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HPVワクチンと脳・身体症状の関係は? 少女たちを治療してきた医師の立場から

CancerXのサミットで開いたHPVワクチンのセッション。接種後に長引く症状を治療してきた牛田享宏さんはワクチンと症状の関係や治療法について語りました。

がんに関わる社会的な課題を、医療だけでなく、産官学など様々な分野の連携で解決しようと活動している「CancerX(キャンサーエックス)」のサミット「World Cancer Week 2021」。

CancerX

HPVワクチン接種後の体調不良を治療してきた牛田享宏さん

筆者がモデレーターを務めた「HPVワクチン」のセッションの詳報第4弾は、HPVワクチン接種後に訴えられている症状の治療の厚生労働研究班長も務めていた愛知医科大学学際的痛みセンター教授の牛田享宏さんです。

ワクチンと接種後の様々な症状に関係はあるのか、どう対応を考えていけばいいのか伝えます。

※岩永直子はこのシンポジウムでモデレーターを務めましたが、謝金は受け取っていません。

HPVワクチンにはどんな副反応があるのか?

HPVワクチンをうった子たちの一部に出てきた非常に強い症状は衝撃的です。それでもなんとか克服していきたい。そのために、少しでもみなさんと情報共有できたらと思います。

牛田享宏さん提供

HPVワクチン接種後に報告されている症状

厚生労働省のホームページでは、HPVワクチンの主な副反応を紹介しています。

接種した人の10%以上に出る副反応は、かゆみや注射部位の痛み、赤み、腫れ、腹痛、筋肉痛、頭痛、疲労などです。たくさん種類がありますね。

1〜10%はじんましん、めまい、発熱です。

1%未満は、注射部位の知覚異常、しびれ、全身の脱力です。

頻度不明のものには、手足の痛みや失神などがあります。

重度の副反応については、新型コロナウイルスのワクチンでも問題になってきているアナフィラキシーがあります。HPVワクチンでは96万接種に1回です。

両手両足に力が入りにくくなるギランバレー症候群、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、複合性の局所疼痛症候群(CRPS)などもあります。

重度の副反応はいずれも96万回から860万回接種に1回というほどの割合ですから、因果関係があるかどうかは難しい判断になります。ただ、それらの症状が出ると非常に苦しんでしまうことになるわけです。

また、HPVワクチンでは特に、接種後に報告された「多彩な症状」が問題になりました。

特に多いのは知覚に関する症状です。手足や頭、腰の痛み、感覚が鈍い、しびれる、光に関する過敏などがあります。

運動に関する症状では、脱力、歩行困難のほか、不随意運動があります。勝手に足が動いてしまうというようなものがあります。

自律神経の症状としては、倦怠感、めまい、睡眠障害、月経異常などが見られます。

認知機能に関する症状としては、記憶障害、学習意欲の低下、計算障害、集中力の低下など、色々なものが報告されています。

痛みは? 頭痛、膝痛、腰痛など一般的に痛くなる部分で困るケースが多い

牛田享宏さん提供

厚労省研究班がまとめたHPVワクチン接種後に報告された多彩な症状

私たちは厚生労働研究班で最初に対応に当たっていました。その時のデータをこれから紹介します。

このデータは、2013年6月から2016年11月までにまとめた204人のデータです。

痛みの中では、頭痛、肩痛、腰痛、膝痛が非常に多いことがわかります。

その一方で、注射した部位が持続的に痛いという人は意外と少ないですね。

つまり、腰、肩、膝といった一般的によく痛む部分で困る人が多いということがわかりました。

身体や血液の検査は? 大半が明らかな異常なし

身体の方をさらに詳しく診ていくと、筋力が低下して力が入らないような人の割合は14〜15%でした。

牛田享宏さん提供

感覚の異常は5〜8%で見られます。

四肢の深部腱反射の亢進(いわゆる膝蓋腱、膝関節付近の腱などをちょっと叩いたら異常な反射がある人)は2%。発熱は19%、関節が腫れてしまう人は4%です。

痛みの原因がはっきりと物理的に特定できるような「器質的な異常」を示すことは少ないようです。

牛田享宏さん提供

血液検査も研究班で行いましたが、大きな異常がある人は少なく、一部にリウマチなどが疑われる数値が見られました。X線やCTの検査でも異常が見られない人が大多数です。

症状は? 「機能異常」で困る人が多い

牛田享宏さん提供

症状として訴えられているのは、全身の倦怠感、睡眠障害、めまい、たちくらみ、湯船から上がる時の貧血、運動で動悸が出る、朝の不調などです。

だいたい30〜70%ぐらいがこのような症状で困っていました。「機能異常」で困る人が多いということが言えます。

社会的な活動性は?

