インドネシア 危機にさらされるLGBTの権利

    世界の他のどの国よりも数多くのイスラム教徒が住むこの国は、これほどの対立を経験したことがない。

    イスラム教徒人口が世界最大の国インドネシアで、LGBTの権利が危機的状況を迎えている。インドネシアのイスラム組織を統轄する団体、インドネシア・ウラマ評議会 (MUI)のリーダー、マールフ・アミンは2月、ジャカルタで開いた記者会見で、こう述べた。

    「私たちはLGBTの(性的)行為と、その他の異常な性行為を禁止する新しい法令の制定を支持する。また、LGBT活動や、異常な性行為にかかわった人だけでなく、LGBT行為を支持したり、奨励したり、資金供給をした団体も刑事裁判にかけることを支持する」

    MUIは同性愛を「重く罰する」ことを以前から要請している。

    政治・法律・安全保障問題担当大臣のルフ・ビスナル・パンジャイタンは、別の大きなイスラム組織のメンバーと会談し、LGBT政策について連携すると誓ったと報じられている

    パンジャイタンは、LGBTについて「対処すべき脅威」「影響を最小限にしなくてはならない」と語ったが、このようにも付け加えたという。「私たちはLGBTの人々もまたインドネシア国民であることをまず認めなくてはならない」

    国際的なLGBT組織とは、これまで対立もあった。もっとも目立ったのは国際レズビアン・ゲイ協会アジア支部の2010年の会議が、宗教的抗議で妨害されたことだ。

    これまでインドネシア政府当局は、一部地域に例外はあるものの、積極的にLGBTの人々を迫害したことがなかった。たとえば、これまでワリア (waria)とよばれるトランスジェンダーコミュニティに比較的寛容で、彼らを支援するモスクや宗教学校もあり、メディアにも広く取り上げられてきた。

    ところがLGBT問題がインドネシア中で論争となった1月、高等教育を担当するモハマド・ナシール技術研究・高等教育相は、大学でのLGBT団体活動について、「価値観や道徳観の基準」に抵触するため許可されるべきでないと発言したと報じられた

    その後すぐ、イスラム防衛戦線とよばれる、暴力的なことで知られる過激派グループが、同性カップルを見つけたとして、国内で3番目に大きな都市バドゥンの宿泊施設を「急襲」。「レズビアンとゲイは我々の地域に入ることを禁ずる」と書かれた旗をこの建物に掲げた。

    当初、インドネシアのリーダーたちは、こうした争いが落ち着くことを望んでいるように思われた。バンドンの市長リドワン・カミルは、イスラム防衛戦線を非難し、旗の撤去を命じた。ナシール技術研究・高等教育相はTwitterで、LGBTの学生団体についてのコメントを否認し、LGBTの人々は「法的見地からすれば平等に扱われるに値する」と述べた。

    しかし、最高位の政策立案者たちは違った。インドネシアの副大統領ムハマッド・ユスフ・カラは、国連開発計画に対し、国内のLGBT権利擁護活動への資金援助をやめるよう求めた

    インドネシアの放送監視官は、LGBTの人々が「普通だ」とする番組を禁止し、メッセージアプリからLBGTテーマの絵文字を削すよう求めた

    通信情報大臣は、Tumblrへのアクセスをブロックするといったん発表したが、ジョコ・ウィドド大統領がシリコンバレーを訪問中だったため撤回した。

    長年のLGBT擁護者やインドネシアの人権オブザーバーも、こうした事態に驚いている。当初、論争はすぐに忘れ去られると考えていたからだ。

    「こんなに長く続くのは初めてです」と、この国で最も古いLGBTの権利組織・ガヤ・ヌサンタラの創設者であるデデ・ウトモは語る。

    「これはモラル・パニックです」

    UPDATE

    ジョグジャカルタにあるのトランスジェンダー女性のための学校が25日、Islamic Jihad Frontと名乗る団体の抗議を受け、閉鎖された。学校は2008年に開校し、欧米メディアに取り上げられるなどしていた。