父親が母親を殺害する場面を目撃した少年が、法廷で語ったこと

    「私も人間です。感情があります」

    燃えさかる部屋に父親が母親を閉じ込めて、殺害するのを少年は目撃した。少年は「私も人間です。感情があります」と法廷でその痛みについて打ち明けた。

    2016年10月、両親と弟と住んでいた豪・ウェスタンシドニーの家で少年(11)は恐ろしい犯罪を目撃した。

    裁判所からの命令により、父親と母親の名前は明かされていない。

    2018年7月に行われた陪審員裁判で、少年の父親(45)は妻を殺害したとして有罪判決を言い渡された。犯行当日の早朝、被告はガソリンを使って家に放火し、寝室に妻を閉じ込めた。

    少年の証言によると、父親はドアを押さえて、息子が母親を助けようとしたのを妨げ、家から逃げろと彼に告げた。

    殺害された妻は、事件の2週間前にデートサイトで知り合った別の男性とつきあい始め、チャットアプリ「Viber(バイバー)」でその男性とやり取りしていた、と裁判で検察官は述べている。

    事件の1週間前、妻は被告に別れを告げ、テキストメッセージで次のように書いている。「いずれにしても、もう一緒に暮らさない」

    「父親に刑務所から出てきて欲しくありません。許せるわけがありません」

    9月7日の朝、デイビッド・デイビス判事に少年が手渡した報告書にはそう書かれていた。

    「私のことも知られたくありません。家族と離れて2年、すべて父親のせいです。父親は、私の目の前で母を燃やし、私も殺されそうでした。すべての人から離れて2年が経ちました。私も人間です。感情があります」

    また、祖母と叔母にオーストラリアにきて、弟と自分の世話をして欲しい、とも同報告書には書かれていた。

    「弟は私に自分の感情をぶつけてきました。他に感情をぶつける相手がいないから」とも書かれている。

    殺害された被害者の父親は、娘が残酷かつ残忍に殺されたことは、自分の人生の中で最も辛く、暗い日々をもたらした、と声明で判事に伝えている。

    「多くの記憶が薄れてしまい、何も思い出せません」とも綴られている。「母国語での会話にも影響を与えてしまいました。以前は流暢に話せていましたが、いまは前のようには話せません。何も覚えていられないから」

    殺害された時点で26歳だった娘のことにも言及している。「娘は私たちのことを愛していました。私たちも娘のことを愛していました」

    「娘が生きていたとき、電話で話すといつも、何時間も話しました。娘は才能に溢れた女性でした。人生で成長する、物事を改善する、より豊かな暮らしをすることに、とても意欲的でした。しかし、いまとなってはその機会も奪われてしまいました」

    被告が通訳と一緒に立ち会った量刑審問では、被告が終身刑になるべきかを弁護士らが議論した。

    だが、この被告の罪、息子の前で燃えさかる部屋に妻を閉じ込め、死に至らしめた罪は、家庭内暴行殺人の量刑のどこに位置するのか。

    「終身刑を求める事例ではありません」と被告の法廷弁護士であるキャロライン・ダベンポート主席弁護士は法廷で述べている。

    女性のパートナーを殺した別の事例と比較すると、終身刑を言い渡されたケースは2件しかなく、いずれも子どもを含むひとり以上を殺害している、とダベンポート氏は話している。

    被告の犯罪は、事前に熟考されたものではなく、その晩に口論になった後に妻を殺すことを突如決めたのに対して、犯罪を計画した証拠がない、と同氏は主張している。

    ガソリンを使う草刈り機があり、このガソリンはガレージに保管されていて、火をつけるのに使用された、とダベンポート氏は説明している。

    息子の目の前で犯行に及んだ事実に触れられると、不幸にも家庭内殺人の多くは子どもの目の前で起きている、という事実を同氏は法廷に提示した。

    被告が刑期を終えるのが60代、70代になることを考えると、釈放後に被告が再婚して、別の女性に同じことをすると考えるのは、非現実的であるとも同氏は述べた。

    オーストラリアで永住権を認められた難民で、その後に市民権を得たという被告の複雑な経歴にも同氏は触れた。なお、被告には前科はない。

    だが、火をつけて、事実上すべてが灰になるほど燃え尽くされた部屋へ妻を閉じ込めたという被告の行動は、終身刑は当然、と州政府検察官のクリストファー・マックスウェル氏は反論している。

    「被告がドアを押さえていなければ、被害者は生きていたかもしれません」とマックスウェル氏は続ける。

    「被害者の悲鳴が聞こえたはずです。もし逃げていたら、被害者が警察に話すという大きなリスクがあったわけです」

    「妻が逃げないように扉を押さえている間、息子ふたりがその場にいただけでなく、親を助けようとした息子を退けてもいるのです」

    被害者が他の男性とViberでチャットをしていたことで、両親は喧嘩をしていたという息子の証言に言及し、殺人は計画的だった、とマックスウェル氏は主張する。

    これは、支配欲、独占欲、嫉妬に駆られた犯罪で、嫉妬心が爆発して殺人に至ったのとは違う、とマックスウェル氏は法廷で述べた。

    「妻が他の男性とベッドで寝ているのを目撃したのとは違います。妻が出て行くと明らかに分かってのことです」

    被告は妻の殺害への関与を否認し続けているため、自責の念はまったく示していないことが法廷で明らかにされた。

    被告に言い渡される判決は、今後、家庭内暴行殺人を防止する役割も担うべきである、とマックスウェル氏は法廷で主張している。

    「オーストラリアでは、殆ど毎日、女性がパートナーによって殺害されています」と同氏は訴えた。

    2018年11月2日に、判決が言い渡される。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan