「いくらマスコミに叩かれても、国民は認めてくれる」菅氏がかつて記した「言葉」を振り返る

    メルカリで高額転売されるなど、話題になっていた菅氏の著書「政治家の覚悟 官僚を動かせ」(文藝春秋、2012年)。官僚人事、マスコミ対策、「自助・公助・共助」への思い、そして公文書……。いったい、そこにはどのような言葉が綴られていたのでしょうか。

    菅義偉・官房長官が9月14日、新たな自民党総裁に選出された。16日に招集される見通しの臨時国会での首班指名を経て、安倍政権の次を担う内閣総理大臣に任命されることになる。

    総裁選のさなか、話題になっていたのが菅氏の著書だ。すでに絶版となっている「政治家の覚悟 官僚を動かせ」(文藝春秋、2012年)がネット上で高額転売され、関東地方の図書館から消えるほど注目を集めていた。

    著書には、どのようなことが書かれているのか。官僚人事、マスコミ対策、「自助・公助・共助」、そして公文書……。BuzzFeed Newsは、そこに記された「言葉」をまとめた。

    Kota Hatachi / BuzzFeed

    著書は民主党政権下で書かれたものだ。自らが自民党政権下で取り組んできた各種の問題に対する見解や、民主党政権の諸政策の批判などがまとめられている。

    なかでも紙幅が割かれているのは、官僚の掌握術だ。

    「はじめに」では、「真の政治主導とは、官僚を使いこなしながら、国民の声を国会に反映させつつ、国益を最大限、増大させること」とも述べており、政治家がいかにして官僚を「使う」べきかを多く説く。

    「官僚組織を動かすために」という項目では、官僚は「恐ろしく保守的で融通のきかない」ともしながら、「優秀で勉強家であり、海外の状況も含めて組織に蓄積された膨大な情報に精通している」と指摘する。

    官僚は、まず法を根拠とし、これを盾に行動します。一般国民からみると、理屈っぽくスピード感に欠けるでしょう。たしかに法律上は正しいかもしれませんが、国民感情からはかけ離れているとの印象をもたれてもしかたありません。(11ページ)

    それゆえ、政治家には官僚と意思疎通をはかってやる気を引き出すことで、「組織の力を最大化」して政策実現を目指すべきともしている。また、「責任を取る」ことの重要さも記している。

    政治家が自ら指示したことについて責任回避するようでは、官僚はやる気を失くし、機能しなくなります。責任は政治家が全て負うという姿勢を強く示すことが重要なのです。それによって官僚からの信頼を得て、仕事を前に進めることができるのです。(13ページ)

    一方で、人事権の掌握こそが大切だという見解も示している。「改革を実行するためには、更迭も辞さない」(136ページ)とまで述べているのだ。

    総務相時代、後述のNHK改革の議論などをめぐり、自らの方針に反対するような意見を述べていた担当課長を更迭したことが成果として記されている。

    人事権は大臣に与えられた大きな権限です。どういう人物をどういう役職に就けるか。人事によって、大臣の考えや目指す方針が組織の内外にメッセージとして伝わります。(133ページ)

    そのほか、ノンキャリア官僚を局長に抜擢するなどの、異例の人事によって「官僚のやる気を引き出す」(139ページ)ことができた、とも言及している。

    第二次安倍政権下の2014年に新設された「内閣人事局」によって、首相官邸と、その中枢にいる菅氏が霞ヶ関の官僚人事を掌握したことは、よく知られている。

    「官僚の忖度を生む」とも批判されてきた人事局の成立には、こうした菅氏の考え方が大きく影響してきたといえるだろう。

    マスコミに「たたかれた」との振り返り

    時事通信

    マスコミに対する言及も多い。

    総務相時代、NHKに対し、海外向けの短波ラジオ放送で拉致問題に留意するよう命じた「命令放送」をめぐっては、官僚がマスコミ批判を恐れて反対した、と当時のやりとりを回顧している。

    官僚は極端にマスコミの反応を気にするものです。マスコミを刺激して反発をよび、世論が形成されていくのを怖れるのです。(57ページ)

    この命令放送は放送法に基づいたものだったが、具体的な事項の指定は初めてだった。そのため、「放送の自由への介入」との批判も大きかった。

    菅氏は「マスコミは猛反発キャンペーンを組みました」「変わらず大騒ぎ」「一斉に批判」したとして、ある新聞社には「命令大臣という烙印」を押され、「徹底してたたかれました」などと述べている。

    政治家が考慮すべきは国民の声であってマスコミの評価ではありません。いくらマスコミに叩かれても、国民は認めてくれるという確信が私にはありました。(61ページ)

    一方で、マスコミからたびたび「叩かれている」ことへの苛立ちも垣間見える。先述の更迭人事を巡り、このように振り返っている。

    彼ら(*官僚ら)が懸念していたように、マスコミからたたかれました。ある雑誌などには、ナチスドイツでプロパガンダを一手に担った人物を引き合いに出して「安倍政権のゲッペルス」などと書き立てられました。(…)マスコミはこの種の話題を面白おかしく書き立てますが、それを恐れては必要な改革は実行できません。(135〜136ページ)

