• medicaljp badge

大麻「使用罪」の創設議論 出来レースの茶番で人の自由を奪っていいのか? 弁護士が署名活動で反対する理由

厚労省の検討会で大麻「使用罪」の創設が決まったことのように流布されています。弁護士の亀石倫子さんら弁護士有志で反対の署名活動をし、週明けに厚労省に提出します。なぜ刑罰を広げるべきではないと考えるのでしょうか?

厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」で検討されている大麻「使用罪」の創設。

大麻も含めた薬物事件の刑事弁護をしてきた弁護士の亀石倫子さんら弁護士有志は、反対の署名活動を続け、週明けの24日、厚生労働省医薬・生活衛生局長に提出する予定だ。

なぜ「使用罪」創設に反対するのか。BuzzFeed Japan Medicalは亀石さんに取材した。

世界、日本の薬物政策に逆行する「使用罪」の創設

ーーこのタイミングでの署名提出は、次回の検討会で報告書案が出てくる前に間に合わせるためですか?

先日これまでの議論のとりまとめ案が出て報告書を作る段階になりましたので、ここでこれだけ多くの人が反対しているということを伝えるためです。

ーーそもそもなぜ、大麻の問題で署名活動を始めたのですか?

大麻取締法の問題は「こういう法律があるから仕方ないよね」と弁護士たちから声が上がってきませんでした。

例えば「所持」で捕まっても、法律自体がおかしいと議論することは刑事裁判では難しい。

過去に医療大麻裁判がありましたが、よほど命を守るために使っているという事情がない限りは、法律では所持した以上は違法だし、刑罰を受けること自体を争うことはできません。

私たちも大麻取締法はおかしいと思いながらも、これまで法律が改正される動きは全くなかったので粛々と刑事弁護の活動をするしかなかったのです。

今回「使用罪」の創設が検討されるとなった段階で、やはり法律の実務を担う弁護士からも声を上げるべきではないかと思いました。

本来、弁護士としては、時代遅れの法律で今の時代に合っていないから変えるべきだという主張は訴訟で争いたい。

例えば過去に私が担当した風営法でクラブが摘発された事件では、70年以上前に作られた時代遅れな法律を機械的に運用することで、権利や自由が制限されている状況がありました。

大麻取締法もまさにそうです。諸外国が大麻を非犯罪化する流れがある中で、日本では、若者の使用が増えていることを理由に罰則を新たに作って、刑罰でそれを抑えるという発想です。世界の流れにすごく逆行しています。

日本の中でも薬物政策は「刑罰よりも治療」と更生・回復を支援する流れに変わってきています。大麻は覚せい剤のような依存性や有害性が強いものと位置付けは異なると思いますが、「使用罪」創設は日本の薬物政策の流れにも反していると思います。

今回私たちは法律の実務をする立場から、罰則を強化する、刑罰を新しく創設することに対して反対の声を上げたいと思いました。賛同してくれる人の声も合わせて国に届けようと思っています。

大麻の害に見合った規制、罰ではない現状

ーー刑事弁護をしていて、大麻事件が他の薬物事件と違うところは感じますか?

まず依存性という点で、大麻単独で再犯を繰り返している人に会ったことがありません。

例えば覚せい剤は依存性が強いので何度も刑務所と社会を行ったり来たりしている人が多い。ダルクのような回復支援施設に行く人は覚せい剤の人がほとんどです。大麻単独でそこまでになっている人は見たことがありません。

覚せい剤で再犯を繰り返している人は普通に社会生活を送れていない人が多いですが、大麻に関しては、普通に社会生活を送っている人たちばかりです。大麻を使うことによって健康を害していることもありません。

たばこや酒や他の規制薬物と比べて大麻の有害性や依存性がどの程度かはデータが出ていると思います。もちろん無害というつもりはないのですが、程度に見合った規制や刑罰でなければなりません。

大麻が覚せい剤と同じように扱われているのがそもそも疑問です。科学的根拠に基づいていません。

ーー大麻で逮捕されることによるダメージが大き過ぎると指摘していますね。

逮捕や勾留をされることによって学校を退学になったり、会社をクビになったりすることは多いです。

勾留されると一定期間、社会に戻れず、有給休暇でごまかせる程度ではない。多くの場合は保釈が許可されて、起訴された後は出てくる。裁判でも初犯であればほとんど執行猶予がつきます。

