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拡散や宣伝に協力すれば加害者 トンデモ医療にだまされないためにできること

怪しい医療情報が人々を翻弄し、心身の健康を害することのないようにTwitterなどで啓発活動を続けている医師、峰宗太郎さんに「血液クレンジング」について医学文献を検証していただき、だまされないためのコツもお聞きしました。詳細バージョンです。

医学的な根拠がないのに、著名人らによって体験談が拡散され、批判を浴びている代替療法「血液クレンジング(血液オゾン)療法」。

「免疫力を高める」などとして、アンチエイジングや疲労回復などのほか、がんやHIV、心筋梗塞など適切な治療を受けなければ危険な病気にも効果があるとうたわれている。

免疫学やウイルス学が専門の医師、峰宗太郎氏に医学文献などを検証してもらった。こうしたニセ医学にだまされないコツも伺った。

「血液クレンジング療法」「オゾン」とは?

ーー「血液クレンジング」というオゾンを血液に入れるという療法は医学的に見て、効果があるものなのでしょうか?

まず、「血液クレンジング」を把握している限りでまとめると、末梢静脈血を採取して容器に入れ、その血液の入った容器内に酸素・オゾン・オキシドールなどを混ぜた後に、この血液を静脈から(点滴のようにして)体内へ戻すという「行為」のことを指しますね。

「オゾン療法」とも称しています。

まず、オゾン(ozone)は酸素原子3個が結合した酸素の同素体ですが、腐食性が高く、フッ素に次ぐ強い酸化力を有する、常温常圧では気体の物質です。

オゾンは、強い酸化作用を有するため、環境や水道水などの殺菌、ウイルスの不活性化、脱臭、脱色、有機物の酸化による変性目的などに使用されています。水道水の殺菌などにおいては、オゾンは不安定で、すぐに酸素と水になるため、適切に取り扱っていれば残留も少なく安全なのは事実です。

オゾンを消毒等の環境への使用や、医療で用いようという研究は、オゾンが発見された16年後の1856年から始まっています。初めは手術室や手術器具の消毒に使われたとの記載があります (Chemical Technology Encyclopedia; Barnes & Noble 1968 vol. 1 pp. 82–8)。

1892年には、医学雑誌 The Lancet に結核治療に用いたとの報告もあります。第一次世界大戦中にはイギリスで負傷に対してオゾンを用いる治療法も試されましたが、これは細菌だけでなく人体も傷つけるものであったとして、他の消毒法や抗生剤を用いる方がよいことが結論付けられています

医療目的のオゾンの開発としては、ドイツにおいて1957年にオゾンガス発生機を用いた医療目的の研究が始まっているようです。

FDAでは医療目的での使用は禁止されている

それなりに、長い歴史がありますが、オゾンを直接用いた治療法は、日本の保険診療においてもアメリカのFDAにおいても承認されたものはありません。むしろアメリカでは、2016年よりオゾンの医療用の使用はFDAによって禁止されています

取り出した血液を体外でオゾンや酸素と混ぜて戻すような方法については、「体外血液酸素化・オゾン化(Extracorporeal blood oxygenation and ozonation)」「自家血オゾン療法(Autohemotherapy)」などと呼ばれており、論文による報告もいくつもあります。

結論を先に述べると、そもそも、特定の症状や病態を緩和し、治療を成し得たという信頼に足る報告は未だにほとんどないのが現状です。一部、帯状疱疹後の痛みや線維筋痛症の痛みを緩和したというような報告はあります。

体系的に臨床的な検討を行っている研究はわずかで、症例数も少ないものがほとんどであり、人体に使用した場合のオゾンの有用性というのはよくわかっていない、ということが医学的には言えます。

一方、オゾン療法によって高カリウム血症が起こった、心筋梗塞が起こった、心臓が止まったというような報告もあります。

また、イギリスでオゾン療法を行っていたBasil Wainwrightという人物が無免許で逮捕されたり、アメリカでも推進者から逮捕者が出たりするなど、社会問題もいくつか起きています。

FDAでは、「オゾンは毒性のあるガスで、特定の治療や補助治療、予防治療において有用な医療応用は知られていない」と結論付けています。

また、Natural Medicines Comprehensive Database という「自然派」の信頼されている医学データベースにおいても「安全ではないだろう」と分類しています。

結論としては、オゾンの医療利用は、医学的にははっきりとした有用性は極めて限定的であり、かつ弱いエビデンス(証拠)しかなく、ほぼ無効であろうと言えます。むしろ毒性などが生じる可能性が高い、とみてよいと思われます。

血液が鮮やかな色に→我々が肺で常にやっていること

ーー実際にこの療法を実施している医師たちは様々な「効果」を述べ、芸能人らも、体験談で「効果」を実感したように語っています。これはどういうことだと考えられますか?

