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「後悔は正直ないが、反省は…」22歳の連続放火犯は、なぜ在日コリアンを狙ったのか。裁判で明かされたこと

在日コリアンが集住する京都・ウトロ地区を襲った放火事件。犯行を認めた男は、韓国民団をねらった同様の事件を2度起こしていた。憎悪感情をもとにした「ヘイトクライム」が、司法の場でどのように判断されるのか。

在日コリアンが集住する京都・ウトロ地区や、名古屋市の韓国学校などで連続放火事件を起こしたとして、非現住建造物等放火などの罪で問われている無職有本匠吾被告(22)の第2回公判が6月7日、京都地裁(増田啓祐裁判長)であった。

この日は、弁護側、検察側、そして裁判所側から、動機や背景などについて被告に問う「被告人質問」があった。被告が放火を正当化する方向性で自らの主張を訴える場面が多く、「後悔はないが反省という意味では謝罪する」などと述べる場面もあった。

被告は放火自体を認めている。韓国人や在日コリアンに「敵対感情」を持ち、不安を与えたかったとも述べており、今回の事件は明確な「ヘイトクライム」といえる。その差別的な動機は今後、刑の重さを決める裁判所の判断に、どう影響するのか。

初公判と同じスーツ姿だった被告。弁護側、検察側、裁判官側の質問にはどれも饒舌に語る一方、自らの主張や知識を披露する場面が目立った。

しかし、ウトロ地区の成り立ちや、日韓関係、法律などに関して被告が法廷で語った内容の多くは誤っている点が多く、たとえば弁護人に同地区が「不法占拠」であるという点を否定されても、自説を曲げることはなかった。

また、日本による朝鮮半島の植民地支配によって生じた被害については「被害妄想」などと主張。慰安婦問題や領土問題に関する自説を語ろうとしたところを検察官に静止され、「これだけは話させてください」と苛立ちを隠さずにやり合う場面もあった。

犯行動機については、「不法占拠や慰安婦設置などの歴史観に対する抗議を示した」などと、政治的主張を伝える「使命感」を覚えていたとも述べた。「事件を起こし、メディアを利用して私の主張を発信」したとも述べ、裁判も主張発信の場としようとした思惑も窺わせた。

被告自身が韓国に対して嫌悪感を抱いたようになった経緯や、差別的な動機などに関しても明らかにされた。

冒頭、弁護人から問われる形で、被告は韓国人に対し、日本に暮らしている・いないに関わらず、「敵対感情」を持っていると語った。

その一方で、「在日コリアン一般の方々を追放することを望んでいたわけではない。全員が反日というわけではなく、親日の人たちには敵対心を持っておりません」と語るなど、自らの差別感情が、あたかも在日コリアン側に原因がある正当な主張であるかのようにも述べた。

なお、こうした「敵対感情」を持つようになったきっかけは、2011年の東日本大震災をめぐる韓国側の反応だったとしている。当時、被告は小学生だ。

また、家庭でも在日コリアンを嫌悪する風潮があったといい、「家族や周辺、教員の韓国への報道に対する反応」や、ネット上の韓国関連の報道の影響も受けていたとも語った。

一方で、韓国・朝鮮系の人たちと直接関わったことは、これまでなかったという。

注目を集められずに…

最初の犯行に愛知の民団を選んだことについては、「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展」における慰安婦像の設置などに反感を覚えていたとした。

しかし、署名偽造問題などで問題提起が立ち消えとなったため、「社会問題としてもう一度取り上げさせたい」と感じたことから事件を思い立ったとしている。

また、コロナ禍における東京五輪の開催と、韓国選手団のふるまいに反発を覚え、韓国関連の施設に事件を起こすことで同国選手団への実力行使の事件に発展、五輪が中止になることを期待し、開会式翌日に犯行を起こしたという。

しかし多くの注目を集められなかったことから、類似事件の発生の可能性を示唆させるため、数日後に奈良の民団支部を狙った放火事件を起こした、とした。

一方、ウトロの事件については、京都国際高校が甲子園に出場した際に韓国語の校歌が流れたことに反発を覚えたのがきっかけだとした。

関連記事を読んでいた際に、同地区の「平和祈念会館」のニュースを見つけ、「不法占拠」の文字を見つけたことで、地区に興味を持って調べ始めたという。

被告は地区の住民が「国際法に基づく領土侵犯、違法な滞在」であると誤った認識をし、公共住宅が建設・整備されることが優遇であると妬みを感じたうえで、「祈念館の開館阻止」のために設置予定の看板などを燃やすことにしたという。

ウトロ地区を知ってから、わずか10日ほどで起こした犯行。看板を燃やす目的を果たすことで、「達成感」を得たかったという。また、場合によっては「4度目」の犯行も考えていたとも語った。

一連の犯行の背景には、「コロナ禍で離職を強いられた」自らの不安定な状況があったとも述べた。

ワクチンの全員接種を求める職場側と、副反応に疑問を持っていた被告で齟齬が生じ、さらに業務過多で新人教育を受けられず、精神科医から「ドクターストップ」を受けたことが原因という。