それでも逮捕や勾留をされるだけで会社や学校にいられなくなり、「犯罪者」「薬物中毒者」と見られ、「縁を切った方がいい人間」と社会の中で見られてしまいます。

報道されなくても身近なところで逮捕の事実は伝わって、それが人生のつまづきのきっかけになる人は多いと思います。

社会から排除されれば、人間関係も変わります。そのストレスによってまた薬物を使ってしまうこともある。そして薬物を使う友達しか周りにいなくなる。

日本の社会は一度失敗すると、落伍者の烙印を押されて、通常ルートに2度と戻れないところがあります。

若い時にそういう目に遭うことが、将来の芽を潰すことになりかねません。

大麻を使うのは20代、30代の若い人が多いです。音楽が好きでそういうコミュニティで入手したとか、ファッション関係とか、クリエイティブなことをやっている人です。またはアスリートが痛みを和らげるために使ったり、リラックスするために使ったりしている。

執行猶予になるからいいじゃないかという意見が検討会でも出ていましたが、そういう問題ではありません。若い時に捕まると、将来に大きな影を落とします。そこまでの罪なのかと思います。刑罰が見合っていません。

成分による規制は妥当 基準を決めればいい

ーー刑事罰を作らなくても規制はできますね。

今回の検討会のとりまとめで、「THC」と「CBD」(※)という成分に着目して規制をすべきではないかと提案されています。それ自体は正しい方向性だと思います。

※大麻に含まれ、薬物として使われる主な成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」と「CBD(カンナビジオール)」。「THC」は幻覚や妄想などの精神作用を起こし、「CBD」は精神作用を起こさない。検討会では大麻草の部位ではなく「THC」という成分に注目して規制する大麻取締法改正案が提案されている。

THCも全てダメだというわけではなく、含有量に着目して、医療用と分けてきめ細かい規制が作られれば望ましいと思います。

でもそのことと「使用罪」創設との整合性は取れるのかとも思います。

THCも含有量によって健康影響に違いがあることがわかっているので、海外のように基準を示した上で、身体に害のあるレベルを規制するなら理解できます。そこまできめ細かい議論がなされているにもかかわらず、使用罪ありきでとりまとめがなされるのはおかしいです。

ーーただ大麻が若年者で増えていて、若い時から使うと健康被害をもたらす可能性が高くなるというデータはありますが、これはどのように防ぐべきでしょう?

確かに年が若ければ若いほど、大麻使用によるダメージが強くなるというデータはあるので、管理下におくべきだとは思います。

たばこや酒と同じように未成年者が使えないようにするとか、大麻を吸って車の運転をしないようにお酒と同じような規制をするとか、そういう方法はあり得るのではないでしょうか?

ーーしかし刑事罰を作るほどではないということですね。

なぜそこに刑罰という発想が出てくるのかと思います。若ければ若いほどむしろ保護するという発想であるべきです。その人の健康や家庭環境、交友関係に問題を抱えている可能性があるわけです。

そこにいきなり刑罰という発想を持ってくること自体、取り締まり側の都合でしかないと思います。

禁止するから闇に潜り、反社会勢力とつながる

ーー厚労省の監視指導・麻薬対策課が主張する「ゲートウェイ(入り口)」のドラッグで、そこから強い薬物に進むきっかけになるという考えについてはどう思いますか?

例えばたばこや酒が覚せい剤の入り口になっていないのと同じで、大麻がたばこや酒のような取り扱いなら入り口にならないのではないでしょうか?

「大麻をやれば覚せい剤が欲しくなる」という科学的な証明はなされていません。

むしろ違法なものとされているから、違法な薬物を扱うコミュニティとつながってしまう。それがゲートウェイになるということだと思います。

高知東生さんとお会いした時に聞いたのですが、売人から「今キャンペーン中だからこれ使ってみて」とより依存性の高い、ぼろ儲けできる薬物を売り込んでくるそうです。

そういうコミュニティと繋がることでより有害な薬物へ進んでいくことはあるかもしれません。それは違法にしているからそうなるんだとしか言えません。

ーーもう一つ、監視指導・麻薬対策課がよく示す「使用罪創設が、犯罪の抑止力になる」という主張についてはどう考えますか?

