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新型コロナ、マスクや手袋なしでどう立ち向かうのか? 防護具専門の販売会社が不足の実態を訴える

新型コロナウイルスの流行で、全国で不足するマスクや手袋、ガウンなどの医療用防護具。輸入販売業者にその実態や、どのような対応が必要なのか伺いました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を治療する時に欠かせないのが、マスクや医療用手袋、ガウン、フェイスシールド(顔を覆う道具)などの医療用防護具。

製造工場がある中国、台湾などアジア各地が、新型コロナの流行で生産や輸出ができない状態が続いており、国内の医療機関は不足に喘いでいる。

防護具が足りなくなれば、医療者は感染から守られず、患者にも感染の被害が及ぶ恐れがある。

医療用防護具専門の販売大手「モレーンコーポレーション」(東京都中野区)の社長、草場恒樹さんに現状と、危機打開のために願うことを聞いた。

1月初旬には中国・台湾が輸出を禁止

同社は、医療用のマスク、手袋、ガウン、フェイスシールド、エプロンなど、感染対策のための防護具を専門に販売し、医療機関向けに感染対策のコンサルティングを行っている。

ほとんど全ての商品生産を中国や台湾、東南アジア各国の提携工場に委託し、輸入する形で医療機関に販売してきた。

輸入が滞り始めたのは新型コロナウイルス が猛威を振るい始めた1月初旬のことだった。

「中国と台湾がほぼ同時期に、海外への輸出を禁止したのです。政府が完全に出荷をコントロールするようになり、現地の工場で作った全ての製品を接収してしまいました」

台湾は設備の維持費用も政府が出し、従業員の人手が足りないところには軍隊が入って増産を始めたが4月末までは海外への輸出を禁止し、台湾内だけに供給している。

中国では2月末には政府が出荷をコントロールすることはなくなったが、中国国内消費がまだ多いことに加え、患者数が増えた欧米からの発注も増え、日本へ割り当てられる数が減っている。

医療用手袋の生産はマレーシアが7割のシェアを占める。こちらも、国が外出制限をかけ始めて、小さな工場は閉鎖。政府支援が入る大工場は稼働しているが、日本への輸出量は激減した。

こうした結果、日本での需給はどうなったか。

「マスクはもうすでに枯渇している医療機関が出ています。1週間に1枚しか使えないというところもあり、ガウンや手袋も不足し始めています」

草場さんのもとには医療関係者から「マスクだけでなく、防護具全体が危機状態になりつつある」「何で代用したらいいか毎日考えている」という悲鳴のような声が日々届いている。

平時の20倍の値段も 廃棄予定だった不良品を修理して出荷

草場さんの会社では災害支援をしていることもあり、マスクは普段から在庫を大量に蓄えているため、取引先の医療機関に細々と供給を続けている。

「新規の医療機関から、『大変困っている』と相談され、少し提供しているものの、6月にはうちの在庫も枯渇します。海外の提携工場からの仕入れ回復を期待していますが、原料の価格も高騰し、欧米の流行で世界で争奪戦となっておりなかなか厳しい状況です」

そんな中、提携工場からは「金を出せば売る」という厳しい交渉も始まっている。

「高いところで平時の20倍の価格を提示してきていますが、これでも需要の爆発的な急増や原材料の高騰を考えれば良心的なぐらいです。ある病院から『どうしてもマスクが欲しい』と頼まれたので、その時は10倍以上で提示された価格を伝え、納得してもらった上で発注しました」

同社では、全て廃棄処分にする予定だった不良品の混じったロットのガウンを、急遽、手作業で不良品を直し、販売することを決めた。チェックや修理に必要な費用は同社持ちで儲けはないが、取引先の不足ぶりを考えるとそうせざるを得ない。

「最悪、マスクは1週間に1度の交換でも感染につながることはありませんが、手袋は1処置ごとに交換しないと厳しいです。アルコール消毒したら、合成ゴムはダメージを受けますし、使っているうちにピンホールも開く。即感染につながります」

街ではマスクをつける人を見かけるのに、医療機関で不足するわけは?

