10月下旬、東京・渋谷のスクランブル交差点に突如として掲出された看板「絵なんてわかってたまるか」。
このメッセージを発したのは、国内外で活躍する画家・現代美術家の井田幸昌。芸術に触れる人々の核心をつくこの一言に、多くのクリエイターたちが賛同した。
今回、そのひとりである俳優の山田孝之と井田の対談が実現。2人がこれから表現者を目指す人に伝えたいこととは?「表現が持つ力」について語った前編に続き、BuzzFeed Japan独占インタビューの後編をお届けする。
【前編】「クソだな」と言われても…人気アーティストと俳優、表現者としての“覚悟”がレベチだった…!
【2人だけの対談も!】「わかってたまるか」山田孝之が敬愛するアーティストに明かしたホンネ
表現の場を、夢のある場所にしたい

――おふたりは会社を設立されたり、プロデューサー・監督業でご活躍されたりもしています。若い頃には制作現場で悔しい思いをすることもあったと思いますが、どのように乗り越えてきたのでしょうか。
山田:「根性論なんて昭和」みたいに言うけど、根性で乗り切るしかないところは多々出てきますよね。もちろん最初から最後まで根性で乗り切るのは違うけど、絶対に必要。
井田:だって僕、普通に吐きますもん。やっぱり締め切りとかなるとワーッて描いて……できあがってホッとなった瞬間にね。どっかでは、気合入れないといけない時ってある。
――次の世代には、自分と同じ苦労を味わってほしくないと思いますか?
井田:僕は思わないな。何がその人にとって適切かってわからないじゃない? その人にとっては努力して踏ん張ること自体に意味があって、そういう状況の方がもしかしたらいいのかもしれないし。

――山田さんはいかがですか。
山田:僕がやってることは単純に、(撮影環境により)寝られないとか下回ってることを最低ラインまで持っていきたいだけ。だってどんな人でも…ウサイン・ボルトだって睡眠不足だったら記録出せないって話なんですよ。
スタッフ・キャストが寝られなくていいものを作れないよ。ベストパフォーマンスが出せない状態では、いいものができるわけないじゃん? まずそこじゃない? って。
――根性で乗り越える以前の問題ですね。
山田:「気合いで10年20年続ければ、何とか稼げるようになる」じゃなくて、ちゃんと夢のある場所にして、本当に楽しい場所になればいいですよね。だって、人を楽しませるための表現の場なんだから。
井田:でもそうだね。アートを投資目的とする方もいる。投資、資産といったことを見聞きすることも当然あるけれど、ピュアにアートに向き合いたいっていう思いはずっとあって、その一つの選択肢として美術館での個展をしたいと思ったんですよね。
山田:なるほどね。いや、僕も絵に興味を持ち始めた時に見に行ってビックリした。みんな計算しているような顔だったから(笑)
井田:(笑)でも、そういう人の存在はマーケットを回すには必要なんです。だけどね、それだけでアーティストの人生を語ってほしくはないよね。「あいつは高いからいい」とか「あいつは今、世界的にバズっているからいい」だけじゃなくて、まずは作品を見て楽しんでほしいな。
山田:寂しいよね、そうじゃないとね。
「世代」って、大人がフタをしてるようにしか思えなくて…

――今の10代20代は、身近な人にあまり怒られてこなかった世代とも言われています。そうなると、表現をする上でも自分で気づいていかなきゃいけない難しさもあると思うのですが、いかがでしょうか。
井田:それ、世代の問題じゃなくない?
山田:うん。「ゆとり世代」とかもあったけど、大人がフタをしてるようにしか思えなくて。
言われ続けると「そうなのかな」って、自分で自分を閉じ込めちゃう。いつだって怠ける子もいるでしょう? そうしたら「いや別にそういう世代だから」って、それで終わっちゃう。
――たしかにそうですね。ハッとしました……。
山田:社会に出て年齢を重ねていくと、知識が増えて頭は大きくなっていくけど、感覚って絶対若い子の方が鋭いから、世代ってことじゃないと思う。
だって人間の歴史はずっと進化していってるんだから、若い子の方が絶対に賢いし正しいんです。
――では、これからの表現者に求められるものは?
山田:いち表現者として、僕はずっと変わらないですね。ワクワクすることに、しっかりアンテナを張っておかなきゃいけない。
井田:それはそうだね。ずっとアンテナ張ってると「あっ、ここ絵になるな」とか、「この人、こう描いたら絵になるな」とか普通に考えちゃいます。それは多分、最低ラインなんじゃないかなと。そこまでならないと、いい作品は生まれてこないと思う。
山田:でもやっぱりSNSっていうのは明らかに数十年前と違いますよね。今の子たちが人の目ばっかり気にして新しいことに挑戦できないのではなくて、そうさせてるのは結局大人たちだと思うんですよ。
人に迷惑をかけることは、表現とは違う。でも、人に迷惑をかけないで騙さずにやれば、もう好きなことやればいい。
「くだらないこと」も立派な表現だし、やる子はやりますよね。それで誰に何を言われるとか、後悔するとかどうでもよくて、とにかく、行動しないことが一番良くない。

