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「風邪に抗生物質」という間違いはなぜ生まれるか? 鍵は医師と患者のコミュニケーション

薬剤耐性菌対策に取り組む国立国際医療研究センターのAMR臨床リファレンスセンター長の大曲貴夫さんに、医師と患者に必要な心構えを聞きました。

風邪に抗菌薬や抗生物質は効きません。

それどころか下痢や吐き気などの副作用もありますし、安易に使ってしまうことで薬が効かない「薬剤耐性菌」を生み出し、そのために世界中で毎年70万人が亡くなっています。

効かない薬をなぜ患者は要求し、医師は処方してしまうのでしょうか。そして、改善するために何が必要なのでしょうか。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

薬剤耐性菌の問題について説明する大曲貴夫さん

日本政府の「薬剤耐性アクションプラン」を実行するために設立された、国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンターのセンター長、大曲貴夫さんに伺いました。

抗菌薬の飲み過ぎ、下の世話での感染......

ーー日本は2020年までの5年間で取り組む薬剤耐性対策アクションプランをまとめ、耐性菌を減らす数値目標も掲げられていますが、達成できそうでしょうか?

耐性菌の目標については、達成できそうなものと厳しいものに分かれていますね。カルバペネム耐性緑膿菌やMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は達成できそうですが、フルオロキノロン耐性大腸菌や第三世代セファロスポリン系耐性大腸菌はコントロールできていないのが現状です。

ーーなぜ耐性菌を抑え込むことができないのでしょうか?

まず、いまだに日本人が抗菌薬を飲み過ぎていることがあるでしょう。風邪で抗菌薬を要求する患者も、処方する医者もいまだに多いのが現状です。

入院している時に体内に耐性菌がある人からうつされることもあります。急性期の病院でたくさん抗生物質を使って耐性菌を作り、療養病床などに移って、そこで患者同士、耐性菌のやりとりをしているのではないかとも推測されています。

人間の便の中にもたくさんいるので、超高齢社会で、下の世話が必要になるお年寄りが増え、おむつ交換時にうつっていくことが推測されます。忙しい中、おむつを丁寧に変えるのは難しいですからね。

ただ感染経路はブラックボックス。動物からうつっているという推測もあり、実際はどのような経路でうつっているかははっきりしていません。

ーー赤ちゃんでも耐性菌で危険な目にあうことがありますが、生まれたばかりだと抗菌薬をたくさん使っていることは稀ですよね?

もともと、子供は無菌のはずなので、生まれて3か月はおそらく親からもらっているのでしょう。母親がそれまで風邪で抗菌薬を繰り返し飲むなどして、体内に耐性菌を持っている場合があります。子宮の中に入り込むこともありますし、お産で出る時に、お母さんの多剤耐性大腸菌をもらうことがあるようです。

ーー赤ちゃんはまだ免疫がしっかりついていないでしょうから、心配ですね。

3か月を過ぎてからもらうとすれば、周りからだと思います。赤ちゃんが可愛いので、つい両親や祖父母がキスしていろんな菌をうつすことがあります。保育園で中耳炎やとびひをうつし合うこともあります。

子供はそうやって菌をうつされて抵抗力をつけてたくましく育っていく側面もあるのですけれども、耐性菌も同じようにうつってしまうのが問題です。

自分一人だけ、家族だけが気をつけていても大丈夫というわけではありません。だからみんなで対策に取り組まないといけないのですね。

耐性菌が牙を剥く時

ーー普段、耐性菌は健康な人が感染していても体に悪さはしないのですよね? どういう時に問題になるのですか?

まず、健康な人は耐性菌であるかどうかに限らず、菌が体の中に入ってきても免疫の力で発症するのを抑え込むことができます。それが、仕事で無理をしたり、ストレスがかかったり、疲れがたまったりしている時は感染症が起こりやすくなります。

例えば、膀胱炎や腎臓まで感染して発症する腎盂腎炎などは典型的ですね。我々は普段から大腸菌まみれで生きていますけれども、下をきれいにしていなかったり、トイレを過度に我慢したりしているとどうなるでしょう。

尿を定期的に流すことで膀胱や腎臓はきれいにされているのに、長時間流されていなかったりすることで下から入った菌が、体の上の方に来て感染することがあります。その時に体力が落ちていると火をふくんですよね。

肺炎だと、口の中の菌を吸い込んだり、はずみで入ったりすると感染する。飲み込む力が衰えているお年寄りだと、口の中のものが誤って気管に入って誤嚥性肺炎を起こすことはよくありますね。

これが耐性菌になっていると、抗菌薬を飲んでも治りづらかったり、なんども再発したりしてしまいます。治らないまま全身に広がって敗血症になったりすれば、命に関わることさえあります。

ーーどんな人がリスクが高いのでしょうか?