この治療を行っているときに、採取した血液が瓶の中で鮮やかに変化することが治療効果の一部であるとうたっているところもあるようです。

しかし、これは、赤血球内にあるヘモグロビンに酸素が結合したことによって色調が変化するものであり、常にわれわれの肺で起こっていることです。これ自体には特別には何の効果もありません。

戻ってくる血液を入れた際に血管が開くような感じがするという説明もあるようですが、これは酸化剤としてのオゾンを加えられた血液が体に戻ることによる刺激とも考えられます。

また、一部の証言ではマグネシウムを含む製剤を混ぜており、血管拡張を促して、体が温まったように感じさせる方法を取っているケースもあるようです。

いずれにせよ、効果を客観的に計測したデータとして収集し検討した結果はまともには報告されておらず、信用に足るものではありません。

総合的に見て「トンデモ医療」「ナンセンス」

ーーこの療法に伴うリスクの可能性についてはどうでしょうか?

まずは、採血や自分の血液を再び体内に戻す行為に伴う一般的なリスクがあります。針刺入時の神経損傷や内出血、血管迷走神経反射などから、清潔操作の不徹底による感染症のリスク、体外に取り出された血液の凝固による血栓、点滴時に空気が混入することによる空気塞栓などですね。

それに加えて、オゾンという強力な酸化剤を用いていることによる未知のリスクが考えられます。

血液は一定の状態に保つ能力が強いため、オゾンの酸化力は弱められるとはいえ、白血球などのDNAにダメージが与えられる可能性はあります。また、活性化した白血球などにより、炎症等の反応が起こる可能性も否定できません。

さらに、この行為を実施している医師の作用の説明はナンセンスです。

血液にオゾンを加えると過酸化水素と脂質過酸化代謝物ができるところまではその通りですが、NFκBについてはトンデモな説明と言わざるを得ません。

NFκBというのは細胞内で活性化すると様々な作用を起こすタンパク質なのですが、がん細胞でも活性化しますし、紫外線を浴びた皮膚、たばこを吸った際の気道上皮、感染症がおこったり異物が侵入したりした際の免疫細胞など、さまざまな細胞で良い作用でも悪い作用でも活性化します。

免疫システムというのは非常に複雑であり、ある特定の細胞が活性化したことが良いことなのか悪いことなのかは状況によります。アレルギーや自己免疫性疾患では免疫細胞が活性化することで症状が出たり悪いことが起きたりします。

「血液クレンジング」の場合、オゾンや体外に血液を取り出したことにより免疫細胞などがダメージを受けてNFκBが活性化しただけであると考えるのがより妥当でしょうから、「免疫力」が上がるなどという言い方はトンデモです。

そもそも免疫はシステムであり、「免疫力」などという言葉をつかう医療関係者は信用に足りません。

さらに、「抗酸化力」にいたっては意味不明です。オゾンで血液を酸化させているわけですから、抗酸化をはかるならオゾンなど使わない方がよいはずです。

総合的に見て、この治療は「ナンセンス」であると言ってよいと思います。はっきりと証明され臨床応用に耐えうると言える効果・効能はなく、毒性についても懸念があります。日本において自費診療で行われている「血液クレンジング」なるものは「トンデモ医療」であると、私は断言します。

効果が不明な治療を患者が行う危険性は?

ーー有望な臨床試験が進んでいる情報などはありますか? もしなければ、このような治療法を実験的に臨床で行う医療従事者、医療機関にはどのような問題があると考えられるでしょうか?

ClinicalTrials.gov という多くの治験が登録されているサイトで “Ozone” をキーワードにして調べてみますと、150件ほどの登録があります。進行中のものも完了しているものもありますが、論文となっているものは非常に少ないのが現状です。

日本のクリニックで行われているような、「疲労回復」「アンチエイジング」「何でも治療できる」「魔法のような方法」というような臨床試験はなく、疲労回復や美容などについては、体系的な報告はありません。

おそらく仮説、多くは妄想と思われる効能・効果をうたって治験登録等を行わずに、しかも自費診療としてこのような「行為」を行う医療従事者・医療機関は、著しく倫理観を欠き不適切な行いをしていると言わざるを得ません。

ーー効果のある病気として、標準治療を受けなければ命が危うくなる病気が並んでいます。標準治療を回避してこのような代替医療に患者がすがる危険性についてはどう考えますか?

これは代替医療全般に言えることですが、まずは標準医療を受けていただくことが、現状、日本においては最もよい結果を得られるわけです。それを忌避させるようなことになっているのであれば、大変な問題です。

これらの行為を行っている医師に先に絡めとられることにより、標準治療へのアクセスが遅れてしまい、がんなどの疾患で手遅れになることも起こっています。大変な問題です。

さらに、標準治療と並行して行う場合でも、例えばがんに対する化学療法等を受けていれば元の病気や治療によっては免疫の機能が低下している場合などもあります。そのような時に、このように体に影響のある行為、血液に何かを添加する行為にはある程度のリスクがあると考えられます。

美容目的などであっても、実際に効果が確認されているとは言えない行為を、いかにも効果があるかのようにうたってしかも医療機関が実施するということであれば、場合によっては薬機法や関連するガイドラインにも触れるでしょう。倫理的に許されざる行為であると考えます。

拡散する芸能人の責任は?

