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菅首相の演説が終わる前に、マスコミが「全文」を公開? 所信表明めぐる報道の背景は

東京新聞が全文を公開したのは、演説が終わる数分前のことだった。

菅義偉首相は10月26日午後、衆議院の本会議で初めての所信表明演説を行った。

2050年までの「温室効果ガスゼロ」や、「デジタル社会の実現」などに触れながら、規制改革に進んでいく姿勢を示した。一方、選挙中から掲げている「自助・共助・公助そして絆」も改めて強調した。

国内外から注目されていた菅首相の所信表明だったが、その内容が演説中から報じられる、ということも起きた。いったい、どういうことなのか?

AFP=時事

NHKの中継を見る限り、菅義偉首相が演説を始めたのは、午後2時3分の少し前ごろ。それを機に各社が一斉にその内容を報じている。

たとえば、日経新聞は午後2時4分に【首相が初の所信表明演説 温暖化ガス「50年までにゼロ」】とのタイトルで記事を配信している。しかし、この記事を配信した段階で、首相は温室効果ガスの削減に関する部分まで原稿を読み進めていない。

また、ロイター通信も同じ時間に【コロナ注視し「躊躇なく対策」、成長持続へ環境対応も 菅首相が所信表明】とする記事を同で配信をしているが、やはり、大半は読み終えていない段階だ。

さらに東京新聞は午後2時19分に「菅義偉首相の所信表明演説全文」を掲載。共同通信の配信にはなっているが、この時点で、演説は「おわりに」まで至っていない。つまり、一部の読者は原稿を照らし合わせながら演説を聞くことができる状況となった。

なお、東京新聞はやはり演説が終わる前の午後2時22分に【【解説】所信表明でも見えない政権のビジョン 国民の疑問、逃げずに応えよ】も配信している。

慣例としての事前配布

AFP=時事

こうした演説や発表などの前に、首相官邸の記者クラブなどに所属するメディア各社に対し、事前に原稿や発表内容が配布され、「この時間での報道解禁をお願いしたい」という要請があることは、少なくない。

これを記者クラブ側が資料を配付する側との協議を踏まえて受け容れ、報道発表資料を配布し、同時に報道解禁時間も各社に知らせる。これは、日本の報道業界では、永田町から各市町村の記者クラブまで、広く行われている慣行だ。

国や自治体の予算案や人事の発表など多くの局面で、事前の資料配付や記者レクチャーが行われ、解禁時間とともに、各社がそれぞれの方向性で記事を公開していくことになる。

ある社が「これは受け入れられない」と主張し、話し合いが成立しないケースもあるが、それほど多くはない。逆に、話し合いが成立して報道解禁時間を設定したのに破る社が出て、あとで問題になることもある。なお、新聞協会はこうした慣行について以下のような見解を示している。

取材・報道は自由な競争が基本である。しかし、公的機関によるレクチャーの内容が複雑で理解や分析に時間を要するもの、また補足、裏付け取材が必要で、そのまま報道すると弊害があると考えられるものなどについては「正確で質の高い報道を期す」という理由から解禁時間を設けることが実態的に行われている。

本来、報道協定と呼べるものは被害者の生命、安全に配慮して報道各社間で結ぶ誘拐報道協定、日本新聞協会が各社間協定や申し合わせとして正式に認めている叙位・叙勲・文化勲章・文化功労者などの報道に限られる。解禁時間を設定する協定は、限定的に適用すべきであって、仮にも自由な取材・報道を妨げるようなことがあってはならない

また、記者クラブ側は取材先からの取材・報道規制につながる申し入れに応じてはならない。行政側や警察・検察なども安易にこうした申し入れをすべきでないと考える。

この「解禁時間」を破ることは「解禁破り」ともされ、その後の取材活動に関するペナルティの対象になることもある。クラブ内での「解禁破り」などをめぐる紛争について、新聞協会では「紛争処理」のプロセスも示している。

今回の解禁時間は…?

Twitterより

今回の演説原稿にも「解禁」は設定されていたのか。内閣府総務官室はBuzzFeed Newsの取材に対し、「テレビとラジオ、インターネットの解禁は基本的には演説の開始時刻と同時」に設定されているという。

内閣記者会加盟社に対し、事前に原稿が配布されているといい、担当者は「信頼関係のなかでこれまでも行われているもの」とした。

つまり今回は「解禁破り」には当たらず、何ら問題がないということだ。とはいえ、こうした背景を意識してか、書き方を工夫をしているケースもあった。

たとえば、毎日新聞は午後2時3分に、読売新聞は午後2時4分に、産経新聞は午後2時5分に、それぞれ演説の概要を記事として配信している。

それぞれの文章の語尾は、「と訴える」「と表明する」「を打ち出す」などと、過去のことではなく、予定を示すような書き方になっていることがわかる。

また、演説が終わってから記事を出しているメディアもある。朝日新聞は午後2時30分に、時事通信は演説が終わった午後2時31分に、共同通信は午後2時38分に、NHKは午後3時2分にそれぞれ記事を配信している。

今回の菅首相の演説は事前に配信された全文と多少の語尾の言い違いなどがあっただけだったが、原稿通りに読み上げるとは限らないということも、こうした判断に影響しているだろう。

UPDATE

一部誤字を修正しました。


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