大阪で起きた韓国人への殺人未遂事件 広がるヘイトコメントにある「パターン」とは

    「ヘイトクライム」ではないかとの指摘も上がっているが…

    大阪で3月30日、韓国人男性がコンビニで突然男に刃物で刺される殺人未遂事件が発生した。

    この事件をめぐっては、人種や民族などに対する憎悪感情をもとに犯罪行為に及ぶ「ヘイトクライム」ではないかとの指摘が、韓国メディアなどで上がっている。

    事実関係はまだ、明らかになっていない。しかし、日本のネット上ではそうした指摘に対する「ヘイトコメント」が相次いでいる。いったい、何が起きているのか。

    まず、経緯を振り返る

    複数の国内報道や駐大阪韓国領事館によると、事件が起きたのは3月30日夜。

    大阪市天王寺区のコンビ二で買い物をしていた韓国人の男性会社員(29)が、西成区の無職の男(45)に突然、背中を刃物ようなもので刺され、1週間のけがを負った。

    逃走していた男は、翌日に殺人未遂容疑で逮捕された。「メンチを切ったり、バカにしたような若い男に腹が立った」(朝日放送)などと話しているという。

    これ以上の詳しい経緯は、明らかになっていない。

    韓国メディアは「嫌韓犯罪」

    一方、複数の韓国メディアやニュースサイトはこの事件を「情報提供者の話」などとして、「嫌韓犯罪の可能性が高い」と取り上げた。

    テレビ局「YTN」は、男が「後ろからバカにするように嘲笑し、ナイフで刺した」「被害者は日本語が上手ではなく、誰が見ても韓国人だということで、このような被害にあった」とする「情報提供者」の証言を報じた。

    テレビ局「SBS」は、男が犯行に及ぶ前、男性の日本語の発音や服装から韓国人とわかった上で「嘲笑していた」とし、2016年に大阪で起きた、韓国人客らの寿司に大量のわさびが入っていた問題などを重ねて「嫌韓犯罪は減っていない」などと伝えている。

    こうした韓国での報道が日本語訳され、日本のネット上でも拡散。「ヘイトクライムを報じていない」とする国内メディアへの批判も相次いだ。

    これに対し、国内の報道はそもそも被害者の男性が韓国人であることを報じていない。また、伝えられている男の供述などからは、犯行が「ヘイトクライム」と断定できる状況とは言えない。

    なお大阪府警は、記者クラブなどに加盟していないことや、配信先がネットのみのため記事の精査ができないことを理由に、BuzzFeed Newsの取材に応じていない。

    広がったヘイトコメント

    ネット上では、メディア批判などとならび、もう一つの言説も広がっている。被害者や事件そのものなどに対する「ヘイトコメント」だ。

    たとえば、日刊紙「中央日報」の日本語版では、日本の報道を引用する形で経緯を簡潔にまとめて報じ、「嫌韓犯罪」については言及していない。

    そのような記事に対し、「日本人に対する嫌がらせ記事」「朝鮮人には誰だってムカつく」などといったコメントが寄せられている。

    さらに記事末尾の「今日の感想」のリアクションボタンでは、「すっきり」が1500以上をカウントしており、一番多くなっている。

    一方、複数の「まとめサイト」でもこの事件は取り上げられており、やはり同様の論調のコメントが集められている。

    「どっちも韓国人」「これは深刻な事件。在日の皆さんは速やかに帰国した方がいい」「普通に考えたら捏造だわな」

    その記事のコメント欄もやはり、ヘイトで溢れている。まさに憎悪が憎悪を呼んでいるのだ。

    識者「パターン化されたコメント」

    「ここ数年の日本では、こうした類の事件が起きるたび、『人種差別の否定』とも言えるコメントがパターン化されています」

    そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、ヘイトスピーチ問題に取り組む社会学者の明戸隆浩さんだ。「今回の事件で目につくのは、おもに次の3つあります」という。

    「まずはやった方も韓国人だろう、在日コリアンだろうという『自作自演』説。その次が、被害者に落ち度がある、刺されて当然だという『自業自得』説。3つめは『お前も同罪』説とでも言いますか、韓国では逆のこと、つまり日本人が被害を受ける事件が起きているだろう、というものです」

    「また最近では、『こういう事件が起きるから日本は危ない。だから自分の国に帰ったほうがいい』というような言説も増えて来ました。これは、ヘイトスピーチ解消法でも規定されている、明確なヘイトスピーチです」

    このほか、韓国側のネット上にある過激なコメントをあえて引用し、日本語訳してまとめて、憎悪や分断を煽るような言説も増えているという。

    実際、今回の事件をめぐっても、そうした「まとめサイト」は存在する。

    「差別の否定」の問題点とは

    明戸さんによると、今回の事件や、2月に起きた右翼活動家による朝鮮総連本部への発砲事件など、韓国人や在日コリアンが被害者を受けるたび、こういった言説はネット上で繰り返される傾向にある。

    「こうしたパターンは、数年前から顕在化、典型化するようになりました。一部の人たちが意図的にやっていた言説がSNSの普及とともに広がり、他の人たちの発想をも染めていくことで、さらに拡散していったのではないでしょうか」

    「ヘイトクライムを起こそうとしている人間がいたとすれば、仮に実行しても支持される、という風に思ってしまいますよね。つまり、差別行為へのハードルが下げられてしまうことになる」

    ヘイトクライムか否かの断定は、すぐにできるわけではない。

    しかし今回のように詳しい報道がほとんどなされない一方で、こうした「差別の否定」ばかりが広がってしまうことに、明戸さんは危機感を抱いている。

    「広がっている言説自体が、ヘイトスピーチやヘイトクライムの扇動になっているとも言える。本人にヘイト感情がなくても、反射的にそうした言説が当たり前だと思ってしまう人が増えているのは、中長期的に見ても恐ろしいことなのです」


    BuzzFeed Newsでは【日本に帰化した在日コリアンが、自分の言葉で伝えたかったこと】という記事も配信しています。