ーー著名人がこのような治療法の片棒を担ぐ問題について、どう考えますか?

まず、治療法であるとうたうのであれば「薬機法」や関連ガイドラインに触れる可能性はあります。著名人を含む「医学の素人」がこうした「医療『行為』」を宣伝したり推奨したりすることは大きな問題があります。

医師が行っているため信じてしまうことはあり得る、よって芸能人やインフルエンサーには罪はないという意見もあるでしょうが、私はそれにはくみしません。

健康、生命、財産に関することについては情報を信じこむ時点では被害者かもしれませんが、拡散や宣伝に協力し出した段階で加害者となりうることを、この情報社会ではそれぞれが意識しなくてはなりません。

とくに、医療については保険診療などの正当な医療でも広告は厳しく制限されています。かつ、病気などについては個々人の状況も全く異なるわけで、素人が他人に勧めるような行為は非常に危険であるということが広く認識されないといけません。

インチキ・トンデモであるとはいえ、医療的な行為を宣伝することはたとえ騙されていたとしてもやはり責任があるといえると思います。少なくとも倫理的に大きな問題です。

これらの行為を写真付きなどで広めた人は大いに反省し謝罪すべきと考えますし、二度と加担しないように普段から考えておくことを勧めたいと思います。

人体実験を自費診療の名のもとにやる許しがたい行為

トンデモ医療行為が多くみられる代替医療においては、実施者は無責任でやりっぱなし、手に負えなくなると責任をとらなくなるという共通点があります。

渡井氏は「副作用の報告もない安全な治療。(科学的な根拠を示す)臨床試験は費用がかかるし、世間の『オゾンは危険』という思いこみがあるからできない」などと言っていますが、そもそも副作用をしっかり把握するシステムの整備などをしているとは思えません。

費用がかかるからといって臨床試験を行わないというのはとんでもない発言です。これは人体実験を自費診療の名のもとにやってもよいと宣言したことにほかならず、医療倫理に真っ向から反抗する許しがたい発言です。

オゾンに危険な面があるのは思い込みではなく事実であり、こうした全く意味不明な言い訳をする人を許してはいけません。

どうすればだまされない?

ーー医師や医療機関がやっている診療を一般の人が疑うのは難しいかもしれません。だまされないために、私たちができることはあるでしょうか?

日本においては保険診療の範囲でしっかりした標準治療を受けることが一番です。自費診療や代替医療・統合医療のほうが優れているというものはありません。患者やその予備軍であるすべての人は情報の取り方などをしっかりと考え、だまされないようにすることが大切ですね。

代替医療については厚生労働省研究班による統合医療情報の発信ページ「eJIM」を知っておいていただきたいと思います。医療情報の集め方や検討の仕方などがわかりやすく丁寧に解説されているほか、アメリカなどの海外の情報もわかりやすく紹介されています。

また、血液クレンジングに関しては「学会」や「認定医」があるために信用してしまったという人もいるかもしれません。

世の中には「学会」がたくさんありますが、どんな団体でも「学会」を名乗ることができ、トンデモ学会もたくさんあることを知っていただく必要があります。

「学会」がまともであるかどうかの一つの指標は、「日本医学会」の分科会になっているかどうかです。日本医学会のサイトへいき、分科会の一覧にのっている学会をまずは信用していただきたいと思います。

ホームページがきれいだとか、専門医を持っているとか、立派な経歴だとか、どこどこ大学(時に東大等の一流大学)の教授だったとか、学会がある、などははっきり言って正しさをなにも担保してくれません。

保険診療で標準医療を行ってくれる、「普通でつまらない」医療機関を信用してください。よく相談し、よく話しをし、自分でも公的な情報源複数をもとに検討したうえで、納得して選択し、治療に臨んでいただきたいと思います。

情報社会において自分と愛する人をまもるためには、個々人も賢く強くならねばなりません。情報は簡単に人を殺しますが、人を救うこともあります。翻弄されず、利用し活用し、多くの人が安心して暮らせるようになってほしいと思います。

【峰 宗太郎(みね・そうたろう)】米国国立衛生研究所博士研究員

医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都大学薬学部、名古屋大学医学部、東京大学医学系研究科卒。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、米国国立衛生研究所博士研究員。専門は病理学・ウイルス学・免疫学。ワクチンの情報、医療リテラシー、トンデモ医学等の問題をまとめている。ツイッター@minesoh で情報発信中。