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孤独に子育てしているママ・パパに届け 親目線で書いた『病院に行く前に知っておきたいこと』を出版

しょっちゅう病気をする乳幼児期、不安で仕方ない保護者も多いと思います。そんな時に参考になる本が、親目線で書かれました。著者の阿真京子さんにこの本で届けたいことについて聞きました。

子供が深夜に熱を出した。医師の言葉が冷たく感じてしまう。子供がしょっちゅう体調を崩すと会社を休みづらいーー。

子育てをしていると病気のたびにそんなことを悩む親が多いかもしれません。

そんな時に参考になる情報を親の目線で届けたい。

長年、一般社団法人「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」(2020年4月に解散)で親に伝える活動をしてきた阿真京子さんが、クラウドファンディングで募った資金で本『病院に行く前に知っておきたいこと』(アクセスインターナショナル)を8月に出版しました。

ウェブサイト「子どもと医療」も同時にオープンしています。

新型コロナウイルスの流行で、ママ友、パパ友との交流も減り、病院もなんだか受診しづらくなっている今こそ頼りにしてほしいこの1冊。BuzzFeed Japan Medicalは阿真さんにお話を聞きました。

自分の子供だけでなく、医療も守る

ーー最初のページに「救急受診の目安と判断チェックリスト」を持ってきたところに、阿真さんの思いが凝縮されているように感じました。急いでかからないといけない時とそうでない時を見分けるのがとても大事だという思いですね。

子どもの病気はお熱があってもだいたいは大丈夫なのですが、急がなければならない時はあるので、そこだけは押さえる。その点については敏感な感覚を持ってほしいと思います。

「だいたい大丈夫」と思い過ぎると、ぐったりしていて、夜まったく眠れていない状態も大丈夫と思ってしまう。それも問題があります。

「だいたい大丈夫」と思うためには、しっかり「大丈夫ではない時」を知っていなければなりません。だからチェックリストを最初に置きました。

ーー「はじめに」で思いを2行に集約されています。普通の子育て本と一線を画すところだと思いますが、子どもだけでなく医療まで目を配るのはどういう思いですか?

知ることで、子どもも親も医療者も安心できる。

知ることで、子どもも医療も守られる。

そこが一番、私の中では根っこにある大事な部分なんです。

我が子が生きている環境を良くしていきたいというのは親の誰もが思っているはずです。急病や怪我をした時に病院にかかれる環境もその一つです。

しかし、最低限の情報を知らないことで、そんな時も病院にかかれない環境になってしまう。

知らないことで、医療の環境を圧迫させてしまったり、疲弊させてしまったりする。それが結果的には自分たちがお世話になる時、自分たちにも返ってくる。なかなか気づけないことです。

ーー医師の監修も入っていますね。

医療に関するところは全て医師に監修してもらい、時には複数の医師に確認してもらいました。根拠をもって書いています。

子どもの「いつも」を知ることが緊急時を見分ける基準となる

ーー最初は緊急の場合の見分け方が書かれ、その次に子どもの「いつも」を知るためのノウハウが書かれています。緊急時を知るには「いつも」を知ることが大事だということですね。

そうです。結局のところ、緊急事態を見分けるページを見ても、いつもの状態がわからないと、今どういうことが起きているか分からないはずです。

みんなそれぞれ違う、その子の「いつも」を把握するという視点を持っておかないと、いつもと違って苦しそうにしているとか、ぐったりしているとかがわからない。

「いつもと比べてどうですか?」と小児科の先生が聞いても、「いつもどうかがわからないです」と答える親御さんがとても多いと聞いています。私もこの活動をする前は、そんな視点を持っていませんでした。

子どもの肌がどんな感じか、子どもの頭のかたさがどんなか、成長痛で足を痛がっている時に今はこんな感じだなとつかむ。言われてみればすごく大事なことです。

小児科の先生も「親が言う『いつもと違う』ということには敏感になって、ちゃんと診なくちゃと思うよ』」とみなさん言います。

こんな大事なことを知らないで親として子育てしてきたんだと自分で思うので、そこはすごく伝えたいところですね。

命にかかわる医療者とのコミュニケーションのずれ

ーー次の章では医療者と患者のコミュニケーションのずれについて書き、それを解消するための方法について書いています。面白い視点ですね。

医療者とすれ違うのは、命にかかわることだと思うのです。

美容院でもコミュニケーションを取ることで理想の髪型が手に入る、病院でも同じでやはりこちらの思いを伝えたり相手の状況を慮ったりと、することは同じですが、その結果の重さが違いますよね。

患者側が知って防げることと、医療者側も患者のことを少し想像していただいたり、受け止めていただいたりすることで防げることがあります。

他の分野とはすれ違いの結果の重さが違うのです。そんなすれ違いをなくしたい。私たちも知っておいた方がいいことがあるし、医療側のメッセージもこの章には含めています。

ーーその次の章が日頃の医療のかかり方ですね。

親御さんが一番迷うのは救急の時ですが、そんなに頻繁ではありません。年に何回かあるかないかです。

それよりも日頃、咳が続いているけど今受診した方がいいか、発熱していて下痢もしているけどかかりつけに受診した方がいいか、などがよく迷うところです。

日頃の医療のかかり方も知っておくのも大事だと思うので、かかりつけ医へのかかり方も載せています。

玉石混交の医療情報 信頼できる情報はどこにある?

