「私も虐待死事件の母親だったかもしれない」保育園に通えない「無園児」家庭。調査で明らかになったリスクと課題とは

    調査結果が示しているのは、「保育の必要性」の認定で就労が要件とされたり、保育園を探すための「保活」が壁になったりし、「無園児」家庭になってしまったなかで、保護者が孤立している現実だ。無園児は全国に140万人以上いるとされる。過去には虐待死の事件も起きており、そうしたリスクを抱えていることが明らかになったとも言える。

    就労をしていなかったり、保活の壁に阻まれたりしたことで、保育園や幼稚園に通うことができないーー。

    「無園児」家庭と呼ばれるこうした状況の保護者が、「ワンオペ育児」などにより、子育で孤独を抱えやすい傾向があることがNPO法人「フローレンス」などの調査で明らかになった。

    虐待リスクもあり、家庭によっては貧困などの問題が潜在化している可能性もあるという。

    待機児童の減少傾向が続いていることから、フローレンスでは、保育園の利用要件を緩和することで、「保育を必要とするすべての子どもたちと親のセーフティネット」にするよう国に訴えていくという。

    調査はNPO法人フローレンスが日本総合研究所位とともに、第一子が未就学児(0〜5歳児)の保護者2000人に今年3月、インターネット上で実施した。

    その結果によると、保育園や幼稚園を利用していない「無園児」家庭(1200人)では、43.8%が「子育ての中で孤独を感じる」(あてはまる・ややあてはまる)と回答。利用者(800人)よりも10.6ポイント高くなった。

    特に保護者が10〜20代の場合、半数以上が子育ての中で孤独を感じるとし、それ以外の年代でも、いずれも利用者よりも高い傾向が出た。

    また、「子どもに手をあげてしまいそうなことがある」「怒鳴ってしまいそうなことがある」というリスク行動が見られる家庭が、リスクの低い家庭に比べ、保育園などを利用したいと強く思っている傾向も明らかになった。

    一連の調査結果が示しているのは、「保育の必要性」の認定で就労が要件とされたり、保育園を探すための「保活」が壁になったりし、「無園児」家庭になってしまったなかで、保護者が孤立している現実だ。

    過去には虐待死の事件も起きており、そうしたリスクを抱えていることが明らかになったとも言える。

    フローレンスの駒崎弘樹・代表理事は「保育園や幼稚園に通っていない分、無園児家庭は社会との繋がりが希薄になりやすく、特に専業主婦家庭では、平日の子育ての負担を母親1人で対応している割合が高く、精神的な負担や子育てについての悩み、不安を感じる場合、割合も高い」と指摘した。

    「何かのボタンがかけ違っていれば…」

    会見では、実際に「無園児」家庭の子育てで孤立したというの母親の声も紹介された。3人の子どもを育てる髙濱沙紀さんは、「我が家を救ってくれたは、間違いなく保育園でした」と言葉に力を込めた。

    もともとは働いていたが、長女を妊娠したあとも保活はうまくいかず、育休を取ることも歓迎されないため退職を余儀なくされたという。その後双子も生まれることになったが、やはり保育園を見つけることはできなかった。

    夫の育休明け以降はひとりで3人を抱え、負担が大きくなるなかで、「いつか殺してしまうんじゃないか」という気持ちが芽生えるほど追い詰められたという。

    「毎日細切れに取れる3時間ほどの睡眠の中で、我が子たちをかわいいと思う余裕もなく、朝が来るのがすごく怖かった。何かのボタンがかけ違っていれば、私も虐待死事件の母親だったのではないか、そのような状況と紙一重だったと思っています」

    高橋さんはその後、なんとか3人同時に保育園に通うことができた。生活も改善し、いまではフルタイムで働きながら子育てをすることができているという。

    関西で3人の子どもを育てているという女性も匿名で会見に参加。長男が2歳半のときにようやく保育園に入れたことで救われた経験を持つといい、こう訴えた。

    「働いていない母親が、どこにも預けず自分だけで四六時中子供を見るのは、いくら愛情があるといえども限界があります。だからこそ、誰もが定期的に子供を預けられる場所を作ってもらいたい」

    日本の「貧困問題」が…

    無園児は全国に140万人以上いるとされる。こうした問題を少しでも改善するために、フローレンスの駒崎代表が提言したのが、「子育てのセーフティネットとしての保育園」だ。

    背景にあるのが、保育園の現状だ。待機児童問題は全国的に改善に向かっており、「空き」がある園も多くなってきた。少子化によりこの状況は今後加速、財源やキャパシティ面の双方で「無園児」もカバーできるようになるとしている。

    そのうえで駒崎さんは、就労をしていないなど、現段階では「保育の必要性」の認定を受けられない無園児家庭でも、週1〜2回だけでも定期利用できるようにすべきとし、保育園の「間口を広げていくべき」と訴えた。

    会見に同席した教育学者の汐見稔幸さん(日本保育学会前会長)は「すべての希望する人が保育園を利用できる社会が当然あるべき」と語り、さらに「無園児」に隠れた貧困の問題にも言及した。

    「今回の調査では、子どもの愛着度が低い家庭ほど、保育サービスの利用意向が低いということも明らかになりました。端的に言えばこれは日本の貧困問題の表れです。人を頼ることもできない、こういう家庭をどうサポートするのかに社会政策が向かないといけない」

    無園児問題をめぐっては、特に幼保無償化後も3歳児以上の無園児が5万人いる(2019年度、厚生労働省)とされる。

    0〜2歳児の無園児家庭では2人の母親が会見で述べたような「ワンオペ育児」などによる不安定な状況がある一方、特に3〜5歳児の層は貧困や外国人など困窮家庭の割合が多く含まれている可能性もあり、社会的孤立や虐待や貧困の再生産につながるリスクも高い。

    ここには調査で現れない潜在化した人もいるとみられ、全体数も、背景もはっきりしない。汐見さんは「こども家庭庁」が発足することに触れ、「ぜひ、無園児の実態を掴んで、政策に反映をしてもらいたい」と話した。