――さまざまな挑戦をしてきたおふたりの言葉には、説得力があります。
山田:とにかく、ワクワクしたらやってみる。失敗も学びだから、次また形を変えればいい。あんまり考えすぎたり、調べすぎたりして頭でかくなると動けなくなっちゃうから、一回やってみる。失敗しないと。
井田:そうそう。失敗しないことには何がダメだったのかとか、自分の長所もわかんないわけ。
僕は「ミスったな」と思ったとしても、5年後10年後とかに「あれがあったから今の俺があるって思える状態になろう」って考えるとポジティブになれるんですよね。毎回そういう感じで自分の心をつくってますね。
山田:そもそも、完全にやめちゃうと失敗になるんですよ。でも、ちゃんと経験として失敗をうまく使って、二歩目を踏み出せば失敗じゃなくなる。
僕の理論があるんだけども、自分が今いる位置から目的地まで100あるとするじゃないですか。一歩踏み出すとどこかに着地しますよね。これが100人中100人が成功だって言ったら、もう100ですよね。
100人中100人が「やらない方が良かった」って言うと0じゃないですか。でも0に着地することってまずないんですよ。100人中97人が「やらない方が良かったよ」って言うかもしれないけど、でも3人は「やって良かったね」ってきっと言う。
そして次の二歩目は3以下になることないですよ。一歩目で学んでいるから。それが6なのか15になるのかわかんないけど、何歩か歩けば、どんな遠回りしても絶対100にいけるんです。
無駄なことはなくて、全部経験であり学びである。だからまず動くことが大事……これ、めっちゃわかりやすくない?(笑)
井田:わかりやすい(笑) さすが!
井田幸昌『Panta Rhei|パンタ・レイ -世界が存在する限り-』
公式サイト:https://ida-2023.jp
◆米子市美術館
2023年7月22日(土)~8月27日(日)
主催:米子市、米子市教育委員会、(一財)米子市文化財団 米子市美術館
◆京都市京セラ美術館
2023年9月30日(土)~12月3日(日)
主催:京都新聞、京都市
〈井田幸昌(いだ・ゆきまさ)〉
画家・現代美術家。1990年、鳥取県出身。2019年東京藝術大学大学院油画修了。2016年現代芸術振興財団主催の「CAF賞」にて審査員特別賞受賞。2017年レオナルド・ディカプリオ財団主催のチャリティオークションに史上最年少参加。同年に株式会社IDA Studio を設立。2018年Forbes JAPAN主催「30 UNDER 30 JAPAN」に選出。 2021年にはDiorとのコラボレーションを発表するなど多角的に活動。同年、日本の民間人として初めてISSに滞在する宇宙旅行を行った前澤友作氏によって、作品「画家のアトリエ」がISSに設置された。 制作は絵画のみにとどまらず、彫刻や版画にも取り組み、国内外で発表を続けている。
〈山田孝之(やまだ・たかゆき)〉
俳優・プロデューサー。1983年、鹿児島出身。1999年に俳優デビュー。2003年、『WATER BOYS』(フジテレビ系)でドラマ初主演、2004年『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)ではザテレビジョンドラマアカデミー賞主演男優賞を受賞。以降、『電車男』『クローズ ZERO』『闇金ウシジマくん』『凶悪』などの映画に出演。近年の作品には、『50回目のファーストキス』『ハード・コア』『全裸監督』『ステップ』『はるヲうるひと』など、多くの作品で主演を務める。また、クリエイターの発掘・育成を目的とする映画プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS』のプロデューサーや監督など、活動は多岐にわたる。