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「殺人ウイルス兵器」「かかったら死ぬ」YouTubeやTikTokで広がる「新型コロナウイルスの真実」に注意

新型コロナウイルスをめぐり、ネット上で「殺人ウイルス兵器」「中国の生物化学兵器」「ウイルスが研究所から漏れた」という陰謀論や、「致死性が高い」「エボラと同じ」「かかったら死ぬ」などように過度の不安を煽るもの、中国人への憎悪や排斥を煽る情報が「新型コロナウイルスの真実」「日本が伝えない真実」などの情報が動画を介して大量に拡散している。

中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、YouTubeやTikTokなどで真偽不明だったり、間違ったりした情報が大量に拡散している。

なかには100万近く再生されているものもあり、過度の不安を煽るもの、中国人への憎悪感情や排斥を煽るものもある。

パニックを誘発しやすいタイミングだからこそ、公的機関から発信されていない情報には、注意が必要だ。

YouTubeには1月31日現在、新型コロナウイルスに関する様々な動画がアップされている。多くはYouTuberやVTuberによるもので、自らが収集した情報をプレゼンテーションしたり、ナレーションしたりすることで発信している。

とはいえ、過度に不安を煽るものや、真偽が定かではないものも大量に存在する。「コロナウイルス」と検索すると「真実」という言葉が関連キーワードの候補として上位に出るという現状もある。

さらにTikTokでは、YouTubeで配信された真偽不明の動画などが「日本が伝えないコロナウイルスの真実」などとして拡散している。

なお、こうした動画で特に目に留まるのは「殺人ウイルス兵器」「中国の生物化学兵器」「ウイルスが研究所から漏れた」といった「陰謀論」だ。

そもそも、こうした情報の発端は、アメリカの「ワシントン・タイムズ」(ワシントン・ポストとは異なる)が報じた記事にあるとみられる。

「新型コロナウイルスは中国の研究所で発生した可能性がある」などとするこの記事では、「イスラエルの元諜報員」のコメントを紹介しており、世界中で拡散した。

しかし、記事では根拠は一切示されていない。実際、今回のコロナウイルスの感染拡大については、この元諜報員も記事中でこう答えており、憶測に過ぎないことがわかる。

「これまでのところ、そのような事件の証拠や兆候はありません」

アメリカ疾病予防管理センターによると、現状では新型コロナウイルスの発生源は、野生動物の可能性が高いと考えられている。武漢市の市場関係者から多数の患者が報告されていることが、その理由だ。

「かかったら死ぬ」などの情報も

また、「致死性が高い」「エボラと同じ」「かかったら死ぬ」「このままでは数百万人が死ぬ」などの情報もやはり、多く広がっている。

ネット上では一時期、初期の重症患者41人に絞った「致死率15%」とある特定家族の親族間に限った「感染率83%」という情報が広がった。いくつかの動画でも紹介されている数値だが、これらの数字を一般化するのは誤りだ。

致死率は現段階で、2〜3%とされている。死者の多くは高齢者や、糖尿病などの基礎疾患を持っている人だ。ただし、カウントされていない軽症者や未発症者も多く存在するとみられ、現段階では確定した「致死率」は存在しない。

すでに患者数は2002年に発生した同様の新型肺炎「重症急性呼吸器症候群(SARS)」よりも増えており、国内でもヒトからヒトへの感染が確認されている。感染力は高いとみられるが、重症化しやすいとは限らないことにも留意が必要だ。

なお、国立感染症研究所によると、2012年に中東で発生し、感染が拡大していたコロナウイルスによる新型肺炎「MERS」の致死率は34.4%だった。

ただしこれは、無症状や軽症患者を含まないデータであり、同研究所は「高齢者や基礎疾患をもつ人に感染した場合にのみ重症化する」としている。

SARSの致死率は9.6%だった。この際も「死亡した人の多くは高齢者や、心臓病、糖尿病等の基礎疾患を前もって患っていた人」だったという。

なお、例にも出されているエボラウイルスの致死率は、厚生労働省によると平均して50%前後だが、過去のアウトブレイクでは90%に達することもあった。

有効な対策は?

対策に関しても、様々な情報が動画で広がっている。とはいえ、現状はワクチンや治療薬が存在しないため、インフルエンザなどと同様、あくまで通常の感染症対策をすることが重要だ。

感染症のスペシャリストで、2009年の新型インフルエンザ発生時には国の対策を検討する委員会の副委員長も務めた川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは、BuzzFeed Newsの取材にこう呼びかけている。

「インフルエンザの時の注意も、マスク、咳エチケット、手洗いです。インフルエンザの注意は、今回の新型コロナウイルスも感染症対策の基本としては同じなので、インフルエンザと同様の対策をお忘れなく、というところです。

ですから、この日常的な予防策をしていれば、新型コロナウイルスよりもむしろ今、もっとかかりやすいインフルエンザの防御にもなりますということです」

「もう一つ注意してもらいたいのは、糖尿病など慢性の病気をほったらかしにしている人。この人たちは重症化のリスクが高いですから、早く治療して、早く調子をよくした方がいいです。

また、高齢者に入っている人も重症化のリスクがありますから、人混みになるべく出ないとか何気ない注意はしてもらった方が全体のリスクは下がります」


新しい感染症が発生するという状況は、パニックを誘発しやすい。

繰り返しになるが、新型コロナウイルスをめぐっては、ネット上でたびたびデマやミスリードな情報が拡散している。なかには中国人の憎悪感情や排斥を煽るものもある。

しかし、こうした状況だからこそ「正しい情報」を冷静に選別することが大切だ。そのうえで岡部さんは、ネット上に広がるデマについてもこう警鐘を鳴らしている。

「正しい情報というのは、やはり公的な機関が責任をもって出している情報です。日本なら、厚生労働省国立感染症研究所ですね。時間的には少し遅れるかもしれませんが、そこがより正しい情報を出すはずです」

「逆に一番危ないのは、無責任に匿名でSNSで流されているような情報です。責任の所在や出典をはっきりさせずに書いている情報はまず信じない方がいい」