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2018年4月28日

もうセクハラはアウトな時代だと諦めてください

官僚、マスコミはセクハラ・パワハラの実態を明らかに

世界中で自身の受けたセクハラや性暴力を告発する#MeToo運動が巻き起こる中、テレビ局の記者が財務省前事務次官にセクハラを受けたと告発する事件がありました。

時事通信

辞任を表明し、報道各社の取材に応じる福田淳一財務事務次官(当時、4月18日)

記者が勤務するテレビ局の上司に相談したものの、「今のメディアの状況では難しい」として対応してもらえず、別のマスメディアを通じて告発したこともあり、SNSでは立場によって様々な意見が入り乱れています。

ジャーナリスト男性による準強姦を告発した伊藤詩織さんの件では、ジャーナリスト男性が政権に近い人物とされたこともあり、政権を擁護したい人は伊藤詩織さんを批判し、政権を批判したい人はこの件を政権叩きに利用するという構図が見られました。

今回のセクハラ告発も同様に政治的な考え方によってどちらに肩入れした意見を持っているかが分かれる傾向がみられます。それでは今の社会が抱えるセクハラ・パワハラ問題が見えてこないので、まずは政治とこの件を切り離し、性の搾取について考えるきっかけにしていただければと思います。

性暴力というと「推定無罪」、証拠が出ると「ハニートラップ」って言ってませんか

今回の件では、セクハラを告発した女性記者が事務次官と一対一で食事をしていた時の録音が証拠として扱われていることから、「ハニートラップだったのではないか」「女性であることを武器に有利に働いてきたのだから、セクハラだという不満はおかしい」のような意見も見かけます。

セクハラを初め、性暴力事件は、客観的証拠がないことも多く「推定無罪」「ハニートラップ」などと言い分を受け入れてもらえないことも多いです。証拠に残らないセクハラも多い中、準備して録音に残すことでようやく注目されることになったわけですが、一つの録音テープの内容の検証に終始しては問題の本質をつかめないと思います。

事務次官個人や告発した記者だけの言い分で議論せず、これを機会に財務省全体やマスメディア業界を徹底的に調査して業界のセクハラ・パワハラの実態を明るみにしてほしいです。

「女を売ってきた」は個人の選択ではない

私にはマスメディアで働く友人が多数いますが、政治家や官僚など、取材相手に呼び出されたり、指名された同業者を伴うように言われたり、指定されて夜に一対一で会食することはよくあることだそうです。女性の友人知人たちでセクハラにあったことがないという人はごく稀で、男性でも被害にあったという人がいました。

「女性であることを武器に有利に仕事をしてきたにも関わらず、被害者ぶるのはおかしい」という意見をよく見ます。

しかし、それは個人の意図によって「若くて外見が優れている人が特ダネを取る」という構造になっているわけではなく、報道的に重要な人物が、記者会見では話さないことを好みの記者とプライベートに似た空間だと話すという傾向があるだけです。

確かに、一部のメディアはその対策を意識して人材を配置していることもあるのでしょう。容姿や属性を積極的に武器にしている人も稀に実在するのでしょうが、多くの女性は普通に性別・年齢・容姿等に関係なくただ働いているのです。

「武器になる」とすればパワーを持った報道的に重要な人物が属性によって接し方が違うことに原因があるのであって、セクハラ被害にあったという側が「武器にしていた」というのは偏見ではないでしょうか。

以前は「お互い納得ずく」だった?

こういう事件が起こると、「昔からお互いに納得ずくでやっていたことなのに、うるさい時代になった」「セクハラセクハラと言われると何もできない」という声が聞かれます。それは本当に納得ずくだったのでしょうか。

セクハラをする方は相手だって納得しているだろうと思っていたのかもしれませんが、それは納得ではなくあきらめていただけではないでしょうか。

実際のところ「昔はコピーを取っていると上司にお尻を触られたりして、いい時代だったのに」と自分の受けたセクハラ行為を懐かしんでいる人を私は聞いたことがありません。仕事や居場所のために、パワーがある相手のセクハラ行為を「大人な」態度でかわしてきたことは、残念ながら「納得ずく」ではありません。

下ネタがなくても芸人が笑いを取れるように、セクハラ行為をしなくても人間がコミュニケーションを取る方法はいくらでもあります。性的なコミュニケーションを取りたい人は、両者に明確で積極的な合意さえあれば、今まで通り行えばいいだけです。

今回の事件以降、多くの人とセクシャルハラスメントについて議論してきました。男性を中心に、強者として生きてきた人や、セクハラを受けたことのない人には、セクハラ被害の辛さをどうしてもピンと来ないという人もいました。

共感したり実感したりすることには限界があるとしても、今の時代は相手が合意しない性的な行為はアウトなのだと認識する必要があると思います。残念だと感じる人もいるのかもしれませんが、もう、自分の身を守るためだと思ってもいいので、諦めていただくしかありません。

セクハラや性暴力では、必ず「ハニートラップだ」という声が出ます。実際に完全な捏造もゼロではないでしょう。

しかし、痴漢冤罪の数より痴漢で泣き寝入りしている実数の方がはるかに多いように、ハニートラップよりもセクハラ被害の方が多いわけです。それに、この世にハニートラップというものが存在するからといって、この世のセクハラ行為が相殺されるわけではありません。

そして、たとえ罠だとしてもはまる時点でいろんなものを失う時代です。ですから、ハニートラップだという言い訳はセクハラが容認されない時代になったことへの抵抗としてはあまり賢くないと思います。

セクハラを男女の対立と捉える人が多いですが、男対女という構図ではなく、力あるものによる、立場が弱い人の性を搾取している問題です。

私自身、セクハラをされる方もする方も無頓着でしたが、セクハラをしたことがあるかもしれないと思い当たることもあります。これからは両者の合意ということに、これまで以上に気をつけていかなくてはいけないと思います。

10年後、高校生になっているであろう娘に「昔はこんな信じられないことが横行していたんだよ」と、この事件について話すことができますように。

【宋美玄(そん・みひょん)】 産婦人科医、医学博士

1976年、神戸市生まれ。2001年、大阪大学医学部卒業。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。2017年9月に「丸の内の森レディースクリニック」を開業した。