知らないところでクレジットカードが作られ、莫大な借金を負っている子ども達。アメリカの信用調査機関の実態。

    未成年者は「身元」泥棒の魅力的なターゲット。若いので、まっさらな信用情報を持っており、ほとんどが成人に達するまで盗難を発見しないからである。

    わずか4歳のケビン・バーナビー・ジュニア(通称KJ)。彼の信用情報には、すでに米国地銀大手キャピタル・ワンの2つのクレジットカード用の口座、941米ドルの借金、および2,911米ドルの税金滞納の情報が記載されている。

    信用情報とは、個人の社会保障番号(日本でいうマイナンバーに近い、全員に振り当てられた番号)や年収、住宅情報、勤務先等の属性情報および、ローンや公共料金等の契約内容や、返済、支払い状況、利用残高、取引履歴などをまとめた情報のことだ。

    新たに銀行口座を開いたり、クレジットカードを作ったりするときや、銀行がローンの貸付を行うかを判断するときなどに使われる。

    KJは、当然このクレジットカードの保有者でもなく、借金や税金滞納をしたわけでもない。疎遠になった家族が、この子の「身元」を盗んだのだ。

    昨年12月の訴訟内容と、BuzzFeed Newsが行った2016年4月と5月の信用報告書の再調査によると、KJの父親はKJの社会保障番号を使ってクレジットカードの口座を作り、KJが3歳になる前までに借金を溜め込んだ。

    KJの母親の弁護士であるケヴィン・マロン氏は、BuzzFeed Newsに、父親のケビン・バーナビー・シニア氏が自身の生年月日とKJの社会保障番号を組み合わせて開設したと疑っていると語っている。

    アメリカでは、住居の賃貸契約や就労、免許証の取得など、さまざまなシーンで身分証明書の代わりにこの社会保障番号の提示を要求される。そして信用情報も社会保障番号に紐づけて管理されている。その社会保障番号を父親が乗っ取ってしまったのだ。言い換えれば、父親がKJの「身元」を盗んだということになる。

    KJの母親トリーナ・パターソン氏は、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に、エクスペリアン社、トランスユニオン社、エキファックス社の3つの信用調査機関が、KJに関する不正確な信用情報を債権者に配布することによって公正信用報告法に違反したと提訴した。

    パターソン氏はまた、これらの企業が信用情報の正確さを担保せず、KJの信用情報報が不正確ではないかという嫌疑に対して調査すらしなかったと主張している。

    パターソン氏はBuzzFeed Newsに、こんなことを明かした。ケビン・バーナビー・ジュニア(KJ)の父親のケビン・バーナビー・シニアが、KJの名前で作ったカードを使って、現在の妻に婚約指輪を購入したことが、KJの信用情報によって発覚したのだ。

    「とても傷つきました」と彼女はいう。「KJのためにチャイルド・シートを買ってくれるように頼んだのに、彼は買ってくれず、一方でこんなことをするなんて」

    2017年7月に社会保障番号の乗っ取りによる、なりすましの詐欺罪で重犯罪の判決を受けた父親のバーナビー・シニア氏は、BuzzFeed Newsの取材要請には応えなかった。

    エクスペリアン社、エキファックス社、およびトランスユニオン社は、訴訟での申し立てについてBuzzFeed Newsにコメントすることを拒否した。 エクスペリアン社とエキファックス社は原告の最初の申し立ても否定した。 トランスユニオン社は1月26日に裁判所に提訴して申し立てを否定した。

    KJのようなケースは珍しいことではない。子どもの社会保障番号乗っ取りによるなりすまし詐欺はほとんど表沙汰にならず、警察沙汰になっていないだけである。

    債権者と信用調査機関、詐欺に遭った子どもの信用情報を回復するように援助しているが、そもそも両者のシステムには、子どもを特に被害に合いやすいターゲットにするような欠点がある。

    CyLab(カーネギーメロン大学のセキュリティとプライバシーの研究機関)の2011年の調査で、18歳未満の10%の人が誰か別の人に、少なくとも一回は社会保障番号を使われたことがあると明らかになった。

    使われていたのは信用供与を含む口座の開設や電気・ガス・水道など公共サービスで、成人の0.2%よりはるかに高い数字である。また財務調査グループのジャベリン ストラテジー&リサーチ社の2008年の研究によると、3%の子どもがこの手の詐欺の犠牲者であるという。

