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差別と基地が「いじめ」を生む 翁長知事が語る沖縄デマとニュース女子

「『沖縄ヘイト』と言われるここまでのバッシングは、これまでになかった。こうした状況が続くことに恐ろしさ、危なさを感じます」

日米安保の要として、米軍基地を押しつけられた沖縄を、二重に苦しめるのがデマだ。事故があれば「自作自演」、基地に反対すれば「反日」と決めつけられる。ネット上に止まらず、メディアの世界にも根拠なき誹謗中傷は広がる。

2017年にはTOKYO-MXTVの番組「ニュース女子」が取材や確認なしに基地反対派は「日当をもらっている」「テロリスト」などと報じ、放送倫理・番組向上委員会(BPO)が「重大な放送倫理違反」と厳しく糾弾した。

BuzzFeed Newsの取材に応じた沖縄県の翁長雄志知事は、沖縄に対する差別が存在し、その背景に歴史と基地問題がある、と指摘する。

「琉球人お断り」の時代から続く差別

「沖縄がいかに大変な状況に置かれているのか、昔より理解が深まったかと思っていましたが、決してそんなことはありませんでした」

12月中旬、東京都内でBuzzFeed Newsの単独取材に応じた翁長知事は、沖縄に対するデマをこう憂いた。

「昔」とは、沖縄への差別がはっきりと社会に広がっていた時代のことだ。戦後、沖縄がまだアメリカの統治下だった1950年生まれの翁長知事は当時の差別をはっきりと覚えている。

「日本に行くにはパスポートが必要で、ある意味で日本人ではないような扱いを受けていたのです。僕は法政大学に通っていたのですが、東京でのアパート探しで『琉球人お断り』という差別を経験しています」

日本への復帰から45年を経て「差別はもうなくなった」と思っていた。しかし、ネット上に溢れる言葉やニュース女子に、当時と同じ、沖縄への差別意識が背景にある、と感じたという。

改めて、問題の経緯を振り返る

「ニュース女子」はバラエティ色の強い報道番組だ。MXが放送しているが、制作は化粧品大手DHCグループ傘下「DHCシアター(現・DHCテレビジョン)」が担う。

スポンサーが制作費などを負担し、制作会社が作り、放送局が納品された完成品を放送する「持ち込み番組」だ。

問題があった1月2日の放送は「沖縄緊急調査 マスコミが報道しない真実」「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった?過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」などと題し、沖縄・高江の米軍ヘリパッドへの反対運動を報じている。

番組内で、米軍ヘリパッド建設に反対する人たちを「テロリスト」と表現。「日当をもらっている」「組織に雇用されている」などと伝えた。

BPOの放送倫理検証委員会は番組に問題がなかったか、2月に審議入りし、12月14日、「重大な放送倫理違反」と厳しく批判する意見書をまとめた。MXやDHC側への調査をへて、指摘された問題点の概要は以下の通りだ。


  1. 抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった
  2. 「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを確認しなかった
  3. 「日当」という表現の裏付けを確認しなかった
  4. 「基地の外の」とのスーパーを放置した
  5. 侮蔑的表現のチェックを怠った
  6. 完パケでの考査を行わなかった

「取材の欠如」「裏付けを確認しなかった」「考査を行わなかった」など、報道番組としての基本的な手順が踏まれていなかったことが明らかになった。

広がる「沖縄バッシング」

基地問題で抗議の声を上げるのは「反日」「左翼」「プロ市民」。「沖縄は基地で食べている」「もともと基地があった周りに人が住み始めた」。

こうした声は、ネットのみならず、社会に広がる。

作家の百田尚樹氏は2015年、自民党の国会議員向けの勉強会で「普天間基地は田んぼの中にあった。周りには何もない」と発言し、批判を浴びた。

実際は、米軍が戦後の混乱期に集落が点在していた利用価値の高い土地を強制的に接収し、「住民は自分の故郷に帰りたくても帰れず、その周辺に住むしかないという状況でした」(沖縄県「沖縄から伝えたい。米軍基地の話 Q&A Book」)。

2017年1月には、TOKYO-MXTVの番組「ニュース女子」が基地反対派を「テロリスト」などと中傷する番組を地上波で放送。12月に、放送倫理・番組向上委員会(BPO)から「重大な放送倫理違反」と厳しい指摘を受けた。

12月7日と13日には、宜野湾市で相次いで起きた米軍ヘリをめぐるトラブルについて、ネット上で「自作自演」などという声があがり、拡散。被害にあった保育園や小学校に「やらせだ」「文句を言うな」などと誹謗中傷の電話がかかる事態にまで発展した。

翁長知事は言う。

「目の前に落ちたものを『自作自演』というなんて、今までにはない社会現象でしょう。これだけのバッシングを受けたことは、ありませんでした。沖縄の人たちが、心の底に持っている思いを言えないような状況になってしまった」

「バッシングを受けたりするのが嫌だから、基地に関して、心の声を出せないのです。特に経済界などは常に緊張感に溢れています。私ですら、言いたいことが言えないこともある」

沖縄いじめの2つの背景「歴史と基地問題」

「ニュース女子」で放送されていた誤った情報や根拠のない情報の多くは、ネットで広がっていた内容そのものだった。ネットで広がった「デマ」が地上波で「事実」として伝えられた。

