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なぜ「気候変動問題をセクシーに」は「空っぽ」なのか

小泉進次郎・環境大臣がニューヨークの記者会見で「気候変動のような大きい問題には楽しく、かっこ良く、セクシーに取り組まないといけない」と発言した。一方で16歳の少女は、政治家に怒りをあらわにし、その発言を「empty words」(空っぽな言葉、空虚な言葉、実態のない言葉)と非難した。

国連で政治家たちに怒りをあらわにした少女の発言に、注目が集まっている。

その少女の名は、グレタ・トゥーンベリ。スウェーデン出身、16歳の彼女は、たった1人で気候変動に対する対策を求めた「学校ストライキ」をはじめた人物だ。

彼女は気候変動をめぐる政治家たちの言葉を「empty words」(空っぽな言葉、空虚な言葉、実態のない言葉)と非難した。いったい、どういうことなのか。

名前は「Fridays For Future」。気候変動への緊急対策を求め、毎週金曜日に学校を休み国会議事堂の前に座り込んだ運動は世界中の若者へと広がり、これまで、100万人を超える人が参加してきたという。

9月23日、ニューヨークで開催された国連気候行動サミットで彼女は"How dare you!"(よくもそんなことを!)という表現を繰り返し用いて、各国の首脳らに温暖化対策の行動に出るよう強く訴えた。

そんな彼女はスピーチの冒頭、「全てが間違っています」と切り出し、こう続けた(全文はこちら)。

本来なら私は海の向こう側で、学校にいるべきなのです。それなのにまだ、あなたたちは私たちの元に来ている。若者に希望を見出そうと。

よく、そんなことができますね。あなたたちは実体のないことばで、私の夢を、私の子ども時代を奪ったのです。

それでも、私は幸運な者の1人です。人々は苦しんでいます。人々は死んでいます。生態系全体が崩壊しています。私たちは、まさに大量絶滅の始まりにさしかかっているのです。

そしてあなたたちが語り合うのは、お金や、途絶えることのない経済成長のおとぎ話だけ。よく、そんなことができますね。

具体性を欠いた、しかし聴こえの良い「empty words」(空っぽな言葉、空虚な言葉、実態のない言葉)を並べることで、問題を先送りにし続けてきたーー。そんな政治家たちへの批判が込められている。

何かを話しているようで、何も語っていない

「『empty words』は、いまの政治状況を分析する上で非常に重要な考え方になる言葉だと思います」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは国士舘大学非常勤講師の下地ローレンス吉孝さん(国際社会学)だ。

「これまで政治では、もともとある言葉の意味を組み換える、意味づけを変換する、あえて誤用するということが多くされてきました」

たとえば日本でも一般的に、「多様性」「差別」「言論の自由」といった言葉が本来とは違う逆の意味合いで利用されることがある。「マイノリティを優遇することは”逆差別”だ」「ヘイトも言論の自由の一部」といった言い回しはまさにその典型例だ。

政治の世界でも、すでに266万人の外国人が暮らすこの国について、「日本は移民国家ではない」ということがある。これも、「移民」という言葉の意味づけを変換することだと言えるだろう。

しかし、「empty words」はこうした「意味づけの変換」よりも悪質だ、と下地さんはいう。

「具体性を欠いた空っぽの言葉、『あたかも大切な事を言っているようで、何もしないでも済む』言葉は、昨今の政治空間にあまりにも溢れていると思っています」

「”脱意味化”された言葉が濫用され、『何かを話しているようで、実際には何も語っていない』という効果が生まれていく意味のない言葉だけが一人歩きして、それを受け止める人々は惑わされていくことになります」

実際、アメリカのトランプ大統領の発言も、メディアから「empty words」であるという批判をたびたび浴びている。

「セクシー」発言の本当の問題点

こうした事態は政治家を利することになる、と下地さんは強調する。

「言葉が具体的でない以上、その言葉に対する批判も曖昧になってしまうのです。言葉をめぐる議論は遅滞し、政治に対する批判力も落ちていく。思考停止や混乱が生じていくことになります。議論がズレていくことで、政治家は本当の問題点から目をそらし、自分たちがやりたいように事を進めることもできてしまう」

下地さんは、小泉進次郎・環境大臣がニューヨークの記者会見で「気候変動のような大きい問題には楽しく、かっこ良く、セクシーに取り組まないといけない」と発言したことについても、「empty words」であると指摘した。

この発言をめぐっては、その「真意」や「英語的な正しさ」をめぐる議論が大きく広がった。

そもそも発言は、「政治には非常に多くの問題があり、時には退屈だ」として、若者たちを動員するためにそうした取り組みが必要だ、という文脈だった。

また、「セクシー」に関しては同席していたコスタリカの外交官で、気候変動枠組条約の第4代事務局長のクリスティアナ・フィゲレス氏の言葉を引用したものだ。文脈によっては、ネイティブの人たちが使うこともある言い回しでもある。

とはいえ、その「具体性のなさ」にこそに問題があると、下地さんはいう。

「トゥーンベリさんのスピーチが『感情的』と言われていますが、実際にスピーチ全文を読んでみると、後半は科学的な根拠や調査に基づいて、数値も使いながら、温暖化の具体的な状況の深刻さを説得的に語っています」

「これはセクシー発言とは大きな差がある、具体的な発言です。こういった語り方が本来は政治家に求められるのではないでしょうか」

説明するのは「やぼ」なのか

実際、「セクシー」発言についていち早く取り上げたロイター通信は、その発言自体ではなく、国連でのスピーチについて「詳細を語らずに」(without giving details)と、具体性のなさを指摘をしている。

さらに、同じ会見で「脱石炭に向けて日本はどうするのか」と問われ、「減らします」とだけ回答。「どうやって」と重ねて問われると、数秒間黙ったうえ、「私は先週、大臣になったばかり」と回答したことからも、同様の指摘をされている。

また、小泉大臣は、福島第一原発の処理水をめぐる発言など具体性を欠いており、「ポエム」であるとネット上で揶揄されていたばかりだ。

今回の「セクシー」をめぐる波紋も、こうした流れの延長にあったと言えるだろう。

小泉大臣は9月24日、自らの発言について記者団に問われ、「説明すること自体がセクシーじゃない。やぼな説明は要らない」と答えた。下地さんはいう。

「そもそも意味なんてない、と自分で言っているようなものではないでしょうか」

「empty words」を当たり前にしないために

空っぽな言葉、空虚な言葉、実態のない言葉、うわべだけの言葉。

単に小泉大臣の発言だけが問題なのではない。政治家たちの発言や話し方の中に具体性のない言葉ばかりが溢れ、それが常態化してしまうことは、危機でもある。

様々な訳し方ができる「empty words」が「当たり前」にならないようにすることが大切だ、と下地さんは言葉に力を込める。

「政治空間において中身のない言葉が繰り返し何度も使われることで、『政治家が中身のない発言をする』こと自体が新たな常識となってしまうことで、その問題性が問われなくなり、事態はより深刻になっていく」

「受け手側が『empty words』に惑わされないようにすることも大切ですが、どこかのタイミングで楔を打っていかないといけません。たびたび、意味がないことの意味を問いただしていくことが必要だと思います」