    クレジット・レポートには傷がついていない未成年者は、魅力的なターゲットになってしまう。

    アイデンティティ・セフト・リソースセンター(なりすまし資料センター)の社長兼CEOエヴァ・ベラスケス氏は、「この手の詐欺に関しては十分な統計がない」としながらも、 「子どもの情報が使われたと知った両親から頻繁に電話がかかってきたり、子ども自身が学生ローンや車のローンを組もうとしている時に、信用情報に不都合な履歴があると知って、始めて電話をかけてきたりしています。十分に一般的なことだと言えます」とBuzzFeed Newsに話す。

    若いが故に、クレジット・レポートには傷がついていない未成年者。成長して信用貸しを申し込むまで気づかないことが多いため、彼らは「身元」泥棒、つまり社会保障番号乗っ取りによるなりすまし詐欺を働こうとする人の魅力的なターゲットだと、連邦取引委員会のアイデンティティ・セフト・プログラム・マネージャーのジョン・クレブス氏はBuzzFeed Newsに語った。

    未成年者の社会保障番号やその他の個人情報は、家族にも簡単に入手できる。親が成人した子どもの情報を秘密裏に利用して、信用枠の上限を上げる場合もあるという。

    ペンシルベニア州のコミュニティーカレッジに通うヘイリーさん(23)はBuzzFeed Newsに、彼女が最近まで存在することすら知らなかった彼女名義のクレジットカードの500ドルの借金を返済していると話した。彼女の母親が2015年に彼女の名前の口座を開いて、壊れたエアコンを交換するためにそれを使用したのだ。 ヘイリーさんは、カードを発行した金融機関のウェルズ・ファーゴが支払い遅延通知を送ってくるまで、その口座の存在すら知らなかったと話した。

    「私はあまりお金を稼いでいませんでした」とヘイリーさんは言った。 「もし母がエアコン交換の件を私に相談してきたのであれば、何かできることはないかと考えたと思います。しかし、私はある日、自分が500ドルの借金を負っていることを知ったのです」

    ウェルズ・ファーゴの広報担当者のヒラリー・オービーン氏は、BuzzFeed Newsに、ヘイリーの件にはコメントを避けつつも、顧客を不正行為から守るための広範なセキュリティ対策を行っていると述べた。しかし、詳細を聞くことはできなかった。詳細を紹介することは、そのセキュリティ対策の有効性を危うくする可能性があるからだ。

    ヘイリーさんは母親の行動によって裏切られたと感じている。しかし、彼女は警察に通報するつもりはない。 「母を刑務所に送ったり、裁判所に行かなければならない状況に置いたりすることは絶対にしません」と彼女はいう。 「こういった時に、両親が私を愛していると覚えておくことは難しいし、こんな風に利用されるのは最悪ですけれど」

    両親による社会保障番号の乗っ取りは、からなずしも悪意があるものだとは限らない。全米消費者法センターの弁護士であるチー・チー・ウー氏は、BuzzFeed Newsに話す。「多くの場合、両親は絶望的な事態に陥っているのです。ガスが止められ、電気が止められ、自分の信用情報では、もはやサービスが受けられない。そういった事態に陥っているから、子どもの信用情報を使ってサービスを受けるのです」

    しかし連邦取引委員会のクレブス氏は、「この種の不正行為は、クレジットカードの請求を支払わずに溜め込むこと異なるかもしれないが、与えるインパクトは同じなのです」と話す。KJの信用情報も、履歴をまっさらに戻すまでには、非常に困難な道のりがあった。

    なぜKJの信用情報の履歴をきれいに直すのが困難だったのだろうか。そして、そもそもキャピタル・ワンはなぜKJの社会保障番号を使ってクレジットカードを2通も発行することができたのだろうか。この答えの一部は、申請者の信用情報を確認するために金融機関がとっている方法にある。そこに、不正行為ができる抜け道があるのだ。

    1974年の連邦プライバシー法は、銀行と信用調査機関が連邦政府の保有する社会保障番号データベースにアクセスすることを禁止しているため、これらの機関は、信用調査の顧客の身元を確認するために独自の方法をとっている。アメリカ会計検査院の報告書によると、もし銀行や信用調査機関が慎重な調査を希望する場合、銀行は特定のフォームに署名して社会保障庁に提出することで、顧客の身元を確認することができる。しかし、このプロセスには1週間ほどかかることがあり、報告書には「業界は、効率的かつ迅速に顧客にサービスを提供することにビジネス上の関心がある」とある。