やはりお年寄りが多いです。持病があって入院し、体力が弱っているお年寄りが集団感染するのはそういう理由です。

健康な成人も、肌が弱っていると皮膚や脂肪組織から感染することがあります。忙しく働いている30代の調理師さんが手荒れが酷くて、そこからMRSAが入って重い感染症になった例もありました。

膀胱炎が治らないという看護師さんはどこの医者で抗生物質を出してもらっても、何度も再発して、今飲んでいる薬も全然効かないということでした。調べたらキノロン系抗生物質に耐性を持つ大腸菌が出て来て、処方されているのはまさに効かないキノロン系の抗生物質でした。薬を変えたら治りましたね。

世界では年間70万人が耐性菌で死亡 日本では?

ーー世界では年間70万人耐性菌で死亡していると言われています。日本ではどれぐらい死亡しているのですか?

推定できていないのですが、日本は比較的少ないだろうと思います。

例えば、治療が難しいカルバペネム系抗菌薬の効かない細菌はCRE とかCPEと呼ばれるのですけれども、国立感染症研究所によると、2016年の感染症法に基づく届け出人数は1581人でした。死亡率は3.4%で、これだけでも53人です。ほとんどがお年寄りです。

日本でこうした耐性菌が問題になり始めたのはまだここ5年ぐらいのことです。日本で見られる耐性菌のタイプは幸い、まだ効く薬があります。海外ではものすごく抗菌薬を使うため、耐性菌が多い。海外で流行っているCREやCPEが感染した人の治療は本当に大変です。これが広がったら危険でしょう。

ーー日本は海外に比べたら少ないとはいえ、風邪で処方する医師も、風邪で抗菌薬を要求する患者さんもまだいますね。

我々が全国721人の男女を対象に行った「抗菌薬意識調査2018」では、患者さんは、抗生物質と、解熱薬などの症状を抑える薬や抗ウイルス薬などと、薬の役割の区別がついていません。

国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター

風邪で病院に来る時に抗生物質を求める人も3割いました。医者も体感的に、多くの患者が抗菌薬を欲しがっていると思っていますね。

国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター

そして、一番最近の未発表のデータでは、実際に風邪の患者さんに抗菌薬を出している医師は3割ぐらいでした。10数年前は6割だったので半減はしましたが、まだこれぐらいいます。

さらに、日本化学療法学会・日本感染症学会合同で、昨年2月に全国の診療所医師に抗菌薬使用状況を聞いた調査(学会抄録634ページ参照)では、風邪で患者や家族が希望した場合、説明しても納得しなければ出す医師は50%もいます。

風邪診療の中で医師は自分の提示した診療プランに患者さんが納得の姿勢を示さないと、それは「患者さんが抗菌薬を欲しがっている」と思い込みやすいという、認知上のからくりがあるんです。

意味のない抗菌薬を出す原因は、コミュニケーションのずれ?

確かに3割の患者さんは風邪で抗菌薬を求めていますが、よく話を聞くと、「咳を止めてほしい」とか「鼻水を止めてほしい」などを望まれています。

一方、医師が患者さんの思いがなかなか引き出せなくて、コミュニケーションがうまくいかないと、「抗菌薬を出した方が納得してもらえる」とか「安心してもらえる」と思いがちです。患者さんは本当はそんなことを求めていないかもしれないにも関わらずです。

結論は簡単で、コミュニケーションのズレなんですよね。最近は僕はそのように話をするようにしています。

Kokouu / Getty Images

鍵を握るのは患者と医師の丁寧なコミュニケーション

ーーそもそも風邪で受診すべきかという問題もあります。

医療側からすれば、できることは少ないので、医療資源の節約とか本人の負担を減らすためにも、受診せずに家でゆっくり休んでいてほしいなと思います。

アンケートを見ると、風邪で病院に行く理由は「咳が辛い」とか「鼻水が止まらないのでそれをなんとかしてほしい」というのが多い。

それならば医療である程度やれることはあるので、それを是とするかどうかです。それを我慢して寝ておけというのは今の日本では冷たく感じるでしょう。どうしても辛い症状があったら、行ってもいいんじゃないかなと僕は思います。

また、咳などの症状には、稀に怖い病気も隠れています。結核や子供にうつすと重症化する百日咳などですね。咳だけなら病院に来なくてもいい、とは一概には言えないところがあります。

風邪診療、どうあるべきか?