翁長知事は「これはいじめ」と表現する。被害の当事者なのに、さらにその傷口に塩を塗られる構図だ。

「こうした一方的な『いじめ』は、たとえば福島の原発事故でも、宮崎の鳥インフルエンザなどでも起きている。沖縄でも起きる背景には、歴史的な意味合いと基地問題があることが大きい」と知事は言う。

「沖縄は137年前の琉球処分で日本になったばかりです。併合され、地上戦で焼け野原にされ、さらに米軍基地を押し付けられた」

本土とは異なる沖縄の歴史。「琉球人はお断り」という差別意識を生んだこの歴史が今に至るいじめの背景の一つではないか、との指摘だ。

では、もう一つの基地問題はどのように影響をしているのか。

「7割の米軍基地についても、本土で引き受けることも、日本全体でその問題を考えることもない。繰り返される問題に対して文句を言っても、『基地で食べているから置いておけばいい』『我慢して』と言われてしまう」

日米安保を堅持していくためには、米軍基地が必要だ。しかし、基地を受け入れることは、事件や事故と隣り合わせになることを意味する。

日米安保という利益を手に入れ、基地という負担は沖縄に押しつける。沖縄が文句を言えば、「日米安保に反対するのか。反日だ」と批判することで沖縄の声を押さえつける。

これが、いじめのもう一つの背景になっていると翁長知事はみている。

「『沖縄ヘイト』と言われるここまでのバッシングは、これまでになかった。こうした状況が続くことに恐ろしさ、危なさを感じます」

そして、無関心が状況の改善を阻む

翁長知事は言葉に力を込める。

「僕らが米軍機関連の事故や暴行事件、酒酔い運転などが多く起きていると指摘し、『良き隣人とは言えない』といっても、それに対して多くの人たちは無関心なままですよね」

例えば、と切り出したのが辺野古の問題だ。沖縄本島中部にある米海兵隊普天間基地の移設先として、工事が始まろうとしている場所だ。

負担軽減のために基地を移設すると日米で合意しながら、その移設先は同じ島の中。基地の耐用年数は200年とも言われている。

県民の80.2%が反対(琉球新報世論調査、2017年9月)している県内移設。翁長知事は国に対して裁判を起こし、県をあげて「移設反対」を訴えてきたが、日本政府は一切譲らない。

「基地移設のために、十和田湖や松島湾、琵琶湖が埋め立てられたら、全国はおそらく怒りで震えるでしょう。しかし、沖縄だとそうはなりません。辺野古の大浦湾が埋め立てられても、無関心な人たちの心は痛まない」

そのうえで、基地問題を伝えるメディアにも不満を漏らした。

「県内移設に反対していると、メディアのインタビューで『本当にできるんですか』『数年で変わる気はしない』などと、突き放す質問をされることが多い」

「一番理解があるべきメディアがそういう状況にあるのだとしたら、国民には、もちろん理解されないですよね」

「砦」としてのメディアへの期待と不信

視聴者に世の中の出来事を伝え、関心を広げることはメディアが持つ機能の一つだ。無関心が蔓延しているという翁長知事の指摘は、BuzzFeedを含むメディアへの期待とも批判とも言える。

BPOは「ニュース女子」への意見書の終わりで、放送=テレビについて「自らが発信する情報の質を常に検証することが必要」と指摘している。これはテレビのみならず、すべての報道に当てはまる。

「ポスト・トゥルース」などということばがまかり通る時代にあって、放送が言論・ 表現の自由を貫くためには、放送倫理の根本に立ち返って、自らが発信する情報の質を常に検証することが必要となる。

インターネットは、圧倒的な情報量と速度をもつメディアである。しかしその一方で、インターネット空間では、事実とは異なる情報や根拠のあいまいな情報も瞬時に拡散され、事実に基づかない論評と侮蔑的表現とが結びつき誹謗中傷へと堕していくこともある。

放送局は「砦」の役割があるとも指摘。「ニュース女子」ではその「砦」が崩された、と厳しく指摘した。

これに対して、放送では、番組制作にあたり、取材による裏付けを欠かさないこと、節度ある表現を保つことなどが求められているうえ、放送倫理を守っているかどうかを放送局自身がチェックする仕組みもある。

その仕組みの要といえる考査が機能しなければ、民主主義社会における放送の占める位置を脅かすことにつながる。本件放送において、砦は崩れた。修復を急がなければならない。

沖縄をめぐる報道において、BPOが指摘するメディアの「砦」は機能しているのか。そう問うと、翁長知事はこう答えた。

「ニュース女子に限らず、砦を守ることができていないメディアが出てきている。たとえば、司会者が沖縄に関するニュースを解説する時に、間違った方向に行かせるようなことも多い」

「そういった方向性の中でメディアの報じ方が収斂されていても、対抗してチェックする体制は整っていない。ナショナリズムや全体主義のベースになる可能性もあり、とても危ないことだと感じています」


BuzzFeed Newsでは、翁長知事への単独インタビューを4回にわたって掲載します。

1月5日午前11時には【「沖縄は基地で食っている」はデマ 翁長知事「むしろ経済発展の最大の阻害要因」】を配信予定です。これまでの記事はこちら。