    この選択肢にかかわらず、ワシントンDCのプライバシーと情報政策コンサルタントのロバート・ゲルマン氏は、KJのケースでは社会保障番号はそれほど重要ではないとBuzzFeed Newsに語った。 「銀行が社会保障番号以上に必要なものは、適切な生年月日です」。

    プライバシー専門家で、プライバシージャーナル誌の出版を手がけるロバート・スミス氏は、消費者信用保護団体が、社会保障番号だけではなく複数のデータを掛け合わせて個人の身元を確認するよう、長年にわたって信用調査機関に求めていると、BuzzFeed Newsに語った。(ロードアイランド州は例外的な州である。この州では信用調査機関は社会保障番号に加えて第二の識別子を使って、申請者の身元を確認しなければならない。しかし、大部分の州はこういった確認を必要としない)。

    「社会保障番号で誰かの身元を確認するのは非常に不注意な信用調査方法です。信用調査機関はもっといろいろなことができるのです」とスミス氏は話す。

    連邦取引委員会の報告によると、消費者の26%の信用情報に少なくとも1つの間違いがあったという。

    トランスユニオン社は、名前、住所、生年月日、社会保障番号などの利用可能な要素をマッチングさせての消費者データを照合する「洗練されたアルゴリズム」を使用していると述べている。 エキファックス社とエクスペリアン社は、信用情報を発行する際に社会保障番号以外のデータを確認するかどうかについてのコメント要請には応じなかった。

    しかし、KJの事例が示すように、たとえ洗練されたアルゴリズムを利用していても、社会保障番号を集めて信用情報を作成する信用調査機関のシステムには欠陥がある。

    「詐欺師がこの抜け道を見つけ出したんです。信用情報がまっさらな人になりすまして信用貸しを申し込めば、望ましい信用情報が得られて銀行もお金を貸してくれます。これは簡単な問題です。解決策も難しくありません。しかし、信用調査機関は無視しているのです」

    信用調査機関は、情報に間違いがあり、そのために不都合を被ることで悪名高い。2012年の連邦取引委員会の報告によれば、無作為に抽出された消費者の26%の信用情報に、少なくとも1つの誤りがあったという。間違った信用情報は間違った信用情報報告や、ローン審査がなかなか通らないといった事態にもつながる。誤りのある信用情報のパターンの1つは「混合ファイル」と呼ばれる、他のよく似た名前の人の情報が混ざってしまったものだ。信用調査機関が、債権者が消費者から得た情報を照合する際、不十分な基準に依存する場合に発生する。

    2004年の連邦取引委員会の報告によると、とある信用調査機関によって作成されたクレジットファイルの約4%が「混合ファイル」の状態だった。 「4%は数字として多く見えないかもしれませんが、珍しいと言えません」とWu氏は言う。「4%というのは800万人なのですから」。

    KJのケースでは、父親のケビン・バーナビー・シニア氏が自身の生年月日とKJの社会保障番号を組み合わせて口座等を申請した疑いがある。

    キャピタル・ワンはBuzzFeed Newsに、クレジット・レポートの情報がクレジットカードの申込書の詳細と一致したと語った。 BuzzFeed Newsは、クレジットカード申請の生年月日が大人のものであることを確認している。

    キャピタル・ワンは、KJのクレジットカードの口座が詐欺行為によって作られたものだと確定した後、すぐに口座を閉鎖し、KJの信用情報からこの口座を取り除くために信用調査機関に連絡したと述べた。

    同銀行は、この手の事件を防ぐ手段について詳しく述べることを拒否したが、BuzzFeed Newsに、「消費者を詐欺や個人情報の盗難から守るために、クレジットカード発行時にさまざまな検証項目を設けています。顧客と口座情報を守ることはキャピタル・ワンにとっては最優先事項です」と語った。

    「親が子どもの身元を盗もうとするのは明らかに疑いなくひどいことだが、問題の一部は、信用調査機関が未成年の子供の信用報告を使えないようにするための方策を持っていないことにあります」とマーロン氏。

    米国会計検査院の報告によると、KJのような2011年以降に生まれた子供たちは、特に詐欺にあいやすいという。なぜなら、彼らには無作為に振りつけられた社会保障番号が発行されており、金融機関が身元を確認することが難しいためだ。こういった子どもたちが不正行為を受けた後、信用情報をクリアにすることは非常に困難である。なぜなら、金融機関は社会保障番号を最初に使用する人物を、それが身元泥棒であっても、真の所有者であるとみなすからだ。

