「私の人生は、あの日に終わったから」木村花さんの死から1年、母親が歩み続ける理由とは

    誹謗中傷を書き連ねた人物への開示請求や、刑事と民事での法的措置。法律や制度改正をめぐる働きかけ、リアリティーショーのあり方を問うためのBPOへの申し立て……。木村花さんの母・響子さんが、いまも歩みを進める理由とは。

    プロレスラーの木村花さんが22歳の若さで亡くなってから、5月23日で1年。

    インターネット上の誹謗中傷や、リアリティー番組のあり方に大きな議論を巻き起こした後も、遺された人たちの悲しみは続いている。

    そうしたなかでも、母・響子さんはいま、様々な活動に邁進している。「あの日、私の人生も一緒に終わったんです」と語りながらも、歩みを進める理由とは。

    Kota Hatachi / BuzzFeed

    木村花さんが出演していた「テラスハウス」は、男女が同じシェアハウスで暮らす様子を撮影したフジテレビの人気リアリティー番組。

    「台本がない」ことをうたっており、特に若年層に人気が高く、Netflixを通じて世界190か国にも配信されていた。

    誹謗中傷が花さんにぶつけられるきっかけになったのが、3月に配信されたエピソード内の「コスチューム事件」だった。

    出演者の男性が誤って花さんのプロレス用のコスチュームを洗濯・乾燥して縮ませてしまったことで、花さんが男性に激怒。帽子をはたき落とすという「事件」は、SNS上でも大きく話題を呼び、ネットニュースなどにも相次いでまとめられた。

    番組中の花さんを「悪役」に見立てたインターネット上の誹謗中傷は一気に加速。花さんは精神的に不安定となり、リストカットをするほど追い込まれるようになっていた。

    花さんは亡くなる直前、Twitterに、「毎日100件近く率直な意見」が送られているとして、こう書き記していた。

    「傷付いたのは否定できなかったから。死ね、気持ち悪い、消えろ、今までずっと私が1番私に思っていました」

    「お母さん産んでくれてありがとう。愛されたかった人生でした。 側で支えてくれたみんなありがとう。 大好きです。弱い私でごめんなさい」

    生きるのにも理由がほしい

    響子さん提供

    「それまでの楽しくてお気楽な人生は、あの日で終わり。それでもね、花に『生きて』と言われた以上は生きないといけないし。生きるのにも理由がほしい。だから、できるかぎり自分のできることをやっていかなきゃって思っているんです」

    そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、母親の響子さんだ。プロレスラーだった響子さんは、20歳で花さんを出産。シングルマザーとして、花さん育ててきた。

    「この子がいるから、私は強くなれたし、どこまででも、無理ができました」。そんな娘のために、この1年間、できることをひたすらにやってきた。

    花さんへの誹謗中傷を書き連ねた人物への開示請求や、刑事と民事での法的措置。法律や制度改正をめぐる働きかけ、リアリティーショーのあり方を問うためのBPOへの申し立て……。

    「何かそういうことを、自分に課している、というか。それをしてなかったら、ここにいる理由もないような気がしているんです」

    Kota hatachi / BuzzFeed

    当事者になって、わかったことも増えた。たとえば、誹謗中傷をめぐる法律の壁だ。

    発信者開示請求には数十万円を必要とし、弁護士を通さない個人での手続きのハードルは高い。時間も数ヶ月かかり、たとえ開示されたとしても、法的責任を問えるとは限らない。

    「私は本当にプロレス以外のことを全く知らないで生きてきたから、こんなに時間やお金や精神的な苦痛がかかることだなんて、思ってもいませんでした。無法地帯というか、ルールなんかあってないような……」

    「しかも、全然前に進まない。去年の5月からずっとやってきて、ずっと地団駄を踏んでるような感覚です。花を失った苦しみだけではなく、そのあとも何度も何度も、傷つくんですよね。変わらない現状とか、思うように結果がでない現状とか……」

    加害者はみんな「幸せじゃない」

    Etsuo Hara / Getty Images

    誹謗中傷について、直接謝罪をしてきた人物もいた。裁判の過程でその人となりを知ることもあった。加害者と向き合うことで、見えることもあったという。

    「みんな、幸せじゃないんですよね。加害者自身も追い詰められてるというか、すごく厳しい状況に置かれてるから、人に対して優しい目で見ることができない面もあるんじゃないでしょうか」

