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日本は「祝日過多社会」? 私たちが有休を消化できない原因はここにある

休み方を通じて、働き方について、考えてみませんか?

実は、日本は祝日が他国に比べて多いことをご存知だろうか。全部で16日。一方で、いっこうに有休を消化できず、長時間労働に悩まされているのが、この国の私たち。

一体、どうすれば良いのか。「休みを考えることは、働き方を考えること」と話す専門家に、話を聞いた。

祝日過多は時代遅れ?

「本来、休暇は働き方に合わせてフレキシブルに休むのがふさわしいもので、強制的に休まされるべきものではありません」

BuzzFeed Newsの取材にそう語るのは、日本の現状を「祝日過多社会」と呼ぶ、ニッセイ基礎研究所主任研究員の土堤内昭雄さんだ。

「休み方と働き方の問題は裏表になっています。いまのような休み方を変えていかないと、長時間労働だってなくならない」

言葉に力を込める土堤内さんと一緒に、休みについて考えてみよう。

そもそも日本の祝日を定めているのは「国民の祝日に関する法律」だ。その目的には、こんなことが書かれている。

自由と平和を求めてやまない日本国民は、美しい風習を育てつつ、よりよき社会、より豊かな生活を築きあげるために、ここに国民こぞつて祝い、感謝し、又は記念する日を定め、これを「国民の祝日」と名づける。

1948年の制定時は計9日だった祝日は、「海の日」(1995年)や「山の日」(2016年)などが次々と「祝日入り」したことで、計16日にまで拡大した。

データブック国際労働比較(労働政策研究・研修機構、2017年)によると、これはイギリスの8日、アメリカやドイツの10日、フランスの11日、イタリアの13日など、先進国の中でも多い。その現状を、土堤内さんはこう批判する。

「本来国民がみんなで休んで祝おう、というものが、どこかで国民を休ませる日にすり替わってしまったのではないでしょうか」

「本来、休みは個人が主体的に休むべきもの。お上が一斉に休ませるいまの状態は時代にあっていません。働く側が自分の都合に合わせてマネジメントできなくなってしまう」

時代にあっていないーー。土堤内さんがその理由にあげるのが、社会の「成熟化」だ。サービス業などの第三次産業が本流となった現代の日本では、そもそも働き方が多様化しており、「24時間365日、常に誰かが働いている状況がある」という。

そうした社会において、もはや「一斉に休む」ことは現状にそぐうものではない、ということだ。経済産業省や経団連主導で今年2月に始まった、毎月末の金曜日の15時退社を推奨する「プレミアムフライデー」の失敗もこうした現状にある、と土堤内さんは見る。

もう受け入れられない、企業戦士

さて、祝日が先進国でも多い日本だが、実際に休んでいる日数はどうだろう。

先出の国際労働比較によると、日本は137.4日。ドイツ、フランスは145日。イタリアは140日、イギリスは137.1日。有休の取得が日本よりも盛んだから、祝日の少ない先進国の方が、休みが増えたり、ほぼ同じ日数になったりするのだ。

日本の有休消化率は、世界でも最下位クラスだ。

旅行サイト「エクスペディア」が2016年、28ヶ国で9424人に実施した比較調査では、日本の有休消化率は50%と最下位。ほかの先進国は、アメリカ(80%)、イタリア(83%)、フランス(100%)などの数字が並ぶ。

つまり、「祝日を無理やり増やす」という国のやり方は、有休が取れない現実の裏返しでもあると言える。なぜ日本人はこうも「有休」を使えないのだろうか。土堤内さんは言う。

「個人の意識と、仕組みの問題があると思います。まず、それぞれに有給を100%消化する、という意識がない。『もしもの時のために残しておかないと』というふうになってしまうし、『休んでいる=サボっている』という価値観も根強い」

先のエクスペディアの調査では、「有休取得に罪悪感を感じる人」の割合は韓国(69%)に次ぐ2位(59%)だった。アメリカは33%。フランスは22%。最下位のスペインは17%だ。

