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学術会議が「中国の千人計画に積極的に協力」とした自民・甘利議員、ブログをひっそり修正

「日本学術会議は中国の千人計画に関わっている」という情報は、インターネット上で関連する言説で多く拡散していた。甘利明氏のブログは複数のメディアやまとめサイトが引用する「ソース」になっていた。

任命問題で注目されている日本学術会議をめぐり、中国による科学者の招聘事業「千人計画」に「積極的に協力している」とブログに記していた自民党の甘利明・元経済再生担当相が表現を修正していたことがわかった。

甘利氏のブログは複数のメディアやまとめサイトが引用する「ソース」になっていたが、10月12日までに書き換えられたブログでは「間接的に協力しているように映ります」と表現を濁している。

この件をめぐっては、学術会議も組織としての「千人計画」への協力を明確に否定していたほか、加藤勝信官房長官も同日午前の会見で同様に否定した。

まず、経緯を振り返る

「日本学術会議は中国の千人計画に関わっている」という情報は、インターネット上で関連する言説で多く拡散していた。

「千人計画」とは、中国政府が各国の優秀な研究者を招致するために進めている事業だ。国家的プロジェクトとして2008年から始まり、外国人と国外の中国人を対象にした事業がある。

技術流出、盗用、さらには軍事転用への懸念を示す声もあがっており、こうした文脈から「学術会議は千人計画に協力している」として批判をするような言説が広がり、さらに発展して「学術会議は中国の軍事研究に協力している」などとする指摘もあがった。

学術会議が「千人計画」に携わっているという言説は、ニュース系のYouTubeチャンネルや複数のまとめサイトを通じて拡散していたが、一般的なメディアでも取り上げられつつある。

この件をめぐって、学術会議事務局はBuzzFeed Newsの取材に対し、「千人計画」や中国の軍事研究そのものへの関与を明確に否定。

学術会議は中国科学技術協会との間に会議やセミナーなどを通じた「情報交換」や、研究者間の交流、共同ワークショップの開催などの取り組みを進めていくことに関する「協力覚書」を2015年に結んでいるが、そもそも学術会議の予算面の問題から、国際的な研究プロジェクトなどを実施することは、中国以外の国ともできていないとしている。

つまり、軍事研究や千人計画以前に、学術会議として他国との間で「研究(計画)に協力」しているという事実がない、ということだ。

なお、この点については、10月12日午前の加藤勝信官房長官も会見で「多国間、二国間の枠組みを通じた学術交流を行っているところでありますが、中国の千人計画を支援する学術交流事業を行っているとは承知しておりません」と否定している。

発端は自民・甘利氏?

学術会議自体が否定している「千人計画」に協力しているという情報の発端は、自民党の甘利明・元経済再生担当相の発言にある可能性がある。

甘利氏は自らのブログ(8月6日)で以下のように記していたからだ。このブログはネット上の書き込みや、まとめサイト「アノニマスポスト」(写真)、夕刊フジのサイト「zakzak」やそのほかのメディア記事、さらにはYouTube動画など多くの言説の「ソース」となっている。

日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の「外国人研究者ヘッドハンティングプラン」である「千人計画」には積極的に協力しています。(中略)中国はかつての、研究の「軍民共同」から現在の「軍民融合」へと関係を深化させています。つまり民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体であると云う宣言です。軍事研究には与しないという学術会議の方針は一国二制度なんでしょうか。

また、「千人計画」に関する読売新聞の連載記事(5月4日)でも、以下のように取材に回答している。

学術会議は軍事研究につながるものは一切させないとしながら、民間技術を軍事技術に転用していく政策を明確に打ち出している中国と一緒に研究するのは学問の自由だと主張し、政府は干渉するなと言っている。日本の技術が中国の軍事技術に使われようとしても防ぐ手立てがないのが現状だ

なお、この読売新聞の記事の論点は「日本では、千人計画への参加に関する規制はない」ということに対して警鐘を鳴らし、学術会議側に問題意識を持つように促す点にある。

学術会議そのものが千人計画に「参加している」と明言されているわけでも、何かしらの関係性を記しているわけでもないことに、留意が必要だ。

しかし、学術会議、さらには政府は先述の通り千人計画への関与は否定しているほか、学術会議はBuzzFeed Newsの取材に「中国と一緒に研究するのは学問の自由」とする声明などを出した事実は公式的には存在しない、としている。

書き換えられたブログ

甘利氏は10月11日のフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」でブログの件について「真意」を問われた。

しかし、「千人計画」に参加している日本人の研究者が複数いることを示しながら、「学術会議のメンバーかどうかは私確認していませんけど」などと回答。

学術会議と中国科学技術協会の覚書を批判しつつ、千人計画に関する何かしらの声明を出すべきとは述べたが、自らが記したように組織として学術会議がどう計画に「積極的に協力」しているか、根拠を示すことはなかった

さらに甘利氏は10月12日までに、「積極的に協力している」と記していたブログの内容を、以下のように書き換えた。訂正文などは添えられていないほか、FacebookやTwitter、サイト上でも告知は見当たらない。

日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の「外国人研究者ヘッドハンティングプラン」である「千人計画」には間接的に協力しているように映ります。

また、「軍事研究には与しないという学術会議の方針は一国二制度なんでしょうか」という点も「軍事研究には与しないという学術会議の方針は日本限定なんでしょうか」に書き換えられている。

BuzzFeed Newsは甘利議員の事務所に、学術会議側が否定しているとして情報の根拠についての取材を10月5日にFAXで申し込んだ。12日16時までに回答を得ておらず、ブログ書き換えの件を含め、改めて回答を要請している。回答があり次第、追記する。

UPDATE

甘利議員の事務所は10月13日午後6時、FAXで「国会リポート第410号訂正と同日リリースした第413号記載の通りです」と回答しました。関連記事はこちら