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ネットの「大麻疑惑」に翻弄された玉城デニー知事 沖縄をめぐる”フェイク”はなぜ広がるのか

沖縄をめぐる様々な誤情報の拡散は、ネット上で後を絶たない。翁長雄志知事時代から「中国」との関係を噂するものが広がり、玉城知事自身も選挙中にまとめサイトなどによってネガティブな情報を掲載された。その現状に何を思うのか。

沖縄は昭和、平成と日米の間で常に翻弄され続けてきた。

沖縄戦で焦土と化し、その後の米軍統治を経て、戦後74年を経ったいまも国内にある米軍専用施設の7割が集中している。

そして、令和がはじまったいま。「世界一危険」と言われる普天間基地を移設するとして、辺野古沖で新たな米軍基地建設が進んでいる。

「移設反対」の声が高まる一方で、ネット上では「バッシング」とも言える言葉の投げつけや、誤情報の拡散などが後を絶たない。

玉城デニー知事は、この現状と、これからの沖縄をどう見据えているのか。BuzzFeed Newsによる単独インタビューの内容を、3回にわけてお伝えする。

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「誤情報」の渦で

昨年の知事選で「辺野古埋め立て反対」を掲げ、知事選史上最多の39万票を獲得して当選した玉城知事。ネット上では投票前後、様々な誤情報や誹謗中傷にも近い言動があふれていた。

「私も選挙のとき、フェイクに翻弄されました」

そう語る玉城知事。実際、選挙の際には、匿名ブログに端を発した「玉城氏は若いころに大麻を吸っていた」という情報を、まとめサイト「政治知新」などが掲載し拡散。知事本人はTwitterで「事実無根」と否定した。

また、「沖縄県知事選挙2018」などというサイトも現れ、故・翁長雄志前知事とその光景である玉城知事を誹謗中傷する動画が大量にアップされた。

サイトはBuzzFeed Newsの報道後に削除されたが、SNS上の動画は選挙期間中も拡散していた。玉城知事は振り返る。

「そのような情報が一旦ネットに掲載されて拡散され、5人10人と広がっていくと、それを根絶すること、広がりを食い止めることはほぼ不可能です。社会的な犯罪に繋がりかねない、重大なことだと受け止めています」

繰り返される誤情報の拡散

沖縄をめぐるこのようなできごとは、決して今回が初めてではない。

前・翁長知事時代にも、知事の「娘が中国人と結婚した」「中国の手先」などという言説がネット上に拡散。相次いで起きた米軍ヘリをめぐるトラブルについても、ネット上で「自作自演」などという声があがったこともあった。

さらに、「沖縄経済は基地に依存している」「普天間基地はもともと田んぼだった」などという古典的とも言える誤情報は、何度も何度も広がりを見せてきた。

今年2月に実施された県民投票でも、複数のまとめサイトが、玉城知事を批判する記事を大量に発信。大手メディアを超える拡散力を見せていたことがBuzzFeed Newsの調査で明らかになっている。SNS上では「反対派」を批判する誤情報も多く拡散されていた。

こうした誤情報やバッシングは、本土と沖縄の「溝」を象徴したものなのだろうか。そうではない、と玉城知事は強調する。

「これは本土との溝というわけではなく、多くの人が沖縄について、知らないことが多いためなのかもしれません。他府県と離れていることや、歴史的な背景から、日本じゃないどこかという感覚を持っている方も多いと思うんです」

「もっともらしい」ものほど…

「知らないからこそ、誤解も生まれてしまう。たとえば『沖縄の経済は基地に依存している』という調べればすぐにわかりそうな間違いも、沖縄には基地がたくさんあるのだからそうかもしれない、という思い込みにつながっていきます」

そうした思い込みを意図的に利用したものが、悪質な「フェイク」だと玉城知事は指摘する。

「さももっともらしく表現されている」ことがほとんどであり、受け手の感情を刺激するからこそ、拡散が広がっていくのだと。

「復帰から47年経って、本来だったら『沖縄だから』という誤解はなくなっているはずなんですね。しかし、いまだに米軍基地があるゆえに、こうした誤解が生まれるという現実がある。丁寧に事実を発信していくしかないと思っています」

実際、沖縄県ではこうした「誤解」を紐解こうと、翁長知事時代の2017年に「沖縄から伝えたい。米軍基地の話 Q&A Book」という冊子もつくり、ネット上に公開した。

たとえば基地関連収入はどうなのか。冊子によれば、県民総所得に占める割合は、復帰前の1965年度には30.4%だったが、1972年度には15.5%と低下。いまでは5.7%まで大幅に低下している。

それゆえ、沖縄県は「米軍基地の存在は、沖縄経済発展の最大の阻害要因になっている」という立場だ。返還された跡地のほうが経済効果が大きいこともわかっている。

「フェイク」の拡散を食い止めるために

しかしなぜ、沖縄、特に米軍基地に反対という立場をとる側は、そうした誤解やバッシングに晒されるのだろうか。玉城知事は、こう批判的に分析する。

「米軍が日本を守るために駐留している、だから米軍に反対しているものは日本に安全ではなく不安を持ち込もうとしている、という見方になってしまうのかもしれません」

「沖縄は地理的に台湾や中国とも近く、尖閣諸島と領有権について長く議論が行われている地域を抱えている。それがゆえに、米軍に反対するものは日本の安全保障にも反対しているという、直線的な考え方がさも正しいように見えてくるのではないでしょうか」

そこで玉城知事が投げかけるのが、「米軍基地がなければ安全が保たれないのか」「本当に米軍基地がなくなったら中国が攻めてくるのか」というふたつの疑問だ。

前者については「アジアに軍事的緊張があるからこそ米軍基地が置かれているのではなく、米軍基地があることで緊張感が続いていると考えることもできる」として、「沖縄だけではなく全国で一緒に議論すべき」と指摘する。

そして後者については、「身近なところに置き換えてみてほしい」と呼びかける。

「日本とアメリカが中国とこれほどまでに経済で結びついている時代です。それに、コンビニや居酒屋にいったらたくさんの中国人留学生が働いていますよね。もはや中国との人材経済交流なくして日本は成り立たないということを考えると、本当に戦争をすることのプラス面があるのか、と考えてほしい」

「自分の身近なところで置き換えて考えると、そうした誤解にも気がつけるはずなんですよね。たくさんの人たちが拡散している情報でも、この話って本当なのかなという小さな疑問を持って、自分で確認をして考えてもらいたい。特に若い人たちには、ヘイトを食い止めていくという役割を担ってほしいと思っています」

(中編に続く)