草場さんによると、マスクの場合、1日に必要な量は医療機関の全従業員の人数かける2枚が目安だ。1000床の大病院だと、1日に使うマスクは約5000枚。全国に医科・歯科医療従事者だけでも約176万人おり、それだけで1週間に約2500万枚が必要になるという計算をしている。

一方、厚生労働省、経済産業省、消費者庁が全国マスク工業会と連携して打ち出している1週間あたりの出荷数は、1億枚だ(厚労省・経産省の特設ページ)。

さらに増産設備のための補助金を出し、3月には1500万枚、4月には5000万枚の生産が追加され、輸入も追加するなどで4月までに月6億枚の供給ができる見込みとしている。

草場さんは「この出荷数と医療機関での需要を比べれば、十分間に合うはずなのに足りていない」と指摘する。

医療用マスクは国際的な工業規格「ASTM」の性能を満たさなければならないので、一般用のマスクより生産に手間がかかるという。だが、価格は1枚5円と一般用の10分の1だ。

「日本のマスクの2割は国産、8割は海外製品と言われています。ドラッグストアやコンビニで売られる一般用マスクの方が単価が高いため国産は市場原理でそちらを優先してしまうのでしょう。逆に医療用マスクは生産コストを安く抑えるためにほとんど海外で作っているのが今回裏目に出て、不足につながっています」

実際に、マスク不足が言われながら、道ゆく一般人はほとんどマスクをつけている。感染対策にもっとも必要な医療機関が優先されず、一般向けに販売されているとみられる。

安倍首相は3月5日の新型コロナウイルス感染症対策本部で、2000万枚を国が一括して買い上げ、高齢者の介護施設や障害者施設、保育所、学童保育などの現場に少なくとも1人1枚は行き渡るよう、配布することを明言した。

厚生労働省は3月16日に1500万枚を確保して自治体を通じて医療機関に配布することを通知したが、焼け石に水とみられる。

経済産業省医療・福祉機器産業室はBuzzFeed Japan Medicalの取材に対し、「全生産のうちどれぐらいが医療機関に配分されているかは把握しておらず、政府が配分に介入することも検討されてはいない」と話す。

厚生労働省新型コロナウイルス対策本部のマスク供給担当者は、「3月23日の週から各都道府県に1500万枚のマスクが届き始めており、マスク不足を解消するための対策は徐々に取っている」とする。

しかし、この担当者も国内の供給量1億枚のうち、医療機関にどれぐらいが配分されているかは把握していないという。

全国のマスク生産業者が加盟する一般社団法人「日本衛生材料工業連合会」の担当者は、「全出荷量の3割は医療用で、全体の生産量が増えているので、4月以降は医療機関でも改善を実感してもらえるはずだ」と話す。

医療用の生産比率を増やさない理由については、「一般の需要も増えており、つけないよりはつけたほうがいいとも言われているため、そちらを減らすわけにもいかない。一般用は機能が色々ついているから単価が高くなっているだけで、儲けだけを考えているわけではない」と話す。

医療機関に優先的に届かせるにはどうしたらいいか?

医療従事者が感染から守られなければ、患者も守られず、新型コロナだけでなく他の病気でも必要な医療が受けられなくなる恐れがある。

こんな現状を打開して、医療機関に優先的に十分なマスクが届くようにするにはどうしたらいいのか。

「自由競争が大事なのはわかりますが、今は非常事態です。国は、国産メーカーの出荷をコントロールして医療機関に優先的に回すか、自由競争で高い値段がつけられている海外生産のマスクを買うために国が医療機関に費用を助成するか、何かしらの解決策を早急に考えてほしい」

「国同士で話し合って、日本への供給をもっと増やしてもらう交渉も必要でしょう。民間業者や医療機関の努力ではどうにもならなくなっているので、国が動いてほしい」

そして、草場さんは一般の人に対してもこう訴える。

「一般用のマスクは『ウイルス99%カット』などの謳い文句を掲げていても、隙間が多く、呼吸すれば脇からウイルスは入る構造です。直接飛んでくる飛沫は防げるかもしれませんが、予防のためにはほとんど意味はないのです」

「一般の人の対策でもっとも大事なのは、手洗いです。日本はクラスターを抑え込んで大流行まで至っていませんが、一歩間違えたらイタリアのような爆発的な感染になる可能性もある。その時に命を守れるように、医療機関にマスクなどは優先してもらえるようご協力をお願いします」


【情報提供のお願い】

新型コロナウイルスへの対応で、マスクなどの防護具不足を始め、医療や介護の現場に様々な問題が起きていると聞きます。BuzzFeed Japan Medicalで取材にあたる岩永(naoko.iwanaga@buzzfeed.com)に、あなたの現場で困っていることをぜひ教えてください。取材して記事にする可能性もあります。