ーーその次の章が現代ならではの課題ですが、医療情報との付き合い方ですね。怪しい情報がスマホ検索した先にはあふれているので、現代の親御さんにとってすごく重要ですね。

簡単に問題のある情報にたどり着いてしまう時代です。テレビはもちろん、インターネットも昔よりはマシになったといえ、それでもやはり酷い。

「子どもと医療」のInstagramを始めて、「なるほど」と思うことが多いです。

Twitterは変な情報が出てくると、あちこちからツッコミが入ります。Twitterはそういう意味で安心かもしれません。FacebookはFacebookでグループの閉じた世界の中で、問題ある情報が流れています。

一方、Instagramは公開で酷い、びっくりするような情報が流れています。

親御さんからは「どこを見たらいいのでしょう?」とよく相談されることですから、最低限、日本小児科学会の「こどもの救急」のページとか総務省消防庁の「Q助」とか、佐久医師会の「教えて!ドクター」とかに出ているようなものは安心して情報をとってもらえますよということで載せています。

子どもと医療」のウェブサイトにもたくさんリンクを載せて、BuzzFeed Japan Medicalも出しています。

職場との付き合い方や子どものメンタルケアまで

ーー最後の章がまたかゆいところに手が届くなと思ったのですが、職場との付き合い方や子どものメンタルケアにも触れていますね。

保護者の中では保育園に預けて働いている方が大半になってきています。出産で会社を辞める人もあまりいないと思われているのではないでしょうか。

それでも実際には出産や子育てを理由に辞められている方はいます。その原因は、会社側にもありますが、家庭内にもあります。パパを責めているわけではないのですが、子どもが病気になった時にはママが休むことが当たり前だと思われているご家族もとても多いです。

職場の中での子育て支援研修を何度もやっていく中で、上司の人たちが子どもが病気になること自体を知らないということがわかりました。お子さんがいらっしゃる方でも、自分の子育てを全然していない。そしていざ上司になると、部下がやたらと休むということに直面するのです。

「そもそも子どもはたくさん病気をして、あなたの奥さんは子どもの看病をしてきてくださったはずですよ」と言っても、自分は全然知らない。「そういうものなんですか?」とそこで初めて知るのです。

それでも自分は部下思いで、部下のために何かしてあげたいと思っていたりして、すごいすれ違いが起きています。

上司は読んでくれないかもしれませんが、せめて本人が子どもが病気をするものだということを上司に伝えていかないと、全然気づかないと知ってほしい。

パパにも読んでもらいたくて、FQという男親の子育て雑誌の別冊を選んでいるところもあります。

読んでくださったパパが「子どもの第一連絡先をママにしていて反省した」と感想を送ってくださったこともあります。頑張っている若いパパもたくさんいますが、子育ては夫婦はもちろんのこと、夫婦だけでもなく、地域も職場もみんなで協力してもまだ足りないくらいのものだと思うのです。

ーー子どもとの向き合い方も目を配っていますね。

たくさん病気をする時期は3年ぐらいで終わります。でも子どもとの関係が良好であっても、いつまでも子どもの全てに口を出したり、手を出したりしてしまいます。

ギュッとくっついている親子関係は小さいうちは大事でしょう。それでもやはり、成長と共に手を放し、口を放し、距離をとって見守っていく切り替えは、育っていく過程では大事だと思います。

小児科の先生たちの話を聞いても、体の病気は減っているけれど、心で受診するお子さんがものすごく増えている。子どもの数が減ったことや、社会の見守りが少ないから「自分たちがしっかりしなければ」と過干渉になってしまうことも影響しているのではないかと思います。

小児科、産婦人科の待合室に

ーーこの本の活用の仕方ですが、クラウドファンディングで寄付した人に届ける他に、どのように広げることを考えていますか?

まず日本小児科医会と日本産婦人科医会の幹部の先生に送りました。まだ回答待ちですが、全ての産婦人科、全ての小児科の待合室に置いてもらうことを目指しています。

他には「子育てひろば」と呼ばれる子育て支援施設が全国8000施設以上あるので、そこでも読んでいただきたい。児童館など親子が出入りする場所に置いてあるといいなと思って働きかけはしていきます。

もちろん普通の書店にもあります。

親の視点で医療を書く

ーー他の本との違いでアピールできるところはどこですか?

