緊迫するウクライナ情勢をめぐり、まとめサイトの不正確な情報が拡散されている。
このサイトでは「欧州向け世界最大のパイプラインが爆発」という記事を掲載しているが、使っている画像は8年前のもので無関係だ。
親ロシア派が支配するウクライナ東部でガスのパイプラインが爆発したことは報じられているが、「欧州向け世界最大」のパイプラインとして記事で言及されている「ドルジバ・パイプライン」は爆発の影響を受けていない。
ウクライナ情勢をめぐっては、情報戦も繰り広げられており、注意が必要だ。BuzzFeed Newsは、ファクトチェックを実施した。

拡散されているのは、まとめサイト「ツイッター速報」が2月19日に配信した《ロシア「ウクライナがパイプラインを爆破した」欧州向け世界最大のパイプラインが爆発》という記事だ。
Twitterの投稿は4700回以上リツイートされ、9100以上の「いいね」を集めるなど、広がりを見せている。
記事では、ネット掲示板「5ちゃんねる」に投稿されたツイートなどを引用。サムネイルやトップにパイプラインが爆発している写真を用い、「満州事変そのまんま」「ついにやりやがったな」といったコメントをまとめている。
なお、引用されているツイートは英語で、「ドルジバ・パイプラインの爆発により、ウクライナ、ベラルーシ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、チェコ共和国、ドイツへのガス供給が中断された」などと書かれている。
この「ドルジバ・パイプライン」とは、ロシアからウクライナや欧州に伸びる世界最長の石油パイプライン。「ドルジバ」はロシア語で友好を意味する。記事タイトルの「欧州向け世界最大」は、これを指しているとみられる。
前提として、2月18日に親ロシア派の支配するウクライナ東部・ルガンスクで天然ガスのパイプラインが爆発したと、地元通信社などが報じていることは事実だ。SNSにも動画が複数アップされている。
英紙ガーディアンなどによると、親ロシア派は爆発をウクライナ側による工作と主張。ただ、ロシアがウクライナを攻撃する口実をつくるための「偽旗作戦」「自作自演」だと指摘する声も出ているという。
2つの「不正確」な点とは

爆発について伝える「ツイッター速報」の記事や投稿には、2つの不正確な点が含まれている。
第1に、サムネイルや記事中で掲載されている画像は、今回起きたルガンスクの爆発の様子ではない。
2014年6月にウクライナ北東部・ポルタワで起きたパイプラインの爆発事故の模様を、ウクライナ緊急事態省が公開した写真だ。
AFP通信によると、当時、ウクライナ側はロシア側のテロ行為であると指摘していた。

第2に、見出しで「欧州向け世界最大のパイプラインが爆発」としている点。
「ツイッター速報」が記事中で触れている「ドルジバ・パイプライン」と、今回爆発があったと海外メディアが報じているパイプラインは別物だ。
確かに、当初はロシア側のメディアが「ドルジバ・パイプラインが爆発」などと報じ、SNS上でも同様の指摘が出ていた。
しかし、そもそもルガンスク地域に「ドルジバ・パイプライン」は通過していない。また、今回爆発があったのは石油ではなく「ガス」のパイプラインだと伝えられている。
欧州へのガス供給は継続
No, the mighty Druzhba oil pipeline isn’t anywhere near Luhansk, the city in eastern Ukraine where social media is reporting an explosion. Nowhere near (the blue dot is Luhansk). If a pipeline has explode there, isn’t Druzbha (so European supplies are no affected) #OOTT #Ukrarine
「ドルジバ・パイプライン」(白色)と爆発のあったルガンスク(青点)が離れていることを示した米ブルームバーグ記者のツイート
また現段階では、この爆発が欧州へのガス供給に影響を及ぼしたという情報もない。
ロシア産天然ガスを欧州に供給するパイプラインを管理しているウクライナの「GTSオペレーション」はTwitterに、爆発があった地域とはガス供給網が分離されており、「欧州へのガス供給は途切れることなく継続されている」と投稿。
同社の代表も自らのFacebookに「私たちの情報によると、爆発はルガンスク近くで発生した」としたうえで、ウクライナのガス供給網に影響を及ぼしていないと強調した。
代表は投稿で「石油のパイプライン」にも言及。「ドルジバ・パイプラインはこの地域を一切通過していません」とも補足している。
Given the news about an explosion 🚨 in #Luhansk, GTSOU informs: ❗️we do not transit gas through the temporarily occupied territory ❗️Gas infrastructure on these territories is disconnected from 🇺🇦GTS ❗️Gas flows via 🇺🇦 to 🇪🇺 continue uninterrupted #Donbas #RussiaCrisis
「GTSオペレーション」の公式Twitter。地図ではガスの主要供給網からルガンスクが離れていることを示している
ウクライナ情勢をめぐっては、国家ぐるみの偽情報が流されているとの指摘もある。
欧米諸国とロシアの間で情報の応酬が加速しており、SNS上での安易な情報の拡散には注意が必要だ。
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