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14%が自殺未遂を経験。ゲイ・バイ男性の抱える「生きづらさ」とは

6割以上が自殺を考えたことがある、という数字も。一人ひとりにできることとは、何なのか。

ゲイやバイセクシャルの男性は、異性愛者の男性に比べて自殺のリスクが高い。そんな調査結果がある。

大阪・ミナミの繁華街で2008年、宝塚大学看護学部の日高庸晴教授らが15~24歳の男女約2000人を対象に実施した街頭調査。性的指向と自殺リスクの関連について、異性愛者と性的マイノリティを比較した初めての調査だ。

自殺を考えたことがある人は6割以上

この結果、ゲイやバイセクシャルなど性的マイノリティの男性は、異性愛者の男性と比べて自殺を図るリスクが約5.9倍にもなることが明らかになった。

また、厚生労働省エイズ対策研究事業の一環で、ゲイ・バイセクシャル男性5731人を対象に実施された調査(2005年、インターネット)でも、その傾向は顕著だ。

それによると、回答したうちの65.9%が自殺を考えたことがあったという。自殺しようとしたことがある人の割合も、14.0%だった。

なぜ、こんな結果が出るのか。両方の調査に携わった日高教授はBuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「根底にあるのは自尊心の決定的な傷付きと、同時に強く感じる“生きづらさ”があり、日本では、多くの人が持つ男性らしさと少しでも違う人がいると、バッシングの対象になりやすいのではないでしょうか」

「1999年の調査では、カミングアウトした人数が多い人ほど、自殺未遂リスクが高いこともわかっています。誰にも言っていない人と比較すると、6人以上にカミングアウトした人のほうが自殺未遂リスクが3.2倍高いことがわかっています」

日高教授の元には、信頼できる友人・知人・同僚だからこそカミングアウトしたのに一晩でみんなにバラされた、職場にファックスを入れられたなど、「アウティング被害が背景にあった」という声が当事者から寄せられているという。

「あるがままの自分を正直に伝えに行く、そのエネルギーとおそらくコミュニケーション能力も高い彼らが結果として傷付いてしまっています。残念ながら、カミングアウトをして理解者とばかり出会えるわけではない」

「そのため自殺未遂リスクを高める関連要因としてカミングアウトがある現状が調査で示されていますが、それでもその困難な過程を経て、カミングアウトを通じて友人・知人・同僚が本当の意味でわかってくれた時に、当事者にとって何より力強い存在になるのではないでしょうか」

また、日高教授が言及した調査では、セクシュアリティに対する言葉の暴力被害がない人と比べ、ある人の方が自殺未遂のリスクが1.6倍高かった。古いデータではあるが、まとめるとこんなグラフになる。

学校でのいじめ経験は6割

最新のデータからも、LGBTの人たちに対する差別は依然として深刻であることがわかる。

日高教授が2016年にLGBTの人たち約1万5千人を対象に実施した意識調査によると、職場・学校の環境で「差別的な発言」を経験した人は、実に7割以上にのぼる。

学校生活(小・中・高校)に絞ると、約6割がいじめを経験している。そのうち、「ホモ・おかま・おとこおんな」などの言葉によるいじめの割合は 63.8%、服を脱がされたという割合は18.3%だった。

「自殺には複合的な要因があるので、どれが理由だと言い切ることはできません。セクシュアリティに悩んで自殺を図ったかどうかはわからないのです。ただ、異性愛者と性的マイノリティで比較をすれば、明らかにそのリスクが高いというデータが出ています」

そのうえで、日高教授はこうも指摘する。

「いじめを受けたり、周りの差別的言動で嫌な思いをしたりして、自殺を図ったという人もいるでしょう」

「1999年来実施してきた横断研究は、いじめ被害や自殺念慮・自殺未遂など困難なライフイベントがあっても、それを乗り越えて大人になった当事者の皆さんが昔を振り返って教えてくれたこと。これまでに命を落としてしまった人も大勢いることと思いますが、その彼らの声はデータとして表すことはできません」

リスクを減らしていくためには

では、自殺リスクを改善していくには、どうすれば良いのだろうか。

「当事者の人たちが何か問題を抱えているというよりは、社会の側の問題ですよね。まず、多くの人がこの現状を知らない。データに表れているような、これほど高いリスクがあるということを、自治体の自殺対策担当者や対人援助にあたる専門職の多くが知らないのは問題でしょう」

その上で言及するのが、教育現場におけるLGBTの周知と自殺防止策の2点だ。

「半数以上がいじめの被害を受けているということは、教育現場において性的マイノリティについての情報が不足しているということがいえます」

「行政による自殺防止策の側面と、教育の側面で仕組みづくりをすることが重要です。教師や医師・保健師・看護師・臨床心理士・精神保健福祉士など対人援助職、自治体窓口の職員などの人たちが研修をするカリキュラムやその機会の確保、学ぶシステムをつくることから始めないと変わらない」

進みつつある行政による対策

政府も自殺総合対策大綱を2012年に改定した際、性的マイノリティについてこう言及している。

自殺念慮の割合等が高いことが指摘されている性的マイノリティについて、無理解や偏見等がその背景にある社会的要因の一つであると捉えて、理解促進の取組を推進する。

性的マイノリティについて、無理解や偏見等がその背景にある社会的要因の一つであると捉えて、教職員の理解を促進する。

厚生労働省によると、これに基づき、三重県や横須賀市、世田谷区などでは啓発事業や交流会、職員向け講座などが実施されているという。

また、文部科学省も2016年、教職員が現場で性的マイノリティの児童にどう接し、対応すべきなのかをマニュアルにまとめ、公表した。

徐々に対策は進みつつある。ただ、それらの施策が浸透するにはまだ時間がかかりそうだ。日高教授もこう指摘する。

「国が何もやっていないわけではない。この15年間ほど、大きな花火はあがらなくても、性的マイノリティに言及したり、文言をいれたりすることはありました。しかし、なかなか基礎自治体や現場に届いていないのです」

誰かを傷つけたことは、ありませんか?

この事実を知った私たちにはまず何ができるのか。日高教授は言葉に力を込め、語った。

「日々の生活のなかで、周りに性的マイノリティがいるかもしれないと考えること。さらに、からかいやバッシングの言葉でその人を傷つけていることを意識することが先ず必要」

「多くの人は、『まさか周りにいるなんて』と思いがちです。だからこそ自分と向き合い、これまでの人生で誰かを傷つけたことがあったかもしれないと、考え、振り返る機会を持ってみてはどうでしょうか」

電通が成人7万人を対象に実施した調査(2015年)によると、性的マイノリティは7.6%。連合が民間企業などの社員1000人に実施した調査(2016年)でも8%だった。

つまり、およそ13人に1人だ。

あ、そういえばあの時。自分が言ってしまったことが、誰かを傷つけていたかもしれない。そうやって胸に手を当ててみること。これからを変えていくこと。それがまず、私たちにできることなのかもしれない。


BuzzFeed Japanは4月26日から5月9日まで、LGBTウィークとして、セクシュアル・マイノリティに関する記事を発信します。

セクシュアル・マイノリティがそばにいるのは、あたりまえ。2015年の調査(電通調べ)では、およそ7.6%の人がセクシュアル・マイノリティだとされています。

職場、学校、家族。どこにいても、誰であっても、何の不自由もなく暮らせること。そんな時代に少しでも近づけるきっかけになることが私たちの願いです。

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