• factcheckjp badge
  • covid19jp badge
  • covnavi badge

新型コロナ「ワクチンが変異ウイルスを生み出した」は誤り。ノーベル賞科学者の発言が拡散

ネット上に広がっているのは、エイズを引き起こすことのあるヒト免疫不全ウイルス(HIV)を発見しノーベル生理学・医学賞を受賞したリュック・モンタニエ博士の「新しい変異株は、ワクチン接種の結果として生み出されたものだ」などとする発言だ。

「新型コロナウイルスのワクチン接種が変異ウイルスを生み出した」とする言説が拡散されている。ノーベル賞科学者の発言として広がっているが、これは「誤り」だ。

この人物は「ワクチン接種件数のカーブのあとを、死者数のカーブが追っている」と、接種の増加と死者の増加に因果関係があるかのような発言もしているが、こちらも「誤り」だと言える。

BuzzFeed News は、新型コロナやワクチンに関する正確な情報発信を推進する日米の専門家プロジェクト「こびナビ」の監修のもと、ファクトチェックを実施した。

ネット上に広がっているのは、エイズを引き起こすことのあるヒト免疫不全ウイルス(HIV)を発見しノーベル生理学・医学賞を受賞したリュック・モンタニエ博士の発言だ。

発端となっているのはアメリカの財団が5月末に公開したインタビュー動画で、モンタニエ教授は動画内でワクチン接種の効果を否定しながら、このような趣旨の発言をしている。

「新しい変異株は、ワクチン接種の結果として生み出されたものだ。どこの国でも同じことが起こっているのが分かる。ワクチン接種の曲線の後に死者の曲線が続いている」

動画は日本語にも翻訳されており、SNS や YouTube、note などのプラットフォームや、ネットメディアの記事を通じて広がっていることが確認できた。

すでに削除されている投稿もあるが、各国でデルタ変異ウイルスが広がっていることを受け、8月末の段階でも継続して拡散されている。

モンタニエ教授が言うような「接種した人から変異株が増えている」といった言説はネット上で大きく広がりを見せており、中には20万回以上再生されている動画もあった。

「科学的な合理性はありません」

しかし、このモンタニエ教授の発言は「誤り」だ。こびナビの専門家は「ワクチンが変異ウイルスを生み出しているという主張に、科学的な合理性はありません」と指摘する。

「ウイルスの変異が生じるのは、宿主(ヒト)に感染して増殖する時です。つまり、ワクチン接種の有無にかかわらずウイルスは常に変異しますし、その変異のパターンは基本的にランダムです」

これまでたびたび発生してきた変異ウイルスについても、「ワクチンが実用化される前の段階で発生しています」という。

実際、アルファ変異ウイルスが見つかったのは2020年9月。ベータは5月、ガンマは11月だ。そしていま注目されているデルタは、10月。いずれもワクチン接種が広がる前のできごとだ。

「ワクチン接種後の抗体がある状況で『ブレイクスルー感染』をすると、抗体がある状態が選択圧となって中和抗体から逃避する変異が生まれる可能性は、理論的にはありえます。ただし、そういったことが起こっている、つまりブレイクスルー感染者から新たな変異ウイルスがみつかっている報告はないわけです」

そのうえで、こびナビの専門家は、変異を生み出さないためにはワクチン接種が大切だと述べた。

「ウイルスの変異の機会を減らすためには、むしろワクチン接種によって集団内で免疫を持っている人を増やし、ウイルスの感染と増殖の機会を減らして、変異の頻度を抑えることが重要です」

死者数増の因果関係は…

また、ワクチン接種が進むのにあわせて死者数も増えているというモンタニエ教授のもうひとつの主張についても、こう否定した。

「いくつかの国で、ワクチン接種件数が増加した後に、COVID-19による死者数が増加したという相関がみられても、因果関係があるように解釈するのは間違いです。COVID-19の死者数の増加は、少し前の時点での流行状況に強く依存し、ワクチン接種件数のみで規定されるわけでは全くないからです」

「もし万が一、ワクチン接種者において接種直後に死亡の増加がみられたとしたら、それはワクチンの成分が原因ではなく、ワクチンによって十分な免疫がつく前に感染リスク行動を取ってしまったことなどが原因と考えられます」

モンタニエ教授は自らの言説の「根拠」について、「抗体依存性増強現象(ADE)」をあげているが、新型コロナウイルスのワクチンにおいては、動物実験でもヒトでも確認されていない現象だ。

なお、教授は長年ワクチン接種そのものを否定してきたほか、科学的根拠のない「ホメオパシー」を肯定するなど、科学界からたびたび批判されていていることにも留意が必要だ。

変異でワクチンの効果は?

厚生労働省のサイトでも「一般論として、ウイルスは絶えず変異を起こしていくもので、小さな変異でワクチンの効果がなくなるというわけではありません」と強調。

英国公衆衛生サービス(PHE)の分析を引用し、デルタに対する入院予防効果は、ファイザー社製ワクチンで 96%、アストラゼネカ社製で92%にのぼると指摘。

発症予防効果についても前者で約88%、後者で67%だったとして、「結果の解釈に留意が必要」としつつも、「一定の防御効果を示す可能性がある」と呼びかけている。

ワクチンをめぐる誤情報は少なくない。日本でも、「不妊」や「流産」の原因となるなどという、まったく根拠のない言説が広がりを見せた。

また、接種後の死亡やアナフィラキシーなど因果関係が証明されている「副反応」と、因果関係の不明な「有害事象」を混同した報道も複数みられている。

ワクチン接種による副反応のリスクよりも、新型コロナウイルスに感染し重症化するリスクのほうが高いことから、接種が推奨されている。ワクチンについて、不安をあおる情報には注意が必要だ。


監修:大阪大学産業科学研究所・曽宮正晴氏、こびナビ副代表・木下喬弘氏、こびナビ峰宗太郎氏

BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説の一部は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知、参考にしました。

また、新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とも連携し、新型コロナ感染症とワクチンに関する誤った情報、不正確な情報についてファクトチェックしています。


  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。