「病院に連れていくお金が…」新生児が死亡、母親を逮捕。積もる課題とは

    相次ぐ新生児の死亡事案。背景には性暴力やDV、貧困の問題も隠れている。こうしたケースを少しでも減らそうと、「赤ちゃんポスト」を開く熊本市の慈恵病院は、匿名で出産できる「内密出産」の仕組みを独自で始めると表明した。


    東京都足立区の自宅で、年末に出産した赤ちゃんを放置し死亡させたとして、31歳の母親が1月2日、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。

    共同通信によると、「病院に連れて行くお金がなかった。相談する人もいなかった」と供述しているという。

    こうした事例は、決して珍しいことではない。「虐待による死亡事例」に含まれ、厚生労働省の調査では過去15年間で173人の0歳児が、生まれてから1カ月で虐待によって死亡している。

    こうした問題の背景には、性暴力やDV、貧困、10代の妊娠などがある。病院に行くお金がなかったと供述している今回のケースも、まさにその一例とみられる。

    厚生労働省の過去15年分(2005〜19年)の調査では、0歳児の虐待による死亡は373人。子ども全体の47.9%を占めている。

    そのうち、生まれたその日(0日)に命を失っている子どもは149人。0カ月では24人となり、合わせると0歳児の死亡事例の46.4%を占める。

    この「0日・0カ月児」のケースで、虐待の加害者は実母が153 人(88.4%)、出産場所は「自宅」が 108 人(68.4%)と突出している。

    今回のケースでも、母親は12月28日に自宅浴室で女児を出産。そのまま放置し、1月1日に死亡させた、とされている。

    一方、生まれたその日に死亡した「0日児」の事例では、医療機関で出産した母親はひとりもいなかった。

    父親がはっきりとわかっていないケースも多い。「0日・0カ月児」では95人(63.3%)が父親の年齢がわからないと答えており、その存在が確認できない例も多いという。

    「匿名出産」の仕組みも

    母親側が必要な情報にアクセスすることができず、行政の支援が届きにくいのも課題のひとつだ。一方で、民間独自の取り組みも進んでいる。

    熊本市にある慈恵病院では「こうのとりのゆりかご」(通称・赤ちゃんポスト)を設置。匿名で赤ちゃんを預けることができる仕組みで、これまで12年で、親が育てられない赤ちゃん144人を受け入れてきた。

    とはいえ、そうした子どもを預ける親は自宅で出産をしていることが多く、リスクが高いことには変わりがない。そのため、慈恵病院は事実上の内密出産の仕組みを、2019年12月から独自で開始すると表明した。

    ドイツなどではすでに導入されている「内密出産」では、子どもが自らの出自を知ることができる権利をどう保証するかが懸念とされている。

    慈恵病院では、妊婦は病院側だけに身元を明かし、匿名での出産ができるように。病院は母親の身元を保存し、一定の年齢になった子どもから求めがあった場合に開示するという。

    ただ、「内密出産」には戸籍がつくれるのかどうかなどの法整備が、追いついていないという現実もある。相談、支援体系などの行政的な課題も残っており、議論が続いている。

    妊娠SOSや相談窓口も

    慈恵病院では、妊娠出産に関する「SOS 赤ちゃんとお母さんの妊娠相談」という窓口を開設している。24時間、電話やメールでの相談をこちらから受け付けている。

    また、各都道府県などにも「にんしんSOS相談窓口」が設置されている。全国の窓口はこちらのページから。

    UPDATE

    タイトルおよび一部表記を修正しました。