まず親の視点で親が書いた本はあまりありません。今までの本は基本的に医師、医療者が書いた本です。

親が感じたことや親として患者として気づいたことが入っているところが他の医療本と違うところです。

他の子育て本と違うところは医療のことを書いているところです。医療の部分は全て医師に確認し、根拠を持って書いています。

子どものお薬手帳や外国人向けのパンフレットも

ーー他にも子どものお薬手帳である『子どもの健康管理ハンドブック』や外国人向けのパンフレットも作ったのですね。

お薬手帳は自治体が母子手帳を配る時に一緒に配ってほしいと思っています。個人では「子どもと医療」のウェブサイトから購入できますが、自治体ごとに地域情報のページは変えて販売してもいいと思っているので、ぜひ活用していただきたいです。

また7ヵ国語のパンフレットもウェブサイトから無料でダウンロードできます。既に乳幼児健診や赤ちゃん訪問事業で配っていただいているところもあります。『病院に行く前に知っておきたいこと』の内容を凝縮して書いています。

海外の出身の方がいたり、日本語が難しい方がいたらぜひ活用してください。子どもが生まれたら知っておいてほしいことがギュッと詰まっています。自治体の方が保護者に接するときはぜひ使ってください。

ーー何語バージョンがあるのですか?

今はタイ語、ベトナム語、インドネシア語、英語、スペイン語、韓国語と日本語です。

新型コロナの流行でさらに必要な情報に

ーー今、新型コロナの流行でなかなか両親学級にも行けないし、クリニックにも行きづらくなっていますね。そういう時だからこそ、こういう情報は大事ですね。

そう思います。私が活動を始めた頃は、医療現場は疲弊していてかかれない状況で、「心配だったら医療機関にいつでも行って」と言える状態を目指してやってきたのです。

でも、今はコロナの流行で、違う意味で「心配だったら医療機関にいつでも行って」とは言えない状況にあります。

理由は違うのですが、本で書いたことは今すごく重要になっていると思います。実際、0歳のママに読んでもらったのですが「今、いつ受診したらいいのか余計に迷う時だから、すごく知りたかった情報です」と言ってもらえました。

母親学級も無くなって、産後のクラスもコロナでなくなっていることが多いので、知りたいのに学ぶ機会がない。すごく安心したと言ってもらいました。

こうした情報を一番届けたいのはやはり、子どもを産んで孤独を感じている人です。ひとりぼっちで子育てしているような気持になっている人に、ここにも応援団がいるよと伝えたい。

「子育てを始めてからはだいぶ経っちゃったけれど、子育てする仲間として、大変なこともあるけど楽しみを見つけながら一緒にいろいろ乗り越えていきましょう!」

そんなエールの気持ちが届いてほしいなと思います。それが一番です。

ーー他にも届けたい人はいますか?

産む前にも妊婦さんやパートナーの方にもさらっと目を通してもらいたいです。内容を忘れてしまっても、産後、いざ子どもが病気になった時に、「あの本に書いてあった」と思い出してもらえると思います。

ーーお医者さんにも読んでもらいたいのですね。

読んでもらった医師たちが、「これは若手の先生にぜひ読んでもらいたい」と言うのです。医療現場にいてすれ違いがあると診療する医師たちもがっかりする。「なんで分かってもらえないのだろう」とすごく悲しい思いをしています。

これを読んで「親ってこんなところが気になるんだな」「親ってこんなところを頑張っているのだな」と気づいてもらうことで、自分のやるせなさも解消されるのではないかと思うのです。若い先生方にも読んでもらいたいですね。

【お知らせ】9月27日午後1時〜2時 オンライン講座「病院に行く前に知っておきたいこと」があります。参加費3000円(本とお薬手帳の代金を含みます)。申し込みはこちらから。

【阿真京子(あま・きょうこ)】

1974年東京都生まれ。都内短期大学卒業後、日本語教師養成課程修了。マレーシア 国立サラワク大学にて日本語講師を務め、帰国後外務省・外郭団体である(社)日本外交協会にて国際交流・協力に携わる。

その後、夫と飲食店を経営。2007年4月~2020年4月までの13年間、保護者に向けた小児医療の知識の普及によって、小児医療の現状をより良くしたいと「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」代表を務める。
17歳、14歳、12歳3男児の母。

特定非営利活動法人「日本医療政策機構」フェロー、一般社団法人「日本医療受診支援研究機構」理事、「AMRアライアンス・ジャパン」メンバー、 東京立正短期大学幼児教育専攻(『医療と子育て』)非常勤講師