運動会のスターターピストルの音が怖いーー。そんな症状が出てしまう「聴覚過敏」のこと、知っていますか。
自らがそんな症状を抱えながら、学校側を変えようとした、ひとりの少女がいる。少しでも「みんなが生きやすい」ようにするためにーー。

「ピストルのような音を聞くと、怖くて動けなくなってしまうんです」
そうBuzzFeed Newsに吐露するのは、高松市に住む中学3年生の女子生徒だ。
幼いころから、破裂音に苦しまされてきた。風船が割れる音や打ち上げ花火、雷の音や犬の鳴き声などを聞くと、過度に恐怖を覚えてしまうという。
これは、「聴覚過敏」と呼ばれる症状だ。
特定の音に対して強い恐怖感や不安感、苛立ちを覚えたり、大きな音を聞いてパニックになったりしてしまうもの。発達障害を持つ人などに見られる。
彼女自身もそうした音を聞くと、耐えきれずに「安全なところ、遠いところに逃げ出したくなる」という。
小学生の頃から雷が鳴ると、保健室に走って隠れた。運動会のピストルの音も「ずっと、我慢してきた」と語る。
「6年間ずっと我慢してて、中学でも続いて。もう無理になってきた」
何度も話したけれど…

「運動会でピストルを使わないでもらえませんか」。2年生になって、はじめて学校側に申し出た。
しかし、担当した教員からは「耳をふさいだら?」などと聞かれ、理解を得ることはなかなかできなかった。これまでずっと苦しんできたこともあり、そうした言葉には「傷ついた」と語る。
ほかの生徒が楽しみにしていることなどを理由に、結局その年はピストルがそのまま使われることになった。
病院を受診し、不安を軽減するための薬をもらった。担任の計らいもあり、ほとんどの時間はグラウンドの見える校舎の中に隠れることにした。
階段の横で耳をふさぎながら、ひとりで眺める体育祭。「出ている友達が見たかったから……。でも、さみしかった」
症状に理解のあった友人や担任が、「大丈夫?」と温かい声をかけてくれたのが、救いだった。
翌日、彼女は県の障害福祉相談所にあててこんな手紙をしたためた。
私はその間1人でずっと校舎の中で耳をふさぐことしかできませんでした。私のクラスメイトもその競技に参加していたのですが、応えんすることができませんでした。
みんなが楽しんでいる中、1人でかくれているのはつらかったし、おもしろくなかったです。
先生になんども話したのにわかってくれなかったのがつらかったです。
「わがまま」ではなく

「合理的配慮」という言葉がある。
障害者の権利に関する条約に規定されているもので、障害によってさまざまな機会が奪われないようにするための、個々の状況に合わせた配慮を提供することを指す。条約に記されている定義は以下の通りだ。
「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」
たとえば「バリアフリー」のように、教育面でもこれは広く適用されている。
文部科学省は「教員、支援員等の確保」「施設・設備の整備」「個別の教育支援計画や個別の指導計画に対応した柔軟な教育課程の編成や教材等の配慮」などがそうしたものに当たるとしている。
内閣府によると、聴覚過敏の生徒のために、「机・いすの脚に緩衝材をつけて雑音を軽減する」配慮がとられたこともあったという。
こうした事例から鑑みても、彼女の今回の申し出が、決してひとりの「わがまま」ではなく、合理的配慮の提供に値するものであると考えられる。
「ずっと、不安でした」

女子生徒はその後も、母親とともに学校側や市教委と交渉を続けた。ほかにも、同じようにピストルの音を怖がっている生徒がいることも知った。
一方、交渉のさなかに、悪意ではなく無理解からくる言葉にたびたび心をえぐられたという。「治らないの?」「ほかの生徒の権利があるから」ーー。
彼女はいう。
「1年間、本当にしんどかったです。このまま、変わらなかったらどうしようって、ずっと不安でした。でも、途中でやめたらいままでのことが無駄になる。傷ついたりしたことも無駄になるからって思って」
そして、3年生になってから少し経った今月。学校側から、「ピストルの使用を止める」との報告を受けた。
学校側はBuzzFeed Newsの取材に対し、今回の判断が「合理的配慮の結果」であると回答。笛か太鼓で代用することになったという。
昨年の段階で対応できなかったことについては、「協議をしており、近々の対応ができなかった」と回答。
また、傷ついたという言葉については「受け取り方によっては、違う意図に取られてしまうこともあったと思う。聴覚過敏については、より職員にも周知していきたい」としている。
みんなが「生きやすく」なるために

体育祭の本番は、もうすぐだ。
これでみんなと応援ができる。競技にも積極的に参加できる。だからこそ、「うれしかった」と語る彼女。
一方で、「同じような思いをしている子はたくさんいるはず」と力を込める。
「こんなに時間がかかるとも、変えることが大変だとも思ってなくて。でも、声をあげないと変わらない。とりあえず言ってみることは大事だって、伝えたい」
「でも、あたしみたいにめっちゃがんばるんじゃなくて。先生とか、周りの人が一緒に寄り添うようになってくれればいい。そうすれば、みんなが生きやすくなると思うんです」