中、6月11日にも開かれる検討会で最終報告が出される見込みだ。

薬物依存症当事者 「厳罰化は効果なし。大切にしてもらえる喜びが止めさせる」

会見に出席した風間暁さんは、薬物依存症から回復した当事者で、依存症支援団体ASKの社会対策部薬物担当を務めている。この日、自身の体験を紹介しながら、反対の声をあげた。

風間さんは幼少期から虐待を受けて育ち、逃れた先で受け入れてくれた非行グループで薬物使用を覚えた。不良として見られる孤独感、過去の逆境体験による苦痛を和らげるために薬物を使い続け、薬物依存症になった。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

自身が薬物依存症から回復した体験を話し、犯罪化に反対した風間暁さん

「適切な医療に係る必要がありますが、医者に行けば通報されかねません。捕まってしまえば未成年である以上、親も介入することは明白。トラウマでもある親の罵声や表情をまた経験しなければならないと思うと足がすくんだ。怖くて、もっともっと薬物を使いたいと思いました」

そういう風間さんを周囲の大人は非難するだけだった。かえって薬物にのめり込んだ。

「本当は薬物を使わずに生きていくことが可能な環境にしてほしかった。幼少期から続いた恐怖から逃れて安心したかったし、薬物に逃げるしか生きる方法がなかった。そんな私を助けてほしかった」

結果的に、大麻とは別の薬物を過剰摂取し、死にかけて運ばれた先で医療につながった。

「福祉と医療につながって、同じように回復を目指す仲間と手を取り合ったことで、『ずっと辛かったね』『一緒に回復していこうね』と声をかけられて救われた。初めての経験でした。それまで約20年間、ずっと1人で我慢してきた分しっかりと泣いて、つらかったということを感じ切ることがようやくできました」

「もしもしあの生まれ変わるような変化の渦中で厳しい罰を受けていたら、私は生きることを諦めたかもしれません。福祉、医療従事者の方々、仲間たちのおかげで10年間、薬物を使わずに今日も生きることができている」

「捕まるのが嫌でやめているのではなく、大切にしてもらう喜びを知ったから、自分のことを大切にしてくれる人とこれからも健康に生きていきたいという思いで使わない選択をしている」

そして、現在、保護司としても活動する立場からこう訴えた。

「福祉や医療の支援体制が充実しても、恐れや不安が背景にあれば、薬物を使っている人が能動的に援助を求めることは困難。当事者が回復したいと思った時に、仲間と一緒に回復できるような、スティグマのない社会が必要です」

「回復に専念できる居場所が必要で、犯罪者というレッテルがそれを邪魔する。地域社会に健康的な居場所を見つけることができなくなれば、受け入れてもらえる場所は自ずと不健康な場所に限られていく。再使用のリスクも跳ね上がる。新たに厳罰化していく動きは、予防として効果的であるとは到底言えません」

「それが私が法による厳しい取り締まりではなく、ソーシャルワークで薬物問題を取り扱っていくべきだと考え、大麻使用罪創設に反対する理由です」

当事者家族 犯罪化ではなく、治療や支援が必要

関西薬物依存症家族の会代表の男性は、長男が薬物を使った経験を話した。

「薬を止めようとしない息子を蔑み、恨み、憎しみ、罵声を浴びせ続ける日々でした。初めはこのままでは息子は死んでしまうのではないかと心配していましたが、疲れ果て途中からは死ねばいいのにと願い、最後には『もう一緒に死のう。俺が殺したる』と大切だったはずの息子の命の価値がなくなっていきました」

しかし、外部に助けを求めることはできなかった。他人に息子が薬物依存症だと知られてはいけないと思っていたからだ。その後、自助グループにつながり、長男も回復支援施設につながり救われた。

そんな経験から、薬物使用を犯罪化するのではなく、当事者や家族の意志だけでは解決できない健康問題として回復支援や治療につなげることを訴えた。

「薬物依存症の背景には様々な生きづらさがあります。仲間の子どもの中にも発達障害や統合失調症がありその生きづらさから薬物依存症になったケースも見られます。だからこそ治療や支援が必要だと心底感じています」

「今年に入り、仲間の子どもが自死に至っています。『私には生きていく価値や資格がないのだ』と書き残しています。もうこれ以上、烙印を押され、犠牲者を増やしたくないという気持ちで今、私はここにいます」

専門家「犯罪化は世界の流れに逆行」「温かく包み込む支援が必要」

海外の薬物政策に詳しい立正大学法学部教授(犯罪学)の丸山泰弘さんは、2001年からほぼ全ての薬物を非刑罰化しているポルトガルなど、海外で治療的、福祉的な介入が進んでいることを紹介した。

そして、犯罪化することのデメリットをこう話した。

「犯罪であるということで、全て思考停止してしまう。体に害悪があるとしても、相談できず、医療機関にもかかれず、相談のハードルがめちゃくちゃ上がる」

「組織犯罪に金が流れ、取締るための捜査機関にお金がかかる。とんでもなく健康が害されないと医療にかかれない。針を使いまわして、HIVや肝炎が蔓延する」

その上で、「刑罰にしておくことの害悪があまりに多すぎて、人権問題に関わるのだというのが国連やWHOが発している方向。今なぜ使用罪を作ろうとしているのか。今さら大麻に罰則を置いて人権侵害する国ですよと発表することになる」と犯罪化が世界の潮流から逆行していると、強調した。