牛田享宏さん提供

社会的な活動性を見ていくと、学校に行けなくなった方は6割ぐらいです。

友達関係については「問題ない」という人が大多数でした。

「学校は楽しい」と答える人が多いです。

それでもクラブ活動には行けていない。

これまで休んだことはあるか聞くと、一度も休んだことがない人が6割ぐらいです。

体育の授業を受けているのは半分ぐらいですね。

そんなことがわかってきました。

ワクチンをうっていなくても、この年頃は同じような症状が出る

HPVワクチン接種後の症状が問題視されていた頃と同じタイミングで、我々は地域で同じような症状の調査を行いました。

牛田享宏さん提供

小学生から高校生、そして大人まで対象にした調査だったのですが、HPVワクチンとは関係なく、たまたまやっていた調査なのです。

小中高生を見てみると、膝が痛い、腰が痛いという人たちが多いです。この中で半年以上、痛みが続いている人はだいたい17〜20%にのぼりました。子どもでも痛みが続く人が多いことがわかってきました。

牛田享宏さん提供

さらに心の病気についても調べてみました。

高校生から70歳以上まで調べていくと、驚くべきことに高校生のうち、心の病気で受診したことがあるのはだいたい男の子で11%、女の子で4%以上でした。

牛田享宏さん提供

後に名古屋市では「名古屋スタディ」というHPVワクチンをうった人、うっていない人にアンケートをしました。

「物覚えが悪くなった」とか「過呼吸」「漢字が思い出せなくなった」「計算ができなくなった」など、どんな症状を経験したか調べていくわけですが、うっていない人でも結構な確率でこのような症状が出ているわけです。

「身体が自分の意思に反して動いてしまう」とか「物覚えが悪くなる」というHPVワクチン接種後に訴えられている症状は、元々この年代に多く見られるということがわかってきました。

原因がわからない症状に何ができる?

研究班では、こういうことがわかった上で、原因がわからない症状を抱えた患者さんをどうしたらいいのか議論してきました。

牛田享宏さん提供

「原因がわからないから何もできない」というのでは困ります。

何ができるかを考えた時に、少なくともわかっていること、明らかなことを整理することが必要だと考えることが大事です。

また、わからなくても過去を参考に、これから何をすべきか考えていくしかないということでもあります。

牛田享宏さん提供

例えば、「慢性痛悪循環モデル」というものがあります。

人は怪我をすると痛みや不調を訴えます。そうすると、その状態にこだわってしまったり、不安になったり、不眠になったりします。痛いので身体を動かさなくなります。

運動しないことや痛みへの恐怖心によって、機能障害を起こす、うつになる、治療に依存してしまうということが起きます。こういう悪循環を繰り返して、その状態の中から逃れられなくなってしまうのです。

ここから脱却させるために、まずは身体を治すアプローチがあります。体つくりですね。そして、教育をしながら、痛みに対する不安や恐怖がない状態を作っていく。こうしたことが重要ではないかということで治療に取り組んできました。

そのような中で特に私たちが大事だと考えてまず注力したのは、大きな病気が隠れていないか見極めることです。

もし病気があれば対応策も変わってきます。これがないことを調べた上で、体つくりや患者教育に力を注いでいきました。

病気がなくても私たちの体はおかしくなる

痛みや動けないという状態を考えていくためには、色々なことを知っておかなければいけません。

牛田享宏さん提供

まず、明確な病気がなくても我々の体は勝手に動き、脱力することもあるということです。

例えば、目の上の筋肉が勝手にピクピク動くことがありますね。

これは「眼瞼ミオキミア」と言います。誰しもなったことがあると思います。勝手になって、勝手に治るわけですね。

また、人は寒いと震えるし、怖い時も震えます。痛いと力が入らないこともあります。これは「屈曲反射」と言います。神経メカニズムも明らかになっています。

「腰が抜ける」という表現も昔からありますが、あまりに驚いたり怖いことがあったりすると、そうなることがあります。

「書痙」といって、緊張すると手が震えたり痛みが出たりして文字が書けないことも起こります。

また、ほんのささいなことでも我々はおかしくなります。

新しい眼鏡を買うと、同じ度数であっても不快な反応が出ることがあります。頭痛が出たりしますね。

誤って重大な病気だと告げられた時も、ドキドキします。

まつげが目に入っただけでもものすごく痛くなります。

これらのことは「気のせい」ではありません。「大変なことが起きた」と神経が誤った認識をして、勝手に「まずいことが起きた」と考えてしまったり、「まずい!じっとしていよう」と行動変容が起きてしまったりします。

人間にはこういうことが勝手に起きます。

これらの反応が起きるかどうかは、過去の経験や社会的背景、その時の身体の状況によって大きく左右されます。

活動が減ると、身体機能も落ちる

牛田享宏さん提供

ただ、一つ言えることは、理由はどうあれ身体活動が変化すると、身体機能にも変化を及ぼしてしまうということです。

例えば、ずっと動かないような状況が続くとどうなるでしょうか。

ベッドでずっと安静にしていると、身体を循環する血液量が減って、酸素の取り込みも減ります。血糖をコントロールする機能にも異常が現れます。筋力の低下や筋萎縮も出てきます。

これは若い人でもすぐに起こることです。

ということで、痛みが取れれば何でもできるようになるかと言えば、ならないことがわかっています。

元の状態に戻せるのか?

では我々はどうすればいいのでしょうか?

