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「布マスク2枚の予算があれば、医療従事者3ヶ月分」 マスク輸入業者、嘆く

多くの批判を浴びている「全世帯に布マスク2枚配布」の政府方針。政府のマスク対策チームからは、「医療機関へ使い捨てマスクを優先するため」という釈明もありましたが、マスク輸入業者は「あの予算があれば医療機関に3ヶ月分の使い捨てマスクを調達できる」と嘆きます。

安倍晋三首相が4月1日に発表した「国内5000万あまりの全世帯に対して、国が買い上げた布マスクを2枚配布」の発表

この対応に「的外れだろう」「せめて人数分支給できないのか」と批判の声があふれ、安倍首相の対応を揶揄する「アベノマスク」という言葉も拡散している。

「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」と安倍首相に官邸官僚が発案したという報道もあり、不信感が広がった。

その後、政府のマスク対策チームの官僚から「医療機関に使い捨てマスクを優先的に回すために、国民には布マスクでしのいでもらう」という意図があったというFacebook発信もあった。

一方、マスクの輸入業者は、「200億円に送料がかかるというあの布マスク2枚の予算があれば医療従事者に少なくとも3ヶ月分の使い捨てマスクを調達できる」と試算し、政府の対応を嘆く。

医療用防護具専門の販売大手「モレーンコーポレーション」(東京都中野区)の社長、草場恒樹さんに話を聞いた。

全世帯にマスク2枚の予算があれば、3ヶ月分

同社では医療用のマスク、手袋、ガウン、フェイスシールドなど、感染対策のための防護具を専門に取り扱っている。ほぼ全ての商品生産を中国や台湾、東南アジア各国の提携工場に委託し、輸入する形で医療機関に販売してきた。

同社に限らず、使い捨ての防護用品は、中国、台湾、マレーシアなどアジア各国からの輸入に依存している。

1月から中国、台湾などが輸出の制限を行い、ようやく輸出を再開した中国などから買い入れるには、通常よりも値が引き上げられている1枚50円ほどで取引しないといけない状況になっている。

そんな苦労をしている時だからこそ、政府の「布マスク2枚」の配布方針を聞いて、驚き、呆れ果てたという。

「この予算があれば、日本全国の医療施設全部に高額の輸入マスクを配布すれば、約3.2ヶ月分になる。この期間があれば、通常に近い物流を復帰するために色々な手が打てるのにと残念でなりません」

値が引き上げられている輸入マスクで試算すると...

草場さんの試算はこうだ。

病院の医療従事者の総人数は、非常勤も含めると約209万人。病院でのマスク使用量を概算で1人あたり1日2枚とすると、月に約1億2500万枚が必要となる。

中国製のマスクの価格を4月3日時点の1枚50円とすると、これだけの枚数を確保するのに月に約62億7300万円が必要となる。

「今回の布マスク2枚の予算は200億円プラス送料と聞いていますので、その予算を輸入マスクに振り向ければ、3.19ヶ月分という計算になります」

たった3ヶ月分にしても、もうマスクの在庫が尽きそうな医療従事者にとってみれば、喉から手が出るほど欲しいものだろう。

さらに、布マスクの性能にも疑問を投げかける。

「仕様がわからないので何とも言えませんが、布マスクは通常、ガーゼでできています。不織布の医療用サージカルマスクと比べると網目がかなり荒く、防御性能はかなり落ちます」

政府は国内の製造業者へ助成するなどして、使い捨てマスク7億枚を月産する体制を整えたと伝える。

しかし、全国のマスク生産業者が加盟する一般社団法人「日本衛生材料工業連合会」の担当者によると、7割は単価の高い市中向けの製品として販売されているといい、いまだに医療機関では不足したままだ。

関連学会などを巻き込み...それでも対策は取られない

草場さんは今、感染対策に関わる学会や研究会を巻き込み、国産メーカーの出荷先をコントロールしたり輸入マスクの購入のために医療機関に補助したりするよう、厚労省や経産省に働きかけている。

しかし、芳しい回答はなく、高額のマスクなどの調達に走っていたら、「全世帯に布マスク2枚配布」の報道をみて、脱力した。

「医療施設も待ったなしなので、事情を話し、実費で購入いただく施設を募っています。どうしようもない施設へは、弊社負担でも配布しようと思っているぐらいです」

「防護具がなくて、院内感染が起きたら、スタッフの就業制限が拡大し、それでなくともいっぱいいっぱいの施設が崩壊します。我々も頑張っています。政府の対応がとても残念です」