ーーそうなりますと、風邪で患者が受診する時、患者は何に気をつけたらいいのでしょうね?

やはり、患者さんは何が一番辛いのかを医師に訴えるべきなのだろうと思います。それが意外と医者に伝わっていません。医者は自分の関心でしか物事を聞いていないのです。だったら患者の方から積極的に辛い症状を強調したらいい。

「咳が辛くてたまらないので止めてください」とか「鼻水がこれだけ出ていたら仕事ができないので抑える薬が欲しい」などですね。自分が一番困っている症状と何をしてほしいのかを医師にしっかり伝えることを期待したいです。

ーー医療側は何に気をつけるべきですか?

まず、患者さんが本当に何を欲しているのか、ちゃんと聞き出す。心配事とか、そもそも病院に来た理由とかを聞き出し、治療法や養生の仕方などその困りごとに対して何ができるのかを患者さんに伝える。

そこを安易に省いて、「抗生物質でも出しておこう」となるのが間違いの始まりです。

ーー患者さんも、薬の役割をわかっていなくて「抗生物質ください」と言っている場合がありますよね。

悪気はないと思いますよ。本当は辛い咳や鼻水をどうにかしてほしいと思っているだけなのに、「抗生物質ください」と言って、医師側は「患者が言うから仕方ない」と出してしまう。丁寧にコミュニケーションしてほしいです。抗生物質を飲めば、咳や鼻水が劇的に止まると思い込んでいる患者さんはいますものね。

見分けられるのか? 菌由来の症状

ーー耐性菌の記事を書くと、「そうは言っても菌由来の症状だってあるのだ」と反発の声が寄せられることがあります。ウイルス由来の風邪と、菌が原因の他の病気の見極めはそんなに難しいのでしょうか?

難しくはないです。僕らがマニュアル「抗微生物薬適正使用の手引き第一版」に示したような方法に沿って、風邪診療をしてみたデータがあります。この手引きは米国内科学会のガイドラインを参考にしていますが、そのガイドラインに基づいて風邪診療を行ったらどうか検証した研究です。

すると、最初に診たうちで抗生物質が必要だったのは5%だけでした。風邪をこじらせて蓄膿になっているパターンなどです。大事なのはそこからで、その後、抗生物質が必要になった人はプラス2%だけでした。

つまり、「調子が悪かったらもう一度来てね」と様子をみたところ、やはり抗生物質が必要だから後から出した例は2%だけだったということです。当初から処方した場合と合計すると7%となります。

患者さんに調子が悪くなったらこういう状態になるよ、ということをちゃんと教えておいて、その時には再び受診してもらう。医師側もちゃんと患者の病状の評価をし直す。手引きの診療方法を守れば、様子をみる中で抗生物質が必要になった人はわかるんです。診療の型は確立されています。

風邪の診療はそれほど難しいものではないので、風邪を診る先生方には手引きを読んでほしいです。

ーー風邪の段階では原因はウイルスなのに、こじらせて肺炎になると抗菌薬を使うのはなぜなのですか?

こじらせるメカニズムは複雑なのですが、風邪をひくことによって、粘膜はジュクジュク、ガサガサに荒れますよね。この弱った粘膜は菌がくっつきやすいですし、菌が入り込みやすくなる。

口から肺につながる気管は、通常だと菌が入っても外に吐き出す機能があるんです。でも、風邪をひいて体力が弱まるとそういう機能が落ちるんです。

ーー「肺炎予防のため」と言って風邪の段階で抗生物質を出している医師がいますね。これは正しいのでしょうか?