    「マスコミの聖域にメス」という項目もある。ここでは、フジテレビ系列のバラエティ番組「あるある大辞典」で「やらせ」が明らかになったことをきっかけに、放送法改正の議論に乗り出した際のことを振り返っている。

    この放送法改正案の要旨は「虚偽の説明により事実でない事項を事実であると誤解させるような放送」をした場合は、総務大臣が再発防止計画の提出を求めることができるようにする、というものだった。

    国による放送局への介入につながると、当時は大きな批判を招いた。菅氏はこの点についても、以下のように弁明している。

    マスコミの反応は予想していた通りでした(…)私は言論の統制とか、検閲をする意思などまったくは持っていませんでしたし、報道、編集など放送内容に政治や役所が関与すべきでないことは先刻承知していました。(115ページ)

    そのうえで、さらに放送事業者の電波利用料の値上げや、NHKの受信料の値下げと義務化、さらにNHK会長の外部起用など、多岐にわたる議論に踏み込んだとも言及している。

    なお、電波利用料をめぐっては、民放各社の社員の給与が高いといった実情を調べ「理論武装」していたという。そのうえで、こうも指摘している。

    マスコミは世論に大きな影響力を持っているため、政治家や官僚は、マスコミを監督するときに及び腰になりがちです。しかし、私は国民のために必要な改革であるという信念がありましたので、反対のキャンペーンや批判にも立ち向かうことができました。(121ページ)

    「自助、共助、公助」への思い

    時事通信

    総裁選のなかで盛んにうたわれた「自助、公助、共助、そして絆」という菅氏のキャッチフレーズ。その部分に言及する項目もあった。

    民主党政権が子ども手当や年金施策を通じて「国からの直接給付を増やし、公助を大きくしようとして」いるとして、それを批判する文脈で用いられているもので、「自民党は自助自立を基本として制度をつくってきました」として、こう続けている。

    自分のことは自分でする、それが難しいものについて隣近所や会社などで支え合うのが「共助」です。そして、最後に国が責任をもって支えるのが「公助」という順番です。

    いたずらに給付を拡大しては、国民の自立心は薄れ、国への依存心ばかり大きくなってしまいます。(197ページ)

    そのうえで、「日本社会のすばらしさは、日本人の自立心であり、助け合いの精神にあります」と指摘。民主党政権の考え方では「長い間かけて培われてきた日本人の優れた特性を、根底から壊してしまう怖さを感じます」とまで言い切っている。

    一方で、沖縄の基地問題に関する言及もあった。これも民主党の鳩山政権が普天間基地の辺野古移設をめぐり「最低でも県外」の公約を掲げて頓挫したことを批判したものだ。

    さんざん踏みにじられた沖縄の人々の心情は、いまさらいくら政府が努力しても元には戻らないでしょう。(187ページ)

    辺野古の埋め立てをめぐっては、沖縄で反対意見が盛り上がりをみせるなか、安倍政権下で工事が始まった。菅氏は官房長官会見で工事について「粛々」という言葉を使い続けてきた。

    その問答無用とも言える姿勢は沖縄で強い批判を招き、故・翁長雄志知事からは米軍軍政下のキャラウェイ高等弁務官の姿に重なるとの批判も受けていた。

    公文書めぐる著書の一文「知らない」

    AFP=時事

    公文書に関する指摘もあった。

    やはり民主党政権を批判する文脈で使われている。東日本大震災をめぐって、会議の議事録が残されていなかった、というものだ。

    千年に一度という大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。

    その作成を怠ったことは国民への背信行為であり、歴史的な危機に対処していることへの民主党政権の意識の薄さ、国家を運営しているという責任感のなさが如実に現れています。(205ページ)

    安倍政権下では、公文書をめぐる改ざんや隠蔽、破棄の問題が相次いだ。新型コロナウイルスへの対応についても、その記録がいかにされてきているのか、まさにいま、問われている。

    なお、この文章については加計学園問題が取り沙汰されていた2017年8月8日、会見で記者から「これを記していた政治家は誰かわかるか」と問われたことがある。

    しかし、菅氏は「知らない」と回答。記者に「官房長官の著作に書かれている」「著作と現状を照らし合わせて現状をどう思うか。きっちり記録を残すべきという気持ちにはならないのか」と問われ、「私は残していると思いますよ」と答えている。

    いずれにせよ、この著書は8年前の野党時代に書かれたものであり、それまでの成果や当時の政権批判が中心で、「これから」への思いは多く記されていない。ただし、「おわりに」にはこんな記載があった。

    急激な少子高齢化や社会保障費増大による巨額の財政赤字など先進国特有の問題も抱えています。これらの問題の解決には国民の皆様にも負担の一端を担って頂くことが必要です。

    国民の理解、そして支持を得るには、我々政治家が身を削り、明確なビジョンを描き、官僚がそれを具現化していくという協働作業が不可欠なのです。(214ページ)

    菅氏は、新たな総理大臣として、どのような政権運営を担っていくのだろうか。そしてどういう社会をつくっていくのだろうか。そのヒントの一端は、かつて自らが綴った言葉にある。


    Contact Kota Hatachi at kota.hatachi@buzzfeed.com.

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