「仕組みの面で言えば、そもそも個人の状況に休みを合わせるための組織のフォロー体制が整っていない。さらに、成果ではなく働いた時間で評価されるという企業文化が残っていることも問題です」

「休みを取る人は仕事をしていない、早く来て遅く帰る人が『がんばっている』と評価されてしまう。もはや、そのような『企業戦士』が受け入れられる世の中ではないのにもかかわらず、です」

つまり、平日の長時間労働と、有休未消化の問題はワンセットであるとも言える。そのうえで土堤内さんは、企業の人材確保という観点からも「休める会社にしないといけない」と警鐘を鳴らす。

「多様化している世の中では、子育てや介護、病気の治療などをしながら働いている人が大勢います」

「フレキシブルな働き方、つまり休み方ができない企業は、人口減少社会において優秀な人材が確保できず、持続できなくなってしまうのではないでしょうか」

でも、子どもが休めないと……

ここまでは企業の問題だが、もうひとつ土堤内さんが指摘するのは、「子どもが学校を休めない問題」だ。

親子連れの場合、仮に親が自由に仕事を休めたとしても、子どもが休めない。つまりその制度を変えないと、有休が取りやすくなっても意味がない、ということだ。

「私がアメリカで暮らしていたころ、平日でも美術館や動物園には子連れが大勢いたことに驚きました。教育は学校だけが全てではなく、家庭や地域教育も重要だ、という考え方があったんです」

「日本では、忌引きや病気以外、学校は『休んではいけないもの』とされている。本当にそうなのでしょうか」

政府は、2018年度から地域ごとの実情に応じて学校の休みを分散化する「キッズウィーク」の取り組みを始めようとしている。

夏休みや冬休みなどの一部を他の時期に移し、地域ごとのまとまった連休をつくり出すことを目指すという、安倍晋三首相肝いりの施策だ。

ただ、これは結局「一斉に連休を取る現状とは変わらない」にしかつながらない、というのが土堤内さんの意見だ。

「キッズウィークとしてまとめて休みを取るのではなく、それこそ『キッズデー』として、子どもの有給休暇のような仕組みがあっても良いと考えています」

「連休のために大渋滞、ホテル費用の高騰、サービス業の人員配置の問題など、時間やお金を社会的にロスしている。企業にも、学校にも、もっと柔軟な休み方を取り入れるべきです」

「休み方をデザインする」ということ

土堤内さんはこの取材中、「働き方は休み方なんです」と繰り返した。なぜなのか。

「働くことと休むことには、相乗効果がある。休みをもっとポジティブに捉えるべきなんです。インプットに使えることもある。仕事以外の事柄に時間を割くこともできる」

「疲労回復だけではなく、それぞれの仕事のパフォーマンス向上にもつながることになる。つまり、休みをマネジメントすることは、仕事をマネジメントすることだと言えます」

効率的に休むことは、効率的に働くことにつながる、というわけだ。うまく休んで個人の生産性を上げることができれば、労働時間だって削減することもできる。

だからこそ、「個人で休みをデザインする」ことこそが大切という。

「休みといっても、リゾートに行く長い休暇じゃなくて良い。半日とか1日とか、数時間単位でも良い。メリハリをつけることに意味があるんですから。大変そうに見えても、『やってみたら案外……』ということは多いですよね」

記者の場合は前職の新聞社時代、一切有休を取得できなかった。そんな「休み方と働き方」に限界を感じてBuzzFeedに転職したが、そんな大胆な策を取ることもない。

「制度や仕組みはなかなか変わらない。手近なところから、何人を巻き込んで一緒に始めてみれば、変化が起きるかもしれませんよ」

まずは半休から。はたまた、数時間だけでも。ちょっぴり休んでみることから、始めてみませんか。


「働き方」を考えるときに大事なのが「休み方」。政府は今年度、「働き方改革」に続いて「休み方改革」を進め、一部企業では週休3日制を導入するなど、休むためのさまざまな取り組みが広がっています。休むことは、私たちの生活の質の向上や健康につながります。

BuzzFeed Japanでは7月20日〜26日の1週間、私たちがより休暇をとり、楽しむことを奨励するコンテンツを集中的に配信します。

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