再就職先もうまく見つからず、こうした自らの不安定な状況が「事件を起こすことへのためらいをなくしてしまう影響があったとも思います」とも述べた。

なお、弁護人の質問では被告がいじめを受けていた過去や、人間関係に悩んでいたことなどにも触れられていたが、家庭環境や人格形成など、その社会的背景が深く明らかにされることはなかった。

「後悔は正直ない」と語ったが…

政治的主張を訴えるための犯行であったことを強調する被告に、なぜ直接抗議をしなかったのか、犯行声明を出さなかったのかなどの質問が、弁護人、検察官、さらに裁判官からも重ねられた。被告はこう回答した。

「私のような無名の若造が演説や公的文書の提出をしても、公では認めていただけない」(弁護人に対し)

「すぐに名前を明かさず、明るみになるまで隠しておくことで、何を理由として(犯行を)起こされたのか、周囲や他の地区に不安を与え、考えさせられるきっかけになる」(検察官に対し)

「署名などをやったとしてもそれは聞いてもらえないだろうという思いがあったのはある」(裁判官に対し)

裁判長からは、「コロナなどほかの問題にも関心があるなかで、なぜ日韓関係にだけフォーカスして、事件を起こしたのか」とする質問があった。被告は以下のように語った。

「コロナワクチン、若者を敵視するなど様々な差別が生じていたが、広義の人種差別ではなく、韓国人という特定の人種に対する差別が最も厳しく問いただされていた。そうした人たちに対する擁護をなぜ優先的に続けるのかという批判の意を込めた」

続けて、裁判長は「不安感を与えることで議論が巻き起こることを期待したのか」と問うと、被告は「その通りです」と答えた。

差別的動機をもとに、在日コリアンの人たちに恐怖を与える狙いを持った「ヘイトクライム」であることを、自ら明言したことになる。

一方で、犯行については「後悔は正直ないが、反省という意味では深く謝罪を申し上げたい」とも述べた。人的被害を生じさせた点については周りに誰も住んでいなかったと思い込んでいたとして、「望んでいませんでした」と主張した。

また、住民の財産だけではなく、飼い犬が亡くなるなどの被害が出たことについて、「重大な過失をしてしまい重く責任を感じている」「周囲の方々に不安とご心配、ご迷惑をおかけした」「日本の方々にも不快な思いをさせてしまった」などと謝罪した。

今後について、同じことをするつもりは「さすがにございません」「(主張があれば)事件という形ではなく、正当な方法によって実名の発信をする」とした。

自らの「思想、人格形成そのものを変えていく必要がある」との認識も示し、数千万円に及んだという損害の賠償についても「可能であればしていきたい」とも話した。

「人種差別は政治的主張ではない」

およそ2時間半に及んだ、やりとり。被害者であるウトロ地区の関係者らは、どう見たのか。

ウトロ地区側の弁護団長を務める豊福誠二弁護士は公判後の記者会見で、「これは、ある青年の政治的主張が行き過ぎた事件なのではなく、明確な人種差別事件。政治的なの主張は後付けであって、在日コリアンを排除しようと一連の放火事件を起こしている」と指摘。

「韓国に対して何かをしようと理由探しをしていて、ウトロに行き着いた。政治的主張ありきでやったではなく、特定の民族を排除しようとしている危険な思想だ。人種差別は政治的主張じゃない」

一方、ウトロ民間基金財団の郭辰雄理事長は「突発的な感情的な動機に基づくものではなく、明確に韓国そして朝鮮半島にルーツを持つ人をターゲットにした計画的な犯罪であることが明らかになった」と非難。

「そうした思想を育んだ土壌が日本社会にあったという闇も明らかになったことは、深刻に捉えないといけない。ヘイトクライムは拡散していく可能性があり、被告もそれを期待し、共感と称賛を得ることを求めていたので、厳正な対処が求められている」

また、会見に同席した龍谷大の金尚均教授(刑法)は、「欧米には量形事情として差別動機を重く評価するように明文規定があるが、日本では規定されていない。差別動機をどう評価するか。そこがいちばんの焦点である」と強調した。

一方、ウトロ町内会長で、自らの建物が燃やされる被害にあった在日コリアン3世の山本源晙さんは「完璧な差別主義者だと思いました。いままで以上に許せないと感じた」と語った。

山本さんは法廷で自説を述べ続ける被告に苛立ち、「国に言え!」と声をあげて裁判官から静止された。言葉を抑えることができなかったという。

「言い訳とこじつけにしか聞こえませんでした。政治的などうのこうの、日本と韓国どうのこうのいうてましたが、ウトロに住んでいる住人や在日コリアンに関係ない。同じ人間、日本に住む人間同士、差別はあってはいけない。裁判所には厳しく判断をしてほしい」

次回の裁判は6月21日で、被害者側が意見陳述に立つ予定。検察側の論告と求刑もある。

放火事件に関する動画はこちらから。

22歳の男はなぜ、火を放ったのかーー。 在日コリアンが暮らす京都・ウトロ地区で起きた放火事件の裁判が、きょう始まります。 差別や憎悪感情をもとにした「ヘイトクライム」と非難されている、この事件。 「ヤフコメ」の反応を期待して犯行に及んだという被告は、法廷で何を語るのでしょうか。

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