元に戻せるのかということについて考えざるを得ません。

牛田享宏さん提供

例えば、梅干しをイメージするだけでも酸っぱい感覚が出てきますね。イメージをした時に反応しないようにすることは難しいです。

ただ、私たちの患者さんを診ていると、例えば、横断歩道で交通事故に遭った人は、横断歩道を歩いただけで震えが出てきてしまうことがあります。

一度、怖いことを経験すると、反応を完全に消し去ることは難しいわけです。

ただ、訓練で問題を小さくすることはできます。

運動にしても、歩くなどは無意識の動作ですね。意識して行っているものではないのですが、訓練して少しずつ筋萎縮を防いで、筋肉の持久力をつけていきます。少しずつ成功体験を重ねるということです。

こんなことを少しずつでもやっていくことで、完全に治すことは難しくても、「何とかやっていける」と思うことができる。こういうことを患者さんに理解してもらい、実践してもらう必要があるということです。

7割で回復、全て元どおりは難しいが......

我々の研究班では、こういうデータをまとめてきました。

【参考】The Effect of Guidance regarding Home Exercise and ADL on Adolescent Females Suffering from Adverse Effects after HPV Vaccination in Japanese Multidisciplinary Pain Centers

牛田享宏さん提供

だいたい6割以上の人は改善以上のところまで回復しています。

研究班でまとめた244人のデータですが、痛みが消失または軽快した人、学校にいけるようになったような人は70%、変わらない人は20%、悪化した人は5.8%でした。

完全に元どおりにするというのは難しいところがありますが、何とかやっていけるようにする努力を続けていこうと思います。

今はほとんど接種していない状態

ちなみに、今はHPVワクチンはほとんどうたれていないので、患者さんは見られなくなりました。

牛田享宏さん提供

非常に注目すべきは、ワクチンと関係ないと思われる方たちにも同じような傾向が見られたということです。知っておいていただきたいところだと思います。

ストレスは身体の症状を引き起こす

ストレスに苛まれたら、私たちはどうなるでしょうか?

痛みを感じさせる実質的な刺激があってもなくても、脳は神経伝達物質を出します。

記憶による恐怖などによって、冷や汗や心臓が早く打つなどの自律神経症状が出てきますし、震え、脱力などの運動症状も現れます。

Mixa / Getty Images

歯医者での治療の様子を見るだけでドキドキする人もいる

歯医者の治療の様子を見ただけでも、こんな症状が現れる方もいます。

注射のストレスは症状を引き起こしやすくする

WHO(世界保健機関)はImmunization stress related responses(予防接種によるストレスに関する反応を提唱し、2年前にこういう冊子を作りました。

牛田享宏さん提供

免疫を付けるストレスに関連する反応ということです。

その反応には、「元々持っている素因」も関係します。元々怖がりですぐに震えあがってしまう方ですね。

また、これまでの人生でマイナス経験の多い方はなりやすいです。そういう環境で育った人もなりやすいでしょう。

それから個々の状況も関係します。注射された時に、めちゃくちゃ痛かった方はなりやすいでしょう。先生が事前にすごく脅した場合もなりやすいでしょうね。

社会の影響もあります。ソーシャルメディアなどで、「このワクチンはまずいぞ!」という情報がものすごく流れてしまった場合も、「予防接種は恐怖体験」という意識を煽られることになります。

HPVワクチンの場合は、接種後の症状が動画で流されたのを見てすごく怖かったという人が多いですが、そういう方にどうやって自信を持たせてうたせるかということが非常に大事です。

いずれにしても、そういう影響で持続する症状が持続すると、「解離性神経症状」と言われる非常に強い症状が一部の方で出てくることがあります。

何か起きた場合の対策を整え、副反応に関する教育を

これに対してどう対応したらいいのかということですが、日本医師会と日本医学会が「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」を作っています。

牛田享宏さん提供

診療の基本姿勢、面接・問診のポイント、診察のポイント、検査、診断、鑑別診断、協力体制、日常生活の支援はどうしたらいいのか。こんなことを冊子にしています。

これは様々なワクチンに関係する先生たちと協力して作りました。ぜひ参考にしていただけたらと思いますし、我々研究班は、各都道府県に設置されている「協力医療機関」の先生たちに毎年研修を行っています。

その他には、将来に備えて、今の時期にワクチンの副反応に対する理解を高める教育・啓発が必要だと思います。

そして、何かが起きた時に安心できるように対応するシステムを構築すること。それは、今やっておくべきタイミングなのかなと思います。

【牛田享宏(うしだ・たかひろ)】愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授(センター長)・運動療育センター長

高知医科大学(現高知大学医学部)卒業後、整形外科に入局。同大学大学院修了後はテキサス大学などを経て、2004年から整形外科講師として脊椎外科に従事しつつ集学的痛み外来を始める。

2007年から愛知医科大学病院痛みセンター部長として様々な観点から痛みの病態を分析して,診療を進めることを目的としたチーム医療を推進している。2010〜18年厚労省慢性の痛み政策研究事業班長。現在は日本疼痛学会副理事長、国際疼痛学会評議員を務める。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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