    「全く知らない赤の他人をそこまで攻撃するっていうのは、自分の中に何かあるのかな。鏡みたいなもので、ぶつけようのない行きどころのない思いを抱えている人が、『あ、この人だったら言っていいや』っていう相手にぶつけてるのかなっていうふうに、私には見えてしまいます」

    そうした思いをぶつけられる相手は、テレビに出ている芸能人や、ネットで有名になった人。そして、「みんなが中傷している人ですよね」。そのひとりが、花さんだったのだ。

    「加害者の人は、みんながやってるということを免罪符にしがちですよね。でも、これだけは知っていてほしい。本人だけではなく、家族や友達、仲間たち、周りの人みんなを傷つけるのが、誹謗中傷なんです」

    「誹謗中傷をしてしまう人には、自分の人生を自分の足で幸せに生きてほしい。人にどれだけの批判をぶつけても、人にどれだけ自分の思いをぶつけても、その人の人生はその人のものなんですよ、と」

    「一方でこれは、いかに不幸せな人が多いのか。他に問題を抱えた人が多いのかっていうことでもありますよね。こうした事情を知って、単純な厳罰化だけではなく、加害者へのケアが必要なのではないかとも思うようになりました」

    「この世は地獄」と思う理由

    響子さん提供

    花さんの死から1年を経て。その軸足は、「同じような被害者を2度と生まないために」というところにも移ろうとしているという。

    「誰かに対するネットリンチが毎日のようにSNSで行われていて、それを見るたびに、私たちはもう1度、傷つくんですよね。どうしてもそれを、花に置き換えてしまうから……」

    インターネット上の誹謗中傷には様々な課題がある。花さんの事件を機に法改正が進んだとはいえ、発信者情報開示のハードルは依然として高い。

    侮辱や名誉毀損など、既存の刑法などで対応するにも穴がある。社会全体の教育や啓発、被害者や加害者のケアも、SNSの発達に追いついてはいない。

    「まだまだ足りていない部分が多くある。より良い法律に変えてもらえるようにどんどん働きかけていきたいと思います。制度そのものを変えていくために、あきらめないで進んでいかないといけない」

    様々なアプローチから、この問題を少しでも変えていきたい。そのためのNPO「Remember HANA」の設立に向けて、準備もしている。

    活動をきっかけに、横のつながりも増えている。山梨キャンプ場で行方不明になった女児の母親など、同じように誹謗中傷の被害を受けた人たちと、ともに歩みを進めるようにもなった。

    「誹謗中傷って、された人にしかわからない苦しみがあるんですよね。苦しんで苦しんで何か変えようと思って必死に声を上げてるのに、それに対してまた誹謗中傷されることもある。本当に、この世は地獄かと思いますね」

    「あの日で終わった人生だったら」

    そんな響子さんは花さんの一周忌を前に、侮辱罪の厳罰化を求めるネット署名を始めた。

    花さんを誹謗中傷した大阪府の20代男と福井県の30代男は、侮辱罪での刑事告訴を経て起訴されたが、東京簡裁から言い渡されたのは「科料9000円」の略式命令だった。

    侮辱罪の法定刑である「拘留又は科料」は、刑法のなかでもっとも軽い。公訴時効も1年と短く、情報開示に時間がかかるなかで現実的とは言えない。

    明治時代につくられた旧刑法にルーツがあり、インターネットを想定しているものではないのだ。響子さんはこうした現状に、納得がいかなかった。

    「前科が付くのは重いことだと思うのですが、『交通違反より安いから、言いたいこと言えてしまう』という意見も多かった。それでは抑止力として全く意味がなくなってしまいますよね」

    「結果的に人の命が失われている。そうでなくても、誹謗中傷は、誰かの人生を壊すに十分な犯罪です。1人がそうやって人生を狂わされるってことは、その周りにいる人。たとえば、家族とか友達とか全ての人間を狂わせるんですから」

    法律を変えることは、簡単なことではない。それでも署名をはじめたのには、強い思いがある。

    「法律を変えるっていうのはすごく難しいこと。でも、たとえば飲酒運転も、福岡で大きな事故があり、遺された人たちが声をあげたことで法律が変わり、社会的にダメだという共通認識ができましたよね。声を上げないと、何も変わらない。訴え続けていかないといけないのだと思っています」

    取材の最後、響子さんはこう語った。まるで、自分に言い聞かせるように。

    「もう2度と、こんなことが起こらない世の中になってほしい。していかなきゃいけない。あの日で終わった人生だったら、その人生を全部かけてもいいのかなって」


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