HIV陽性者を支援する「ぷれいす東京」代表の生島嗣さんは、薬物を使用している陽性者の相談支援も長年続けてきた。犯罪化することで、社会参加が阻害されるデメリットについて述べた。

「多くの企業は就業規則の中に懲戒解雇の対象として犯罪が書かれている。再就職が難しくなる。実名報道され、処分の発表で実名が流れると、履歴がネットから消せない人がたくさんいる。その過去に追いかけられて未来に希望が持てない。犯罪化はその人の回復の阻害でしかない」

また、2016年に男性と性行為をする男性6921人を対象に行った「LASH調査」で、虐待など逆境体験がある人はそうでない人に比べ、薬物を使うリスクが2.24倍上がっている結果を示し、こう訴えた。

「その人が生まれ育った環境とか生活とか、その人自身がどうしようもないことが薬物使用に関連している。これを犯罪としていいのか。これはやはり社会や地域でケアして、その人を暖かく包み込んでいくことが適切なのはないか」

精神科医の斎藤環さんは「依存症のメカニズムとしては、自己治療、つまり苦痛から逃れるために薬を使い、やめられなくなることが知られている。回復を考える立場からすると、どうすれば苦痛な環境に置かないようにするかが重要」と話した。

「厳罰化で社会から排除される。助けを求められないし、社会的に孤立させられるし、仕事につけないという状況に置かれると、そういう苦痛を紛らわすためにますます依存にのめり込む」

「悪循環を防ぐためには排除しない。より包摂的な政策で治療し、支援する方が遥かに治療的と考える。犯罪化という方向は逆行している。大麻の使用罪を作ることは治療という視点から見ても非常に問題がある」

検討会での議論へ 「刑罰より教育が抑止力」

厚労省の大麻検討会での議論について記者から質問が相次いだ。

若年者に使用が増えていて、使用罪が抑止力になると語られていることについての見解を問われ、

丸山さんは「国際的に合法化、非刑罰化している国では、人の行動パターンを変えるのに、刑罰が必ずしも正解ではないとしている。それは教育だとされている」と述べ、妊婦の飲酒や喫煙が犯罪とされずとも教育により減少した事例を挙げた。

その上で、「ちゃんとした教育でコントロールするのが必要。刑罰は同時に生じる害悪が大き過ぎる。それ以外に減らす方法はある」と述べた。

依存症支援団体ARTS代表の田中紀子さんは、現代の薬物乱用防止教育では、正確な情報が教えられていないとして、薬物教育のあり方についてはこう語った。

「薬物使用は緩慢なる自殺と言われ、自分の人生を大事にできない人たちがダメと言われているものに手を出す。自分の抱えているつらいことを人に伝える、相談できる。自分が恥だと思って隠したいことを言っていい、信頼できる人に相談していいということを教育していく。さらに(使用を勧める)同調圧力に対する断り方が重要。ダメだとモンスターのように脅す教育のあり方に問題がある」

実際に使っていた風間さんは「犯罪であろうが使うものは使う。抑止力になっていなかった証明が私です」と、使用罪が必ずしも抑止力にならないと話した。

また、他の薬物では「使用罪」があることと「整合性を取る」ことが検討会で主張されていることについて、丸山さんはこう答えた。

「成人年齢が18歳に下げられても、飲酒年齢を18歳に下げたわけではないし、裁判員裁判も20歳まで出られない。整合性を取るという割には全然取っていない。整合性を取らなくてもいいと思いますし、むしろ海外では使用罪を置いていない国もあるので、そちらに整合性を合わせてもいい」

「末端使用者に対して刑罰を科してなんとかすること自体、依存症の問題は刑罰以外でなんとかするのが(世界では)スタンダード。整合性を取るならむしろ使用罪をなくす方向に合わせた方がいい」

世界は懲罰から健康被害の低減化、非犯罪化へ

今回公表された「私たちは大麻使用罪の創設に反対します!」と名付けられた声明には、薬物問題の回復支援や治療に関わる14団体と141人の個人とが名前を連ねた。検討会事務局である厚労省の監視指導・麻薬対策課や自民党にも届けられるという。

声明ではまず、2010年に、国連人権理事会や第65回国連総会に、「薬物使用に伴う害を低減する介入策(ハームリダクション)」と「非犯罪化」を推奨する報告書が出されて以来、世界の薬物対策は懲罰から「人権に基づく公衆衛生アプローチ」に転換していることを指摘した。

その上で、日本でも薬物問題では、厳罰化が必ずしも抑止力にならないとの研究結果が出ていることを示し、「薬物使用者=犯罪者」というレッテル貼りが、社会的排除と健康被害を拡大していると批判した。

そして、日本で現在行われている薬物啓発キャンペーン「ダメ。ゼッタイ。」も偏見を助長し、薬物問題に悩む当事者や家族が通報を恐れて相談や受診をためらう悪影響をもたらしていると非難した。

そして、最後にこう訴えている。

私たちは、エビデンスに基づく正しい認識のもと、薬物使用の背景にある生きづらさ等に焦点を当て、相談や治療、回復支援に力を入れる施策を求めます。そして、当事者や家族を地域で孤立させない予防啓発への転換をこそ強く望みます。


私たちは、世界の薬物対策の流れに逆行する「大麻使用罪」の創設に反対します。

関西薬物依存症家族の会代表の名前を本人の希望により匿名に変えました


Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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