根拠として、使用罪がないことが使う動機になったという意識調査を検討会で出していましたね。しかしそれが科学的根拠と言えるのかと思います。

私が弁護してきた人たちも、違法なのは知りつつ、未成年なのにたばこを吸うような感覚で使っています。

ーー逆に生きづらさを抱えて、つらさから逃れるために使うという人はいましたか?

私は正直、そういう人たちに出会ったことがないです。逆にそのような生きづらさを抱えて何かに依存する人は、アルコールや、処方薬の過量服薬や、自傷行為をするとか他の依存に向かう気がします。

大麻を使っている人にそのように病んでいる人はあまりいない印象です。もっと平和的に使っている印象です。

アリバイ作りの茶番でいいのか? メディアも加担

ーー今回の検討会、報道陣だけに傍聴が限られ、発言者の特定禁止、録音禁止と議論を社会と共有することもかなり規制がかけられています。オープンでない議論の形についてはどう考えますか?

アリバイ作りの茶番というか、最初から結論ありきの会議なのだなという印象を受けますね。

議事録を出しているとはいえ、オープンに議論しようという態度ではない。

また会議での議論とはまったく違う、「使用罪導入で合意」(共同通信)という見出しの報道が出てくるなんて本当にあり得ないことです。

ーーメディアがそういう風に操られているとは恐ろしいですよね。

NHK共同通信がそういう報道をしましたが、恐ろしいです。ミスリードというレベルではなく嘘だと思います。合意していない。出来レースです。

最初から「使用罪」創設ありきで、プロセスとして茶番をする形になっています。それは議論に参加する構成員の先生たちにもすごく失礼なことだと思います。

議事録をずっと読んでいますが、大事な意見もたくさん出ています。私はあの議事録を読んでむしろ希望を持っていました。色々な立場の方達がこれについて慎重に考えて、それぞれの立場からの懸念も表明していました。もちろん賛否両論あります。

思っていたよりも賛成派ばかり集めているわけでもなく、有益な議論ができていると思っていただけに、それをアリバイ作りのために厚労省の事務局が利用するのはすごく失礼です。本当に腹が立ちました。

弁護士の中でも薬物犯罪には偏見が多い

ーーメディアも情けないですが、弁護士の中でも薬物事犯については偏見はあるのですか?

めちゃくちゃ多いです。私たち有志でこういう反対意見を表明していると、「弁護士会として意見表明できないのですか?」と言われるのですが、まず無理でしょう。私たちは変わり者扱いです。

「それは立法の問題でしょ」と考える弁護士が多いですし、薬物犯罪についてきちんと考えたり依存症の問題に取り組んだりする弁護士自体が極めて少ない。

積極的に偏見を持っている人もいます。我々は少数派です。

署名提出で何を狙うか?

ーー署名提出で誰にどんなインパクトを与えたいと思っていますか?

SNSで発信するようになって、大麻取締法がおかしいと思っている人がたくさんいるのだなと勇気づけられました。

法律家の中で私たちは極めてレアな存在ですが、外に発信すると、思っていた以上に共感してくださる方は多いし、それが増えている感触もあります。

6人の弁護士で大麻取締法の勉強会をしていますが訴訟を起こすまでには至らない中で、検討会をきっかけに署名という形でこうした声を可視化しようと思いました。

まずは知って考えてもらういい機会だと思います。正直、署名の集まりは思ったよりも少ない。届いてほしいところにはまだ届かない。私のように大麻を使ったことがないし、使う必要もないけれど、人権の問題を考えていたり、SDGsについて考えてたりしている人たちまで届けたいのです。

「ダメ。ゼッタイ。」運動の影響が強いのだと思います。普段私の活動を応援してくれている人も、「大麻だけは応援できない」とも言ってきます。この壁はかなり厚いです。

ーー今後はどうしますか?

今後、厚労省は法案として国会に持っていくでしょう。その時はその時で反対の声をあげないといけません。まずはこれだけの声を届け、この声をもっと大きくしたい。署名提出はそのための第一歩です。

【亀石倫子(かめいし・みちこ)】弁護士

クラブ風営法違反事件(2016年最高裁で無罪確定)、GPS捜査違法事件(2017年最高裁大法廷で違法判決)、タトゥー彫り師医師法違反事件(2018年大阪高裁で逆転無罪)等の刑事事件を多数手がける。2016年に「法律事務所エクラうめだ」を開設。