    訴訟によると、2016年の4月と5月にKJの母親、パターソン氏が幼い息子の情報が信用貸しのために使用されたと警告した後、エクスペリアン社、トランスユニオン社はKJのレポートに詐欺のアラートを設置した。2社がパターソン氏に渡した最新の報告書では、KJの正しい年齢が反映されていたが、2016年4月の段階では、クレジットカードに対する詐欺の情報もまだ記載されている。

    マーロン氏によると、パターソン氏が詐欺行為を警告した際、信用調査機関は何も行動しなかったし、キャピタル・ワンが口座情報を削除するように頼んだ後も単にKJの報告書からカードと情報の一部を取り除いただけだったという。そのときでさえ、エクスペリアン社は、パターソン氏が訴訟を起こした後までKJの間違った情報を正そうとはしなかったとマーロン氏は話す。さらに、マーロン氏は、トランスユニオン社がKJの信用情報を修正した証拠を見ていないと述べた。

    パターソン氏はエキファックス社と顧客報告会社のチェックスシステム社(裁判の被告としては却下された)との間でもさらに困難な状況に陥った。訴訟内容によると、「あなたの提供した身元証明書類は、弊社が保有しているがあなたの信用情報に記載された内容と一致しない」ということを理由として、エキファックス社はKJの情報を送ることを拒否したという。

    裁判でパターソン氏は、母親がKJの代理で詳細な調査することを支援せず、KJの信用情報に詐欺のアラートを追加しなかったということでエキファックス社を追求している。チェックスシステム社は、最終的には完全な情報を提供したが、パターソン氏がKJの信用情報の写しを最初に要求した際、KJの運転免許証の写しを確認するまでは信用情報の写しを渡すことはできないとしていた。

    エクスペリアン社、エキファックス社、トランスユニオン社が子どもの社会保障番号を不正利用したなりすましを防ぐために特別な対策を講じていたとしても、その内容は不明だ。 3社は自社のこの種のなりすましをから守る手順である与信承認プロセスについてのBuzzFeed Newsからの質問に回答しなかった。

    また、幼ない子どもの社会保障番号と大人の生年月日が記載されたクレジット・レポートをどう発行しているのかという質問に対しても、回答を避けた。

    トランスユニオン社はBuzzFeed Newsに、両親は身元情報盗難対策用のページを使って子供の信用情報を「無料で50州すべてで」凍結することができると発表した。一方、エクスペリアン社は子供のいる家族に身元情報保護サービスを、「月19.99ドルで提供している」としている。

    一般的に、まだ対話ができる段階の家族は、互いに起訴することを選ばない。

    信用調査機関は2018年3月までに、「全国顧客支援計画」を実施しようと努めている。これは、信用情報の間違いを簡単に修正できるためのものだ。しかし現在、KJのような詐欺被害者の子どもが信用情報を回復しようとする場合、限られた選択肢しかない。被害者(と保護者)は債権者と協力して、借金が詐欺の結果記載されたものであると信用調査機関を説得し、解決するか、借金を返済してその結果とともに生きるか、さもなければ、被害者は裁判を起こすしかない。

    フロリダ州デイニア・ビーチのロダール法律事務所の弁護士、イェチェスケル・ロダル氏は、家族が社会保障番号の乗っ取りを起こした場合の訴訟では、被害者が警察の報告書を申請し、裁判で提訴することになるということがわかると、大抵身を引いてしまう、と語る。

    「とてもデリケートな話なのです。一般的に、家族がまだ対話ができる段階では、互いに起訴することは選ばないのです」

    疎遠になった家族に不正行為をされたKJのようなケースでさえ、子どもの信用情報の履歴を回復するのは簡単なプロセスではない。KJの父親は社会保障番号の乗っ取りによるなりすましの詐欺罪で重罪の判決を受けたが、パターソン氏は息子の信用情報を回復するための面倒なプロセスがあった。そして彼女は未だに信用調査機関との裁判に巻き込まれている。それでも、彼女はこの問題をKJが大人になる前に見つけられてよかったと喜んでいる。

    パターソン氏は言う。「傷つくことがたくさんありました。この問題に関してはもっといい法律を作るべきです。子どもの信用情報を使われた人は、私が初めてではないはずです。テクノロジーは進歩しているのに、まだこんな状況なんて、ありえません」

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:フェリックス清香 / 編集:BuzzFeed Japan