肺炎予防のため、と称して抗生物質を出すことはよくあるようですが、これもイギリスの研究があって、感冒(風邪)も含めた急性気道感染症の患者何人に抗生物質を出したら、一人の肺炎を含む合併症を防げるかという研究があります。

全ての年齢を合わせて見ると、4000人に一人なんです。4000人の風邪の患者みんなに抗生物質を出したところ、ひょっとしたら抗生物質を出さなかったことによって発症したかもしれない一人の肺炎を防いだ、という意味です。とても効率が悪いです。

4000人に抗生物質を出すコスト、体に与える影響を、副作用、耐性菌も含めて考えると、まったく見合いません。利益よりも害の方が大きすぎるので、予防として出すべきではないです。

安易に出せるものではない 抗菌薬の副作用

ーー抗菌薬の副作用というと、何が多いのでしょう。

比較的多いのは下痢ですね。薬によって幅はありますが、10%前後に下痢がみられます。あとは発疹です。体にぶつぶつができる。さらに採血をしたら肝機能が悪くなっているなどの副作用が頻度が高いところですね。

ーー怖い副作用もありますか?

頻度は少ないですが、急性のアレルギー反応であるアナフィラキシーですね。急に血圧が下がったりします。じわっと来るけれど重いのは、スティーブンス・ジョンソン症候群。口などの皮膚や粘膜がグジュグジュになり、よく集中治療室で治療することになります。

医療者側も、「抗生物質の副作用は大したことがない」と思っているでしょうし、患者さん側からすれば副作用のことをあまり考えていないか、何も害はないと思っている人が結構いると思います。

万が一、重い副作用が起きた時に、患者さんは「そんなの聞いていない」と思うでしょう。医療の世界で問題があった時に、患者さんやご家族に、「聞いていない」と言われたら、我々の方がアウトです。

ですから私は、「そんなリスクを減らすには処方を適切に減らすしかないですよね」と医療者に伝えるようにしています。どうしても必要な時は副作用をきちんと伝えながら処方するしかない。

抗生物質を出してもらおうと思って受診しても、副作用の説明を聞いて「やっぱりいいです」と断る患者さんもいるかもしれません。それはそれで悪いことではないですね。

下手に症状をとると、こじらせるきっかけにも

ーー風邪ならば症状がきつくても、家で寝ていればいつかは治る、という対処法についてはどうお考えですか?

それが一番いいと思います。栄養と休息をとる。先ほどの話と矛盾しますが、下手に症状をとって、動き回った方がかえって危ない。結局、そういう人がこじらせて、本当に肺炎になってしまう。

そこをもう少し研究で調べたいのですが、個人の経験レベルでも理解してもらえると思います。実際に肺炎になった患者さんの話を聞くと、無理をして風邪をこじらせている人が多いです。

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風邪でも休めない働き方こそ手をつけなければいけない

風邪をひく前の段階から仕事で無理をしていて、風邪をひいた後も仕事が忙しくて、昼夜逆転や徹夜が続き、なれの果てに肺炎という人が多い。

どうしても咳で寝られないという人に咳止めを出して寝てもらう、という処方を否定はしませんが、対症療法で体の不都合を押さえ込んで無理やり働いたり、遊んだりするのはトータルでみると割に合わない。結局、合併症を起こせば、1ヶ月近くがパーになりますから。

風邪をひいたら、休んでしっかり治した方が効率がいい。そういう健康観を持ってほしいです。

ーーそうなると、休めない会社や社会構造にも手をつけないと。

風邪に抗菌薬が出されている率は30%程度に下がっていますが、私たちが取り組んでいる厚生労働科学研究「薬剤耐性(AMR)アクションプランの実行に関する研究」で世代別に抗生物質を出されている率を調べてみたら、一番高いのは20〜30代でした。一番働いている世代です。「この人たちは休めないのだろうな」とデータから感じました。

別の調査では、日本では若年者の方が耐性菌について正確な知識を持っていない率が高い。教育で抗菌薬の使い方を習っていない人が働く世代になって、社会のプレッシャーや家族の生活も背負って、風邪をひいても休めない状況にある。

その人たちは、間違った知識を元に病院に行って、なんとかしてほしいというプレッシャーを医師にかける。抗生物質は効いていないけれども、一緒に出された咳止めや解熱剤で症状がおさまって、「抗生物質が効いた」と思って同じ受診行動を繰り返すのでしょうね。

それを受けて医師は、十分コミュニケーションを取らずに「抗生物質出しとけ」となる。とても不幸なことですよね。

抗菌薬についての正確な知識を広めて、この流れをどこかで食い止めなくてはいけませんね。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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